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【書評】『カスタマーサクセス経営』を最速レビュー! DX時代の企業の成長戦略「PLG」とは?

         

みなさんは、「PLG(Product-Led Growth:プロダクト主導型成長)」という言葉をご存じでしょうか。GAFAMをはじめ、Slack、Zoomなど近年存在感を増しているSaaS企業で見られる成長戦略であり、オンラインを通じてユーザー・カスタマーとつながるすべての企業で今後も重要性を高めていくはずです。

2022年7月22日、PLGに知見を持つ人々の間で「元祖PLG本」と称される書籍が、出版から4年のときを経て『カスタマーサクセス経営』として邦訳出版されました。本記事では同書を早速レビュー。前提となる知識や同書の構成、PLGとは何かなどについて詳しく解説します!

『カスタマーサクセス経営』とは? その前提となる「カスタマーサクセス」について振り返ろう

2018年1月に2人のSaaS企業経営者によって『カスタマーサクセス経営』の原書は著されました。訳者である『カスタマーサクセスとは何か』著者の弘子ラザヴィ氏は、邦訳出版まで4年の歳月を要したのは意図的なものだったと訳者まえがきで明かしています。

その理由は、「「カスタマーサクセス」の考え方を理解されていない方へ本書の価値を届けることは難しいと判断したため(※)」。

「カスタマーサクセス」とは、自社の製品・サービスを利用するカスタマーに「成功」を届け、ベストな関係性を構築することにフォーカスした業務及びそのための役職のことを指します。インターネットの普及によりカスタマーと常に接点を持つことが可能となった現代、すべての商材は‟買ってもらって終わり”ではありません。むしろ‟購入いただいた後”、顧客を求める成功まで導き、「この製品(サービス)がないなんて考えられない!」「もっと利用したい」という思いを抱いてもらうことが重要なのです。

カスタマーサクセスが必要になった背景には、デジタル時代のビジネス形態「リテンションモデル」があります。詳しくはコチラのイベントレポート記事でご覧ください。

『カスタマーサクセス経営』はいわば、カスタマーサクセスを前提としたビジネス・マーケティングモデルの作り方の決定版です。見込み客をどうやってカスタマーに育て上げるのか、現代のカスタマーはどのような体験を求めているのか、サービス・製品から得られたデータはどう見ればいいのか……。まさに経営視点からカスタマーサクセスビジネスを構築するにあたって知りたい知見が詰まった書籍といえるでしょう。

※ミッキー・アーロン、ニック・ボンフィーリオ 共著、弘子ラザヴィ 訳『カスタマーサクセス経営』SuccessGAKO、2022、8ページ

『カスタマーサクセス経営』を構成する3つの部について解説!

『カスタマーサクセス経営』の具体的な内容に踏み込んでいきましょう。
同書は3つの部で構成されており、その目次は以下の通りです。

第1部カスタマー体験(CX)の重要性
1章 カスタマー体験の時代へようこそ
2章 カスタマー体験の定義

第2部カスタマー体験(CX)起点の組織
3章 話すな、見せろ
4章 カスタマーライフサイクルをカスタマー視点で捉える
5章 カスタマージャーニー全体を理解する
6章 組織横断の視点でカスタマー体験を捉え
7章 伝統的な顧客獲得戦略からプロダクト主導型成長戦略へ

第3部プロダクト主導型成長(Product-Led Growth)戦略の実践
8章 プロダクト主導型成長戦略の概要
9章 プロダクト主導の新規顧客獲得と活用促進
10章 プロダクト主導のカスタマーの維持と拡大
11章 エンゲージメント個別化の詳細
12章 プロダクト主導型組織の詳細
13章 指標:プロダクト主導型成長の成功を測る
14章 プロダクト主導型成長戦略を成功に導く3つの柱
15章 結論:SaaSの未来は個別化されたプロダクト体験

 

第1部で取り上げられているのが、現代のビジネスモデルの潮流です。DXによってデジタル時代に適したビジネスモデルを構築できるかどうかが企業の生き残りを左右する。そう耳にしたことのある方は多いでしょう。そんな時代の趨勢を具体例で紹介したうえで、「カスタマー体験」をキーワードに今企業が取り組むべき課題を提示します。

第2部は第1部の考え方をより実践的な組織づくりに落とし込み、6ステップでPLGを実践するためのカスタマーの捉え方、顧客獲得の鉄則をレクチャーします。「3章 話すな、見せろ」のようなタイトルが象徴するように、PLGにおいてポイントとなるのが、現代のSaaSでは自社の商品をまず使ってもらうことが何よりの営業であり、マーケティングになるということです。そもそも「カスタマー体験」が発生するのは、カスタマーがそのサービス・製品を利用しているときなのですから、当然ですね。みなさんも、無料ユーザーとして体験版や制限付きのサービスを日々数多く利用しているのではないでしょうか。

では、どのように見込み客にカスタマーとなってもらい、自社の商品を愛用してもらうまでのプロセスを設計すればいいのか、チームのそれぞれの役職はどのような目標を持てばいいのかなど、多くの用語とともにPLGの基礎を抑えられるのがこのパートです。

最後の第3部では「本書のメインディッシュ」と説明されている通り、最も直接的に経営に役立てられる、PLGの実践法が具体的な方法論で解説されています。現代ではオンラインを通じてデータを取得することはもはや常識となっています。しかし、「取得したデータをどのように生かせばいいのかわからない」という声は少なくありません。「訪問登録率」「登録PQL率」「PQLカスタマー率」など、『13章 指標:プロダクト主導型成長の成功を測る』で紹介される具体的な指標は明日から生かせる知識のはずです。もちろんデータ分析だけでなく、見込み客がプロダクトに触れてからカスタマーに昇格するまでのステップなど非常に詳細に記載されているので、営業、マーケティング、データアナリスト、カスタマーサクセスなどさまざまな視点でこの部は役立つでしょう。

「PLG」とは何か 従来型の成長戦略とはどう違う?

PLGとは、‟プロダクト主導型”と冠されている通り、カスタマーにまずプロダクト(サービス含)を利用してもらい、そこから得られた行動データを活用して、ビジネスを育てていくことを標榜した成長戦略を意味します。従来型の成長戦略では、自社サイトや広告などを通じてターゲットにアプローチし、見込み客を育てることでカスタマーに育て上げ、商品を利用しはじめてもらうのが一般的でした。しかし、現代の成長SaaS企業の多くは無料体験あるいはフリーミアムの形でまずプロダクトに触れてもらい、得られた行動データを活用しながら真のカスタマーへと育て上げることを目指します。これが、すなわちPLGなのです。

PLGではプロダクトを無料で利用しているユーザーを、カスタマーに成長する一歩前の段階と捉え、PQL(Product-Qualified Lead:プロダクト認定リード)と呼びます。「カスタマーと見込み客の間」に位置するこのユーザーの存在について、私は『カスタマーサクセス経営』を読むまで気づいていませんでした。しかし、現代のSaaS企業の状況をよくよく見渡せば、PQLがいかにビジネス成功のカギを握っているかがわかります。

フリーミアム/無料体験それぞれの特徴は何か、PQLにどのようにアプローチしカスタマーに育て上げればいいのかなど具体的なところについては、ぜひ同書でご確認ください。

終わりに

「百聞は一見に如かず」ということわざがありますが、‟一回の体験”はそれをはるかに凌駕する理解をベンダーにも、ユーザーにも与えてくれるのでしょう。PLGとカスタマーサクセスはデジタル化したビジネス環境に最適化した成長戦略という点で共通しています。しかし、両者が主に取り扱う領域は異なるため、ともに理解することでカスタマーライフサイクル全体ですべきことが見えてくるはずです。

『カスタマーサクセス経営』をぜひPLGの理解にお役立てください!

【参考資料】

宮田文机

 

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