DXプロジェクト推進にあたって、道しるべとなるのが他社の成功事例とそこから得られる知見です。
2021年9月21日、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)は2020年10月~2021年の3月にかけて実施したDX先進企業への調査結果概要を公開しました。
本記事では、同報告書のポイントをまとめるとともに、調査を通じてDXの推進のリーダー像として見出された「やたがらす人材」について解説します!
IPAの調査を通じて得られた知見は以下の4カテゴリにまとめられています。
1.組織が目指すDXの方向性の合意に関する知見
2.DXを実現するデジタル技術の導入・開発に関する知見
3.DXの実事業への適用・展開に関する知見
4.DXを推進する体制と人材に関する知見
これらは、報告書第3章「DX先進企業から得られた知見」内の各見出しに対応します。一つ一つ、どのような知見が得られたのか手短にまとめました。
企業のビジネスモデルや事業の方向性まで変えてしまうDX。一つ目はその成功に不可欠な経営者の持つべきビジョン、示すべき方向性についての知見です。押さえるべきとして挙げられたポイントは、以下の通り。
・危機感の共有とビジョンの打ち出し
・たとえ競合に塩を送る形となっても市場に変革をもたらす覚悟
・「何をすべきか(What)→どのようにすべきか(How)」という順番での施策検討
また、経営陣がDXに前向きでない場合にまず小さな変革を起こし、それを材料に説得すべきという一般社員向けのノウハウも共有されました。
IT部門向けの知見として、「アイディア創出に関する知見」「データ活用に関する知見」の2つが共有されました。
アイディアの創出には、アイデアソンなどアイディアを生み出す仕組みを設けること、異業種も含めた他社の事例から参考になる点を見出すことが重要だということです。また、データ活用に関しては自社内のデータを「リアルデータ」と名付けその利活用を専門に行うチームを組織した企業の事例や、将来的な計画に合わせてデータを取りに行くことの大切さが記載されていました。
この記事をご覧になっている中でも最も多いであろう事業部門の方々向けの知見です。DXプロジェクト成功の鉄則の一つである「スモールスタート(小さな規模でスタートし徐々に成功体験を積んで大きく育てること)」に取り組むDX成功企業はやはり少なくないようです。また、既存のやり方に囚われないことの重要性についても取り上げられました。新しい取り組みだからこそ、一度既存事業と切り分けたうえでどのように移行・あるいは連携させるかを考えるのがベターなようです。
最後にまとめられたのが、DXプロジェクトを進める体制やチームの作り方についての知見です。そもそも、DXを本気で進めるのであれば専門のプロジェクトチームを立ち上げることが前提となっています。そのうえで、スピード感が求められるDXプロジェクトではチームを信頼し任せることが重要であること、失敗を容認する姿勢が求められること、「ゴールやタイミング、方向性の異なるプロジェクトは、体制や管理方法を分けて推進するべきである(※)」ことなどが解説されています。
※…DX 先進企業へのヒアリング調査 概要報告書┃IPA、15ページ
そして、「4.DXを推進する体制と人材に関する知見」のもうひとつの柱である「人材に関する知見」で取り上げられたのが「やたがらす人材」でした。
「やたがらす(八咫烏)」とは、日本神話に登場する三本の足を持つからすで、神武天皇を大和国(現在の奈良県橿原市周辺)まで案内した導きの神とされています。日本サッカー協会のシンボルで知ったという方も多いでしょう。
やたがらす人材とは、やたがらすのように以下の3本の領域に足を踏み入れることができる人材のこと。
1.経営
2.事業
3.技術
先に紹介した4つの知見を見てもわかる通り、DXプロジェクトを推進するためには経営・事業・技術(IT)の3つの人材が同じ方向を向いて協力することが不可欠です。それらの人材の誰とも話ができるのが「やたがらす人材」であり、DXプロジェクトを牽引するリーダー像として紹介されています。
もちろん「そんな人材は都合よく見つからない」という場合もあるでしょう。DX先進企業はそういった場合、例えば事業部の人材にITにまつわる教育を行い、経営陣と議論する現場を設けることでやたがらす人材を開発しようとしてきたようです。また、事業部門とIT部門の交流を活発にする取り組みも有効とのこと。
やたがらす人材という名の通り、「やたがらす(八咫烏)」は、日本神話に登場する伝説の生き物であり導きの神、そもそも実在しないのでは、IPAならではの気の利いた皮肉なのではと感じたデータのじかん読者の皆様!さすが、鋭い!
ただ、、
やたがらす人材の特性は「データのじかん」で取り上げてきた“経営者・一般社員とデータサイエンティストの橋渡し役”「ビジネストランスレーター」とも一致します。希少ながら、ITベンダーではなく社内で育成する意義のある人材であり、育て方もいくつか示されています。ぜひビジネストランスレーター関連記事もご覧ください。
ヒアリング調査は、事前にピックアップした130社のうち、以下の3つの条件で絞り込まれた22社を対象に行われました。
条件1:顧客に対して、デジタルならではの新しい体験・価値を生み出しているもの
条件2:実施しているだけではなく、具体的な成果が生まれてきていることが確認できたもの
条件3:先進的、独自性のある取り組みであり、手引書に記載すべき工夫・秘訣がありそうなもの
引用元:「DX 先進企業へのヒアリング調査 概要報告書┃IPA」4ページ
業種は偏らないように配慮されたようですが、「製造業(生活関連・機器・その他)」に該当する企業が8社、「卸売業・小売業」に該当する企業が5社と比較的多く含まれていました。条件に当てはまりかつ参考にしやすい事例が多かった企業は、それらの業種で多く見られたということではないでしょうか。22社には「水産・農林業」「鉱業・採石業・砂利採取業」「製造業(素材)」「情報通信業」「教育・学習支援業」「医療・福祉」「公務」に該当する企業は含まれませんでした。
DXとは、単なる業務のデジタル化・効率化ではなく、企業のあり方をデジタルの力でがらりと変革してしまうことです。DX先進企業の条件でも注目したいのは「デジタルならではの新しい体験・価値」という箇所。製造業であれば「モノを売る企業からコトを売る企業への変化(サービス化)」、卸売業・小売業であれば「インターネットを活用した新たな販路の拡大」などがDX関連の実例として見られます。
このようなケースを手本とするためにも、今回のような先進事例の調査はなるべく追っていきましょう。
『DX 先進企業へのヒアリング調査 概要報告書』の第1章では、2020年12月に経済産業省が発表した『DXレポート2(中間とりまとめ)』において「約95%の企業はDXにまったく取り組んでいないか、散発的な実施にとどまっている」と報告されたことを背景として調査が行われたことが説明されています。
つまり、ほとんどの企業は「DX未着手企業」あるいは「DX不十分企業」なのです。だからこそ、今先進企業にキャッチアップしようとすることが競争力を生むはずです。まずは先進企業に比べ自社に足りない知見を探してみてください!
【参考資料】 ・DX 先進企業へのヒアリング調査 概要報告書┃IPA ・八咫烏について┃熊野本宮神社
(宮田文机)
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