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世代、役割、組織の枠組みを超えて ビジネスとテクノロジーの間をつなぐ

DXやデータドリブン経営に取り組む日本企業のIT部門のリーダーたちが一堂に会する「CIO Japan Summit 2021」が、11月24、25日に開催される。3人のオピニオンリーダーにスポットを当て、インタビューを行った。

         

その2人目となるのは白石卓也氏だ。フューチャーアーキテクトや日本IBMなどを経て、ローソンでは執行役員、ローソンデジタルイノベーション代表取締役社長、オープンイノベーションセンターのトップとして同社のデジタル改革を推進。その後はウォルマート・ジャパンでCIOを務め、DX推進をリードしてきた。その経験が買われ、2020年5月から味の素の「CEO補佐」に就いている。CEO補佐という聞きなれない役職が存在する背景には、日本企業のCIOの課題があった。

CIOの枠組みにとらわれていては改革をリードしきれない

味の素株式会社 CEO補佐 白石 卓也 氏

「プロフェッショナルCIO」という職業があるなら、白石氏は間違いなくその代表的な一人と言えるだろう。しかし、当の白石氏は、「CIOは、もうやらない」と話す。現に、2018年5月に就任した前職のウォルマート・ジャパンでのCIO以降、いくつもの企業からCIOとしてのオファーがあったが、全て固辞した。

その中で、白石氏が新たな活動の場として選んだのが、味の素での「CEO補佐」だ(2020年5月~現在)。CIOではないことにこだわる理由は何だろうか。

「日本の企業の場合、CIOというポジションでできることは、かなり限られています。情報システム部門出身者の役席としての意味合いが強く、会社から期待されることもシステムコストの削減といった面が強い。しかし今の時代、ITを熟知したリーダーがテクノロジーを用いてビジネスそのものを変革していかなくてはならず、本来はCIOがその役割を担うべきです。(日本企業にありがちな)CIOの枠にとらわれず、より経営に近い立ち位置でビジネスの変革に従事したいという思いがありました」

日本企業の場合、大手の製造業のような組織ほど、業務部門ごとの縦割り構造になっている。もちろんこの“剛構造”が、高度成長期には事業推進の強固な基盤となってきた。しかし現在は、時代や経済の変化に合わせたアジャイルな変革が求められ、組織を横断したデジタルへの取り組みが競争力となる。白石氏が、味の素から託されたCEO補佐は、まさにこの部分を担う。

「現在、私が担当している事業モデル変革(新規事業創出)は始まったばかりで、手探りで組織づくりから始めています。確実に変革を進めていこうというCEO(取締役 代表執行役社長 最高経営責任者 西井孝明 氏)の強い思いに共感して、現在の職責を預かることを決めました」

社内に高まる新規事業創出の機運

味の素では、2018年からグループ全体のDXに着手し、2019年にはDX推進委員会および DX推進部を立ち上げた。同時に「食と健康の課題解決企業」というグループ全体の目標を掲げ、事業改革および新規事業の創出に向けた取り組みを進めてきた。白石氏がCEO補佐として担当している「事業モデル変革」は、この一連の動きの中でも柱の一つだ。

味の素は、110年余の歴史を通じて食品製造業(完全なものづくり企業)でした。それが今回、『課題解決』を目標に掲げたのは、会社の在り方そのものに関わる大きな変化です。事業範囲は『食品』から『食と健康』へと変わり、ビジネスの可能性が何倍にも広がりました」

食品メーカーならば、「おいしいもの、好まれるもの、売れるもの」をつくることが至上命題だった。だが「食と健康の課題を解決する」となれば、製品に加えてサービスやプラットフォームが一体となった新たなソリューションが求められてくる。「経営が掲げた新たな目標が、現場のモチベーションに火を点けました。何か新しいことができるというワクワクした気持ちが湧き起こっています」と白石氏は話す。

健脳アプリやZ世代対応チームなどの成果

プロジェクトが本格的に稼働してから1年半が経つ。白石氏は、最初の1年目はさまざまな準備作業に多くのエネルギーを注いだと振り返る。こうした取り組みは社員による各チームだけでなく、外部の協業企業や団体、教育・研究機関の支援を受けて行った。立場や組織を超え、互いに強みやノウハウを持ち寄り課題解決に臨む、いわゆるコレクティブインパクトの視点だ。

「新しいアイデアを継続的に生み出していくは、仕組みづくりが大切です。例えば、社内でアイデアコンテストを始めたり、『01Booster(ゼロワンブースター)』という新事業創造企業の協力を得たりする一方で、新規事業構築のためのプロセスづくりを行ってきました。また、CVC(Corporate Venture Capital)を設置し、スタートアップに関する情報収集も始めています」。

成果も生まれている。その一つが、スマートフォンアプリ「100年健脳手帳」だ。高齢化が進む現在の社会では、認知機能の低下リスクをいかに抑えるかが重要な課題になっている。同アプリでは、ユーザーがスマートフォンで自分の食事を撮影すると、AIが画像を分析して栄養素や摂取量を自動的に記録。そのデータをもとに、より健康な生活のためのアドバイスをくれる。国立長寿医療研究センターとの共同研究の成果を応用したこのアプリは、まさにコレクティブインパクトの試みが生み出したものだ。

100年健脳手帳|味の素株式会社が提供する生活習慣の改善を通じて認知機能を維持することを目的としたアプリ

「もちろんこれがゴールではなく、こういうアプリやサービスを今後いくつもつくっては試していくアジャイルな活動を継続していくことが、事業創造につながっていきます。この動きをさらに活発化するため、外部のスペシャリストに参画してもらう他、副業人材との関係構築も積極的に行っています」

もう一つの注目の話題が、2021年3月に立ち上がった「Z世代向け事業創出の専任組織」だ。これまで味の素は、40代以上の年齢層や主婦層に圧倒的な知名度とロイヤルティーを獲得してきた。だが一方で、若い世代にはリーチしきれていないという課題があった。新規事業創造の必須要件がマーケットの拡大だとすれば、今後10年、20年先に備えて若い世代へのアプローチを今から進めていくべき、となる。

「そこでZ世代向けの商品やサービスを考える専任チームを、新たに発足させたのです。リーダーもシニア層の管理職ではなく、若手の社員に任せました。オフィスも本社とは別に、東京・渋谷のスクランブルスクエア15階の共創施設「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」に置き、働き方も含めて変革していく予定です。全員バイタリティーにあふれ、発想もスピード感もずば抜けたメンバーがそろいました」

2年目、3年目の成果を経て、新しい「味の素」像をつくり出す

白石氏はCIO Japan Summitの参加者に向けて、日本のCIOには、これまで以上に積極的な活動を期待しているという。さらに、日本企業のマネジメント層には、テクノロジーに精通し、なおかつ、そのビジネスに対する効用や影響までを理解できる人が、もっと増えることを望んでいる。それだけに、現CIO(またはそれに準ずる立場の人)は、IT部門だけに閉じることなく、もっと事業部サイドに関わるべきだと強調する。

「CIOは、テクノロジーとビジネスの双方に通じ、豊富な知識や経験を持っているからこそ積極的に発言し、社内のさまざまな取り組みに参加していくマインドが必要です。それこそが、日本企業が変わる大きなきっかけになるはずです」

そして自身については、「私に求められているのは、結果を出すこと。味の素という組織の中で、どんな新規事業をつくるか。CEO補佐として2年目、3年目の目標は、成果を出していくことに尽きます」と語った。淡々と語る表情の奥には、これまでどこにもなかった「新しい味の素」像をつくり出すという明確な意気込みがある。

味の素株式会社 CEO補佐 白石 卓也 氏

味の素株式会社CEO補佐。フューチャーアーキテクト、日本IBMなどを経て、2015年からローソン執行役員。ローソンデジタルイノベーション代表取締役社長、オープンイノベーションセンターセンター長としてローソンのデジタル改革を実施。2018年5月よりウォールマートジャパン/西友CIOに就任。2020年5月より味の素に参画し、CEO補佐として新規事業を推進。愛媛県松山市出身。東京大学大学院工学系航空宇宙工学科修了。

(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣/工藤  PHOTO:Inoue Syuhei 編集:野島光太郎)

 

 

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