5月限の原油先物価格が史上初のマイナス……。
4月末に衝撃的なニュースが広まりました。筆者のように「今原油を買えば大儲けなんじゃ……」と捕らぬ狸の皮算用をした方も少なくないのでは?
しかし、原油価格がマイナスとは具体的にどういう状態なのでしょうか? またその背景にはどのような事情があったのでしょうか?
EIA(米国エネルギー情報局)のデータとともに解説いたします!
まずは、以下のWTI(West Texas Intermediate)原油先物価格のチャートをご覧ください。
2008年のリーマンショック、2015年の米国原油輸出解禁前などのタイミングで大幅な下落はあったものの常にプラスを維持してきた原油先物価格が2020年に急落し、一気にマイナスへと転落しています。
「Cushing, OK Crude Oil Future Contract 1┃U.S. Energy Information Administration」より引用
アメリカの原油価格の指標とされているWTI原油先物価格が史上初めてマイナス値をつけたのは2020年4月20日のこと。終値(その日最後に取引された価格)は前日の18.27ドル/バレル(※)から、-37.63ドル/バレルに急落しました。これは、売り手が買い手に1バレル当たり37.63ドル支払って原油を引き取ってもらうという異常事態です。
なお、WTIはマイナス価格を付けましたが、欧州・アフリカで指標となる北海ブレント石油、アジアで指標となる中東産ドバイ原油は下落したもののプラスで持ちこたえました。この一因にはWTI原油の貯蔵施設が内陸に位置するため、海上輸送が容易でないことが影響しているといわれています。
※…1バレル=158.987リットル
原油価格がマイナスになった原因は、大幅な需要の落ち込みにより原油の保管コストが高まったからです。
WTIでは米オクラホマ州のクッシングで商品(原油)の貯蔵・受け渡しを行うのですが、需要減により貯蔵量が満杯に近づき、保管コストが跳ね上がる事態が生じました。そこで今回売り手は損失覚悟で手放すことにまい進し、結果原油先物価格はマイナスまで落ち込んだというわけです。
需要落ち込みの主因は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により飛行機や船、自動車での移動や石油を原料とする製品の需要が大幅に減少したこと。
5月15日に発表されたEIA(米国エネルギー情報局)のレポートによると2020年第一四半期の石油・液体燃料消費量は9,410万バレル/日で前年同期比580万バレル/日の減少を記録。2020年の石油・液体燃料需要量は平均9,260万バレル/日で前年比810万バレル/日の減少が予測されています。
「Global liquid fuels┃U.S. Energy Information Administration」より引用
また、OPEC(石油輸出機構)も5月13日、2020年の世界の原油需要は907万バレル/日減少すると予想するレポートを発表しました。一方4月のOPEC加盟国の原油生産量はサウジアラビアとロシアが3月に始めた価格競争の影響を受け、3,041万バレル/日と3月よりも180万バレル/日増加していたのです。
需要が減ったにも関わらず供給が増加し原油価格の急落につながったことがよくわかりますね。
原油価格は2020年には10.01ドル/バレルとプラスに戻りました。その後、回復傾向は続き、5月には20ドル/バレル代までWTI原油先物価格は回復しています。
この背景には、5月限の原油を「売り」に出すことで原油価格の暴落を招いたUSO(United States Oil Fund)などの投資ファンドが期限が先の商品の「買い」を行ったこと、欧米主要国の経済活動再開の兆しが見られることなどがあるといわれています。
また、OPECプラスが4月12日に970万バレル/日の減産に合意し、履行しはじめたことも影響しているでしょう。ただし、シェール油田は封鎖することでその後の原油生産量に陰りが出るため、石油会社の多くは手痛いダメージを受けることが予想されています。とはいえ原油安が長期化すればどのみち破綻は免れ得ないという状況。米国の石油産業はどのみち変化することを逃れえないでしょう。
身近なところでは原油安はガソリンや軽油、灯油の価格低下につながっています。5月11日のレギュラーガソリン価格は124.8円/Lで15週連続、軽油は106.2円/L、灯油は76.1円/Lで14週連続の値下がりでした。
ただし、現状原油価格は回復基調にあるため、遠からず連続値下がりはストップすることが予想されます。
原油価格マイナスという衝撃的なニュースの実情や背景についてまとめて解説いたしました。
コロナ禍の影響で原油の需給バランスが大きく崩れたことで世界の石油産業は大きくダメージを受けました。原油消費国の日本にとっても商社など関連企業の負う痛手や経済の安定化の重要性を考えると、その問題は他人事ではありません。
引き続き原油価格の動向に注目していきましょう!
(宮田文机)
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