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ビッグデータは我々の生活を大きく変えようとしています。
現代人の生活では「パソコンのログ」「スマホを使ったメッセージのやりとり」「クレジットカードの使用」など、無数の「ビッグデータ」が存在します。そのほとんどは、ユーザー本人に自覚がないまま生まれている些細なデータだといえるでしょう。しかし、ビッグデータの一部として解析すれば、個人情報がいとも簡単にさらされてしまいます。セキュリティー対策について多くの議論がされていますが、もはや、「プライバシー」を完璧に保護する方法などないのが今の世の中だと言えるでしょう。
こうした状況を予見していた小説が、イギリスのSF作家、ジョージ・オーウェルの最高傑作「1984年」です。1949年に発表された本作は、完全なる監視社会が実現した未来を舞台にしていました。オセアニア大陸の人々は思想統制により、「自我」や「思想」を持つことを禁じられています。世界を統治するのは「ビッグ・ブラザー」と名乗る独裁者であり、国家とは異なる思想の持主は当局によって厳重処罰を与えられます。監視カメラによって国民の行動、発言がすべて政府に筒抜けとなっている監視社会の恐怖をオーウェルはインターネットの概念すらない時代に発表していたのです。
「1984年」はベストセラーになり、映画化もされました。発表当時、東西冷戦へと突き進んでいた世界には中国、ソ連などの「全体主義国家」への恐怖心が根付いていました。「1984年」は西側諸国が潜在的に抱いていた「全体主義が自分たちの生活にも影響したら」という不安を物語に置き換えたのです。しかし、インターネットの普及によって「全体主義」は共産主義圏だけの問題ではなくなってきました。今もなお「1984年」が売れ続け、クリエイターやアーティストを刺激しているのは世界が「ビッグ・ブラザーのいる未来」に近づいてきているからでしょう。
アップル社の創始者、スティーブ・ジョブズも「1984年」に感銘を受けた人物です。ジョブズは1983年のCMで、「1984年」「ジョージ・オーウェル」というキーワードを出しながら「IBM社がパソコン市場を牛耳っている現状」に一石を投じました。IBM社の市場独占と、「1984年」の全体主義像を重ね合わせているのです。そのほか、日本でも村上春樹が「1984年」を土台とした小説「1Q84」を発表するなど、21世紀に入っても「1984年」の影響力はとどまることがありません。むしろ、評価はますます高まる一方でしょう。
「1984年」では街中のあらゆる場所に「BIG BROTHER IS WATCHING YOU」というスローガンが登場します。「ビッグ・ブラザーがおまえを監視している」、つまり「だから国家に逆らうような真似はするな」と警告しているのです。現代社会は「1984年」のように、監視カメラが自宅にまで及んでいるわけではありません。しかし、もっと危険な「インターネットによる監視」が進んでいます。エドワード・スノーデンがアメリカ国家安全保障局を告発した事件から分かるように、超大国が国民の生活を監視しているのは公然の事実です。一部の犯罪者を特定するためと説明されていたビッグデータ解析が、アメリカ国民の監視のためだったと判明しました。AIの実用化が進む中、政府が全国民の思想を把握する時代も間もなく到来するでしょう。
ビッグデータを取り扱う企業、組織に対する懸念の声も大きくなりつつあります。中国が導入した「犯罪予知システム」の概要と問題点についても先日紹介しましたが、大手検索エンジンやSNSが個人情報を流用していた問題が繰り返し報道され、監視社会への反感はこれからも高まっていくでしょう。ビッグデータと健全に向き合っていくには、データを「いかに使用するか」「どのようにプライバシーを守るのか」をはっきりと示すことにより、人々の信頼を取り戻すことが重要となってきます。
(データのじかん編集部)
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