最初に「座席指定車両」の定義を確認したい。この記事で取り上げる「座席指定車両」は、普通乗車券とは別に、特別料金を支払い、指定された座席に座るシステムを採用した車両のことを指す。
問題は座席指定車両のみで構成された列車と、座席指定車両+一般車両(特別料金不要)で構成された列車が存在することだ。前者は小田急「ロマンスカー」、京王「京王ライナー」近鉄「ひのとり」、後者は東急「Qシート」、阪急「PRiVACE」が該当する。
また、さらに細かく分けると、座席指定車両のみで構成された列車の中でもリクライニングシートが並ぶ特急専用車両を使った列車と、通常時は特別料金が不要な車両を使った列車に分けられる。いわゆる蘊蓄寄りの知識かもしれないが、この機会にぜひ覚えていてもらいたい。
座席指定車両のみで構成された列車を運行する関東大手私鉄会社は、東武、小田急、西武、京成、京王、京急である。このうち、特急専用車両を用いる会社は東武、小田急、西武、京成だ。
東武特急はJRと同じくシーズンごとに料金が異なり、また列車によっても異なる。「スペーシアX」のスタンダードシート特急料金(通常期)は、浅草~春日部(35.3キロ)が610円。普通運賃との総計は1,150円だ。同じく、特急「けごん・きぬ」・特急「リバティ」は特急料金(通常期)が550円となり、「スペーシアX」よりも60円安い。
特急「りょうもう」「リバティりょうもう」は浅草~東武動物公園(41.0キロ)の場合、共に特急料金(通常期)は550円だ。
東武は特急とは別に、クロスシートの座席指定列車「THライナー」「TJライナー」も運行している。「THライナー」の座席指定料金は、久喜・東武動物公園・春日部~東京メトロ日比谷線各駅が680円だ。久喜~中目黒間は60.9キロ、春日部~北千住間は28.2キロとなる。
「TJライナー」の基本的な座席指定料金は下りと上りで異なり、下り(小川町方面)は370円、上り(池袋方面)は470円だ。池袋~小川町間は64.1キロである。
小田急は説明するまでもなく、特急「ロマンスカー」が有名だ。新宿~町田間30.8キロの特急料金は、チケットレス特急料金が450円、特急料金が500円だ。
西武は特急専用車両を使う特急「ラビュー」「小江戸」、一般車両を使う座席指定列車「S-TRAIN」「拝島ライナー」が存在する。西武の特急料金は、西武新宿~本川越間47.5キロが600円、西武新宿~所沢間28.9キロが500円となる。一方、座席指定列車の特別料金は「拝島ライナー」が一律400円だ。西武新宿~拝島間は36.9キロである。「S-TRAIN」は平日と土休日で特別料金が異なる。平日は一律510円。小手指~豊洲(東京メトロ)間は42.8キロだ。
京成は空港特急「スカイライナー」が看板列車だ。新鎌ヶ谷~成田空港間38.7キロのライナー料金は800円だ。なお、京成では特急専用車両を用いた列車「モーニングライナー」「イブニングライナー」を運行する。京成上野~八千代台間36.6キロの特急料金は450円だ。
京王は一般車両を用いた座席指定列車「京王ライナー」「Mt.TAKAO」を運行する。いずれも、座席指定料金は一律410円。新宿~京王八王子間は37.9キロだ。
京急は一般車両を用いた座席指定列車「モーニング・ウィング」「イブニング・ウィング」を運行する。座席指定料金は一律300円。品川~三崎口間は65.7キロである。
関東大手私鉄において、座席指定車両+一般車両(特別料金不要)で構成する列車が存在するのは東急と京急だ。ただし、座席指定車両はクロスシートである。東急は座席指定車両「Qシート」を東横線、大井町線の平日の一部の急行に連結する。座席指定料金は一律500円だ。渋谷~元町・中華街間は28.3キロだ。京急は土休日の一部の快特に「ウィング・シート」を連結する。座席指定料金は一律300円(車内販売以外)だ。
関西大手私鉄では、座席指定車両のみで構成した列車を運行する会社は、近鉄、南海、京阪の3社。このうち、特急専用車両を用いるのは近鉄、南海だ。
近鉄の特急料金は列車、路線によって異なる。名阪特急「ひのとり」は特急料金に加え、「ひのとり」特別車両料金が必要だ。大阪難波~大和八木間36.8キロの場合は、特急料金520円+特別車両料金100円となり、総計620円となる。
南海は空港特急「ラピート」、高野線特急「こうや」「りんかん」「泉北ライナー」で特急専用車両を用いる。いずれも座席指定料金は520円を基本とする。なんば~関西空港間は42.8キロだ。
京阪はラッシュ時に座席指定列車「ライナー」を運行するが、近鉄・南海とは異なり、リクライニングシート車両ではない。ライナー券は、淀屋橋~樟葉間27.7キロで300円だ。
一方、座席指定車両+一般車両(特別料金不要)で構成する列車を運行するのは、南海、阪急、京阪だ。いずれの会社も、座席指定車両はリクライニングシートだ。南海は特急「サザン」8両編成のうち、4両が座席指定車両だ。座席指定券は一律520円である。なんば~和歌山市間は64.2キロだ。
阪急は京都線の特急系種別に座席指定車両「PRiVACE」を連結する。座席指定料金は一律500円。大阪梅田~京都河原町間は47.7キロだ。京阪は、特急系種別などの上位優等種別に座席指定車両「プレミアムカー」を連結する。淀屋橋~大阪府内間は400円、淀屋橋~京都府内間は500円だ。淀屋橋~出町柳間は51.6キロだ。
名鉄は特急型車両を用いる空港特急「ミュースカイ」を運行する。乗車に必要な「ミューチケット」は一律450円。名鉄名古屋~中部国際空港間は39.3キロだ。
また、名鉄は座席指定車両+一般車両(特別料金不要)で構成する列車も運行する。快速特急と特急にリクライニングシートの「特別車」を連結する。「ミューチケット」は450円だが、土休日の終日および平日9時から16時59分の間に乗車駅を発車する場合、WEB割引300円が適用される。ただし、中部国際空港駅発着は除く。
お得な座席指定車両はずばり名鉄だ。条件付きとはいえ、乗車距離に関係なく、プラス300円でリクライニングシート車に乗れる。関東であれば、クロスシート車であっても、プラス500円以上を徴収する会社のことを考えれば、大変お得だ。
また、京阪「プレミアムカー」も見逃せない。乗車時間(淀屋橋~樟葉)30分ながら、プラス400円で、1+2列のリクライニングシートを利用できる。
関東では小田急「ロマンスカー」が意外と安い。「ロマンスカー」は2022年10月に特急料金の値上げを実施した。一方、正規の特急料金よりも割安な「チケットレス特急料金」を導入したことも大きい。「チケットレス特急料金」だと、乗車キロ76~83キロでも1000円を切る950円だ。同じく観光地へ向かう東武特急スペーシア「けごん」「きぬ」だと、61~90キロの特急料金は1250円(通常期)、1450円(繁忙期)となる。
このように、特急料金、座席指定料金は想像以上にバラツキがある。このような一次データから、各社の鉄道部門の成績がおぼろげながら見えてくるのではないだろうか。
(TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)
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