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「変革 or 倒産」の背水の陣に挑む、ものづくり現場の本気のDX。そこから見えてきた勝ち筋とは?

         

2021年5月14日、国内の中小企業による、積極的なデータ活用やデジタル導入のケーススタディーを共有する「ものづくり中小企業DXフォーラム」が、オンラインで開催された。経済産業省製造産業局 ものづくり政策審議室長 矢野剛史氏による「デジタル化の現状についての説明」、東京商工会議所と日本鋳造協会による「コミュニティの取り組み紹介」など、多くの知見が共有された。

今回はその中から、ウイングアーク1stの大川真史がモデレーターを務めた「中小企業の取り組み紹介」を中心に取り上げる。鋳造業、金型業、刺しゅう業、自動車部品業など、日本の工業化、ひいては経済成長を支えてきた業界の中小企業が挑戦する現場に「デジタル」を掛け合わせたDXに、中小企業の行方の糸口を見た。

大川真史のオレはこう思ったッス!

 

今年は企画段階から関わりました。昨今の中小製造業のデジタル化の状況を鑑みて「中小製造業の取組紹介」と「コミュニティの取組紹介」という2セッションで開催しました。今年は以下のような方にご登壇頂きました。

    • ・ビジネスモデル転換や売上げ拡大や人材獲得活用など本当の経営課題にデジタルを活用して真正面から挑戦

    • ・EC活用やデジタルマーケティングやデータ活用など中小製造業の現実的な売り上げ拡大

    • ・現場従業員のユーザー体験(UX)を最優先に考慮したデジタルツールの導入と定着

    • ・従来からある組織・団体が主導してデジタル化へ自分自身で気軽に取り組めるコミュニティ運営

イベント全体の様子はYouTubeでアーカイブもされていますのでご覧ください。

中小企業のDXの取り組みを共有と活性化のためのフォーラム

多くの企業でデータ利活用・デジタル化が大きな課題となっているのは言うまでもない。大企業の情報は流通しているが中小企業にとって本当に役に立つ情報は多くない。つまり中小企業の現場の実態に即した「身の丈DX」に関する情報が必要である。この「ものづくり中小企業DXフォーラム」では、中小企業の「身の丈DX」に積極的に取り組む企業やコミュニティ・支援機関の事例をシェアする事により、本質的で筋の良いデジタル化に取り組む企業を増やすことが目的だ。

開会のあいさつでは、経済産業省製造産業局ものづくり政策審議室室長の矢野剛史氏が「経済を取り巻く状況が厳しい中、日本のものづくりを支えていくためにも、中小企業に頑張っていただくことが大切だ。経済産業省としても、さまざまな支援策で取り組みを支えたい」と述べた。さらに同氏は、わが国のデジタル化の現状を説明した上で、日本の製造業のDXにおける課題を挙げ、その解決に向けた仕組みづくりと人材育成の必要性を訴えた。

この挨拶の中で特筆すべきは「自身で作ること(内製)の重要性」を訴えた点にある。データ活用の取組みの繰り返しの試行錯誤の中から本当に必要な事が分かり、そのためには現場で困っている本人自身が、「自ら欲しいものを作る」ことが重要であると述べた。

自社の課題や獲得目標に合わせてさまざまなDXの在り方を探る

メインプログラムである「中小企業の取り組み紹介」では、鋳造業、金型業、刺しゅう業、自動車部品業をそれぞれ営む国内の中小規模の企業が、データ活用・デジタル化の取り組みを紹介した。当日は時間の関係で割愛した大川の所見を加えてリポートする。

錦正工業株式会社|IoT端末を活用して、機械とコンプレッサーの稼働状況をモニタリング

錦正工業株式会社 代表取締役 永森久之氏

錦正工業株式会社は、栃木県那須塩原市にある鋳造工場だ。「鋳造加工一貫生産」をうたう同社では、半世紀にわたるロングセラー商品「Vプーリー」を始め、大型自動車や建設機械、産業用ロボットといった幅広い分野の機械装置部品など、さまざまな工業製品を手掛けてきた。

「別にIoTがやりたかった訳じゃない」。講演本編の冒頭で永森社長はこう言った。その理由は経営者としての課題認識に向き合ってきたからだ。永森社長の入社時、社内はすべて手書き伝票でそろばんが現役で現場も職人さんの暗黙知だらけだった。経営するには社内で起きるあらゆる事象をデータ化してそれに基づいて判断する必要があった。しかしシステム会社に依頼して高額なシステム投資は出来なかったため自分達でやるしかないと決意した。永森社長は、まず手始めにインフラ、ネットワーク、簡単なサーバを揃える事から始めた。次に生産システムのパッケージを標準で導入し、不足部分は自分達でカスタマイズや別システム構築を行う方針で進めた。

最後に残ったのが現場データの自動取得であった。これまでより難易度が高かったため、社長自らプログラミングのワークショップに参加するなど自己学習し、手始めにコンプレッサーの遠隔監視に取り組んだものの試行錯誤の連続でなかなか実装には至らなかった。しかし、社長自ら様々な活動に参画し情報を入手し悩みを共有し続けた結果、鋳造の知識が豊富なソフトウェアエンジニアが入社し、2年半の間に「ライン稼働モニタ」「電気炉モニタ」「分析値モニタ」「木型・中子IC管理」など多くの重要な情報のデジタル化が一気に進んだ。いまは中華製の格安ロボットの自前導入を進めている。

大川真史のオレはこう思ったッス!

 

一見するとよくある成功したIT・IoT事例に思えますが、本質的には経営者の意思決定、すなわち経営課題の優先度と、採用を含むリソース配分の決断の重要性を示唆している事例です。社長の永森さんは何年間も外部コミュニティに積極的に参画し、コミュニティへも大きな貢献も行っていらっしゃいます。そのご縁からも貴重なIT人材に巡り合えたように思います。またツールやシステムの導入はプロトタイプベースでアジャイルに進められていますが、これも社長の正確な知識と明確な意思によって実施できていると思います。

株式会社フジタ|「中小企業のものづくり」を、場づくりを通して、文化的な側面からイノベーションしていく

株式会社フジタ 代表取締役 梶川貴子 氏

株式会社フジタは、富山県高岡市にあるアルミ鋳造金を中心としたメーカーだ。梶川氏はこれまでも、いわゆる町工場が持つ「暗い、地味、汚い」といったネガティブなイメージを払拭し、中小企業でものづくりに携わる人々が自信や誇りを持てるようにしたいと考えてきた。1987年に入社して以降、FA/CAD/CAMやIT化を推進してきた。

2010年の社長就任以降、イメージ払拭の取り組みは加速していった。そうした試みの一つが「ファクトリー アート ミュージアム トヤマ」がある。梶川氏は2015年に、自社のカルチャー改革のヒントを学ぼうと参加したイノベーションスクールで、このアイディアを立ち上げた。建設に当たってはクラウドファンディングでサポーターを集め、企画実現のプロセスからさまざまな社内の人々を巻き込みながらコミュニティを構築していった。

開館後は、集客の仕組みをつくろうと考え、イベントやセミナー、ワークショップを繰り返し実施してきた。ここから生まれた「哲学カフェ」は、誰もが気軽に議論に参加できる場として社外の人々の人気を集めている。2020年には、哲学を中心とした研修やコンサルティングも含む企業「アガトンラボ」も発足させた。

株式会社フジタのDXは、従来のIT化すなわち業務効率化や省力化・自動化ではない。「中小企業のものづくりのイメージ刷新」という文化創造的な枠組みから捉え、それを実現するための要素技術としてデジタルを活用している点がユニークだといえよう。

大川真史のオレはこう思ったッス!

 

デジタルで製品・サービス・ビジネスモデルを変革するという本来のDXに真正面から取り組む好事例です。また、ものづくり白書で2年連続取り上げられているダイナミックケイパビリティの具体例として理解すべき素晴らしい取り組みです。ポスト工業化社会で地方の中小製造業が新しい価値を生み出す示唆に富むように思います。特に、哲学コンサルティングという最先端の潮流のビジネス領域に挑む姿勢は尊敬に値します。ものづくりを起点にどこまで遠くまで飛んでいくのか今後も目が離せない会社です。

株式会社マツブン|起死回生のWebマーケティング活用で売上が20年で625%に

株式会社マツブン 代表取締役 松本照人 氏

株式会社マツブンは、企業向けのオリジナル刺しゅう製作を手掛ける刺しゅう加工メーカーだ。3代目となる松本氏が入社した2000年当時、会社は大きな岐路に立たされていた。アパレル業界のビジネス環境の変化で、売上高は先代のピーク時から74%も減少。加工先の大手ブランドも15社から3社に激減していた。特に大手一社に売り上げの4割を依存していたため、ダメージは大きかった。

起死回生策として松本氏が選択したのが、Webマーケティングによるインターネット直販だ。アパレル以外の一般企業を新規ターゲットとしてeコマースにシフトし、リスティング広告や SEOを活用して顧客の獲得を進めた。ネット販売では、多くの競合の中から抜きん出るために、差別化がより重要なポイントになる。同社では「刺しゅう出来る物は何でも刺しゅうするのが刺しゅう屋さんですが、当社は反対に刺しゅうする商品を絞り込んで(タオル・ポロシャツ・ワッペン)サイト制作やマーケティング活動を行っている」と松本氏は話す。他社との刺しゅう品質の違いや自社のこだわり、さらに顧客インタビューや分かりやすい料金体系などをWebサイトに露出。「自社の本気」を伝えることに注力していった。

こうした差別化が実を結び、取り組みを始めた2000年から2020年までの20年で、売上高は625%も伸びた。まさに製造業が事業モデルを改革・刷新する上でデジタルマーケティングを活用して成功した好例だが、松本氏は「BtoBの製造業だけでなく、あらゆる分野でデジタルマーケティングは今後の主流になっていく。横文字ばかりで覚えることも多いが、できるだけ早く始めることをお勧めしたい」と語った。

大川真史のオレはこう思ったッス!

 

デジタル化によりビジネスモデルを大変革したDXの好事例です。中小製造業の経営者に課題を聞くと「売上拡大」「新規顧客開拓」が挙がりますが、具体的なやり方がわからずとりあえず「業務効率化」など優先度が低い課題に取り組むケースが多いように見受けられます。しかし松本社長は最優先の経営課題に真正面から向き合って、当時注目され始めたECに実直に取り組まれました。当時、中小製造業でも若い経営者を中心にeコマースへの進出を検討されていたと思いますが、社長自らが推進役となり自身のリソースを多く投入し、20年も継続してきた会社は多くありません。DXを実現するためには経営者の意思とその取り組みを継続的に行う事が重要だと思いました。

株式会社タカハシ|事務処理などを極力自動化し、「顧客への価値提供」にリソースを集中

株式会社タカハシ 代表取締役 髙橋弘明 氏

株式会社タカハシは、従業員5名の「町工場」だ。その技術力は高く、緩衝材やシーリング、ブッシュといった自動車のゴム部品など、国内の自動車のほとんどに同社の製品が組み込まれていると髙橋氏は話す。

同社では、ITを活用した生産管理などを積極的に導入。小ロットの製品でもマスター情報入力から製造の進捗管理までをシステム化してトレーサビリティーを担保するなど、大手メーカーに匹敵する生産管理を可能にしている。

今回紹介されたIT化の取り組みでは、製品の受注から生産、納品、請求まで一連のプロセスを、できるだけ自動化する点に注力した。髙橋氏は「データ入力や帳票発行など、お客様の価値に直結しない作業を極力自動化し、限られた人手や時間を、顧客への価値提供に振り向けることを目指した」と語る。

製造業の現場へのIT導入では、PCやデバイスに詳しくない人でも直感的に理解し、操作できる工夫が必要だ。そこで髙橋氏は、UIやUXをとことん簡素化した。例えば帳票発行システムでは、社員が数字を手入力する必要がなく、マウスやクリック操作だけで帳票発行が可能な極めてシンプルなUIを実現している。

こうした省力化と自動化によって、内職者の給与計算は半日から20分に、月に数件あった作業忘れは0件に、発送業務での納品書発行は、1時間から10分にそれぞれ大幅に短縮された。請求業務も半日かかっていたものが30分弱で完了するようになった。髙橋氏は、「お客様からの納期などの問い合わせも、以前は調べて折り返し電話だったものが、現在はシステムの端末を見て即答できるようになっています」と手応えを語った。

大川真史のオレはこう思ったッス!

 

UXを重視して現場起点でデジタル化を推進した素晴らしい事例です。導入した入力デバイスは、テンキーとエンターやバックスペース以外のキーを全部抜いたキーボード、PCは慣れないけどスマホを使う従業員向けにタッチパネル対応画面、バーコードの読み取り漏れが無いように業務用バーコードリーダーというものです。ITに詳しい人からすると歪にみえる組み合わせですが、同社従業員には最適なUI/UXです。つまりユーザーではない人が「良さそう」と思うものは、ユーザーにとっては「良くない」ものであり、ユーザーではない人にとって違和感あるものこそ最適なUI/UXになっていると言えるのではないでしょうか。

各企業による取り組み紹介に続いては、ものづくりに関わるコミュニティの取り組みが、東京商工会議所中小企業部黒田直幹氏、日本鋳造協会IoT推進特別委員会委員長藤原宏嗣氏からそれぞれ紹介された。ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会(RRI)中堅・中小企業アクショングループ主査の松島桂樹氏はこれに対する総評として、「一般に中小企業は人材や知見がないと見られがちだ。だが今日の紹介事例からは、経営者が率先して動き、従業員を鼓舞して全社一丸で進んでいる様子がうかがえ、やはり中小企業の中にこそ素晴らしい可能性があると確信した」と述べた。

閉会のあいさつに立った日本商工会議所情報化推進部部長の佐藤健志氏は、「かねて経済産業省から聞いていたデータ活用企業の二極化などの課題を、今日の発表で改めて実感した。コロナ禍で厳しい状況だが、日商も経営者の皆様と引き続き連携して、DX推進と成功事例発信のお手伝いをしたい」と語り、フォーラムを締めくくった。

今回、シェアされた4社のケーススタディーからは、中小企業がそれぞれの現場に合わせて柔軟にITやデータ活用を取り入れ、業務改善やビジネス創造を進めている姿がはっきり見えた。本連載では、このようなケーススタディーをさらに掘り下げて紹介していきたい。

大川真史氏
ウイングアーク1st株式会社

IT企業を経て三菱総合研究所に約12年在籍し2018年から現職。専門はデジタル化による産業・企業構造転換、中小企業のデジタル化、BtoBデジタルサービス開発。東京商工会議所ものづくり推進委員会学識委員兼スマートものづくり推進事業専門家WG座長、明治大学サービス創新研究所客員研究員、内閣府SIPメンバー、Garage Sumida研究所主席研究員など兼務。国内最大のIoT勉強会「IoTLT」分科会、M5Stack User Group Japanなど複数のコミュニティを主催。経済産業省・日本経団連・経済同友会・各地商工会議所・自治体等での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。直近の出版物は「マーケティングDX最新戦略」「最新マーケティングの教科書2021」(ともに日経BP社) @masashiokawa
 

(取材・TEXT:JBPRESS+工藤 企画・編集:野島光太郎)

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