


スポーツに取り組む子どものスキルを少しでも伸ばしたい、上達してほしいと願うのは、親としてごく自然な心情だと思います。勝敗や結果以前に、「できるようになる実感」や「成長を感じられる瞬間」を積み重ねてほしい。そのために、何かできることはないかと考えるのは、決して特別なことではありません。
一方で、現実には「教えるのは難しい」という壁にも直面します。競技経験がない、あっても専門的に語れるほどではない。成長期特有の身体の変化もあり、昔の感覚がそのまま通用するとも限りません。それでも、データや映像がこれだけ身近になると、「見えてしまう」からこそ、何か言わなければいけないような気持ちになる場面も増えてきます。その意味で、親は「指導できない存在」でありながら、「情報には触れられてしまう存在」でもあるといえるでしょう。
では、データ計測はどこまでスポーツの現場に浸透しているのでしょうか。たとえば、「ラプソード(Rapsodo)」という計測機器があります。カメラとレーダーを用いて投球や打球の軌道、回転数、球速などを高精度に計測・分析するポータブル弾道測定器で、すでに多くのNPB球団で導入されているだけでなく、社会人野球、大学野球へと広がっています。東京六大学では全校が活用しており、高校野球でも全国で200校以上が導入済みとされています。さらに最近では、中学硬式の現場にも徐々に入り始めており、「育成期からデータに触れる」ことが特別ではなくなりつつあります。
加えて、動画分析のハードルも大きく下がりました。高価な撮影機材がなくても、スマートフォン一つでスロー再生や比較が可能です。フォームを横から、後ろから撮影し、過去の映像と見比べる。こうした作業は、もはや専門家だけのものではありません。YouTubeやInstagramには、動作を分解した解説動画やドリル紹介が溢れ、保護者が日常的に目にする情報量は、数年前とは比べものにならないほど増えています。

私自身、中学1年生で硬式野球に取り組む息子を持つ親の一人です。技術的な課題に直面するたびに、「データをうまく使えば、もう少し効率よく上達できるのではないか」と考えるようになりました。
では、親として何ができるのか。考えてみると、大きく分けていくつかのアプローチが浮かび上がります。
一つは、親自身が学び、子どもと一緒に取り組む方法です。動作解析に関する書籍を読み、身体の使い方を理解し、計測データを一緒に見ながら改善点を探っていく。理想的に聞こえますが、時間も手間もかかりますし、そもそも野球経験が浅い親にとってはハードルが高いのも事実です。
もう一つは、専門家に指導を外注する方法です。元プロ選手や専門コーチによる指導は、動作の解像度が高く、問題点の特定から修正ドリルの提示まで一貫しています。
最近見た動画で感心したのは以下の元プロによる指導の動画です。
プロアスリートだけあり、動作に関する理解の解像度が当然ながら高いです。さらに、指導力の高さがすばらしく、私が感心したのは「問題点を探り、その選手にあった修正のためのアプローチ(ドリル)を示せている」「現時点で指導する必要のない選手にはあえて教えない」という点で、データ計測で野球の指導は変わる(データの裏付けによる説得力が高まる)ことを実感しました。
ただし、プロの指導者の指導を受けられる機会は限られており、費用や予約の問題もあるため、誰もが継続できる選択肢ではありません。
さらに、グループレッスンやスクール、オンライン指導といった選択肢もあります。SNSには魅力的な技術解説動画が溢れており、気軽にアクセスできるのは大きな利点です。気になった動画の主催者、スクールにアクセスして体験を申し込み、あとはお金と時間などの家庭事情が許せば、こうしたところを利用するのも有効だと思います。
あるいは、(1)との折衷案として、スクールが公開している技術解説動画やドリルを見て、自分でやってみるアプローチもあるでしょう。純粋に動画を見て学び、親子で試行錯誤するのも、そのプロセス自体が学びになります。
もちろん、チームから課題のトレーニングメニューが示されていたり、平日に練習するチームもあると思います。そうした環境面を見据えて、チーム選びの段階から、土日以外のチーム活動の頻度や内容を吟味するのも大事なことだと思います。

ここまで見てきたように、親が取り得る選択肢は決して一つではありません。独学で学ぶ、専門家に外注する、スクールを活用する、動画を参考に試してみる。どれが正解という話ではなく、家庭や子どもの状況によって、現実的な選択肢は異なります。
ただし、どの道を選ぶにしても共通して求められるものがあります。それが「親のリテラシー」です。ここでいうリテラシーとは、専門的な指導ができる能力のことではありません。むしろ、「教えないことを前提に、正しく関わる力」と言ったほうが近いかもしれません。
たとえば、指導を外部のスクールやコーチに委ねる場合でも、できれば「丸投げ」にしないようにしたいものです。レッスンで何を意識して取り組み、試合や練習でそれがどう表れたのか、うまくいかなかった点はどこか。そうした様子を日常の中で観察し、必要に応じて指導者に伝える。親は「翻訳者」や「通訳者」のような役割が求められると思います。これによって、1 on 1の個別指導であれ、グループレッスンであれ、「ここを特に見てほしい」など、我が子の課題に沿った指導を受けられる可能性が高くなるからです。
同様に、公開されている動画やドリルを参考にする場合も、リテラシーは欠かせません。この練習は何を目的にしているのか。どんな意識づけが前提なのか。一時的に大げさな動きを求めるドリルなのか、それともそのまま実戦につなげるものなのか。動画によってはキャプション欄に説明が書かれている場合もありますが、ない場合は見る人が読み取らなければなりません。そうでないと、かえって癖が強化されてしまうこともあります。

どんな練習にも「効能」と「副作用」があります。万能なドリルは存在せず、状況や成長段階によって合う・合わないは必ず生じます。よかれと思って続けていたことが、あとから振り返るとエラー動作の原因になっていた。そんな気づきに直面することも、決して珍しくありません。
私自身も、後になって「あのときの取り組みは遠回りだったかもしれない」と感じた経験があります。ただ、それも含めて学びでした。試行錯誤を重ねるなかで、「この癖が出たときは、こう調整すると戻りやすい」といった、子ども固有の傾向が少しずつ見えてくることもあります。
本来であれば、こうした気づきや修正を、子ども自身が自走できるのが理想でしょう。しかし、成長期の中学生にとっては、まだ難しい場面も多い。だからこそ、親がすべてを教えるのではなく、横で一緒に考え、整理し、必要な人につなぐ「伴走者」として関わる余地があるのだと思います。
もちろん、仕事や生活の都合で、常に見ていられるわけではありません。それも現実です。大切なのは、完璧を目指すことではなく、「できる範囲で」「過剰に介入しすぎず」「楽しさを失わない」こと。そのための判断力こそが、いま親に求められているリテラシーなのではないでしょうか。
(TEXT:阿部欽一 、編集:藤冨啓之)
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