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【iSTC Evolution TOKYO 2019】日本企業のデジタル化をいかに進めるか?製造・経営・金融、それぞれから見たデータ活用の可能性 (後編)

         

IoTが世界の製造現場に大きな変化をもたらしています。しかし、日本企業はデータ活用の流れに乗り遅れ気味なのが実際のところ……。その原因は現場、経営層、金融機関すべてに関わるデジタルトランスフォーメーション(DX)の意義が十分に浸透していないから、と言われています。

そんな状況を変える可能性の一端を担うのがIoTの最新情報を共有するイベント「iSTC Evolution TOKYO 2019」。2019年9月12日、ウイングアーク1stイベントスペースで開かれました(前編はこちら)。

後編の登壇者は、サプライヤー、メーカー、金融などさまざまな立場で一線を走る5名のプロフェッショナル。

ニュースコメンテーターやラジオ解説者も務める小泉耕二氏を司会に、それぞれの立場から見たデータ活用の今とこれからについて話し合ったパネルディスカッションの模様をお届けします。

出典:Schoo

見える化するのは誰のためなのか?

小泉:まずはこちらのデータを見てください。日本の製造業における「生産設備導入からの経過年数」が示されています。金属工作機械、第二次金属加工機械、鋳造装置のいずれにおいても10年以上使用されている装置が50%近くを占めており、そのうち20%以上は20~30年の間使用されている機械ですね。このデータについてどうお考えですか、福本さん?

福本:このデータのように古い機械を扱う工場が多く、日本のモノ作りは熟練の工員の支えで成り立っている傾向があります。しかし段々と生産年齢人口が減っていくなかで本当に暗黙知の継承だけでやっていけるのでしょうか? 業務のデータ化による知恵の継承が必要だと考えて私は工場の刷新に取り組んでいます。

小泉:中手企業だけでなく大企業でも設備が古いということはありますか?

福本:あります。大企業であっても30~40年前の機械が現役で動いていることも珍しくありません。その点中国なんかはここ数十年で急速に産業が発展していますから、最新設備の導入が進んでいます。スタートラインが違うんですね。そして最新設備は能力が高く取り扱いの難易度も低いです。日本は他国に遅れ気味ですね。

小泉:データ活用を支援する側であるウイングアーク1stの大畠さんはこうした現状をどうとらえていますか?

大畠:うちはハードウェアベンダーではありませんが、データ活用に企業さんが課題を抱えていると感じることは多いですね。古い機械が未だに現役の企業も多い。iSTCさんのセンサーであればそれらにも対応できるのですが、現場の方から抵抗感を示されることもあります。

小泉:それはどうしてなんでしょう?

大畠:そもそも運用が変わることに対する抵抗感があります。それにデータをとってみるとそれまで手動で記録していた数値とセンサーの数値に乖離があることも。その違いを見て「ちゃんとデータをとっていなかったんじゃないか」と責められる不安があるという方もいるでしょう。

木村:古い機械が使えればそれに越したことはありませんしね。現場の方が抵抗感を示す理由は複合的ですが、重要なのはそもそも現場にどんなメリットがあるのかをしっかり示すことでしょうね。

小泉:スマートファクトリー化が現場に与えるメリットにはどのようなものがあるのでしょう?

木村:旭鉄工の場合、数値で成果が見えることで現場のモチベーションが高まりました。そもそもデータの取得や改善に負担がかからない設計にしたことが導入を進めたんだと思います。改善というと生産性を上げるために現場を鼓舞する、頑張らせるというイメージを持たれがちですが、うちは必ず現場が楽になる改善をしています。

福本見える化するのは誰のためなのか? を考え抜くことが大事ですよね。

大畠:同感です。そのために弊社はデータの価値を伝えていきたいです。現場においてデータは存在するにも関わらず見える化されていないことが多い。見える化することで改善に対する意識は変わるはずです。データを資産として眠らせず、KPIなど具体的な指標として活用し、価値にしていきましょう。

それで最終的に売上はあがるのか?

小泉:つづいてのデータは「出荷前検査状況のデータ化・検査工程の自動化などの実施状況」です。実施している企業と実施予定がある企業を合計しても20%にも満たないのが現状ですね。ここで東芝メモリ様の出荷前検査のデータ化の実例について福本さんにお伺いしましょう。

福本:四日市の半導体工場の出荷前検査を自動化し、歩留まり率・速度を高めました。約5,000台の製造装置から得られる1日20億件のデータをディープラーニングでAIに学習させ、人間がやっていた仕事を肩代わりさせたわけです。その結果、欠陥検査の正答率は約83%に到達し不良原因の推定時間も以前の6時間超から2時間以内に収まるようになりました。この試みが評価されて2016年には人工知能学会現場イノベーション賞をいただいています。

小泉:すでに自動化が進んでいるためIoTの成果が表れづらいと言われる半導体系の工場でもディープラーニングでここまでの成果が出せるんですね。金融業界としてはこうした技術をどう生かせるでしょう、松浦さん?

松浦:生産性が高まるという意味では大いに意味がありますね。ただ、とにかく金融サイドは企業に儲かっていただくのが大事です。中間指標として生産性なども大切ですが、最終的には経営に反映されてファイナンスが向上することが重要なんですね。

小泉:投資家からすると企業の内部状況がわからないから投資できないということもあるんでしょうか?

松浦:あります。私はもともと銀行員だったのですが、工場を視察しても正直なところ良い工場なのか悪い工場なのかを門外漢が現場で見抜くのは難しいです。しかしデータとして統計数値が見られれば判断は容易になります。前半でiSTC社の取り組みとして挙げられていたように業績と工場データの相関がわかれば、それをベンチマークとして融資も考えやすくなるでしょう。

大畠:ベンダー側からみたところ、データ活用に積極的なのは比較的若手の人材なんですよね。経営層になるほど「それで最終的に売上はあがるのか?」という目線に重きが置かれます。データ化することでどう業績が向上するのかがわかることは、経営層の同意を得るためにも重要ですね。PoCまで到達したものの経営への効果が疑われて会社のGOがでない「マネジメント層の壁」は日本のデジタルトランスフォーメーションをのために乗り越えるべき課題です。

松浦:それは大事な視点ですね。iSTC社のIoT化が経営効果に直結するロジックに裏付けられているのは、木村社長という製造業の経営者とIoTのサプライヤーを股にかける人材が率いる企業ならではですよね。

木村:iSTC社のスローガンは「人には付加価値の高い仕事を」です。改善や発想につながる作業は人間がやる意味がありますが、検査は製品の変化につながらないですよね。そういった作業は機械に置き換えて人間には別の仕事をやってもらう。そのメリットは経営にも直結するはずです。

製造業の国内回帰と海外進出は同時に進んでいる

小泉:つづいてのデータは日本の製造業の国内・海外における設備投資額の推移です。2015年までは国内・海外投資ともに伸びていたのが、国内投資に傾いた。しかし、2017年からまた海外投資も伸び始めています。このような動向についてどう思われますか、福本さん?

福本:国内回帰が起こっている原因は2つあって、ひとつは海外における人件費の高まり、もうひとつはデジタル化による技術流出への警戒です。ドイツのインダストリー4.0のように付加価値の高い仕事以外はすべてデジタル化して機械にやってもらおうという動きが進むと、製造プロセスがコピー可能になるんですね。

小泉:現場にもよるはずですが、組立て工場などであればコピーは比較的しやすいでしょうね。フォルクスワーゲンがシーメンスと協力して工場のクラウド統合管理を進めています。

福本:個々の作業だけでなく受発注関係や冷却水の供給などつながりすべてがデジタル化できれば工場全体を再現することは可能です。実現できればよそがコピーしやすくなるのは事実でしょう。しかし、それ以上に自社の生産性が高まり、少ない人数で多くの製品を生み出せるようになるはずです。生産年齢人口が減っていく日本では工場のデジタル化に積極的に対応していくべきでしょう。

小泉:ウイングアーク1stはアジア展開も進めていますよね。大畠さんは、現在製造業の国内回帰と海外進出が同時に進んでいることについてどう思われますか?

大畠:先日上海の製造現場を視察してきました。そこで感じたのは、データを見ることにすごく関心が高まっているということですね。現在のところ、日本に比べて工場のデジタル化は遅れていましたが、今後中国では急速に製造業のデータ活用が進んでいくことでしょう。

小泉:そんななかでウイングアーク1stはどのような方針をとりますか?

大畠:現時点では日本のデジタル環境のほうが進んでいますから、国内でやっていたことを愚直に展開していきたいと思います。ただ、中国ではやるとなったら機械自体を全部入れ替えてしまうなどとにかくスピード感がありますから、発展のスピードは脅威に感じますね。

IoT最大の効果は“人間が見えないものが見えるようになる”こと

小泉:ほかのスマートファクトリー化の取り組み事例についてお伺いできますか?

福本デンソーさんのスマートファクトリー化に取り組んでいます。世界の40カ国地域にわたる工場全体の生産性を3割高めるという目標を掲げ、 今のところ6%ほどの成果がでています。

小泉:具体的なIoTの効果について教えてください。

福本:IoTの最大の効果は実は“人間が見えないものが見えるようになる”ということなんです。例えば、デンソーさんとは別の例なんですが、射出成形ににおいて金属の内部に“す”が出来ているのかどうか目視では確認できません。しかし、AIは金属組成や温度分布から判断できます。そのため、不良品の判定や発生防止が行え、後工程に流さずに済むことでコスト削減にもつながります。

小泉:ウイングアーク1stさんはどのような取り組みをされていますか?

大畠:弊社は単にソフトウェアを売るだけでなく、製造業で必要な機能など要望を反映しながら製品をどんどん使っていただけるようにしていきたいと考えています。製品だけでなくソリューション自体の創出やアライアンスにも取り組んで行きたいですね。我々がこれまで得たスマートファクトリー化の知見も使ってユーザー様と一緒にビジネスを進めていきたいと考えています。

小泉:BIツールは経営層が使うものという印象も持つ方もいますが、MotionBoardはもっとさまざまなデータをわかりやすく深堀しながら見ていけるツールですよね。だからiXACSとも相性が良いんでしょうね。

大畠:おっしゃるとおりMotionBoardは広く企業全体で活用いただきたいと考えています。人によって立場も違えばデータを見るポイントも違いますから、経営層の方が見るだけでは企業力にはなりません。社内のさまざまな方がデータにアクセスし、すぐにリアクションすることが重要なんですよね。ウイングアーク1stはそのような環境を実現できるプラットフォームを提供していきたいと考えています。

過去のデータ、今のデータがわかればちょっと先が予測できる。それが投資につながる

小泉:ファイナンスとIoTの関係についてはいかがでしょうか、松浦さん?

松浦金融業界は今苦境に立たされています。かつて金融のアドバンテージは、融資先の情報を抱えていたことにありました。しかし、それが情報社会の発達により金融業界外にも流れている。長期金利が高く短期金利が安いという状況で貸し借りを行って利益を増やすのが金融の基本です。しかし、ゼロ金利といわれてもう20年近くになります。これで利益が上がるはずがありませんよね。

この状況を打開すべく、金融庁も金融のデジタル化を後押しする意欲を示しています。その資料で挙げられているのはfreeeやマネーフォワードに代表されるクラウド会計や資産形成分野のロボアドバイザー。

私がここで盲点になっていると思うのが“金融の産業支援”です。iSTCさんの持つデータをもとに生産性がどれだけ上がるかの予測が立てられるなら、企業価値や資金繰りの予想も立つはずです。そうなれば、金融機関内の格付けは変わるでしょう。それをめどに投資の意思決定ができると非常に効率的ですよね。

今まで製造業では技術的な到達点と経営の到達点にずれがありました。iSTCさんの取り組みはそこを一致させることに役立つはずです。

木村:データをとるのにコストがかかるということでスマートファクトリー化の計画がとん挫するパターンも聞くのですが、新しい分野であることもあって何から始めればいいのか、どのくらいのコストが掛かるのか分からない方も多いと思うんです。その点、うちは経営に直結するデータ活用がリーズナブルに始められますよ

松浦:地方銀行などは中小企業さんとの取引が多いんですが、最新の機械を使っている工場ばかりではないので古い機械のデータもとれるというのも重要ですね。

大畠:金融業の場合、これまで財務諸表など過去のデータから顧客を分析していたはずです。しかしIoTは過去のデータだけでなくリアルタイムのデータも取得できる。それをもとに投資する側が少しアドバイスすれば大きな効果がでるかもしれない。そうして未来の可能性も見ながら投資の判断ができるとかなりのイノベーションですよね。

福本過去のデータ、今のデータがわかればちょっと先が予測できる。それが投資につながるというのは大きなメリットですね。

終わりに

日本のデジタル化の現状とその可能性について「何ができていないのか」「何ができているのか」が浮かび上がってくるようなセミナーでした。サプライヤー、メーカー両方の当事者であるiSTC株式会社主催のイベントだからこそ、現場・経営・投資家など多様な目線から論じられたといえるでしょう。

今回登壇した木村哲也氏や八子知礼(やこ・とものり)氏といった豪華スピーカーの話が聞けるイベント『WAF2019』が名古屋では10月、大阪・東京では11月に開かれます。「木村氏や八子氏の話をもっと聞きたい!」という方、データ活用、スマートファクトリーといったキーワードにピンとくる方はぜひチェックしてみてください!

宮田文机

 

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