About us データのじかんとは?
2022年12月13日に福島県いわき市におけるDX化推進プロジェクト「イク地域ものづくり中小企業等DX研究会」によるオープンセミナーの第三回目がいわき産業創造館 企画展示ホールAで開催されました。第一回目、第二回目をデータのじかん編集部で取材させて頂きましたが、第三回目となる今回も引き続き取材させて頂きました!
これまでの二回は、「DXとは」という基礎知識的な部分がメインでしたが、今回は事例の紹介と、DX化を実行するために使える補助金について、という実践的な内容となっていました。前半のセッションでは、航空機エンジンの部品等の製造を手掛けるYSECグループ 代表取締役 山内慶次郎氏が、20年に渡って展開されてきた自社事例について、後半のセッションでは中小企業診断士の里川基(さとかわはじめ)氏が補助金制度の基本的な知識や考え方について紹介して頂きました。本稿では、これらのセッションの概要をご紹介させて頂きます。
YSECグループの代表取締役 山内慶次郎と申します。今日は「YSECグループ 航空機産業への挑戦と歩み~新たな世界での競争 攻めのIT・IoT・DX経営」というテーマでお話しをさせていただきます。
YSECグループは株式会社山之内製作所、YSEC株式会社、JASPA株式会社の3社からなる製造業グループです。
母体となっているのは私の父が昭和40年に設立した株式会社山之内製作所で、部品の試作を行う会社です。私の父は技術屋で、主に他の会社が敬遠しがちな新素材、刃物や測定器がないような難しい案件を進んで引き受け、試行錯誤を繰り返しながらなんとか顧客の要望に応えていく、というやり方で事業を展開してきました。困った時は山之内製作所に持って行けばなんとかしてくれる、と評判になり、業界の駆け込み寺的な存在になりました。その精神は今も健在で、航空、宇宙、医療などの分野での最先端技術に必要とされている複雑な、あるいは極めて高い精度が求められる製品部品を作っています。
私たちは20年弱、航空機産業への参入に取り組んできましたが、参入障壁の高い航空機産業に挑戦するにあたって不可欠だったのがIT、IoT、そしてDXでした。今回は航空業界への参入とその鍵となったその三段階の流れについてお話しさせて頂きます。DXを始めるためのヒントになれば幸いです。
そもそもの始まりは1995年に遡ります。それ以前はコンピューターといえばオフコンの時代で中小企業への導入は現実的ではありませんでした。しかし、Windows95以降はコンピューターをあらゆる業務に応用できるようになりました。その頃から私はBasicやWord、Excelなどを勉強し始め、2000年頃には会社の業務にコンピューターを全面的に導入しました。これが私たちの会社のIT化の始まりです。
時は流れ、2005年に航空機産業への参入アプローチを開始したのですが、後発というハンディの上に競合は海外企業という状況で、すぐに労働賃金問題という壁に直面しました。人件費をかけずに高付加価値なものを作ることが我々の緊迫の課題でした。
この壁を乗り越えるために2010年からあらゆる自動化を開始し、ITからIoTへと移行しました。同時期に大規模な設備投資も行い、年間一個しか作らないような部品でも徹底して自動化しました。そして、2011年に航空宇宙産業界の国際的な工程認証プログラムであるNadcap認証を取得しました。世界では14番目、日本では2番目の取得でした。
そこからはDX化のフェーズに入ります。
ここでは、自動化、マニュアル化、ロボット化を進めることで、女性やOBが働きやすい環境を整備しつつ、現場の技術者を減らすことを徹底しました。
また、見積、受注、材料・工具購入履歴・工程、工数管理、外注業社への発注管理、出荷までの流れを一元管理できる社内管理システムを自社開発しました。これはもともとWindows95から始まった流れで、Word/ExcelやAccessを使う時代を経由し、自社の社内管理システムを構築していった、という流れです。現在のシステムは航空機業界特有のトレーサビリティにも対応しており、工程の進捗状況などの業務の見える化や、工数や外注状況なども把握できます。製造現場にはタブレットを導入し、工程のリアルタイム管理も可能となりました。この一連の流れは業務の見える化や作業時間コストを含む従業員の意識向上や競争力向上にも役立ちました。これらの成果が繋がり、スピンドルの実動時間を1日23時間まで拡大させることができました。同業他社の平均稼働時間が約6時間くらいだと言われていますので弊社の工場は約4倍の製造能力を持っていることになります。
私たちが航空機産業へ参入してから17年ほど経過しますが、参入以前は7億円だった売上は今では27億円規模まで拡大し、およそ4倍の成長を遂げました。しかし、徹底した省人化・無人化・IoTのおかげで社員数は74名から140名と2倍に届かないくらいに留めることができています。
これからは航空の時代だと言われており、特に2024年以降から2040年にかけては右肩上がり、という予測がされています。空飛ぶタクシーのような存在も現実味を帯び始めています。YSECグループはポスト車社会での航空機の重要性・拡張性に早くから着目してきました。航空機産業はノウハウ取得に10年、認証取得に20年と時間がかかりますが、それ以降のビジネスチャンスが極めて大きいと考えています。特に当社は17年前から業界に参入し、最も高付加価値のエンジンに着目してきました。今後も航空エンジン製造に主力を置き、製品づくりブランドとして邁進していくつもりです。
ご清聴ありがとうございました。
企業組合佐倉デザイン企画会 代表理事の里川基(さとかわはじめ)と申します。私は中小企業診断士として補助金事業の運営事務局や審査員などをこの三、四年やってきています。今日はIoT導入補助金の採択事例と補助金申請のポイントだけではなく、デジタル枠が特別に設置されているものづくり補助金についてもご案内できればと思っております。
今日は、「補助金とは何か」「主な補助金の紹介」そして「事業計画について」の主に三つの話をしたいと思います。
給付金や支援金というのは、「持続化給付金」や「特別定額給付金」「雇用調整助成金」など、条件に合致していて、必要な書類を揃えてしかるべき手続きをすれば基本的に全員に支給されるものです。
それに対して、「IT導入補助金」「ものづくり補助金」「事業再構築補助金」などの補助金や助成金は条件に合致している人の事業計画書などの申請書の内容に点数をつけ、高得点の人から採択され補助対象となるものです。つまり、良質な事業計画書を作成しても、より高得点を獲得した他社がいる場合には不採択となる場合もあります。これが支援金と補助金の決定的な違いです。
補助金の情報収集はポータルサイトで行なうのが基本ですので、ポータルサイトを頻繁に見ておく必要があります。ものづくり補助金総合サイト、事業再構築補助金、IT導入補助金、小規模事業者持続化補助金などのサイトに日々情報が更新されますので、公募要領をぜひ読んでみてください。補助金の活用を考えている方は、Gbiz IDプライムアカウントを取得しておくことをお勧めします。
どの補助金の申請も基本的な流れは同じで、審査が3回あります。一つは、採択通知を得るための採択申請です。次は交付決定を得るための交付申請です。ここでも審査があり、最後に確定通知を得るための実績報告、というのがあります。
採択申請の最初の審査は事業計画内容についてです。補助事業にはそれぞれ目的があり、目的に沿っているかどうかが審査されます。次の交付申請は主に予算の内容になります。補助対象になる費用は決められているため、補助対象外の費用が含まれていないことをここで確認します。確定通知を得るための実績報告では、採択され、交付決定を受けた事業計画および予算計画に沿って事業が実際に実施されたことが確認されます。領収書や請求書などの書類を準備し、書面だけで事業が遂行されたことを事務局側が確認できる状態にしておく必要があります。
補助事業の中では審査が3回あるということと、補助金は後払いである、ということをご理解ください。申請してから実際に補助金を受け取るまで一年以上かかることも頻繁にありますので、その間の資金繰りも考えておく必要があります。
補助金は多種多様で、要件や金額の規模感などがそれぞれ異なります。IT導入補助金はITツールの導入経費の一部補助として使える補助金です。導入したいソフトが登録されているものであればベンダー側が事業計画書の作成も手厚く支援してくれるので、うまく条件が合致すれば比較的使いやすい補助金です。
今回私が一番ご案内したいのはものづくり補助金です。これは製造業およびサービス業を対象に、中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資等を支援するもので、平成24年頃から続いている歴史の長い補助金です。デジタル枠、というのが最近設けられたのも特徴の一つです。この補助金をもらうには3-5年の事業計画を策定し、従業員の賃金を増加させる計画があることを従業員に表明することが求められます。事業者全体の付加価値額を年率平均3%以上増加、給与支給額を年率平均1.5%以上増加の二つは必須条件となります。つまり給与だけでも3年であれば4.5%以上、5年であれば7.5%以上の引き上げが必須です。
また、採択されるためには加点制度をうまく使う必要があります。加点には成長性加点、政策加点、災害等加点、賃上げ加点などがあります。特に災害等加点はぜひ取りたいところです。他もパートナーシップ構築宣言を行なっている事業者や再生事業者など、取れそうな加点を検討し、少なくとも2つか3つの加点を取ることが有効です。
次に、事業再構築補助金についてお話しします。
これは新型コロナウイルスの影響を受けた事業者が新しい事業を始める際に活用できる補助金です。今までとは違うことをする、かつ今までの強みが生かされていてそこに市場がある、という条件をクリアする必要があります。この補助金は数千万円以上と、規模感が大きいことと「建物費」が含まれるのが特徴です。その分手間もかかりますし、要件としても細かいことが示されています。主な必須要件としては、1. 売上高等減少要件、2. 事業再構築要件3. 認定支援機関要件があります。この補助金は書類作成の難易度が高く、最初の書類審査で1割くらいは落とされてしまっているのが現状です。
1.の売上高等減少要件では、コロナ以前と比較して売上が10%以上減っていることを示す必要があります。
2.の「認定支援機関要件」というのは、商工会議所や金融機関など経営支援の専門機関と一緒に事業計画を作成することが要件として含まれることを意味しています。そして、3.の付加価値額要件は収益計画の中で示していく必要があります。
そして、事業再構築要件というのがこの補助金のややこしい、かつ特徴的なところではあります。計画書で新分野展開、業態転換、事業転換、業種転換、事業再編のどれかに該当することを示す必要があります。
大分類が変わる、中分類が変わるなどによってどれに該当するのかは変わってきます。その中で、製品等の新規性、市場の新規性、売上高10%、売上高構成比、製造方法等の新規性、商品の新規性または設備撤去費などの要件を満たす必要があります。実際の事例を見てみると、金属表面加工業者が特殊な金属表面加工をやるような非常に近い事業の場合もあれば、まったく関係ない事業の場合もあります。
アプローチの順序としては、自分の会社にとって必要な取り組みの内容から考えます。まず何を課題として設定するか、というのが大事です。補助金を使いたいのですが、何をやればいいのですか?という質問が割と多いのですが、何がやりたいのかを決めることが先決です。下記の画像のような枠組みで事業を整理したり、経営デザインシートなどを活用して事業計画に落とし込むとかなり整理される傾向にあるのでお勧めです。
採択申請がテストの提出だとしたら、公募要領はテストの問題です。ここには書類に含めるべき事柄が全て書かれています。その内容は事業計画の整理の時に書き出した内容と合致してくるはずです。必要記載項目、審査項目、加点項目などを公募要領で確認します。
実際に事業計画を書く際にはどれだけわかりやすく伝えられるかが重要になってくるので、主観ではなく客観性を持たせる、具体的な名称を盛り込みいつでも動ける準備があることをわかりやすく示すなど、写真や図表を盛り込むなど、時間をかけて工夫を凝らしてもよい部分かもしれません。
YSECグループの航空機産業参入へ向けた構想はIT、IoT、DXの部分だけでなく、未来を見据えた構想を描く部分から圧倒的なスケール感の事例で、難しいハードルを一つずつ超えていくための手段としてさまざまなテクノロジーをうまく実用化しており、極めて本質的なDXが実現されている印象でした。
また、後半のセッションでは、補助金の基礎知識の部分から具体的な難易度までがわかりやすく網羅されており、具体的な内容を共有して頂きました。特に補助金申請に専門の人材をフルタイム雇用する余裕のない中小企業にとっては非常に有益な内容でした。
いわき地域ものづくり中小企業等DX研究会主催のシンポジウムが令和5年1月18日に開催されます。このシンポジウムでは、国が認定するDX認定制度や企業のDX推進に向けて経営者に求められる対応を取りまとめたデジタルガバナンス・コードに関する講演のほか、国や自治体、商工会議所、DXの専門家等をお招きし、「地域のDX普及に向けた促進支援のあり方」をテーマに、パネルディスカッションが開催されますので、ご興味のある方はぜひご参加ください。
(データのじかん編集部 田川)
メルマガ登録をしていただくと、記事やイベントなどの最新情報をお届けいたします。
30秒で理解!インフォグラフィックや動画で解説!フォローして『1日1記事』インプットしよう!