





それを今から説明します。まずMCP(Model Context Protocol)です。今までは、LLMが外部サービスを利用する際には、サービスプロバイダーごとに独自インターフェースを用意する必要がありました。このMCPは、Anthropic社が2024年11月に公開したオープンプロトコルで、AIエージェントが、外部のツールやデータソースに、コンテキスト(情報と機能)を提供する方法を標準化したものです。このMCPは、AIアプリケーションにとっての「USB Type-Cポート」に例えられていて、AIエージェントが外部の様々なデータソースやツールに接続することを可能にしました。

なるほど。単体のLLMじゃできないような機能でも、どこかの外部ツールを使って利用できるようにしたのか。だから汎用のUSBポートに例えられているんだな。

MicrosoftのChief Technology Officerは「MCPはWebが登場したころのHTTPのようなプロトコルだ。AIエージェントが最大限の有用性を発揮するには、世界中のあらゆるものと対話できる能力が必要だからだ」とまで言っています。

そうか。WebはHTTPがあったから、世界中にあるサイトと接続できたな。AIもMCPのおかげで、それまでの閉じた世界から解き放たようなもんか。

そんなイメージですかね。このMCPは、クライアント・サーバー型のアーキテクチャで、外部APIと接続するのとは少し仕組みが異なります。一回だけの情報を取得するのではなく、双方向のストリーミング通信路を確立し、その上でメッセージを継続的にやり取りする、というプロトコルになっています。つまり常に接続した状態で、対話的にやり取りするイメージですね。

でもMCPは発表されたばかりですよね。実際にサービスは提供されてるんですか?

GoogleやMicrosoftが、公開後すぐにこの提案に賛同したので、あっという間に様々なサービスが登場しました。企業が提供するMCPに加え、ファイル操作、データベース操作、MCP開発ツール、ブラウザ自動操作、SNS連携など、実に多様なMCPが既にあります。MCPは「外部ツールを使う」だけでなく、「外部データを読み込む」「定型プロンプトを共有・再利用する」という幅広い用途を、一つのプロトコルで実現できるので、多くの企業がサービスを提供したのです。

そうなんだ。さすがAI業界は変化への追従が素早いな。


それでは次にA2A(Agent to Agent Protocol)を紹介します。A2Aは2025年6月にGoogleが提唱したオープンプロトコルで、AIエージェント同士が自律的に連携し、交渉、合意、契約、実行までを完結させるための仕組みです。異なる開発元や機能を持つAIエージェント同士が、共通言語でやり取りできる環境を整備するものです。

MCPが外部ツールとの接続で、A2AはAIエージェント同士の連携なのか。

従来のAIの業務導入では、チャットボットでの問い合わせ対応や、レポート作成の自動化など、部分的な業務効率化にとどまり、業務プロセス間に分断がありました。このためプロセスの接続部で、人間の介在が不可欠となる状況でした。つまり、AI同士が情報を交換・連携するための共通言語や通信プロトコルが整備されていないという問題があったのです。

なるほど、そこでA2Aで環境整備しようとしたのか。

このA2Aによって、複数のエージェントが横断的に連携し、それぞれの専門性を活かし協働することで、業務全体を一気通貫で処理できるようになるのです。

えーと、各々のAIエージェントには専門性があって、自律性もあるから、業務全体を処理できる、と前回も話してましたね。それがA2Aによって、他のAIエージェントの機能を使えるので、対応業務の幅が広がったということか。

※図版:筆者作成「MCPとA2Aの違い」

この図が、MCPとA2Aの違いをモデル化したものです。このようにAIエージェントは、マルチエージェントの方向に進んでいます。

そういえば、そもそもどうして特定の機能に特化したAIエージェントを、複数利用しようとしているんですか?最新の生成AIなら、どんな処理でも単体で全部できるじゃないですか。

GPT-5のような高機能の生成AIにタスク処理をさせる場合、利用可能な外部ツールを含めて多種多様な機能があるため、複雑なタスク処理なら前提条件などをかなり細かくプロンプトで設定したり、タスク分割する必要があります。そうしないと、AIが混乱してハルシネーションが生じたり、処理の精度が悪くなることがあるのです。詳しくはHondaの研究論文「DYNAMIC KNOWLEDGE INTEGRATION IN MULTIAGENT SYSTEMS FOR CONTENT INFERENCE」を読んでください。以下は論文からの抜粋です。
【ChatGPTのような単一のAIの限界】
・専門知識の限界
非常に専門的な分野や、複数の分野にまたがる複雑な問題では、単一のAIだけでは対応しきれないことがある。
・多様な視点の欠如
一つの視点からの回答になりがちで、様々な角度からの意見を統合することが難しい。
【(この論文での)AIエージェントの仕組み】
・専門家AIの集まり
各AIエージェントは、特定の専門分野に特化したデータベースを持っている。
・動的な知識更新
重要なポイントが「動的な知識更新」で、会話の進行に応じてその知識を適切に選び、リアルタイムに更新する仕組みがある。これにより常に最新かつ最も関連性の高い知識を使って、議論を進めることができる。
【動的な知識更新のプロセス】
・初期の知識参照
会話の開始時、各エージェントは自身の専門分野に関連する初期のデータベースを参照。
・会話中の文脈分析
エージェント間の会話が進み、新しい情報や概念が提示されるたびに、各エージェントは現在の会話の文脈を分析。
・選択的な知識クエリ
文脈分析の結果、追加の情報が必要だと判断された場合、エージェントは自身の専門データベースの中から、その時点の議論に最も関連性の高い情報を選択的に検索し、取り込む。
・知識の動的更新
これにより、エージェントは常に最新の議論状況と最も関連性の高い専門知識に基づいて思考し、発言することができる。
【(論文での)結論】
実験の結果、このマルチエージェントシステムは、単一のAIよりも正確性と安定性の両方で優れ、かつ出力品質もより安定したパフォーマンスを示した。

自動車メーカーホンダの論文「ワイガヤ・システム」は、AI分野でのトップレベルの国際会議ICLR 2025で採択されていて、マルチエージェントの挙動を分析した、なかなか面白い内容になっています。長くなるので内容は省略しますが。

しかしホンダが、最先端のAI研究をやっていたとは意外だな。

日本の自動車メーカーも、かなり以前からAI研究をしています。自動運転が目的で、アメリカに研究拠点をおき専門家を雇っているという話は聞いていました。ちなみにですが、トヨタも面白いAIエージェントを発表しています。それが「O-beya(大部屋)システム」です。

ホンダが「ワイガヤ」でトヨタが「大部屋」か。最近は日本語のネーミングが増えたな。

日本人は、戦後から商品名や企業名に欧米風の名前を付けた方がなんとなくかっこいい、と思っているようでした。ところが欧米人に英語風の名前は無個性でありきたり、日本語の方がクールでスタイリッシュだと言われたので、最近は日本語を使うことが増えているようですね。


日本という国のブランド価値が上がったからかな。

話を戻すと、「O-beyaシステム」は、かつてトヨタには新車開発のために技術者たちが大部屋に集まり、徹底的に議論するという文化があったのですが、その大部屋精神をAIで再現しようとしたものです。トヨタの実際の開発現場における具体的な課題解決に特化して、具体的なビジネス課題の解決に貢献しているとのことです。Microsoftによると、このAIシステムはMicrosoft Azure OpenAI Serviceを基盤として、OpenAIのマルチモーダルGPT-4oを採用したとのことです。

じゃあ、実際にAIエージェントを活用しているのか。さすがトヨタだな。

今回はここまでとして、次回はAIエージェントの課題やリスクについて話しましょう。
【第3回に続く】
・MCPは、AIエージェントが、外部のツールやデータソースに、コンテキスト(情報と機能)を提供する方法を、標準化したオープンプロトコル。
・A2Aは、異なる開発元や機能を持つAIエージェント同士が、共通言語でやり取りできる環境を整備するためのオープンプロトコル。
・AIをビジネス活用するには、単体で利用するよりも、専門家AIエージェントが複数で協働するマルチAIエージェントのほうが性能で勝っている。
図版・書き手:谷田部卓
AI講師、サイエンスライター、CGアーティスト、主な著書に、MdN社「アフターコロナのITソリューション」「これからのAIビジネス」、日経メディカル「医療AI概論」他、複数の美術展での入賞実績がある。
(図版・TEXT:谷田部卓 編集:藤冨啓之)
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前回はAIエージェントの概要を説明しました。今回は、今後最も重要となってくるAIエージェント・テクノロジーのMCPとA2Aについて解説します。
AIエージェントって、最近登場したばかりで、しかも毎週のように関連テクノロジーの発表があるのに、最も重要なんて言いきれるんですか?