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少子高齢化に伴う人口減などにより、地方自体がさまざまな課題に直面している。厳しい状況を乗り越え、元気な街をつくるために、EBPM(データなどの根拠に基づく政策立案=Evidence-based Policy Making)に期待が集まっている。そんな中、国内では先駆けともいえるEBPMの取り組みが始まっている。「デジタル予算書」を一般公開した新潟県柏崎市だ。同市が国や県、他市よりも先行してEBPMに取り組む背景、そして狙いについて柏崎市の櫻井雅浩市長に聞いた。

30年間で人口は減少。交付金、税収は半減

新潟県柏崎市は新潟県のほぼ中央に位置し、日本海に面した42キロメートルにおよぶ長い海岸線と、「越後富士」とも呼ばれる秀麗な米山をはじめ、黒姫山、八石山、西山連峰に囲まれた恵み豊かな地域だ。他方、同市および隣接する刈羽村にまたがって、柏崎刈羽原子力発電所の合計7つの発電設備が建つ、世界でも有数の原発集積地という側面もある。

櫻井雅浩氏は地元の高校を卒業後、早稲田大学教育学部に進学。その後、都内の中学・高等学校で教諭を経て、1991年から4期14年間にわたり柏崎市議会議員を歴任。2016年には柏崎市長選に出馬し当選。2020年12月から2期目を務める。

柏崎市 市長 櫻井 雅浩 氏

「私が柏崎に戻ったのは今から30年前ですが、当時と比較すると市を取り巻く環境が大きく変化しています。例えば人口です。30年前、柏崎市の人口は約9万7000人でした。当時は10万人を目指すという計画もありました。しかし、その後は減少が続き、現在は約8万1000人になっています。つまり、この30年間に1万6000人も減ったのです。また、原子力発電所の電源交付金も制度が変わり減額になっています」

電源立地地域対策交付金は、原発立地地域に経済・財政的なメリットをもたらすため、1974年に施行されたいわゆる「電源三法(電源開発促進税法、特別会計に関する法律、発電用施設周辺地域整備法)」による交付金制度だ。従来は公共施設の整備などに使途が限定されていたが、2003年の法改正により行政サービスなどにも拡大された。ただし、交付金、固定資産税などの税収含め、いわゆる原発財源はピーク時に比べ、半減したという。

「柏崎市は2005年5月、高柳町、西山町と合併しました。私が2016年に市長に初当選した際に予算書を詳しく見たのですが、例えば高柳町では、人口が約1,400人と30年前の半分程度に減っているにもかかわらず、合併当時と変わらず15人程度の職員を置いた事務所を構えていました。疑問に思いデータを取ったところ、事務所にかかってくる電話は1人1本あるかないか。訪問者は1日に1人もいない日もあったのです」

しかし、単純にこれだけを取って「税金の無駄遣い」と判断することはできない。職員を減らせば、地域住民の行政サービス低下を招く恐れもある。しかし、櫻井市長は決断する。

「職員は半分に減らすことにしました。ただし、地域の住民の方にはマイナンバーカードを取得してもらい、住民票の写しなどが必要な場合は、職員が住まいまで配達するサービスを始めました」

ただ実際のところは、依頼が来たことは今まで一度もないという。こうして、もともとニーズがないにもかかわらず必要だと思い込んだり、サービス設計時と前提が変わっているにもかかわらず、人員を配置したり設備を整えたりしている例が少なくないことに気付いたという。

データは全てではない、活かしながら、より市民、より市政の課題に真摯に向き合う

「2018年には、さらに本格的な事業峻別を行いました。『市役所にしかできない仕事とは何か』『繰り返しの“お役所仕事”になっていないか』という視点で、849の事務事業について、市長である私が自ら担当者に聞き取りを行いました。その結果、24の事業を廃止、2事業を休止、76事業を一部見直しました」

それにより、事務事業予算と人件費を合わせて、約2億400万円を削減できたという。ここで注目すべきは、櫻井市長がそれぞれの判断に当たってデータを活用したことだ。

「民間の路線バス会社に補助金を出しているのですが、計算したら大人一人、1区間乗車あたり6,000円にもなっていました。市民がほとんど利用していないからです。ならば、いっそタクシーを使ってもらったほうが費用を抑えられます。一方で、高校生が毎日乗るような路線は、多少お金を使ってでも維持する必要があるでしょう」

事業を廃止するだけでなく、存続させるためにもデータを根拠にして判断した。こうして事業の見直しを進める中、櫻井市長が着手したのが「予算書のデジタル化」だ。行政の予算書は、翌年の事業の内容が記載されている重要な資料である。

厚さ3.2cm、重量1.4kgの予算書を誰もが見えるように。狙いとその先に見据えるものとは?

厚さ3.2cm、重量1.4kgにもなる新潟県柏崎市の予算書

「これまでの予算書は全て書類を冊子にしたもので、厚さ3センチメートル、重さは1キログラムもありました。市民の方にはホームページ上からPDFで公開はしていたものの、概要しか記載されていないため、どんな事業なのか知ることができませんでした」

例えば、「道路修繕事業」とだけ記載していても、どこの道路をどのように直すのかが市民に伝わらない。

「『デジタル予算書』はまさに予算書をデジタル化することで、これらの課題を解決するものです」

デジタル予算書」(写真左:タブレットの画面)とこれまでの「紙の予算書」(写真右奥)。デジタル予算書は、2021年2月12日にWebサイトで一般公開開始され、誰でも無償でアクセス、閲覧できる。その後も実施状況や実施後の評価も踏まえ随時アップデートしていくという。国内初のデジタル予算書の取り組みとして国からも注目されている。

システムは、柏崎市とオプテージ、ウイングアーク1stの3者が共同で構築した。予算書に盛り込まれた事業や金額をデータベース化したもので、事業ごとに金額や内容、評価・報告などが示される。道路の補修であれば工事の概要だけでなく、地図情報を活用し市道の場所も確認可能だ。内容(キーワード)ごと、地域ごと、といった検索も簡単にできる。

特筆すべきは、これを市民だけでなく、誰にでも利用できるようにしたことだ。「電源交付金は税金が使われています。いわば国民の皆さんのお金をいただいているわけですから、その使途についても報告すべきだと考えています」とその理由を話す。社会的立場や考え方がそれぞれ異なる中で、関係者すべてにとってベストという状態は難しい。「全員がベター」の納得感を得るためにもデータをもとにしたEBPMは欠かせない。

EBPMの取り組みが全国の自治体に広がることを期待

「デジタル予算書」の作成により、柏崎市でどのような変化が起きるのか。櫻井市長は「庁内の職員、議員、市民が同じデータをもとに議論やコミュニケーションができるようになればと考えています」と期待をにじませる。

分散していた情報をデジタルデータとして一元管理し、閲覧しやすい情報として積極的に開示すれば、事業に対する市民の理解や納得感、行政への参加意識も高まるに違いない。また、統一したフォーマットを用いることで、職員の転記作業省力化の効果も見込める。

世の中が急速にデジタル化する中、行政はデジタル化が遅れているとされる。確かに、紙の書類で情報のやりとりを行う自治体は依然として多い。柏崎市は、まさしく「行政のデジタル化」のロールモデルといえる。

一方で櫻井市長は「私はあらゆるものをデジタルにすべきとは考えていません。アナログにはアナログのよさがあります」と話し、目指すは「洗練された田舎・柏崎」だと付け加える。デジタル予算書の活用をはじめ、デジタルとアナログを融合させ、市民に分かりやすく安心できる質の高い行政サービスを提供していく考えだという。

今後に向けて、「デジタル予算書」など、EBPMに着手する自治体が増えることが期待されるが、コストが問題だと櫻井市長は指摘する。

「どの自治体も財源に余裕があるわけではありません。ぜひ総務省などが音頭を取って、自治体のデジタル化やEBPM推進のための予算を確保して後押ししてもらいたいと考えています」

機運はある。国もデジタル庁を設置するなど、菅首相がリーダーシップをとって行政のデジタル化を推進していく考えだ。総務省も地方自治体など行政のデジタル化について議論を始めており、早期の予算化も期待される。多くの自治体で取り組みが進み、標準化やプラットフォーム化ができれば、コストを抑えることもできるだろう。櫻井市長は最後にこう呼び掛ける。

「できるだけたくさんの自治体や首長さんに関心を持ってもらい、『うちもやりたい』と声を上げてほしいですね。そのためにも柏崎市で『デジタル予算書』をさらに活用し、いい成果を出していきたいと思っています」


柏崎市 市長 櫻井 雅浩(さくらい まさひろ)氏
趣味:登山、スキンダイビング、絵画鑑賞
愛読書:池波正太郎『鬼平犯科帳』
座右の銘:雨の日に笑え(アラン)
1962(昭和37)年4月30日 生まれ
1981(昭和56)年3月 新潟県立柏崎高等学校卒業
1986(昭和61)年3月 早稲田大学教育学部国語国文学科卒業
1986(昭和61)年4月 女子美術大学附属中学・高等学校教諭
1991(平成3)年5月~ 柏崎市議会議員(4期14年)
1991(平成3)年7月 SEA桜井教育研究所創業
1999(平成11)年11月~ 有限会社桜井教育アソシエイツ創業
2016(平成28)年12月6日 柏崎市長に就任

(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣/下原  PHOTO:落合直哉  企画・編集:野島光太郎)

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