書籍の無料公開は「フリーミアム」の一環といえます。
フリーミアムとは基本的な商品やサービスを無償化し一部を有料で提供するビジネスモデルのこと。インターネットの発達によりWebサービスやコンテンツを顧客に届けるコストがほとんどゼロになったことで誕生しました。
フリーミアムは「フリー(無料)」と「プレミアム(割増料金)」を掛け合わせた造語で、ベンチャー投資家のフレッド・ウィルソン氏により提唱され、米Wired誌編集長を務めていたクリス・アンダーソン氏により広められました。クリス・アンダーソン氏は2009年にフリーミアムについてまとめた著書『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』を出版しその考えを体現するように2週間限定で無料で公開、ベストセラーにランクインさせた実績を持ちます。
ドキュメント管理システムEvernote、音楽ストリーミングサービスSpotify、レシピ共有サービスクックパッドなど私たちが普段利用するWebサービスにもフリーミアムに当てはまるものが多く存在します。
「無料公開キャンペーンを実践してみたい!」と考えるようになった方もいるかもしれません。フリーミアムを実践する前に押さえておくべき3つのポイントをご紹介します。
基本的にフリーミアムはインターネットを経由して提供できる形のないものが適しています。食料品や電化製品、工業製品など“形のあるもの”は複製や輸送にコストがかかるためフリーミアム向きではありません。
フリーミアムの波はいずれ製造業にも波及するとの予測もありますが、現在はまだ“無形”かつ“複製が容易である”ものだけがフリーミアムに適しているといえるでしょう。
フリーミアムのビジネスは5%の有料ユーザーが存在すれば成立するといわれています。これは逆にいえば5%は有料ユーザーを獲得する必要があるということです。そのために重要なのが“有料ユーザーと無料ユーザーの差別化”。
「機能や容量に差をつける、有料ユーザーに特別感を与える、無料ユーザーに制限をかけるなど差別化の手法はさまざまです。書籍の場合は“もの”としての所有感や購入者としての特別感が購入の大きな引き金となるでしょう。また期間限定公開や一部だけの公開で制限をかける手法も一般的です。
米NY TIMES誌は自社のWeb記事を読める本数の制限で有料ユーザーと無料ユーザーを差別化していました。有料ユーザーは無制限、無料ユーザーは20本までです。しかし売上が伸び悩んだことで、20本から10本に無料ユーザーの制限を強化。結果、成果を得られるようになったといいます。このように有料ユーザーと無料ユーザーの差異の設定には繊細な調整が求められます。
書籍の場合は、無料公開する媒体も重要になるでしょう。一般的な無料公開向けの媒体としては以下のような例が挙げられます。
有名シリーズや人気著者の書籍の場合は特設サイトや個人ブログ、ホームページで公開することでファンに早く伝わるとともにブランド力が高まり結果につながりやすくなるかもしれません。しかし、知名度の低い書籍の場合は一定数の読者が確保されている読み放題サービスやメディアとコラボして読んでもらえる確率を高めたほうが良いでしょう。
このように、書籍・著者の知名度一つとっても取るべき戦略は異なります。
『進撃の巨人』の無料公開が話題を呼んだというトピックを皮切りに、無料公開キャンペーンのカラクリとその背景にあるフリーミアム戦略についてご紹介しました。
今後さらなる普及が予想されるフリーミアムの考え方。出版業界の方もそうでない方も自社にも生かすことができないか、ぜひ考えてみてください。
(宮田文机)
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