今年の上半期を覆ったコロナ禍。
エンタメ業界は大きくダメージを受け、支援を求める声や運動も少なからず生じています。そんななか、映画業界でひとつの文化を復興させようというムーブメントが起こっていたことをご存知でしょうか?
それは、「ドライブインシアターを盛り上げよう」という動きです。
三密を避けながら映画を楽しむことが出来る古くて新しい映画の鑑賞法。その歴史や注目の背景を押さえ、映画の楽しみを広げましょう!
ドライブインシアターとは、“車に乗ったまま大スクリーンで大勢と映画を楽しむ型”の映画鑑賞法です。その場所として使われるのは夜間の駐車場。チケットを購入した観客は指定された位置に車を停車させ、カーステレオで音声を受信して映画を楽しみます。
abcNEWSのyoutube動画。ドライブインシアターの様子が垣間見えます
ドライブインシアターが誕生したのは、1933年6月6日のこと。
アメリカニュージャージー州カムデンにてリチャード・ホリングスヘッド・ジュニア(Richard M. Hollingshead, Jr.)が映画館の椅子の座り心地の悪さに苦慮しているという母の声を受け、発明に着手し、特許取得から1カ月を待たずに開業しました。
その宣伝文句は“家族みんなのためのエンターティメント”。子どもをベビーシッターに預けたり騒がないよう気を使ったりする必要がないという利点が多くの大衆に受け入れられたようです。リチャードのドライブインシアターには開業初日から20~30の州の約600人が集まったとか。
その人気は高まり、1951年代のピーク時には全米で4,000館以上のドライブインシアターが営業していました。
日本でも1962年11月、東京都北多摩郡砂川町に最初のドライブインシアター『ドライブイン劇場』が開業しました。クルマ文化の普及とともに館数は増加し、バブル期後期には全国で20カ所以上がオープン。2000年に福山雅治さんの『DRIVE IN THEATERでくちづけを』という曲がリリースされているように、デートスポットとしても人気を博していたようですね。
上記の通り人気を博したドライブインシアターですが、2014年時点でアメリカでは348館、日本では0館となってしまいました。
Adam Epstein「There are barely any drive-in movie theaters left in the US」┃QUARTZより引用
その原因としては、以下のようなものが挙げられます。
そもそも映画館の環境の悪さや子守りの必要という課題を解決するために生まれたドライブインシアター。シネコンが普及し映画館の環境が整備され、家庭内で簡単に映画を楽しめるようになったことで衰退しはじめたのは必然だったといえるでしょう。
また、上映方式をデジタルに移行するには7万ドル以上の投資が必要で、スクリーン投影にかかる電力コストも高まるため、多くのドライブインシアター業者の廃業へとつながったということです。
役割を終えたかのように思われたドライブインシアターでしたが、コロナ禍で思わぬ注目を集めることとなりました。クルマの中であれば同乗者以外と接触することなく、大勢と大画面で映画を楽しめるという点に注目が集まったのです。
2020年3月18日のLATimesの記事によると、アメリカには常時の2倍以上の売上を記録したシアターもあったとか。
日本でも常設映画館の休業による需要増を受けて山梨のショッピングモール「ラザウォーク甲斐双葉」で4月4・5日、北海道旭川市の映画館「ディノスシネマズ旭川」で5月9日にドライブインシアターが開かれました。上映されたのは『ペット2』『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』など。
朝日新聞のyoutube動画。「ディノスシネマズ旭川」での上映模様
この機運の高まりの中、Outdoor Theater Japanによる日本全国47都道府県でのドライブインシアターイベントの開催、Do it Theaterによるドライブインシアター開催とそのためのクラウドファンディングが発表されています。
実は、ドライブインシアター復活の兆しはコロナ禍以前から生じていたように思われます。
2014年に一旦日本で常設施設のなくなってしまったドライブインシアターですが、2018年11月に『ドライブインシアター阿蘇』がオープンし0館→1館へと復活しました。
また、2017年6月に雑誌フィガロジャポンにより開かれた2夜限りのドライブインシアター、2019年末に神奈川県逗子で行われた『CINEAMA CARAVAN DRIVE-IN THEATER』など短期間のイベントとしてのドライブインシアターはたびたび開催されています。前述のOutdoor Theater JapanやDo it Theaterのようなドライブインシアターを積極的に後押しする団体も生まれました。
“モノ消費からコト消費へ”という言葉がある通り、近年所有できる「もの」よりも「体験」にお金をかける消費者が増えたといわれています。しかし、コロナ禍でライブ、フェス、クラブなどの体験型消費の機会は大きく奪われました。そんななか、感染対策とイベント参加の両方を満たすことのできる存在としてドライブインシアターに目が向けられた。
そのような流れが起こっているのではないでしょうか。
一度は衰退しながら今再び注目を集め始めているドライブインシアターの歴史や昨今の流れについて解説してきました。
現代では配信やインターネットで“おうちじかん”を充実させられる幅が広がっていますが、それでも大勢の人と時間を共有することには特別な意味があります。
この機会をチャンスととらえ、お時間があればぜひ参加してみてはいかがでしょうか?
(宮田文机)
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