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データのじかん週報では、データのじかんの編集部内で会話されるこばなしを週1度程度、速報的にお届けいたします。
大川:特許庁による知的財産を活かして社会課題を解決を図る人を支援する「I-OPENプロジェクト」に、昨年、専門家サポーターとして参画していました。その際に私が支援させていただいた株式会社ハタケホットケの活動報告動画がアップされているので、ぜひデータのじかんの読者の方にも視聴いただきたいです。
野島:データのじかんでも、ちょうど4月24日にインタビュー記事を公開させていただきました。週報でも何度も登場しているあの長野県塩尻市で、ロボットなどのテクノロジーを活用した農作業支援を行っている非常にユニークな企業でした。
大川:そうですね。取り組み内容の詳細は記事や動画を見ていただくとして、この場ではI-OPENや知財をめぐる支援のジレンマについて話したいです。テーマは参画者として感じたのは「運営や専門家内での思惑や意図」の乖離ですね。
野島:知財をめぐるジレンマですか。I-OPENプロジェクトは、特許庁が主催してソニーデザインコンサルティング株式会社が運営を担っているんですよね。あとは知財なので弁理士の先生をはじめ、中小企業診断士などの有資格者や専門家も参画していると聞いています。
大川:その通りです。実際、ハタケホットケの支援においても私と中小企業診断士が中心となり、メンタリングでは弁理士の先生にも協力いただくシーンがありました。ただ、やはり業務領域の違いというか「知財」の向き合い方が、支援する側で認識がズレてしまうことがありました。私の認識としてはI-OPENプロジェクトは、知財を保護(プロテクト)やパテントしてビジネスをするのではなく、特許を取得してコア部分だけ保護たうえで大部分の情報を公開する「オープンクローズ戦略」まで視野に入れていると考えています。
野島:なるほど。確かに知財の専門家だけでなく、社会課題の専門家の参画も募っていたのも特許庁もそのような「知財の活かし方」の支援をするという意図を感じますね。ただ、そうなると弁理士の方の立場としてはどうなのでしょうか。
大川:非常に難しい立場だと思います。弁理士の仕事としては、やはり申請をした本数、申請後に活用された本数で評価されるし報酬にもつながります。ですから業界としては「活用されない技術であれば特許を出さなくていい」という考えが常道でしょう。さらに今回は特許を取得するだけでなく、その前後もしっかりと支援しなけばなりません。そうなると事業戦略といった上流も手掛けて「経営をデザイン」しなければならないんですよ。そうなると、弁理士の方の普段の業務領域とは異なるため、私や中小企業診断士の方と認識を合わせるのが難しいと感じました。
野島:専門家間だけでなく、特許庁や支援を受ける民間側にも通じる議題ですね。
大川:一番苦労していたのは、間違いなく運営のソニーデザインでしょう。特許庁はもちろん、弁理士をはじめとして専門家たちの背後にいるステークホルダーにも配慮しなければならないでしょうから。ただ、支援する側が全員が支援される人に対して「もっと必要なことがあるのでは?」と自問自答しなければならないと強く感じました。私自身も大きな学びを得られましたよ。
野島:大川さんが、ですか?
大川:そうです。私自身、同プロジェクトに参加したのは「知財」というまったく知らない世界だったからです。ものづくり支援におけるフルスタックビジネスパーソンになるためには、やはり「知財」は避けて通れないポイントです。ただ、普段の仕事ではなかなか触れる機会はない。その実務・実態をハタケホットケの支援を通し、一次情報として取得できました。今度は私自身で特許申請してみたいですね。幸いその機会もありそうなので。ソニーデザインの担当者の方にも、知財を学ぶうえで超おすすめな本も教えていただきましたよ。
野島:その本、ぜひ知りたいですね!
大川:「電気系特許明細書の書き方 改訂版」です! 難易度高めですが、知財に興味がある読者の方には間違いない一冊だと思いますね。
野島:確かにものすごく有益な情報が詰まっていそうですが、想像以上に気合を入れて学ぶ必要がありそうですね……。
大川:先週はもう一つ、私が座長を務める座長を務める東京商工会議所の「ものづくり専門家ワーキンググループ」の今年度のキックオフがありました。前期のテーマは「デジタル化」でしたが、今季は「人材の確保や育成」です。キックオフでは、女性活躍による生産性向上というユニークな経営者の方に委員をお願いしています。
野島:このお話は私も伺っていたんですが、かなりユニークというか「芯を食った」採用活動に成功した企業でした。特に町工場の株式会社石井精工、株式会社佐藤製作所のお話は面白かったですよ。
大川:共通するのは採用においてむやみやたらに情報を発信して、応募者の期待を煽るのは逆効果ということです。よくありがちな「キラキラ働いている先輩の姿」などのキラキラ情報のほか、社長の熱意と思いとかもある意味「余計な情報」のせいで、新入社員の離職率が高まると2社とも実感しているんですよ。
野島:最近の採用活動のイメージ戦略とは異なる意見ですよね。
大川:そうですね。かなり説得力がありまして、石井精工ではYouTubeチャンネルで情報発信するために新たに衣服に着用できるアロマデバイス「ALMA(アルーマ)」を発売。人気を博してALMAを付けて採用面接に来る応募者も現れるほどでした。しかし、入社前に抱いていた華やかなイメージと働く現場のギャップが原因で、早期離職してしまうケースが相次いだというんです。その結果、動画の内容も「町工場あるある」にするなど大きく方針転換したというんですよ。
野島:動画やホームページではかなり綺麗で美しいイメージの素敵な商品ですから。また、石井精工の主な事業は金型設計・製造の会社なので、そこもギャップがあるのかもしれないですね。
大川:女性活躍は株式会社佐藤製作所ですね。2022年度の東京都女性活躍推進企業の「大賞」を受賞した企業なのです。普通はさぞ大きな理想と予算をかけて「社を挙げてインフラから整えたのだろう」と考えるかもしれませんが、現実はそうでもないんですよね。あるきっかけで採用した若い女性社員が「元気に働いてくれたこと」で、職人気質な職員と硬直していた現場が明るくなり、コミュニケーションが丁寧で円滑になり、結果的に10期連続の赤字だった業績が黒字転換したのです。ある意味、それに味を占めた社長が女性社員を増やした結果が、東京都女性活躍推進企業の大賞に選ばれる大きな要因になったんです。
野島:昨今、女性活躍というと「ダイバーシティ」や「インクルージョン」という言葉が前に出がちですよね。それこそキラキラした職場やキャリア、オフィスなどを打ち出しがちですが、現実はもっと別の見方がありそうです。
大川:その通りですね。現実的には考えると奇跡みたいな会社ですけれど、メディアなどで流れる「後知恵」や「勘違い」とは別の視座を得られました。個人的にもやもやしていた事象が解消しましたよ。
野島:キックオフも含めた「内部の会議」は非常に学びが多いですよね。それに加えて、有意義な情報が外部に発信されることはほとんどない。今後、データのじかんではそのような情報をピックアップしていきたいですね。
広告代理店にて高級宝飾ブランド/腕時計メーカー/カルチャー雑誌などのデザイン・アートディレクション・マーケティングを担当。その後、一部上場企業/外資系IT企業での事業開発を経て現職。2023年4月より上智大学プロフェッショナル・スタディーズ講師。MarkeZine Day、マーケティング・テクノロジーフェアなどにて講演。近著に「今さら聞けない DX用語まるわかり辞典デラックス」(左右社)。静岡県浜松市生まれ、名古屋大学経済学部卒業。
IT企業を経て三菱総合研究所に約12年在籍し2018年から現職。専門はデジタル化による産業・企業構造転換、製造業のデジタルサービス事業、中小企業のデジタル化。(一社)エッジプラットフォームコンソーシアム理事、東京商工会議所学識委員兼専門家WG座長、内閣府SIP My-IoT PF、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会 中堅中小AG、明治大学サービス創新研究所客員研究員、イノベーション・ラボラトリ(i.lab)、リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMAを兼務。官公庁・自治体・経済団体等での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。直近の出版物は「アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド」(大川真史編、技術評論社)
経済週刊誌の編集記者として活動後、Webコンテンツのディレクターに転身。2020年に独立してWEBコンテンツ制作会社、もっとグッドを設立。ライター集団「ライティングパートナーズ」の主宰も務める。BtoB分野を中心にオウンドメディアのSEO、取材、ブランディングまであらゆるコンテンツ制作を行うほか、ビジネス・社会分野のライターとしても活動中。データのじかんでは編集・ライターとして企画立案から取材まで担う。1990年生まれ、広島県出身。
(TEXT・編集:藤冨啓之)
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