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IT人材のニーズはIT業界内外で高まってきています。
AIやデータ活用の一般化が進む中でコロナ禍が生じ、危機感を持ってDXに取り組む企業はさらに増えました。「日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2022年度)」によると、84%もの企業がDXに着手しているという結果が出ています。
そんな中「ビジネストランスレーター」は、DX推進を円滑に進める上でのキーマンとして近年注目を集めているポジションです。
まだ聴き慣れないポジションかも知れませんが、その概要や役割、必要なスキルや将来性を今回は紹介していきたいと思います。
近年注目を集めているビジネストランスレーターですが、一体どのようなポジションなのでしょうか。目指すにあたって何か必要なものはあるのでしょうか。
ビジネストランスレーターの役割と、必要となるスキル・資格をそれぞれ紹介します。
ビジネストランスレーターとは、“経営者・一般社員とデータサイエンティストの橋渡し役”のこと。トランスレーター(翻訳者)という呼称の通り、ビジネスサイドとデータサイエンティストサイド両方の考えを整理し、翻訳することでDXプロジェクトを成功に導きます。
現在、ビジネストランスレーターに注目が集まっている理由として、以下の3つが挙げられます。
インターネットが普及し、多くの情報が収集可能となっている中で、近年「データドリブン経営」という経営手法を実施する企業が多くなりました。データドリブン経営とは、蓄積されたデータ分析を基に方針や戦略を決定する経営手法です。
データドリブン経営を実施するには、データ分析能力やプログラミングスキル等が必要となります。つまり、分析のロジックを理解し、分析ツールが利用でき、実務においての知識を持ったビジネストランスレーターは、データドリブン経営においても重要な役割を果たすでしょう。
「IT人材白書2020」(独立行政法人情報処理推進機構社会基盤センター)によると、2019年度「社内にITのスキルを蓄積・強化するための内製化」に着手している企業は、企画・設計などの上流部門で30.2%でした。この割合は企業規模に比例して拡大し、1,001名以上の企業では47.8%に達しています。
引用元:「IT人材白書2020」概要┃独立行政法人情報処理推進機構社会基盤センター
組織体制が複雑化し、独自の文化が醸成されやすい大企業では特に、ビジネストランスレーターの役割が重要になっていると考えられます。
ビジネストランスレーターに必要なスキルとして、主に以下が挙げられます。
ビジネストランスレーターに求められるのは、ビジネスサイドの理念や目的とデータ活用の基礎について理解し、言葉にする力です。スポーツ選手の通訳は実際にスポーツができる必要がないように、経営やプログラミングに関する高度なノウハウは求められません。
また、マネジメント能力も重要となるでしょう。
ビジネストランスレーターは、ビジネスサイドとデータサイエンティストサイドの仲介役として機能します。そのため、両者を理解しながらDX化を推進する必要があり、両者の言い分を抽象化し、失敗を未然に防ぐビジネス力が重要となります。だからこそ、文系からでも目指しやすく、自社の文化や内情を知り尽くした社員から育成することに適していると言われるのです。
その一方で、ビジネストランスレーターに必要な資格はありません。資格を持っていなくても誰でもビジネストランスレーターを目指せます。その代わりに、上記のようなスキルが必要となります。
実際に、大企業のDXにおけるビジネストランスレーターの価値には、どのようなことがあるのでしょうか。ITR会長/エグゼクティブ・アナリストの内山悟志氏は「DX推進で大企業が陥りやすい5つの罠」として以下を提示しています。
DXごっこの罠 | 何のために、どこを目指してDXを推進するのかが明確でないまま、AIの試験的導入や技術適用の実証実験(PoC)を実施する。 |
総論賛成の罠 | 誰もがDXは重要だと言うが、いざ自分の部門・業務に影響が及ぶ各論になると反対またはスルーを決め込む。 |
後はよろしく罠 | 経営者は、DX推進組織を立ち上げて人をアサインしたら役割を果たしたと考え、その後の活動を円滑に進めるための環境づくりや後方支援を怠る。 |
形から入る罠 | DX委員会の設置、社内アイデア公募、社内アイデアソンの活動など、やっている感は出すが、活用されない、続かない、本番にならない。 |
過去の常識の罠 | DXの推進にあたってまず事例を探す。人の評価も、投資判断の基準も、組織文化も、これまで成功してきたやり方や考え方を変えようとしない。 |
引用元:内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」DX推進で大企業が陥りやすい5つの罠┃ZDnetJapan
価値のある優秀なビジネストランスレーターは、これらの罠を回避するノウハウを身につけた冒険家のようなものです。過剰な期待を抱かれたり、あるいは分析すること自体がゴールになってしまいがちだったりするDXプロジェクト。その事実を認識し、依頼者が適切なゴールを設定できるよう、あるいはルートが間違っていると分かった際に改められるよう、手助けします。
反対に曖昧な指示によりIT部門が個別の問題に対処することにとらわれて方向性を見失ってしまったり、分析結果の理由について問われた際、ビジネスサイドが納得できるような説明ができなかったりすることもよくあるでしょう。ジャングルではどんな危険があるのか、航海でどんなことを準備しておくべきかを優秀な冒険家が知っているように、ビジネストランスレーターはDXプロジェクトの罠を知り尽くし、指示を明確化する、仮説に対して必要なデータを揃えることで、企業をあるべき状態(=適切なゴール)へ導きます。
このような罠を回避するためのフレームワークが、三井住友海上火災保険会社のデータ分析チームによって書かれた『データ分析人材になる。 目指すは「ビジネストランスレーター」』(日経BP、2020)では「5つのD」としてまとめられています。詳しくは下記の書評記事をご覧ください。
これまでデータ分析の経験はないけれど、ビジネストランスレーターを目指したいというビジネスパーソンや、自社のDXを成功に導くためにビジネストランスレーターを育成したいと考える経営者の方は、何から着手すればよいのでしょうか?
基礎として押さえるべきなのが、以下の3ステップです。
まずはDXの旅の途中、どんな罠があるのかを把握し、プロジェクトの全体像を把握するために情報収集を始めましょう。書籍やWeb、セミナーなどで、事例は多数紹介されています。もちろんデータのじかんのDX関連記事も参考にしてみてください。
並行して進めたいのが、様々なツールに実際に触れ、使い方を学ぶことです。具体的には、Dr.Sumなどデータを加工・集計するための分析ツール、MotionBoardなどデータを可視化するためのBIツール、GoogleAutoMLなど近年普及し始めている自動分析ツールを学ぶべきでしょう。
最初は難しそうに感じるかもしれませんが、誰にでも使えるよう設計されているため、数日触ればだんだん理解できてくるはず。PythonやRなど無料で便利なプログラミング言語も有用ですが、まずはとっつきやすいところからはじめるのがオススメです。
知識がついたら、後は実践でPDCAを回していくことになります。自分で仮説を立てて、データを分析してみましょう。仮説がデータで証明できたときは非常にやりがいが感じられます。
これらはデータ分析者としての基礎力です。ビジネストランスレーターは、これらとこれまで培った社内文化への理解やビジネスコミュニケーション力を両輪として、DXプロジェクトをサポートしていくことになります。チームを結成し、明確に「ビジネストランスレーター」という役割を設け、その力が存分に発揮される土壌を作りましょう。
近年注目を集めているビジネストランスレーターですが、その将来性はどのようなものなのでしょうか。必要性はどうなるのでしょうか。
国内でのビジネストランスレーターに関するデータはまだ少ないため、データサイエンティストのデータを使用して考察します。今回は、一般社団法人データサイエンティスト協会が2022年に発表した「データサイエンティストの採用に関するアンケート」を基にします。
まず、直近1年間でデータサイエンティストを増やした企業は、全体の41%という数値が出ており、データサイエンティストを目標通り確保できなかった企業は62%と、需要がかなり高いことがわかるでしょう。
また、今後増員したいデータサイエンティストタイプとして、ビジネスタイプが36%と最も高い結果となりました。そして、今後3年間で採用・育成したいデータサイエンティストの人材像としても、ビジネス課題解決人材が43%と最も多くなっています。
ビジネストランスレーターは、データサイエンティストとビジネスの架け橋であるため、まさにこのタイプに当てはまるでしょう。
さらに、マッキンゼー・アンド・カンパニーが2016年に発表した「The age of analytics:Competing in a data-driven world」では、2026年までにビジネストランスレーターの需要が200〜400万人に達すると見込まれています。
現在、DX実現に必要な人材の需要は高まっており、今後も需要は高まっていくでしょう。その中で、ビジネスサイドとデータサイエンティストサイドを持ち合わせたビジネストランスレーターは、重要な役割を期待されています。
ビジネストランスレーターを目指す方、データ活用を成功させたい方にぜひ読んでいただきたい一冊の本があります。それは、「ビジネストランスレーター データ分析を成果につなげる最強のビジネス思考術」という本です。
この本は、5人の三井住友海上火災保険経営企画部のCXマーケティングチームの方々によって書かれた本で、データ活用によってビジネスを成功させたい人には最適な本となっています。また、ビジネストランスレーターとして必要な知識やスキルの身に付け方や、磨き方も紹介しており、データ分析プロジェクトを成功に導いてくれるでしょう。
この本が良いとされている理由として、大企業でデータビジネスを実践し続けてきた方々による職人技の伝授や、最短でデータビジネスを成功させるためのすべてが詰まっているという特徴が挙げられます。ぜひ一度読んでいただければと思います。
本記事では、ビジネストランスレーターの役割や価値、将来性について解説しました。
現代では、個人が成長するために明確な技術や知識を得てスペシャリストとなることが重視される風潮があるようです。データサイエンティストやデータアナリストを目指す人が多い一因もそこにあるでしょう。
ビジネスとデータサイエンスの両方に一定の知識を有し、両者をつなぐ役割はこれまでどちらかと言えばジェネラリストとして捉えられてきました。しかし、そのスキルの重要度が広まり「ビジネストランスレーター」と名付けられることでスペシャリストとしても定義されるようになったといえるでしょう。
今後もニーズが高まり続けると予想され、とても重要なこの役割、DXプロジェクトを進める際には必ずアサインすることをおすすめします!
・木田 浩理 (著), 伊藤 豪 (著), 高階 勇人 (著), 山田 紘史 (著) 『データ分析人材になる。 目指すは「ビジネストランスレーター」 Kindle Edition』日経BP、2020
・「IT人材白書2020」概要┃独立行政法人情報処理推進機構社会基盤センター
・【電通デジタル】日本企業のDXはコロナ禍で加速するも、推進の障壁はDX人材の育成┃PRWire
・内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」DX推進で大企業が陥りやすい5つの罠┃ZDnetJapan
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