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2023年5月末に実施されたイベント「『脱炭素』はどこから始めればよいのか?」(主催:北九州SDGsステーション/共催:北九州市環境局、ウイングアーク1st株式会社、株式会社ギラヴァンツ北九州)では、ゼロカーボンシティの実現に向けて推進している企業に向けて、最新事例が共有された。
九州の最北端に位置し、古くから玄関口として栄えてきた北九州市。製鉄を中心とした重工業の発展を担ってきた歴史を持つこの自治体では現在、新たな経済・産業の発展に向けたグリーン成長戦略を強力に推進している。最初に登壇した北九州市環境局グリーン成長推進部グリーン成長推進課主査の中山俊輔氏は、その重要なきっかけとなったのは、日本政府による「2050年カーボンニュートラル宣言」だったと振り返る。
「この宣言を受け、国は、具体的な目標を定めることとなり、2021年5月には、2030年度までに46%の温室効果ガスを削減することを宣言した『2030年温室効果ガス削減目標』を発表しています。さらに同年の6月には『地域脱炭素ロードマップ』も策定され、国は、2025年度までに『脱炭素先行地域』を少なくとも100ヵ所選定する方針を明らかにしました。
こうした動きと並行して、北九州市も2020年には『ゼロカーボンシティ宣言』を行い、2021年8月には『北九州市地球温暖化対策実行計画』で、2030年度までに、温室効果ガスを47%以上削減することとしました。」(中山氏)
「北九州市の環境への取組は古く、深刻な公害を克服すべく他の自治体に先立って公害対策を実施した歴史があり、現在に至るまで一貫して、環境への取組に力を入れています。
それらの取組は、全国的にも評価を頂いており、国から2008年に『環境モデル都市』、2018年に『SDGs未来都市』、2022年に『脱炭素先行地域』に選定されています。」
そんな北九州市だが、実は、産業部門が排出する温室効果ガス(GHG)は、全国平均(32%)の2倍(64%)の量に達している*という。「産業都市である北九州市において、脱炭素と産業の発展を同時に達成する施策を加速させることが最重要」だと中山氏は明かす。
*数値は2019年現在。国立環境研究所ホームページによる
その目標達成のために、北九州市は2022年に「北九州市グリーン成長戦略」を策定。「環境と経済の好循環」による2050年ゼロカーボンシティの実現に向けて、エネルギーの脱炭素化とイノベーション推進のためのアクションプランを実行している。主な取組として、公共施設に対する第三者所有方式による太陽光発電(PV)や高効率空調、蓄電池の導入、地域新電力を活用した再エネの導入を行うほか、公共施設のZEB化、電気自動車(EV)・の導入促進、水素の利活用等の施策を民間企業とも連携しながら、市全体に進められているという。
現在、北九州市が注力している脱炭素の取組のひとつに、「KitaQ Zero Carbon(キタキュー・ゼロ・カーボン)」がある。これは「市民や企業の皆さまとカーボンニュートラルの実現を目指すために2022年1月からスタートした、オール北九州の市民環境力を集結したプロジェクトです」と中山氏は力を込める。
「KitaQ Zero Carbon」には、①コミュニティ:コアとなる活動者を巻き込み、さらに拡散する ②アクション:市内の脱炭素アクションの実践状況を可視化する ③成果創出:取り組みが具体的な成果として表出するという、3つの具体的な展開コンセプトが掲げられている。
それぞれに対する具体的な施策を見てみたい。
プロジェクト名を冠したポータルサイト「KitaQ Zero Carbon」を立ち上げ、脱炭素に関するさまざまな情報を、行政や民間企業の隔てなく収集して、市民向けに発信・提供している。
社会貢献活動を可視化するアプリ「action」の開発会社である、ソーシャルアクションカンパニー株式会社と連携。環境行動への評価を数値で可視化し、モチベーション向上による自発的・持続的な行動変容を促している。
市民が「KitaQ Zero Carbon」関連のイベントやキャンペーンに参加すると、「action」のポイントである「actcoin」をもらえ、100万コインたまると、自分が応援したい地域の環境活動団体に寄付ができる。
「この他にも、地元企業や大学等との連携体制を構築し、個々の企業リソースや課題に即したプロジェクトが現在も複数進行中しており、これからもオール北九州で脱炭素に取り組んでいきます。」と中山氏は語る。
続いて登壇したのは、ウイングアーク1st株式会社データプラットフォーム事業開発部の大滝貴光氏だ。まず共有されたのは、世界中で加速しつつあるカーボンニュートラル(CN)のトレンドと、日本の企業・組織における現状だ。
「日本政府による2050年CN宣言を始め、期限付きのCNを表明する国や地域は現在も急増中です。またこれに対応して、金融機関によるESG投資も毎年増えています。日本でも大手金融機関が、企業のCO2排出量を財務内容と同等に評価するといった例が出てきています」(大滝氏)
国内だけではない。海外で先行するサプライチェーン全体の脱炭素化に、わが国の産業界も今後は向き合っていく必要が生じている。2020年に米Appleが発表した「2030年までにサプライチェーンも含めたCNを実現」では、対応したサプライヤー約70社のうち、8社が日本企業だという。
とはいうものの、「どこから手を付ければよいのか」と困惑する企業は少なくない。その手がかりとして大滝氏は、「カーボンフットプリント」(CFP)を挙げる。CFPとは、ある製品の原材料調達から生産・流通・販売、使用・維持・管理、そして廃棄からリサイクルまで、ライフサイクル全体で排出されたCO2の記録のことだ。
「CFPによって、企業はその製品プロセスのどこに環境負荷が存在しているのか、詳細な把握が可能になります。このCFPを自社の最初の脱炭素のステップにすべきだと考えます」(大滝氏)
もちろんサプライチェーン全体のCFPを、人手で把握することは不可能だ。各プロセスのCFP情報を漏れなく収集・分析・可視化するには、デジタルツールの活用が必須になる。その具体的なツールとして大滝氏は、ウイングアーク1stのCO2排出量可視化プラットフォーム「EcoNiPass(エコニパス)」を紹介する。これは同社が鈴与商事株式会社と共同開発したクラウドサービスで、CNの推進に取り組む企業および周辺サプライヤーのCO2排出量を自動集計して見える化。自社の現状把握と、削減施策の検討を支援するというものだ。
「データ収集や分析の専門家でなくとも、直感的で簡単な操作とわかりやすい画面、さらに低価格でシンプルな料金体系で、これから脱炭素に取り組む企業には最適なプラットフォームだと自負しています。すでに製造業を中心に導入されている例も多く、最近は金融機関や建設業からのご相談も増えています」(大滝氏)
いまや脱炭素への取り組みは、日本企業にとって「待ったなし」の課題であり、その第一歩としてのCO2排出削減、そして将来的にはその成果を外部に積極的に発信して、環境対応に真摯に取り組む企業であることをアピールしてほしいと大滝は訴える。
最後に登壇したのは、株式会社ギラヴァンツ北九州クラブ事業本部副本部長の石原庸隆氏だ。ギラヴァンツ北九州は、北九州市をホームタウンに活動を続けるJリーグ加盟のプロサッカークラブだが、そもそもなぜプロのサッカークラブが環境活動に取り組んでいるのだろうか。実は、こうしたホームタウンでの活動は、Jリーグ加盟クラブに義務付けられた社会貢献なのだと石原氏は明かす。
「Jリーグ規約に、『地域社会と一体となったクラブ作り(社会貢献活動を含む)を行い……』という条文があります。またJリーグが進める社会連携活動に『シャレン!』というものがあり、北九州地域での環境活動は、まさにその一環と位置付けられているのです」
さらにこの背景には、Jリーグと環境省との間で2021年に結ばれた包括的な連携協定がある。この時点からすでに、気候変動対策をはじめとした環境活動は、全Jリーグ加盟クラブの重要なミッションの一つとなってきた、と石原氏は付け加える。
これまでギラヴァンツ北九州が取り組んできた地域貢献活動の中で、近年注力しているのが2021年に始まった「With!! KITAKYUSHU~SDGsプロジェクト~」だ。これは北九州地域の人々とともに社会貢献、地域との連携、そして新たな事業創出を行う試みであり、翌2022年からは「健康・福祉」「教育」「環境」「まちづくり」「パートナーシップ」の5つのテーマを設けて取り組みを進めている。
こうした取り組みが、今年さらに一歩加速した。2023年から、Jリーグが新たに気候変動問題に対応するため、リーグ戦でカーボンオフセットを目指すと宣言するようになった。これを受けてギラヴァンツ北九州でも、サッカークラブである前に地元で活動する企業体として、日常の活動の中でできることの検討を始めたと石原氏は報告する。
「とはいえ、何からやればよいのか見当がつきませんでした。そもそも自分たちの活動でCO2がどれくらい出ているかも全く分からない。そこでウイングアーク1stに相談し、『EcoNiPass』を使ってみることになりました。まだ導入したばかりですが、まずは可視化を進めて、そこを糸口に将来的な取り組みにつなげていきたいと考えています。」
ウイングアーク1stの「EcoNiPass」によって、まずは現状の見える化から取り組みを開始。
この他にも、北九州市のノーマイカー強化月間に合わせて、公共交通機関でのゲームへの来場を呼びかけたり、家庭で余った食品を取りまとめて地域の福祉団体などに寄付する「フードドライブ」を運営するNPOに協力したりするなど、地域に根差した多彩な活動に取り組んでいる。
いま、自分たちはサッカーができている。その当たり前の日常も、このまま気候変動が進めば失われかねない。そのように環境問題を「自分ごと」として考えて取り組んでいかなければなりません。」と言う石原氏は、「そのためにも、小さなことでも良いのでまずは始めることが大事」と決意を語る。
3名のセッション終了後は、スピーカーと参加者とのQ&Aも行われ、参加者の環境活動への関心の高さがうかがわれた。わが国における「脱炭素」の取り組みが本格化する中、北九州地域における先進的事例に引き続き注目していきたい。
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