全社DX成功立役者の「最初の100日間」から学ぶ 「歩んだ道のりと目指す次のステージ」 CIO Japan Summit 2022レポート前編 | データで越境者に寄り添うメディア データのじかん
会員ページへmember

About us データのじかんとは?

全社DX成功立役者の「最初の100日間」から学ぶ 「歩んだ道のりと目指す次のステージ」 CIO Japan Summit 2022レポート前編

2022年5月10〜11日、マーカスエバンズが主催する「CIO Japan Summit 2022」がホテル椿山荘東京で開催された。同イベントはITリーダー、ソリューションプロバイダーを対象とした完全招待制のイベントで、今回で13回目となる。同イベントに協賛する「データのじかん」では、両日ともに行われたパネルディスカッションを取材。その内容を前後編にまとめた。前編は1日目「全社DX成功立役者から学ぶ:歩んだ道のりと目指す次のステージ」だ。

         

積水化学工業、中外製薬、富士通の全社DX成功の立役者が集う

パネルディスカッション「全社DX成功立役者から学ぶ:歩んだ道のりと目指す次のステージ」には、積水化学工業株式会社、中外製薬株式会社、富士通株式会社の全社DXをリードした3人がパネリストとして登壇した。登壇順にパネリストを紹介する。

1人目は、積水化学工業のデジタル変革推進部 ビジネスプロセス変革グループ グループ長の前田直昭氏だ。同社は、ビジョンステートメントとして「Innovation for the Earth」を掲げた長期ビジョン「Vision 2030」を策定。2020年4月にはデジタル変革推進部を新設、明確な全社ロードマップを構築して、3つの重要テーマを掲げてDX化を進めている。デジタル変革推進部は、「攻めのDX」を担うビジネスプロセス変革グループと「守りのDX」を担う情報システムグループによる2グループ体制が敷かれている。前田氏は2011年同社へキャリア入社後、生産力革新活動の企画と展開を担当。2018年にDX推進を提案し、経営戦略部にてデジタル戦略長期ビジョン、中期計画を策定し、推進リードをしている。

積水化学工業株式会社 デジタル変革推進部 ビジネスプロセス変革グループ グループ長 前田直昭氏

2人目は、中外製薬の執行役員、デジタルトランスフォーメーションユニット長の志済聡子氏。志済氏は日本アイ・ビー・エム株式会社出身だ。官公庁・ソフトウエア事業の営業キャリアを積んだ後、米国のIBM Corporationへ出向。その後は公共事業部・セキュリティ事業本部などの執行役員を務めた。IT部門統轄・全社DX推進を託され中外製薬へ入社したのは、2019年のこと。同社代表取締役社長CEOの奥田修氏とともに「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」のもと、プロジェクト推進・組織風土改革・人材育成などの施策を展開している。2022年には同社上席執行役員デジタルトランスフォーメーションユニット長に着任した。

中外製薬株式会社 上席執行役員、デジタルトランスフォーメーションユニット長 志済聡子氏

3人目は、富士通の執行役員、EVP CIO CDXO補佐の福田譲氏。大学卒業後にSAPジャパン株式会社へ入社した福田氏は同社で数々のキャリアを積んだ後、2014年生え抜き社員初となる同社社長に就任、2020年まで務めた。同社社長退任と同時に富士通に移り、執行役員常務CIO兼CDXO補佐として、CDXOを兼務する社長の時田隆仁氏とともに、「IT企業からDX企業へ」を掲げる同社全社DXプロジェクト「フジトラ(Fujitsu Transformation)」をリードする。

富士通株式会社 執行役員EVP CIO CDXO補佐 福田譲氏

パネルディスカッションは、株式会社ベイシアのデジタル開発本部で本部長を務める亀山博史氏がモデレーターを務めた。亀山氏から提示されたパネルテーマは「CIO最初の100日間をどう過ごしたか」「DX推進の成功体験」「現在の課題」など。それぞれのテーマについて、3人が回答した。

株式会社ベイシア デジタル開発本部 本部長 亀山博史氏

DX推進役着任「最初の100日間」。何をしたのか

亀山 お三方は各社・各部門のボスから全社DX推進役に任命され、それぞれ成果を上げられています。着任から最初の100日間をどのように過ごしましたか。

志済 中外製薬に入社したのは2019年5月ですが、同年10月にはデジタル戦略推進部が立ち上がる予定でした。私は10月1日までにビジョン・戦略・オペレーティングモデルの全てをつくり上げるつもりで、最初の100日間に注力しました。社内アナウンスや社外プレスも同時に行い、社員の多くからすれば「突然会社に何が起こきたんだ?」という気持ちだったと思います。でも、私はそれでもよいと思いました。なぜなら変革は、「粛々と進めます」という感じが出てしまうと、思うように進まないからです。

他方、経営側にも変化を求めました。例えば役員会に参加すれば、上席から順に着座する座席表がありました。経営会議も「議論しない場、決断だけをする場」に陥り、経営会議の事前会議があり、その事前会議の内容を決めるための事前の事前会議もあるような状態でした。そうした変革を妨げる物事を廃止し、意思決定のスピードを速めました。

福田 SAP時代に富士通とはビジネス上の付き合いがあったので、入社前からある程度の内情や課題感は分かっていました。それをもとに、「変革にはロケットスタートが欠かせない」と考え、入社前から「骨太方針」を考え、入社後直ちに実行しました。具体的には「全社規模の変革プロジェクトを立ち上げる」「グローバルグループガバナンスを効かせるためIT部門を世界で1つに統合する」「経営・業務プロセス・ITの三位一体改革のグローバルプロジェクトを経営主導で立ち上げる」などです。

外部からDX推進役が着任することに対する社内の混乱を懸念していましたが、結果として混乱は起こらず、変わろうという社内の空気や考え方は、思っていた以上に醸成され始めていました。しかし私自身はずっと外資系でキャリアを積んできたため日本企業のメカニズムを根本からは理解できていなかったと感じたことも少なからずありました。

亀山 前田さんの場合は、キャリア採用として積水化学工業へ入社。国内外の生産革新活動の企画・推進を経て、デジタル変革のミッションを与えられました。会社からその命が下った直後は何をされましたか。

前田 最初の100日間は、役員を含む幹部が参加する集中討議を繰り返し行いました。そこでは「なぜ今、積水化学工業が変わらなければいけないのか」を議論しました。そこから紡ぎ出されたのが「4つの危機意識」でした。具体的には「グローバルで成長する上で、当社ガバナンスはどうあるべきか」「すでに予兆が見え始めている労働人口減少に、どのように対峙すべきか」「ビジネスモデル変革が求められる中、従前のビジネスで成長してきた会社がどのように意思決定していくべきか」「生産性を倍増させるため、全体最適の目線でどのようなデザインをしなければならないのか」です。

今、福田さんがお話されていたように、DX推進の最初は「骨太」な方向性を定めることが何より重要だと思います。当社の場合、それは具体的に実施するDX施策の中身というよりも、4つの危機意識をベースとした、解決すべき課題や目指すべきビジョンを骨太にまとめることが重要なポイントでした。

「全社DXのターニングポイント」。それぞれの成功体験

亀山 続けて、全社DXの活動を振り返り、ターニングポイントや成功体験をご共有ください。

福田 正直、大きな成功体験はまだありません。しかし空気が変わったことを実感したターニングポイントはありました。それは「人に注目した変革」です。

富士通は2020年から「ジョブ型人材マネジメント」にもとづく人事制度に転換を始めました。制度導入当初は管理職1万5000人を対象としましたが、実際に1年目に動いたのは限られた人数でした。しかし、急速に制度の普及が進み、昨年は2,000人以上が自ら手を挙げて動きました。「キャリアは会社じゃなくあなたのもの、自分で考え行動するもの」「会社にすがっていても会社がどうにかしてくれるものではない」というようなことを正直に話し合っています。

会社も社員も、それぞれに「自律」し、お互いに「信頼」するという原理原則を明確にし、それに基づいた人事制度・評価制度への切り替えを進めています。

同時にエンプロイーエンゲージメントにも取り組んでいます。社員の声を吸い上げるデジタルプラットフォームを導入し、経営が社員の声に向き合う仕組みを導入しました。実際に、社員の意見で制度を変えたこともあります。「飲み屋で会社の悪口を言っていても会社は変わらない、意見があるなら会社に向けて表明してもらう、会社もそれに正面から向き合う」それが今の富士通です。外から見ると、まだ変わっていないと思われるかもしれませんが、基盤は着実に変わってきていると思います。

志済 当初、社長から「費用をかけてもいいから、データサイエンティストを連れてきてほしい」ということを言われました。しかし、当時の状況でデジタル人材を採用しようにも、中外製薬のDXについて世の中は知らないのが現実でした。そこで、社長には年頭所感などで対外的にDXに絡めたメッセージを発信してもらい、私はDXの活動を「CHUGAI DIGITAL」と名付け、認知拡大に努めました。その戦略が功を奏し、今は優秀なデジタル人材を獲得できています。

また、認知を得る上でこだわったのが、経済産業省と東京証券取引所が選定する「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」でした。社内からは「始めたばかりで獲れるわけがない」という声も出ていましたが、2020・2021年の2年連続でDX銘柄に選ばれました。一方、社内の認知を得る上では、DXを進めている社員にイベントで取り組みを発表してもらったり、デジタルイノベーションラボ(DIL)という枠組みでデジタルビジネスのアイデアを公募させたりもしています。社内外で「中外製薬は積極的にDXを推進している会社」ということを知ってもうことに注力したことが、大きなターニングポイントです。

前田 DXを推進していこうにも「経営陣はITのことを分からない、ITは経営のことを知らない」というのが、以前の当社の実状でした。実際これまで役員同士がITやデジタルについて本気で語り合う場もありませんでした。しかし4つの危機意識を共有した後、2020〜2030年の長期ビジョン「Vision 2030」とともに、その第一歩となる新中期経営計画「Drive 2022」(2020〜2022年度)を策定、それをきっかけにIT・デジタルについて話せる空気が生まれました。

一方、当社社員にもその変革の空気を感じてもらうための策を講じています。例えば、当社には女子陸上競技部があり、2021年11月のクイーンズ駅伝(第41回全日本実業団対抗女子駅伝競走大会)で優勝しました。そのときはデジタル変革推進部が中心となって駅伝の模様を社内でリアルタイム中継しました。社長もチャットで応援し、大いに盛り上がりました。このようなデジタル自体を身近に感じてもらう仕かけによって、徐々に変化の兆しが見えてきているところです。

DX推進役として直面した「課題」とは?

亀山 最後に今直面している課題ついて教えてください。

福田 最も困っているのは、「さめた社員」への対応です。会社が変わろうとしていることに批判的だったり、エンゲージしてこなかったりする社員は世代を問わず一定数存在します。社内SNSで有志が集う変革コミュニティを立ち上げましたが、2年前はわずか100人からのスタートでした。現在は8000人まで増えていますが、全従業員数12万5000人からすればその割合はまだ低いです。変革を「自分とは関係ないこと」ではなく、自分ごと化してもらう。その壁を越えない限り本当の変革は成し遂げられません。

志済 DXのプロジェクトが大型化していくと、「ベンダー丸投げ体質」になりがちです。今はそこから脱却したいと考えています。私の課題としては、投資に対する効果を示すことです。当社の業態ではデジタル化で人件費を削減するにも、単純にFTE(常勤換算)では考えられない側面があります。そこで、リスク経営会議、売り上げへの貢献、顧客満足度の向上などのKPIを交えながら、経営陣に成果をアピールしていきたいと考えています。

前田 DXを推進する中で、「止めるべきことは止める」ことが必要になります。DX検討開始当時、全社で進められていたDXテーマは200を越えていました。中にはいくらそこに注力し続けても当社が目指すべきところに到達できないテーマもあります。各テーマ当事者にそれを理解してもらうことに苦労もしましたが、やめること、集約すること、メリハリをつけて整理をしました。

またDX推進役として、利益責任を持つ人と将来の仕込みをやる人、その双方への説明責任を果たすことにも課題を感じています。例えるなら、長い時間がかかる料理を鍋でつくっているのに、すぐにふたを開けたがる人がいるかと思いますが、DXでも同様に成果(答え)をすぐに求める人がいるのも難しさの一つです。説明責任を果たし、現場がDX推進しやすいように努めることも大事なミッションです。

ビジネスをつくり上げるために必要なのは「人とデジタルの融合」

3人のパネリストのうち、前田氏は「ナカ(社内)からの改革者」、志済氏・福田氏は「ソト(外部)からやってきた改革者」だ。質疑応答のコーナーでは参加者から「組織改革は(DX推進役を)“ソト”から招請した方が進めやすいのか、はたまた“ナカ”の人を任命した方がいいのか」との質問が寄せられた。これに対して、福田氏は次のように答えた。

「これは富士通での社歴の長い、ある役員の方から言われたことですが、風土改革とは『風の人』と『土の人』の協力による改革です。風の人とは、私のようにソトからやってきた人。でも風の人による改革だけでは不十分で、長く会社に根を生やした土の人も一緒でないと本当の意味ではなかなか進まない、と。本当にその通りだと思いました。完璧な改革推進者などいません。ソトとナカ、そのどちらがよいということではなく、両者の特長を生かすチームワークが大切だと思います」(福田氏)

1時間に及んだパネルディスカッション終了後、亀山氏と、同パネルディスカッションを見届けたNPO法人CIO Lounge理事長の矢島孝應氏は次のように総括した。

「今、日本企業に求められているのは実行力です。ここにお集まりの皆さんは優秀な方だからこそCIOに任命されているのだと思いますが、日本企業の場合、実行力という意味では私を含め少し弱い部分があることでしょう。パネルディスカッションには、いろいろなキーワードで出てきました。自分の心に刺さったキーワードは、ぜひ明日から実践してみてください」(亀山氏)

「先日、日本酒銘柄の獺祭をつくる旭酒造株式会社の桜井一宏代表取締役社長にお会いする機会がありました。旭酒造には杜氏がおらずデータで酒造を管理していますが、『データを使ってより良い商品をつくろうと思えば、データを分析・実行する人間が必要になる。人を増やさなければならない』と桜井社長はおっしゃっていました。IT・デジタルというと、われわれは人を減らす方向にモノゴトを考えがちです。しかし実はそうではありません。これからのビジネスをつくり上げるためには、人とデジタルの融合が必要であり、結局最後は『人』なのだと思います」(矢島氏)

NPO法人CIO Lounge 理事長 矢島孝應氏

(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣/安田  PHOTO:野口岳彦 企画・編集:野島光太郎)

 
データ活用 Data utilization テクノロジー technology 社会 society ビジネス business ライフ life 特集 Special feature

関連記事Related article

書評記事Book-review

データのじかん公式InstagramInstagram

データのじかん公式Instagram

30秒で理解!インフォグラフィックや動画で解説!フォローして『1日1記事』インプットしよう!

おすすめ記事Recommended articles

データのじかん会員なら、
全てのコンテンツが
見放題・ダウンロードし放題
データのじかん会員でできること
  • 会員限定資料がすべてダウンロードできる
  • セミナー開催を優先告知
  • 厳選情報をメルマガで確認
会員登録する
データのじかん会員について詳しく知りたい方
close close