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福岡は日本のシアトルになったのか?〜スタートアップが育つエコシステムのつくり方–スタートアップが育つエコシステムのつくり方:第2回

前回の記事「日本の『起業家不足論』はナンセンス?本当の課題『成長不良』の原因を探る」では巷でよく聞かれる「日本ではスタートアップが少ない」という言説を分析しました。
よくよく調べてみると、日本の起業は決して少ないわけではなく、むしろスタートアップが「育つ」ためのエコシステムが未成熟であることが分かりました。

今回は近年人口増加が右肩上がり、スタートアップが集結する都市として注目を集めている福岡市がいかにしてヒト・カネが集まるエコシステムをつくってきたのか分析してみます。

日本の「起業家不足論」はナンセンス?本当の課題「成長不良」の原因を探る--スタートアップが育つエコシステムのつくり方:第1回

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福岡でオフィスが足りない!

福岡市の中心部、天神。ビジネスビルや商業施設が集まるこのエリアでいま「天神ビッグバン」なるプロジェクトが進行しています。福岡市によると、天神ビッグバンは「警固断層のリスクがある中、更新期を迎えたビルが耐震性の高い先進的なビルに建て替わることにより、多くの市民や、働く人・訪れる人の安全・安心につながるもので、さらに都心部の機能を高め、新たな空間や雇用、税収を生み出すプロジェクト」とのことです。

そして、天神ビッグバンの第一弾として2021年9月に竣工したのが「天神ビジネスセンター」です。1万坪を超える賃貸床面積が福岡のオフィス不足と賃料の上昇を解決することが期待されていました。それ以降も福岡ビジネス地区では、大型ビルが相次いで竣工しましたが、その背景には福岡ビジネスエリアの深刻なオフィス供給不足がありました。

上表に示されているように福岡オフィス市場では、2012年下期を起点に「空室率低下、賃料上昇」が続いていましたが、2020年下期以降、「空室率上昇、賃料上昇」の局面を経て、2024年現在「空室率上昇、賃料下落」の局面に入っています。

では、一体何が福岡のオフィス不足を引き起こしていたのでしょうか?

2012年:「スタートアップ都市ふくおか」宣言

福岡のオフィス不足のきっかけを作った、福岡のスタートアップ「元年」というべき出来事が2012年9月にありました。それが「スタートアップ都市ふくおか」宣言です。

宣言後、福岡市は2014年に「福岡市グローバル創業・雇用創出特区」として国家戦略特区を獲得したり、起業家が相談しやすい「スタートアップカフェ」やエンジニア育成のための「エンジニアカフェ」を作ったりもしてきました。さらに2017年には廃校になった小学校の校舎を活用し、官民共同型のスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next(FGN)」をオープンしました。

2024年現在、2012年の宣言から10年以上経過し、スタートアップを支援する福岡市内のファンド規模は4倍以上になり(2021年:約477億円)、IPOも生まれ、IPO目前のスタートアップも続々と控えています。福岡市はさらに集中的にポテンシャルの高い企業を集中的に支援することを目指しています。

福岡をスタートアップ都市とするべく牽引役となってきたのが高島宗一郎市長です。高島市長はスタートアップに着目したきっかけとして、着任して間もなかった2011年に米・シアトルを訪れたことがきっかけになったと述べています。

高島市長は、シアトルは人口が福岡の半分にも満たない地方都市でありながら、マイクロソフト、アマゾン、スターバックス、コストコなどのグローバル企業を生み出したことに衝撃を受けたといいます。しかし、それだけでなく、シアトルと福岡には多くの共通点があることに気づいたといいます。その中でも彼が最も注目したのが、両都市の「リバブル(住みやすい)」という強みです。

福岡のリバブル=「第3極」の都市

シアトルを訪れた高島市長の目に何が映ったのか、正確なことは本人にしか分かりませんが、確かなことは福岡の地方都市ゆえのポテンシャルがスタートアップ育成のエコシステム形成に有利だったということです。

公益財団法人福岡アジア都市研究所も高島氏が注目した福岡の強みを分析しています。同研究所は2015年以降、福岡と類似性を有している「首都・経済首都ではなくメガシティでもない都市」を「第3極」の都市と位置づけ、調査を行ってきました。「第3極の都市」は、「人口が過度に集中することなく、コンパクトな都市構造を維持しながら、『生活の質』において高い評価を受ける『グローバル都市』」であり、「都市の規模だけでなく、そこに暮らす人々の利便性や生活の豊かさ」も重要です。

ここで言及されている「生活の質」は高島市長が注目した福岡市の「リバブル(住みやすさ)」にも直結します。そして、生活の質は単に個人や家族が住みやすいというだけでなく、企業が進出先を検討したり、赴任させる社員の生活環境としても重要な判断基準となるため、長期的にみれば、スタートアップを誘致する上でも欠かせないといえるでしょう。

同研究所は、2023年に前出のシアトルに加え、バンクーバー、メルボルン、ミュンヘン、バルセロナ、ストックホルム、ヘルシンキ、釜山の9都市と福岡を比較したレポートを発表しました。「生活のコスト」、「芸術的鑑賞施設の数」、「人口当たり医師数」「自然の豊かさ」などの要素を元に「生活の質」を同一基準で比較した図が以下の通りです。

構成要素は異なるものの、興味深いことにシアトルと福岡がほぼ同じスコアになっています。

まとめ

スタートアップ育成のエコシステムを形成するために、ヒト・カネがすでに集まっている東京などのメガシティが有利なのは言うまでもありません。しかし、多様なバックグランドを持つ人が集まるだけの魅力を持っており、さらにやって来た人たちを引き留めるだけの生活のしやすさを持っているかどうかは、見落とされがちだった要素かもしれません。

食文化や観光地としての魅力と、生活のコストなど住みやすさ、そして、自ら「スタートアップ都市」であることを宣言することで、今、福岡には多くの人たちが集まってきており、スタートアップ育成に欠かせない自由闊達なカルチャーが醸成されています。

次回はエコシステムを形成する上で重要な役割を果たしてきたFGNにフォーカスしましょう。

著者・図版:河合良成
2008年より中国に渡航、10年にわたり大学などで教鞭を取り、中国文化や市況への造詣が深い。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。現在は福岡在住、主に翻訳者、ライターとして活動中。

(TEXT:河合良成 編集:藤冨啓之)

 

参照元

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