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2022年11月9日、10日の両日、ホテル椿山荘東京でマーカスエバンズが主催する「CIO Japan Summit 2022」が開催された。今年2回目の開催では「見直す・新しい風」を軸に、今の日本を最適化していくためのIT戦略 について各業界のITリーダーにご登壇いただいた。公式メディアスポンサーでもある「データのじかん」では、1日目プレゼンテーション、阪急阪神百貨店を傘下に持つエイチ・ツー・オー リテイリング株式会社執行役員 CIO/CDOの小山徹氏による「関西最大百貨店の挑戦:デジタルネイティブ世代に対する小売の在り方」をお伝えする。
大阪府大阪市北区に本社を置くエイチ・ツー・オー リテイリング(以下H2O)グループは、阪急阪神東宝グループの一翼を担い、百貨店・スーパーマーケットなど小売業を核とした生活総合産業グループである。
百貨店・スーパーマーケットなどの小売業は、2020年からのコロナ禍で大打撃を受けた。外出自粛でリアル店舗への客足は遠のき、売り上げが激減。閉店を余儀なくされた百貨店も国内に少なくない。
顧客接点の在り方も大きく変わった。ECが台頭し、パソコンやスマートフォンから買い物をすることがデジタルネイティブと言われる世代を中心に“当たり前”になった。小売業は今、新しい小売りの姿を模索している最中といえる。
小山徹氏がH2Oの執行役員 IT・デジタル推進室長としてグループCIO/CDOに着任したのも、そんなコロナ最中の2021年4月のことだった。
小山氏は、特に流通業界での幅広いコンサルティング経験を有する。2014年には、三越伊勢丹ホールディングス役員 兼 三越伊勢丹システム・ソリューションズ代表取締役社長としてシステム構造改革を推進、IT戦略部長としてグループITガバナンスの強化にも着手。その後PwC Japanグループ 小売・流通セクター統括パートナーを経て、2021年4月にH2O入社した。
同社では執行役員 IT・デジタル推進室長としてグループCIO/CDOに着任し、グループを挙げた関西発「小売りDX」に注力している。
H2Oグループは関西エリアを中心に百貨店事業(阪急百貨店・阪神百貨店)・食品事業(スーパーマーケット「イズミヤ」など)の他、商業施設事業やその他事業も手がけており、関西ドミナントエリアにおける店舗数は約250店舗に達する。現在までにも各事業・ブランドごとにデジタル化の打ち手は講じてきたが、多くの小売りがそうであるようにデータプラットフォームのサイロ化が起こり、一元的な管理ができていなかった。
そこで2021年7月に発表した中期経営計画(2021〜23年度)で、2030年に向けた「長期事業構想2030」を打ち出した。変革のキーワードに据えられたのが「コミュニケーションリテイラー」なる新たなビジネスモデルである。
同社中期経営計画「長期事業構想2030」の項にはこう記されている。
グループの目指すビジネスモデルを新たに「コミュニケーションリテイラー」と設定し、デジタル技術とリアル店舗を融合したお客様とのダイレクトなコミュニケーションを重ねることで継続的な強くて深い関係を築き上げ、それをベースにさまざまな商品やサービスを提供しビジネス化していくことで、お客様に「楽しい」「うれしい」「おいしい」生活をお届けし、地域とともに成長し続けていきたいと考えています。
具体的な施策としては「既存事業の再建・磨き上げ」「新市場への展開」「新事業モデルへの挑戦」などが挙げられたが、とりわけ「新事業モデルへの挑戦」としては、関西圏1000万人規模のアクティブ顧客基盤を活用した「関西エリア×オンライン軸×サービス事業化」と「顧客データのプラットフォーム化によるBtoBビジネス展開」を目指していくという。
「関西エリア×オンライン軸×サービス事業化」と「顧客データのプラットフォーム化によるBtoBビジネス展開」という同社の小売りDXの取り組みには、以下A・B・Cの3領域が設定されている。
A領域に当たる「コミュニケーションリテイラーへの進化に向けた基盤づくり」においては既存事業のOMO化(下図A-1)、グループEC・OMO基盤の構築(A-2)、グループ顧客データベースの構築(A-3)を推進している。
「これまでは各事業やサービスごとに顧客情報が分断され、H2Oグループとして顧客をユニークにとらえることができませんでした。コミュニケーションリテイラーの実現に向けて、データ基盤は、H2Oグループ全体で全ての顧客データを一元化するものである必要があります。顧客の購買情報や外部データを含むカスタマー・データ・プラットフォーム(CDP)を構築し、データにもとづく施策を実現するとともに、顧客情報利用における顧客承認とその基盤を実現します」
A領域の実現のためには、自社の働き方・業務の電子化・デジタル化にも踏み出さなければならない。そこでB領域「業務改革の加速」が必要となる。ネットワーク・セキュリティなどのITインフラ強化を含む新ワーク環境の構築(B-1)、BPR/クラウド型サービス導入による生産性向上(B-2)を推進する。
また、既存事業を支えるシステムにも多くのリスク・課題が内包されていたことから、POS・決裁・ポイント基盤の刷新(C-1)、MD・基幹の刷新(C-2)、情報提供基盤・DWHの刷新(C-3)、制度変更対応(C-4)も同時に推進していくという。
A・B・Cの3領域に加え、小山氏は「組織人材領域=IT基盤を構築・運営するための人財確保、社内デジタル人財の育成」も重要な領域として捉えた。
「ユーザーへ適切に対応していくためには、当然私1人では限界があります。そこでグループデジタル推進部門に外部コンサル会社社員、元コンサルや元SEを入れ、さらにグループ社員を出向・武者修業させるなど、デジタル人財を育成中です」
こうした人財の流動化が進んでいる背景としては、2021年に発足したIT・デジタル経営委員会の影響が大きいようだ。
「私がH2O入った2021年からのタイミングで、IT・デジタル経営委員会を設置しました。会への参加者は、代表取締役、社外取締役、経営企画室執行役員、IT・デジタル統括責任者といったいずれも上席たち。IT中期経営計画が『どういうふうに行われているのか』『何が遅延しているのか』『どんなリスクがあるのか』『どういうところに課題があったのか』といったことを協議します」
ITガバナンスがつくられたことで「正直、腹立たしく思う役員も大勢いると思う」と小山氏は話す。
「これだけの改革を断行するわけですからIT・デジタルに多くの予算が投入されるのは当然です。事業ごとに分断された小売りに専念する慣習下にありましたから、そこからの脱却をよく思わない上席もいることでしょう。ITガバナンスがきちんとつくられていることで、『IT・デジタル部門があくまでも経営の一端である』ことを広く認知してもらえます。いくら小売業での利上げが強い会社であれ、これからのお客様とつながるためには、大きく変えていかなければならないことを、上席たちには理解してもらいたいと常に考えています」
さらに小山氏は、CIO、CDOの仕事について最後にこう述べた。
「私たちの仕事は、売り上げを上げるために間接的ながらも会社・グループをどのようにコントロールしていくかです。お金はいくらあっても足りません。私もまた会社に派遣された“傭兵”に過ぎませんが、内側から本気で会社を変えていけば、やがて分かってくれる人もいるはず。今後、デジタルネイティブを代表とする若い世代に対し小売業がアプローチしていくならば、今ここで基盤をつくらないといけません。そのためには、過去の延長線上の投資をどう減らすか。デジタル側にシフトするためのガバナンスをどうつくるか、それがCIOやCDOの仕事です」
イベント | CIO Japan Summit 2022 |
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開催日時 | 2022年11月9日-10日(水・木) |
会場 | ホテル椿山荘東京 |
主催 | マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン・リミテッド |
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