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関西圏には3つの空港がある。関西空港、大阪国際空港(大阪空港)、そして神戸空港だ。この中で、国際線定期便が就航しているのは関西空港である。神戸空港に関しては定期便は国内線のみだ。しかし、国際線の実績がまったくないわけではない。2018年度は26回の国際線の実績があった。だが、ビジネスジェットであり「本格的」とは言い難い内容だ。そんな中、2022年9月の第12回関西3空港懇談会にて、神戸空港の国際化が決定したわけである。
この決定にはいくつかの理由が挙げられる。1つ目は「旺盛な航空需要」だ。関西3空港の運営を行う関西エアポートの決算資料によると、2019年度と比較した場合、2024年4月の関西空港国際線利用者は87%まで回復している。さらに、関西経済連合会のレポートによると、2025年に開催される大阪・関西万博の来場者数は2820万人。そのうち、海外からは600万人を見込んでいる。そして、万博終了後もIRにより、年間2000万人(海外600万人)もの来場があるという。
2つ目は関西空港の発着枠の限界だ。関西国際空港の将来航空需要に関する調査委員会の資料によると、関西空港における2025年度の年間発着回数予測は2018年度の約1.2倍の24.3万回を見込んでいる。ピーク時には1時間あたりの発着回数は60回になるとされ、これは現状の約1.3倍だ。
当然、関西空港も汗をかくわけだが、限界もある。現に筆者は2023年8月に関西空港から国際線を利用したが、チェックインカウンターの前には長蛇の外国人観光客の列が見られた。肌感としてパンクに近い状態だった。
関西3空港懇談会では2030年前後を目途に3空港で年間50万回の容量確保を目指す、としている。国際線に関してはさすがに関西空港だけでは限界があるので、神戸空港の力も借りるといった格好だ。
また、関西3空港にとって、自然災害への対応も必要となる。2018年に起きた台風21号による関西空港水没事故、ならびに暴風で流されたタンカーが連絡橋に衝突した事故はまだ記憶に新しい。この事故により、長期間にわたり関西空港は機能不全に陥り、関西の物流は混乱した。国際空港が一つでは心もとない。バックアップ的な国際空港も必要だという思いが「神戸空港国際化」につながった、とも考えられるだろう。
神戸空港国際化のメリットは関西空港を補完し、関西3空港の機能を強化することだ。一方、利用者からみて、神戸空港国際化のメリットは何だろうか。そもそも、現行において神戸空港は便利な空港といえるのだろうか。
先ほどの関西エアポートの決算資料を確認しよう。実は2019年度比関西3空港旅客数にて、100%を超えているのが神戸空港だ。2024年4月期は107%だった。現に2023年の神戸空港の旅客数は過去最多の343万人を達成。国内空港の旅客数ランキングでは10位にランクインした。旅客数増加の要因として、発着枠の増加による利便性向上も挙げられるが、やはり神戸空港そのものの利便性の良さも無視できない。
まず、交通の便だ。神戸空港は神戸の中心地である三宮からポートライナーで約20分だ。大阪梅田からもJRの新快速を利用することで、1時間以内でアクセス可能だ。また、山陽新幹線新神戸駅からも約30分でアクセスできる。加えて、徳島からもリムジンバスが運行されており、中国・四国地方からも取り込める。神戸空港前の駐車場は搭乗者に限り無料(24時間まで)だ。また、関西空港と神戸空港を結ぶ高速船「ベイ・シャトル」の利用者も専用駐車場が無料で使える。
2つ目はターミナルビルがコンパクトであることだ。筆者の経験から述べると、特別に混雑しない限り、チェックインカウンターから搭乗口まで10分前後で通過できる。
もちろん、国際線は「サブターミナル」と呼ばれる新ターミナルを使用するため、既存のターミナルとは事情が異なる。とはいえ、関西空港第一ターミナルと比較すると圧倒的に小規模であり、チェックインカウンターから出国審査まではスムーズに進むものと思われる。ただし、ターミナルから航空機まではバス移動だ。
神戸空港国際化に関して課題もある。そもそも、今回の国際化はあくまでも関西空港の「補完」という位置づけであり「メイン」ではないのだ。大阪府の吉村知事は幾度となく「関空ファースト」を主張している。また、関西空港がある大阪府泉佐野市は神戸空港国際化に関して「神戸空港の発着回数のさらなる拡大や国際化を認めることは、将来的に関西国際空港の需要が阻害されるのは間違いないことで、泉佐野市としては甚だ遺憾であります」と強く批判している。
この批判を持って、神戸空港国際化がストップすることはないと思うが、将来的に調整がスムーズにいくとは言い難い。
2つ目は就航先が少ない、という問題だ。2024年2月2日付の朝日新聞によると、神戸市は国際線就航に関して、対象国への支援金拠出を2024年度は見送る方針を固めた。このままでは就航先は韓国と台湾に限られるのではという指摘もあるという。
今まで神戸市が対象としてきた国は韓国、台湾、タイ、ベトナム、マレーシア、インドネシア、シンガポールだった。東南アジアでは、神戸市は決して認知度は高くない。そこで、対象国の旅行会社に支援金を拠出し、旅行費用を抑える試みだった。
このあたりの判断は難しい。就航先が減り「もったいない」という声はあるだろう。一方、補助金頼みの路線開設を防ぐと、いう考えもある。いずれにせよ、この決定の答え合わせは国際化から数年後とみる。
3つ目は神戸空港と三宮を結ぶポートライナーの輸送力だ。ポートライナーは東京の「ゆりかもめ」と同じ新交通システムだ。1列車は6両編成であるが、定員は300人ほどだ。
国土交通省が発表した2023年度の最混雑1時間あたりの最混雑区間の混雑率は103%だった。一見するとたいしたことのない数字のように見えるが、これにはカラクリがある。
最混雑1時間あたりということで、最混雑時間は8時から9時だ。一方、ポートライナーを運行する神戸新交通が発表しているデータによると、最混雑時間(三宮駅発)は7時51分から8時36分までの45分間だ。列車によっては混雑率103%を超える場合もあると予想する。現に、平日朝ラッシュ時間帯の神戸空港行きは大変な混雑だ。
ポートライナーのこれ以上の増車は難しく、バスの増便・開設で対応する。2023年には神戸空港~大阪駅間のリムジンバスが開設された。国際線の方が国内線よりも1人あたりの荷物量は多くなると予想され、国際線利用者が利用しやすいリムジンバスを設定することが重要だろう。
ともあれ、神戸空港国際化まで1年を切った。どのように関西空港を補完するのか、観察ポイントは満載だ。
(TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)
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