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世界的にコロナ感染が広がり、今や多くの国でITを活用した対策が取られている。導入が進むリモートワークもITを活用した対策の1つである。リモートワークは移動時間の節約、時間の使い方の効率化、感染リスクの抑止といった効果を狙うことができ、結果として事業としての継続性が保てるといったメリットもあるが、日本での実施率も全国平均で27.9%(※1)と未だに低い。平時よりリモートワークを取り入れてきたWingArc1stにおいても、全社的にリモートワークをするにあたっては、数多くの課題があった。
そんな中、WingArc1stが実施したのが、有事の危機管理を行える「teleWArk」プロジェクトである。teleWArkは、メンバーの勤務場所及び勤務時間・体調不良を簡単に入力でき、管理者側でリアルタイムに把握できるという社内インフラだ。オンラインで密にコミュニケーションをとりながらのアジャイル開発で進められた本プロジェクトでは、わずか2週間で第一弾がリリースされた。改善を続ける中で、リモートワーク対応への課題が浮き彫りになり、それを解決していったというが、本プロジェクトで得られた気づきや知見とは何だったのだろうか。その責任者であるWingArc1st 山本 宏樹氏、吉田 稚菜氏に話を聞いた。
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過去のプロジェクトを通して、シンプルかつ汎用性のあるという点を重要とする認識があり、チームメンバー間で共通認識をもっていました。過去のプロジェクトでは、かなり複雑な構成や情報量になっていたため、ユーザーの使用体験や運用の側面からも、作りやすくて汎用性があるものを作ろう、という認識を共有していたんです。その経験から見やすいボタン配置などのレイアウトなどUIついて、自分たちでも知見を溜めていくようにしています。具体的にはユーザー側であるメンバーにはスマホのボタン一つで入力が完了できるUI、管理者であるマネージャー側としては1箇所で、メンバーの勤務状況・健康状態を把握できるUIなど工夫しました。入力しづらいシステムはなかなか触ってもらえないので、ボタン1つだけですぐに入力が終わるように、というのは強く意識していました。(吉田)
MotionBoardはGUI操作(グラフィカルにプログラミングを行うこと)という特性から、今回のteleWArkにかかわらず、様々な課題解決プラットフォームに変化させられると考えています。その面で、アジャイル開発に相性が良いプラットフォームと言えると思います。今後はお客様に対しても今回の経験を活かした価値を提供できるのではないでしょうか。アジャイル開発をする上で、どのように期待値をコントロールするかという学びの機会になったと思います。(山本)
開発のインフラとの相性良いプラットフォームともに、吉田氏は、アジャイル開発を進める上でも要望の取捨選択が重要という。
要望の取捨選択という判断は、チームリーダーの大橋さんがかなり行なってくれました。要望の中で、業務に大きな影響を与えつつも改修範囲が少ないものはすぐに取り入れ、ボード全体の改修が必要になるものは次回に回すなど、線引きの仕方がかなり早く、またその理由づけについても勉強できました。具体的には、「ガントチャートの軸をメンバー別に見たい」という要望は、画面そのものの構成を大きく変える必要があったので次期フェーズに回しましたが、「入力画面の初期値を自宅にしてほしい」という場合は、データの順番を変えれば良いだけだったのですぐに実装しています。(吉田)
DE事業部のコンサルティングサービス部メンバーは受託・大規模開発という業務が大半を占め、ウォーターフォール型開発で100点満点を目指すことに慣れているため、最初は80点で良いから最終的に120点を目指そうというアイディアは、頭で分かっていてもすぐには動けなかったと思います。今回のプロジェクトにおいて、解決したい課題によっては「80点でも使ってもらえる」「環境に応じて改善を重ねる」というのがわかったのではないかと思います。一方で、お客様によっては従来のウォーターフォール型開発での品質を求められます。従来のケースと、アジャイル開発のケースの期待値を両方理解し、反映させる感覚を社内でトライアルできたのはよかったと思います。(山本)
良くウォーターフォールとアジャイルの比較がなされますが、アジャイルとウォーターフォール、どちらの開発手法においても、期待値にそこまで変化はないように思います。我々が日ごろ手掛けるBIシステムの開発ではお客様のKPIやKGIは一旦決まったとしても、長い期間ウォーターフォールで開発を進めていると、その間にお客様の見たいものが変わることは多くあります。変な言い方ですが、より短いサイクルで軽量な開発をたくさん回す方が、お客様とも要件をしっかり合意できて、出来上がったものに納得ができると思います。お客様と合意した内容が基本重視されるので、日々確認するような、ベースとなるものはベースラインを引いてしっかり作り、アドホックに発生したものはアジャイルで開発するという組み合わせが必要になるかもしれないですね。例えば基幹システムの刷新プロジェクトであれば堅実なウォーターフォール型開発を採用し、事業部門での内製化を進めたい場合はアジャイル開発を選ぶと思います。今の日本は労働人口が減ってきており、これまでのように外部のベンダーにシステム管理を任せていく傾向にあるように思います。そうしたエンドユーザー企業を支援したいと考えていますし、お客様の業務のデジタル化やDXの実現に少しでも貢献できたらいいなと考えています。(山本)
開発者としては、最初は小さく作り、その後拡張していく方がやりやすいですね。とある過去のプロジェクトでは、要件定義の後、半年ほど間が空いてから構築フェーズに入ったことがありました。そうすると、お客様が最初の要件を忘れていたり、要件が変化していたりするんです。構築フェーズの最後に認識齟齬がわかると修正も大変になるので、最低でも3ヶ月に1回はリリースしていくというサイクルの方が、お客様が本当に欲しいものをしっかり反映できると思います。(吉田)
まずはベースとなる部分をWingArc1stが作り、その後の追加や改修をお客様でやっていただくようなメニューを用意しています。最近ではオンラインでトレーニングが受けられるようにもなっています。お客様がほしい時に、ほしいものを作ってもらうのが理想なので、そういう視点でも、アジャイルはお客様へ訴求していきたいですね。(山本)
今回の新型コロナウィルスを通して、平時には当然と思っていた前提が大きく崩れるということです。例えば、社員が出社しているのかいないのか、どこで勤務しているのか、体調はどうかといった点をすぐに把握できるようにすることなどです。テレワークが出来ていない人は誰か、出来ていない人がいたら原因を究明して解決する、体調が悪い人にはSlackから個別でフォローする、といったことを積極的にしていく必要があります。
また、社員には持病を持っている方もいますが、コロナウイルスの場合、そうした方は特に重症化しやすいと言われています。私は普段の会話を通してチームメンバー全員の持病などを把握していますが、他部所や他チームはその情報を持っていません。また、お子さんがいる家庭の場合、配偶者の方が金融・医療機関で働いていると、実際に出社されることも多い。こうした家庭へも配慮をできるようにしたかったんです。情報を把握し、保育所が休園になった場合のことをあらかじめ想定してリカバリープランを立てておけば、社員の不安を少しでも軽減できます。さらに、社員はプロジェクトリーダーと自分の上長が違うこともあるので、報告にはいくつものラインが存在するケースがありました。そうしたメンバーに関しても、上長が自分のメンバーについての稼働状況を見ながら、チームリーダーとタスク量を相談するといった連携が取れるようになっています。これはコロナという今回の状況に限らず、地震などの天災時にも応用できることだと思います。(山本)
teleWArkが出来る前、社員はSlackで関わっているプロジェクトのチームリーダーに勤務開始を伝えていました。しかし、複数プロジェクトに関わると何度も同じ報告をしなくてはいけないのでちょっとした手間になっていました。リーダーとしても、多くのメンバーの勤務状況を管理せねばならず、万一感染者が出た時にはどのように2週間分の記録を遡っていくかは課題だったと思います。今はteleWArkへの入力率も100%になり、リーダーの管理工数は1/15になったという結果も出ています。これは、有事だけではなく、平時においても有益な取り組みだと感じています。
このteleWArkは外部の企業様からも反応が出ております。同じような課題を持っていると思いある企業様へ紹介したところ、すでに50人くらいのプロジェクトで使用していただけています。その企業にはこのteleWArkのダッシュボードのテンプレートをお渡ししています。コロナの状況下ではどの企業も対応に追われると思うので、teleWArkのように使えるリソースがあれば是非活用してもらい、企業の従業員の安全確保や円滑な業務遂行に役立ててもらいたいですね。
その他には、今後の取り組みとして新しくDEXARというボードを開発しています。これは各メンバーの稼働率をMotionBoardで見える化しており、工数計画表というアサインの管理表からデータを取ってきて、実際の稼働時間とすり合わせています。プロジェクトマネージャが自分のメンバーの稼働率について事後になるまでわからない、という状況だとフォローアップもすることができないですよね。リアルタイムでのトレーサビリティを得るため、teleWArk後は必ずこの点を改善しようと考えていました。(山本)
このプロジェクトでも、情報を詰めすぎない、切り替え要素を持たせすぎないといったシンプルさは引き続き意識しました。(吉田)
それ以外にも、Opportunity管理システムというものを計画中です。これは、営業チームから提案依頼のお知らせが来た時に「いいね!」ボタンを押せるようにしておき、アサインする際にメンバーの要望を反映できるようにしたものです。案件はメンバーの成長に繋がる機会(Opportunity)としてとらえることで、今後はさらにこのシステムの中にスキルセットを設定できるようにしていくので、自分が伸ばしたいスキルと案件を照らし合わせて、積極的にメンバーから要望をもらえるような仕組みにして行きます。また、こちらには今年4月にリリースしたDEJIRENとの連携も考えています。DEJIRENのチャット画面でサービスメンバーの翌月までの稼働率と稼働予定を見られるようにしておき、移動中でもチャット画面でアサインを確認し、スピーディーに意思決定ができるような仕組みを作っていきたいと考えています。(山本)
コロナを機にリモートワーク対応を加速させたWingArc1st。アジャイルでの開発を通して当初の想定とは違う課題を見つけて対応していくうちに、社員の管理から社員一人ひとりの健康状態や家庭状況の配慮へと視点を変えていった。コロナ収束に向けて長期の自粛が求められる中、WingArc1stの取り組みが他社の参考になれば幸いである。
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取材・TEXT:大越 実 PHOTO:Inoue Syuhei 企画・編集:野島光太郎
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