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日本のデジタル変革における 平時のオープンイノベーション体制の大切さ “むこう山じゅん”の考える 「政府とデジタル・テクノロジーと私たち」

7月10日に投開票が行われる参議院議員通常選挙(参議院選挙)。自民党は比例代表での公認候補のうち女性の割合が3割を超えた。その1人、向山淳氏は、新型コロナ対応・民間臨時調査会(コロナ民間臨調)のメンバーとして、行政のデジタル化が遅れた状況について検証した。同氏はデジタル分野での政策提言を行う一方で、子ども、若者、現役世代、女性の声を政治に届けたいとし、「私たちと、私たちの子ども世代のために、自民党を使いたおす」をキャッチフレーズに掲げる。そこに込める思い、そして日本のデジタル変革に必要なことを聞いた。

         

現役世代の政治家を増やし「自民党を使いたおす」

――向山さんは国内の大手商社、カナダの年金基金などで勤務した後、米国の大学院に留学。帰国後はシンクタンクで政府のコロナ対応の検証や、デジタル分野での政策提言などにも携わっています。今回、参院選に出馬されたきっかけはどのあたりにあったのでしょうか。

向山 4年前にそれまで勤めていた会社を辞めて米国の公共政策大学院に留学しましたが、それは政治の世界で働きたいと決意したからでした。当時、30歳を過ぎて子どもをなかなか授からない経験をしていました。それでも、「子どもたちの未来のために働こう」と考えて、公共政策大学院に留学するための勉強をしていたのです。幸い、大学院の合格と子どもが同時にやってきたため、0歳児の娘を連れて2人で米国へ行きました。子育てと授業の両立は大変でしたが何とか卒業できました。帰国後、シンクタンクで政策の専門家として道を歩み始める中で、コロナパンデミックが起きました。

シンクタンクでは、コロナ民間臨調のメンバーとして、新型コロナに対する政府の対応を検証や政府のデジタル化について提言するとともに、プライベートでは保育園の休園で育児と仕事の両立が難しくなった当事者としての経験から、「コロナ危機下の育児と仕事の両立を考える保護者有志の会」を設立。同会で「緊急事態宣言後の育児と仕事の両立状況に関するアンケート」調査を実施し、調査結果の公表と提言をしました。

「緊急事態宣言後の育児と仕事の首都圏アンケート」は、新型コロナ感染症の拡大に伴う緊急事態宣言の発動により、多くの保育園・幼稚園が臨時休園していることに伴い、未就学児を持つ保護者の育児と仕事の両立状況を緊急調査したもの。この調査結果をもとにした提言も行った。

こういった、どうにかしないと、という思いから自治体や政府に必死で想いを届けておりました。機会があればいつでも出られるように準備をしていたところにタイミングが合致し、自民党の公認を得て参院選に出馬することになりました。

――向山さんの政策では、子育て関連の取り組みを最初に挙げています。

向山 日本は30年間、経済が停滞しています。その根本原因は少子化、すなわち人口が減っているためだと思います。厚生労働省が2022年6月3日に発表した2021年の人口動態統計では、日本の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)は1.30で、東京都に限れば1.08となっています。政府は「希望出生率1.8」を目標に少子化対策を推進してきましたが、現状は厳しいところです。

子どもが欲しいけれど何らかの理由で持っていないのは、経済的な要因が大きいと思います。解決策は、子育て世代にきちんと予算を割いていくことです。家族関係支出を欧州並みの対GDP比3%に引き上げることが必要だと考えています。

各国の家族関係社会支出の対GDP比の比較 出所:令和4年版少子化社会対策白書

財源の問題が指摘されることもありますが、出世率の回復や教育に対する投資は、国益につながる長期的なリターンが大きいのです。政策の優先度を抜本的に変え、「日本の未来を担う子どもたちが一番大切だ」と力強く言える国にしなければなりません。

――向山さんは国内外で仕事をされ、米国の大学院にも留学しました。子育ても両立されています。ただし、日本では依然として女性の社会進出が進んでいないように思われます。

向山 構造的な問題もあると思います。欧州では女性の社会進出と出生率は正の相関関係があるとされています。先進国の中でそうなっていないのが日本と韓国くらいです。家父長主義的な慣習が残る国では、男性は外で働いて、女性は家庭にいるといった文化的な背景があります。ただし、これも変えることができると考えています。意思決定の場に女性を増やし、男性の家庭進出も後押しする施策に取り組むことで、解決できることがあるはずです。

 

OECD加盟24か国における女性労働力率と合計特殊出生率(2009年)
この調査では、15〜64歳の女性労働力率と出生率は正の相関関係が示されている。つまり、女性の社会進出が進んでいる国ほど合計特殊出生率も高い傾向にある。この中で日本は、女性労働力率も出生率ともに、相対的に低い水準に位置する。 出所:内閣府男女共同参画局(男女共同参画会議基本問題・影響調査監視専門調査会報告書, 2012)

先日、地方のある進学校で講演授業を行いました。授業が終わった後に感想文を寄せてくれたのですが、ある女子学生が、「仕事と子育てはどちらかを選ばなければならないと思っていました」と書いていたのです。私の時代ならまだしも、今の高校生がそのように思っていると知ったのは大きな衝撃でした。将来のいろいろな夢を持っているような女子学生が「子どもを持って家庭に入るにはキャリアを諦めないといけない」と思っているのはすごくつらいと思います。「両方できるんだよ」と言ってあげたいと思いますし、そのために国も頑張らなければならないと思います。

向山氏のインタビューは2022年6月30日オンラインで行われた。

私が政策に「自民党を使いたおす」と掲げているのもそのためです。政治の現場では若者・現役世代や女性の声は後回しにされてしまいがちです。そうしないためには、政策を実現することができる与党である自民党で、中から声を上げ政策に反映させることが必要です。私たちが、次の世代のためにしっかりと「自民党を使いたおす」。これが、私が実現したいことです。

新型コロナ対応で日本が抱えるデジタル変革の課題が露呈

――向山さんの政策には「イノベーションで日本を強くするために」という項目もあります。向山さんは、コロナ民間臨調のワーキング・グループメンバーも務められました。同調査会が発行した報告書では日本のコロナ対応に関して、日本の「デジタル敗戦」といった厳しい指摘もあります。日本のデジタル変革における課題をどのように捉えていますか。

向山 同調査会は日本の新型コロナウイルス感染症に対する対応を第三者の視点で検証する取り組みを行いました。私たちが目指したのは、決して正論を書くことではありません。自分が政策当事者になったとき、その立場での制約がたくさんあるということを理解した上で、エビデンスにもとづいて考えれば別の選択肢があったのではないかと、現実論で建設的な提言をするように心がけました。

新型コロナ対応・民間臨時調査会 調査・検証報告書
2020年10月に刊行された『新型コロナ対応・民間臨時調査会 調査・検証報告書』では政府責任者等83名を対象に延べ101回のヒアリングとインタビューをもとに、官邸(内閣官房)、厚生労働省、内閣府、経済産業省などの政府、専門家会議、都道府県、医療関係者は、この難局をどう乗り越え、成果を上げたのか。ベストプラクティスは何か。あるいは、対応がうまくいかず、課題を残したところはどこか。教訓は何か。それらを検証した調査・検証報告書。

 

当事者の方たちは誰も、失敗しようとしてやっていません。一人一人が目の前の危機をなんとかしたいと思って動いているのですが、それがなかなかうまくいかなかったのです。

――コロナ民間臨調の報告書では、デジタル変革は技術的な問題以上に、国民とのコミュニケーションや、組織、人材などの適応課題の領域が重要だと指摘しています。

向山 調査を行う過程で感じたのは「平時のオープンイノベーション体制」の大切さです。人材、データなどのリソースを危機の際にどう使えるかは、普段からのネットワークや関係性の蓄積以外にあり得ないということを痛感しました。世の中にはこんなテクノロジーがあると机上で言っているだけでは、いざというときに使えません。平時から仲間を増やしておく必要があります。そのためには、民間の力を借りるだけでなく、コネクションを持っている官僚や政治家を増やさなければなりません。

私はコロナ民間臨調以外でも、テクノロジーの社会実装、スマートシティ、行政のデジタル化などについて執筆・提言を行っています。日本のデジタル化をリードしている企業の方などにお会いし話を聞く機会もたくさんあります。私自身はエンジニアではないので、人をつないでソリューションや政策をつくっていくのが役割だと感じています。

政治家が仲介となり政策づくりのエコシステムをつくる

――「自民党デジタル社会推進本部 NFT政策検討PT」は2022年3月、「NFTホワイトペーパー(案) ~ Web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略 ~」をとりまとめました。PTには向山さんも参加したそうですね。Web3.0やNFT(非代替性トークン)に関して、政府与党が率先して指針を出したのは注目に値します。

向山 PTの座長は平将明衆議院議員、事務局次長は塩崎彰久衆議院議員です。塩崎議員はコロナ民間臨調の主査を務められていました。そのご縁で「NFTホワイトペーパー」も手伝ってほしいとお声がけいただきました。

「NFTホワイトペーパー」の冒頭には、「Web3.0時代の到来は日本にとって大きなチャンス。しかし、今のままでは必ず乗り遅れる」と書かれています。米国では大統領令でWeb3.0の指針づくりを始めています。英国でも同様です。

2022年3月に発表された「NFTホワイトペーパー(案)〜Web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略〜」では急拡大するデジタル経済圏への期待と日本の現状への危機感を踏まえつつ、6つのテーマ・24の論点について課題と提言が整理されている。現在は案の段階で今後、定期的なフィードバックを受けながら、アップデートしていく予定とのこと。 出所:平将明衆議院議員サイト

日本はこれまで「デジタル敗戦」が続き、GAFAなどのプラットフォーム企業にも水をあけられています。成長産業に乗れていないという危機感が政府与党にあると感じます。これまでなら日本は各国の動向を見ながら指針を考えたり、リスクがあれば既存の規制に当てはめていったんは「ノー」と言うことが多かったのですが、リスクを取ってでも遅れを取るまいとする姿勢がうかがえます。

――先ほど、民間のテクノロジストと政治、その先の国民を仲介者としてつなぐことが向山さんの役割だという話がありました。2021年9月にはデジタル庁も発足しました。向山さんはデジタル庁にどのような期待をしていますか。また、ご自身として日本の課題を解決するためにどのような取り組みを進めていきますか。

向山 私が政治家になったり、永田町に入ることでミイラ取りがミイラにならないようにしたいと考えています。

平議員や平井卓也議員(前デジタル相)などは、外部のテクノロジストやスタートアップ企業と常に接点を持っています。それはとても重要なことだと思います。

日本の社会を動かすのは政治家ではなく、民間や社会起業家です。一人一人が社会をよくしたい、物事を変革したい、新しいサービスを出したら面白そうといった「思い」によって、世の中が動いているのです。政治家の役割は、そこでの足かせをなくしていくことだと思いますし、国として投資し、基盤を整える必要を感じています。主役は皆さんなのです。テクノロジストや企業の皆さんにも、自民党を使いたおしてほしいです。

社会課題も技術も時代とともに移り変わっていく中で、政治家の論理でなく、世の中の民間の論理を前提に政治家がコーディネーターになる時代になると感じています。「政策起業家」という言葉があります。行政・議会の外から民間の立場で政策に影響力を与えていくプレーヤーのことです。「NFTホワイトペーパー」は、官僚ではなく、外部の専門家がチームを組んで取りまとめられました。今後も政策づくりに民間の声を生かす機会が増えてくるでしょう。私自身もアンテナを高く持っていなければならないと思いますし、逆にそういうオープンイノベーションの仕組みを整備していくべきだと考えます。

向山氏がシンクタンクで運営をしていた「政策起業家プラットフォームPEPサミット」における、政策起業家たちの議論の様子(写真:一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ)

私は、デジタル庁の発足は「一つの大きな社会実験」だと捉えています。スタートアップの企業の方々、エンジニアの方々がデジタル庁に入り、逆に霞ヶ関の官僚が外に出て行くといったような、行政と民間を行き来する「リボルビングドア(回転ドア)」の仕組みをエコシステムとしてつくろうとしています。

私自身も、私たちとその子ども世代の政策を実現するための大きな挑戦です。責任意識を持ってやっていきたいと考えています。

 

向山 淳(むこうやま・じゅん)氏
慶應義塾大学法学部政治学科卒業、ハーバード大学公共政策大学院修了。2006年に三菱商事株式会社入社、主に金融部門で、発電所や港湾などの海外政府の民営化インフラ資産を対象とした買収や年金運用に携わる。2013年から2015年まで日本人で初めてカナダ・オンタリオ州公務員年金基金(OMERS)に出向し、戦略投資部門で中小企業再生等に従事。2019年9月より一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)主任研究員。国会議員政策担当秘書資格 保有。APIでは、「PEP」政策起業家プラットフォームをプログラム・ディレクターとして立ち上げ。新型コロナ対応・民間臨時調査会(コロナ民間臨調)ではデジタルを中心とした「政策執行力」を検証。テクノロジーの社会実装研究会の事務局として馬田隆明著『未来を実装する』の構想を支える。

 

(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣/下原  企画・編集:野島光太郎)

 

 

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