About us データのじかんとは?
電化製品や工場などのモノがデータを取得・活用できるようになるIoT(モノのインターネット)。その普及とともに注目を集める技術が「デジタルツイン」です。
世界的な調査会社である米ガートナー社が毎年発表する「戦略的テクノロジのトレンドトップ10」に2018・2019の2年連続ランクインしたこの技術。IoTをビジネスに活用したいならば理解しておくべきでしょう。
この記事では、デジタルツインの概要やメリット、活用例について取り上げます。
デジタルツインは簡単にいうと“デジタルの仮想空間にリアルの空間や物体をリアルタイムの連動性をもって再現すること”です。デジタルツインの直訳は「デジタルの双子」。ここでいう双子とは、現実のそれと一卵性双生児のように相似したデジタル空間・物質のことなのです。
その特徴で特に注目すべきなのが“リアルタイムの連動性をもっている”というポイント。デジタルツインにおいて対象となるモノの稼働状況や各部位の状態といった情報は常にデジタル上のモデルに反映されます。そのため、リアルタイムで製品や工場の機器の変化に対応し、取得したデータを用いたメンテナンスや設備保全を行うことが可能になります。
このような特徴からデジタルツインへの注目は高まり続けており、こちらもガートナー社が発表した「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2018」(※)では、“「過度な期待」のピーク時”に位置しています。
※…先進テクノロジを「黎明期」「「過度な期待」のピーク時」「幻滅期」「啓蒙活動期」「生産性の安定期」の5つの普及段階に分けてマッピングするグラフ
出典:ガートナー、「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2018年」を発表 – 人とマシンの境界を曖昧にする5つの先進テクノロジ・トレンドが明らかに┃Gartner® プレスリリース
ここからは、デジタルツインのメリットを見ていきましょう。生産段階から出荷後まで広範にわたるデジタルツインのメリットを5つにまとめています。
デジタルツインは、常に得られるデータを用いた生産体制の最適化と管理業務の代行によって、発注から出荷までにかかるリードタイムを短縮してくれます。
人員の稼働状況や作業ごとの負荷が可視化されることで、なかなか手を付けられない改善活動が常時行われ、リードタイムが最適化されるのです。また、スケジューリングや人員配置、標準原価の設定など正確性が求められる作業も、デジタルツインを用いればミスなく導入前の何倍ものスピードで行えることになります。
デジタル空間上で現実と同じく生産ラインを動かすことのできるデジタルツイン。これまでリアルで行っていた製品の試作をデジタル上で行うことで、そのためのコストを削減することができます。また、デジタルツインでは製造ラインのデータだけでなく製品の使用状況や人気にまつわるデータも取得できます。そのためマーケティングコストや製品の改善にかかるコストも削減することができるのです。
デジタルツインを導入すれば、製造ラインに不具合が発生した場合「どの個所に問題があったのか」「設計自体や使い方に問題があるのか」などの情報もかなり細かくわかります。そのため、メンテナンス・設備保全の質・スピードともに高められるはずです。製品自体に不具合が生じた場合も製造過程のデータのみならず、出荷後に製品から得たデータも駆使して早急に原因を特定可能。製品の出荷状況もかなりの精度で把握できるため、修繕・回収までの流れはスムーズになります。
デジタルツインでは、製造工程の改善や新製品のテストをデジタル空間上で行えます。そのためラインを停止することで生じるコストを削減することが可能に。また、システムを入れ替えたり停止する際に生じる不具合・事故の発生リスクも限りなく少なくすることができます。リスクがないことで新たなアイディアを試しやすくなり製造工程の改善は自然と進むことになります。
出荷後の製品の状態もリアルタイムでモデリングできるデジタルツインを用いれば、各製品の摩耗状況を知り、適切なタイミングで部品交換などのアフターサービスが行えます。電流量などはバッテリー交換の時期の把握だけでなく不具合の予測にも役立つでしょう。また、製品がどのように使われているかについても把握できるため、実際の使用行動から顧客ニーズを分析し、真の需要に即したサービスを展開することにもつながります。
最後にデジタルツインの実際の導入例をご紹介します。その活用の場は製造業だけでなく、スポーツひいては国土全体まで及びます。
発電、エンジン製造など電気事業の多くの領域をカバーするGE社は、航空機エンジンをデジタルツインでモデリングし、保守費用を削減しています。燃料の特性や気温、気圧、砂埃の量といった詳細なデータを把握することで最適な洗浄頻度を分析し、洗浄コストをカットできるのです
インダストリー4.0を牽引するドイツの先進企業、シーメンス。デジタルツインの分野でもトップを走っており、製品のライフサイクルを初めから終わりまでデジタル化し、製造プロセス・制御システムとの連携によって生産性を抜本的に高める「デジタルエンタープライズ」に取り組んでいます。
2018年のFIFAワールドカップロシア大会で使用されたデジタルツインは、ボールや選手の動きをデジタル上に再現しました。監督・データ分析担当者は配布されたタブレットで選手の位置情報やフィジカルコンディションを把握し、選手交代やフォーメーション構築に役立てます。このような先進的な取り組みから同大会は「初めてのデジタルワールドカップ」と呼ばれたのです。
シンガポールで行われているのは、国土全体をデジタル空間に再現し都市計画や災害対策に生かそうという壮大な取り組みです。3D空間に東京23区とほぼ同じ約720㎢のシンガポールがそっくり再現され、建物にズームインすれば建物の大きさやエネルギー消費量、住人の数などの詳細情報が、全体を俯瞰すれば交通状況や天候といったデータが得られます。日本の国土交通省が目指すインフラ・データプラットフォームの参考例としても挙げられている興味深い事例です。
デジタルツインの概要・メリット・活用例についてご紹介しました。
今後大容量データのリアルタイム通信に適した5G回線が整備されることで、さらに普及することが期待されるデジタルツイン。紹介したようなメリットの幅広さから企業だけでなく国家も注目する技術です。いち早く理解・導入することで得られるリターンは少なくありません。
あなたの受け持つ工場や製品をデジタル上に再現することで見えてくるものはないですか?
(宮田文机)
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