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「しくじり」から学ぶBizOpsの神髄–BizOps勉強会/交流会 Vol.4 データのじかん参加リポート

2025年6月、東京都港区の株式会社マネーフォワード本社にて「BizOps勉強会/交流会 Vol.4」(主催:BizOps協会)が開催された。同会では「しくじりから学ぶBizOps」をテーマに、3名の発表者が自身の失敗談とそこから得た教訓を共有した。

「BizOps勉強会/交流会 Vol.4」(主催:BizOps協会)

         

しくじり① 小中馨氏(Repro株式会社)
「本当のしくじりは、行動しないこと」

最初の発表者は、Repro株式会社でSalesOpsのユニットリーダーを務める小中馨氏。未経験からBizOpsのキャリアをスタートさせた同氏は、過去の失敗体験を赤裸々に共有した。

Repro株式会社 SalesOps Unit Leader 小中馨氏

最初に語ったのは、「聞かなかったしくじり」のエピソードだ。ある日、上司から「CRMに新しい項目をつくっておいて。みんなには伝えておくから大丈夫」と指示された小中氏。その時、「本当にこのまま進めていいのか」と疑問を抱きながらも、上司の言葉を信じてしまう。結果として、システムに追加した項目は現場で活用されず、それどころか「入力の手間が増えた」とクレームが寄せられる事態に。この経験を通じて小中氏は、「疑問に思ったことをそのままにせず、勇気をもって確認することの重要性」を痛感したという。

また、別のケースとして、「情報共有の不足」の失敗を紹介。戦略会議で新商品のリリースが決定された際に、BizOpsチームが会議に呼ばれなかった。そのため、新商品がCRMに登録されず、異なる商品名で商談が進む事態に。結果として、請求データの不備や契約処理の遅延につながった。

小中氏はこれらの失敗を振り返り、「聞かなかった」「情報を深追いしなかった」ために生じたしくじりを、「勇気」や「主体性」の欠如が招いた失敗だとまとめた。その上で、「しくじりは学びを得る機会。行動しないことが本当のしくじりである」と強調した。

しくじり② 牛田哲也氏(株式会社マネーフォワード)
「曖昧な役割定義が、数千万季規模のしくじりを招く」

次に登壇したのは、株式会社マネーフォワードでBizOpsグループのリーダーを務める牛田哲也氏だ。学生時代から一貫してBizOpsに携わり、多くのプロジェクトを手がけてきた同氏が語ったのは、会社統合プロジェクトでの大規模なしくじりのエピソードである。

株式会社マネーフォワード BizOpsグループ リーダー 牛田哲也氏

牛田氏は、M&Aによる会社統合プロジェクトで、経理や請求のシステムを一体化するプロジェクトマネージャー(PM)を初めて任された。新人賞やMVPを受賞するなど、入社後に高い評価を得ていたこともあり、このプロジェクトも自信満々でスタートを切った。

しかし、経験不足から進行管理や利害関係者の調整に苦労し、プロジェクトは難航。序盤では統合する側とされる側の前提の違いからくる認識相違が進捗を妨げ、中盤には要件定義が確定しないまま時間だけが経過。終盤ではデータ移行の難易度を見誤った結果、進捗はわずか20%にとどまり、数千万円規模の請求書が発行できない危機に陥った。

窮地に立たされた牛田氏は、「凡事徹底」を掲げ、チームと対応に奔走。営業チームには新規契約の締結を一時停止してもらい、経理チームには月次締めに間に合わない想定でリスクヘッジを依頼。さらにオペレーション担当者には手動で請求データを作成するよう依頼するなど、リスクを最小限に抑える応急処置を講じた。

この経験を振り返り、牛田氏は「役割定義の曖昧さが招いた事象」と反省。その上で、PMとして方針を明確に持ち、各担当者の責任範囲を明確にして伝えることの重要性を痛感したと語った。その一方で、危機に直面した際にチームが一丸となって問題解決に取り組む姿を目の当たりにし、チームワークの重要性を改めて実感したと締めくくった。

しくじり③ 小林征矢氏(株式会社ログラス)
「『神』に頼り過ぎた」

最後に発表したのは、株式会社ログラスでBizOps部門の立ち上げから組織拡大を経験した小林征矢氏。同氏は、契約管理プロジェクトにおける「炎上」のしくじりエピソードを語った。契約情報をPDFではなくデータとして管理できるシステム構築を目指していたものの、途中で売り上げ管理のプロジェクトが混在。目的の異なる2つのプロジェクトが複雑に絡み合い、要件定義の曖昧さやスコープの広がり、外部リソースへの依存も重なり、状況は混乱を極めた。

株式会社ログラス 経営戦略室BizOps 小林征矢氏

小林氏は、この困難な状況を打開するため、X(旧Twitter)で「契約管理システム構築に苦労している」と発信。すると、「構築経験があり解決できる」と名乗り出たエンジニアが現れた。小林氏が「神様」と表現する、そのエンジニアの助けによりプロジェクトは順調な軌道に乗る。初期プロトタイプが短期間で完成し、正式リリースも視野に入るかと思われた。

しかし、最終テストで多数のバグが発覚し、さらに「神」との交信(連絡)が途絶える事態が発生。プロジェクトは再び混乱の渦に巻き込まれた。小林氏はリリースを延期し、自社開発でプロジェクトを再構築する決断を下すが、データ移行の複雑さや不整合の多発に各部署からクレームが殺到。炎上状態が続く中、まずは「混ぜるべきでないものを分ける」ことに注力し、契約管理と売り上げ管理のプロジェクトを明確に分離。さらに、役割の再定義や手作業も辞さない覚悟で問題解決を進めた。

最終的に、小林氏は「炎上プロジェクトを一旦燃やし尽くして再構築する」という大胆な決意のもと、メンバーの総力を挙げてプロジェクトを完遂させた。

小林氏は、今回の件を通じて得た教訓を明確にまとめている。まず重要なのは「解ける課題を解くこと」だ。自分たちが理解できない課題に無理に取り組むのではなく、信頼できる専門家に相談する姿勢が必要だと指摘した。また、「丸投げしないこと」も大切だ。外部の「神」に頼り切るのではなく、自身も十分に理解を深め、専門家と対等に対話できる知識を持つことが大切だという。

さらに、「計画を入念に練ること」。プロジェクトオーナーを明確に定めつつ、目的の異なるプロジェクトを混ぜないよう段階を分けることが鍵だと述べた。そして最も強調されたのが、「想定外の事態が起きたらまず止まること」だ。問題が発生した際には一度立ち止まり、状況を整理してから再構築する覚悟が、混乱を乗り越えるための最善策であると語った。

しくじりを学びに変える

今回の勉強会を通じて、3名の登壇者が語ったしくじりエピソードには共通する学びがあった。それは、「失敗は恐れるものではなく、学びの宝庫である」ということだ。行動しないことが本当のしくじりであり、行動することで得られる失敗は、未来を切り開く大きな財産となる。

ビジネスオペレーションの世界では、日々の業務改善やプロジェクト運営において困難がつきものだ。しかし、失敗を正直に振り返り、そこから教訓を得ることで、より良い組織運営や成果につなげることができる。今回の勉強会は、参加者にとって「しくじりの価値」を再認識する貴重な機会となった。

一般社団法人BizOps協会 代表理事 祖川慎治氏。BizOps協会は「企業と個人がBizOpsによって柔軟かつ戦略的に価値を生み出せる社会をつくる。」をミッションに掲げ、BizOpsという役割の解像度を上げるイベント運営・登壇などを行う

イベントの後半では、発表者と聴講者が参加する懇親会が開催され、BizOpsをはじめとする情報交換が行われた。
写真中央右は、BizOps協会理事の望月茉梨藻氏

 

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