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日本の企業全体でDXの役割が注目を浴びるきっかけとなったことの1つに、2018年9月に経済産業省から発表された「DXレポート:ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開」(略称:DXレポート)がある。DXレポートには”2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性”と記されており、中小企業が全体の99.7%を占めている日本において、中小企業のDXが進まなければ、近い将来莫大な経済損失を招くことは明白だ。そのようななか、一体どれほどの企業が「DX」というキーワードに対し、当事者事と認識し、自ら推進していけるだろうか。自治体においても、中小企業に寄り添った形で伴走し、DXを推進していく活動は急務であるといえる。
神戸市では、中小企業に向けて経営課題にフォーカスしたDXを推進する活動を行っている。多くの人はDXへの第一歩としてITツールの導入をイメージするかもしれないが、それ以前に、それらを使いやすくする仕組みや、DXに取り組むハードルを下げる動きが必要だと、神戸市の熊木さんは指摘する。マッキンゼーの調査でも、テクノロジーと技術の前に、それを活用する組織や、人材、リテラシーが重要であることが挙げられている。
熊木さん「神戸市の工業課では、市民や中小企業に向けたDXサポート全般、特にアドバイザーの派遣などを中心に行っています。もともと工業課はIoT推進ラボの事業を担っており、兵庫県と一体で中小製造業に向けた業務効率化や生産性向上の取り組みを担当していた部署でもありました。経済産業省によるDXレポートの発表をきっかけに、より製造業に限らない市内中小企業に向けたDX強化の取り組みを、工業課主体で強化することになりました。
企業でDXを進めるにあたって、単にITツールを導入するのみでなく、業務自体の改革や、現場サイドの抵抗という問題を乗り越え、いかに『実行するか』が課題だとされています。神戸市長である久元もDXに対してはアンテナを張っており、業種業態や企業規模関係なく、中小企業の皆さまに向けてこのような機会をチャンスと捉えていただく動きを具体的に進めていこう、という一体感から生まれたことが市民に向けたDX強化の背景です。」
そこで発足したのが、神戸市中小企業 DXお助け隊(以下DXお助け隊)の事業である。神戸市内の中小企業の課題を把握し、DXの導入支援を行うことにより、企業の状況に応じた課題解決を図る取り組みで、昨年2021年から活動を開始している。神戸市内の幅広い業種の中小企業に対するDX導入支援を行うということが、事業の活動目的である。具体的には、6つの支援メニューを用意している。それぞれが企業の生の声から生まれた支援内容であり、これらの施策を企業目線で実施したことが功を奏しているという。
DXに関する情報提供を行うと同時に、中小企業向けのDXガイドラインを作成して掲載。初心者でもわかるように、「ゼロから学ぶDX」のようなコンテンツから始まり、業種別、企業規模別のDXの取り組みを紹介している。
Webサイト:https://kobe-DXotasuketai.jp/
2021年度は6回開催し、市内の中小企業関係者ら400名程度が参加した。DX戦略から、導入のワークショップまで幅広いテーマで開催されている。
専門アドバイザーによる伴走型の支援は、事業の最も大きな柱になる部分だ。補助金を受け取る場合、このDXお助け隊の伴走型支援も受けることが必須となっている。DX化は、目先の利便性に合わせたITツールの導入ではなく、中長期的な経営の視点で導入することが重要であることは先述したとおりだが、そのために現状の課題を洗い出すところから始まる。専門アドバイザーとなる中小企業診断士とともに、ITが解決策になると判断すれば、ツールを選定し、導入後までサポートを行っていく。
この事業の特徴は、アドバイザーからの支援は無料で受けられ、回数も企業の状況に合わせて柔軟に対応できる点だ(システム導入にかかる費用などは企業負担)。企業の状態に合わせ、専門アドバイザーが5~10回にわたり、伴走型で支援を行う。JCSと診断士が一丸となることで、効果的な伴走型支援が可能となっている。
熊木さん「DXの最も重要かつ大変な点は、部署間や、経営者と現場とのギャップを埋める作業だと考えています。そういった面で、DXお助け隊という取り組み自体が、組織間の意識のギャップを埋め合わせできるようなポジショニングを取っていきたいのです。中小企業は人数が少ないため、社員同士がコミュニケーションを円滑に取れている印象があるかもしれませんが、必ずしもそうではないことがわかってきました。だからこそ、DXお助け隊が入ることにより、ツール導入の際にもあくまで中立的に推進していくということを大切にしています。」
伴走支援の流れ
神戸市では、国からのIT補助金とは別に、独自のDX推進支援補助制度を設けている。もちろん、兵庫県等の補助金制度なども並行しては受け付けてはいるが、観光事業が盛んな神戸市ならではの特色を生かした助成を行うなど、兵庫県とは産業構造という点からも審査の基準が異なってくる。まだ陽の目が当たっていないが可能性を秘めている中小企業など、まずは神戸市内から将来的にモデルケースとなる企業を創出する目的だ。
事例報告会では、自治体主体でDXの推進を主張するのではなく、成功している具体事例を見せることが効果的だ。他の企業に横展開できるよう、発信の場として事例報告会を開催している。
堀内さん「我々は、アドバイザーのことを『隊員』と任命しています。親しみやすさを込めているという意味もありますが、経営課題とDXを両軸からサポートし、総合的に隊長として指揮を執り、伴走支援する隊員がいることで、客観的な目線で従業員の方を巻き込んでいけるのだと思っています。ツールのプロフェッショナルであるITベンダーが間に入っていただくことは心強いのですが、どうしても中立性が下がってしまうという懸念もあります。また、経営課題に応じ、企業ごとにカスタマイズした提案が必要となります。将来的にITツールを導入する際に中立の目線で見ていただけるという点からも、中小企業診断士の方が最適なのではと考えました。」
堀内さん「コミュニケーションにおいても、DXお助け隊が入り、しっかり現場の声を吸い上げるような工程を踏み、なぜこのITツールが必要なのか、DXお助け隊の視点からお話させていただくとともに、DXの先には利益を生んで従業員へ還元するという経営の一環であることを現場に伝えるというような橋渡し役が必要です。そうすることで現場の方の納得感も高まってきていることを感じます。」
近藤さん「実際に支援をさせていただいたある企業では、新たなITツールの導入に現場から否定的な意見が出てきたことがありました。支援の初期段階にDXお助け隊が入って現場の方々の意見を出し合う時間を設け、現場の悩みを解決するためにツールを導入すること、ツールを導入することが結果として社員に還元されることを伝える場を設けました。結果、現場に納得感がでたことでその後のツール導入をスムーズに進める一助になったというお声をいただきました。」
「DXお助け隊」は、企業規模としては社員数30~50名程の企業担当者から手が多く挙がっている。それに対し、社員数4名~5名の企業規模であれば、DXガイドラインを説明したとしても、やはりまだ手を出すには早いという印象があるようだ。その裾野を広げたい思いから、「きっかけを作る」ことに特化した「神戸市中小企業DXきっかけづくりお助け隊(以下DXきっかけづくりお助け隊)」も、DXお助け隊発足からわずか10か月で発足。このように神戸市工業課では短期間に学びを生かしながらPDCAを回し、次の打ち手を出している。常にアジャイル、スモールスタート、改善、失敗から学び、より良い方法を目指し実践するDXの在り方を実現している。
担当者はDXに対し、それぞれのフェーズで課題を持っている。①興味あるが、どこから手つけていいかわからない②ITツールを導入したい、もしくは始めているが上手く進んでおらず、助言が欲しい③専門部署があり、DX化に向けてITツールを運用しているが、運営後に不安がある。DXお助け隊との2段構えで、このような段階ごとの課題を解決できるよう、幅広いサポート体制を築いている。
熊木さん「経済産業省は、DXの定義を『ビジネス環境の変化に対応し、デジタル技術を活用してサービスやビジネスモデルを変革するとともに、業務、組織、企業文化、風土を変革し、競争の優位性を確立すること』と掲げています。
このような定義を、企業の皆さまがすぐに理解することや、すぐに行動に落とし込むことは難しいだろうと考え、どのように噛み砕いて市民に伝えるべきかを検討していました。実際に、言葉自体にハードルが感じられるという声が挙がってきたり、当事者意識を持てない方が多かったように思います。そのため、よりハードルを下げ、DXにまず取り組むきっかけを作る支援をしたいということから、DXお助け隊の後継となる、今年の2022年度からDXきっかけづくりお助け隊事業が立ち上がったのです。」
熊木さん「並行して実施している補助金事業は、おかげさまで企業の皆さまからも好評いただいており応募件数も増えてきました。ただ、この補助金は企業課題に対し全てをサポートできるものとは考えていません。この補助金は100万円が上限であり、実際にDX体制を整えるとなると、100万円では決して足りないと考えています。あくまでDXに取り組むきっかけとして100万円をお渡しする。そしてこれをきっかけにして、国のIT補助金などを検討するなど、選択肢を広げるような活用をしていただけたらと思っています。
昨年実績は、DX補助金が17件の申請で、採択した企業は7件でした。自由度が高い補助金ではある一方、DXに資するものであるかという点は、しっかり審査したうえで採択する補助金になっています。」
DXの本来の目的は、効率化だけで終わらず、そこから新たな価値を生みだすことでもある。神戸市の支援を受けた企業のなかには、生産管理システムを入れることで問い合わせが増えたという声をはじめ、すでにITを活用した新しいサービスを創出する企業も出始めているという。
熊木さん「ある資材の卸を行う企業が、DXに取り込むことにより、将来的に資材卸のプラットフォームを作るという展望を話してくれました。他にも、とある観光・サービス関連の企業が、お客様の声を聞くアンケートの部門をデジタル化し、サービスやおもてなしに生かしているといいます。現在新型コロナウイルスの影響で人材不足に直面しており観光業が非常に厳しいなか、お客様のサービスのクオリティは保ちながら、なるべく事務的な業務の効率化が求められています。そういった新しい事業変革の部分に、様々な声を集めて推進している企業もあり、積極的に支援していきたいと考えています。またそういった事例を集めて発信し、他の企業様の参考となるよう横展開できればと考えています。」
小山さん「販売管理システムの導入を検討していた支援先企業様では、予算に見合うシステムを自社単独で導入するには至りませんでした。ですがDXお助け隊の支援により『機能と金額のバランスをとってシステム導入を進めることができている。事務作業を効率化し、生産性の向上が見込めそうだ。』とのお声をいただいております。導入システムを決めた後も、導入・運用に向けて引き続き支援を行っています。」
神戸市工業課が方針を示し、JCSと中小企業診断士であるアドバイザーが支援企業と一緒に汗をかきながら、伴走型支援を実現している。DXお助け隊や、DXきっかけづくりお助け隊の活動はまだ発足から1年ほどで、今は目の前の課題解決に取り組んでいるが、将来的には、プラットフォーム化などを実現し活用を広げることで、より多くの中小企業をサポートしていきたいという展望があるという。
日本コンベンションサービス株式会社
神戸市中小企業DXお助け隊/神戸市中小企業DXきっかけづくりお助け隊 隊員 小山裕衣氏(写真左)
神戸市中小企業DXお助け隊/神戸市中小企業DXきっかけづくりお助け隊 隊員 近藤ほのか氏(写真中左)
神戸市中小企業DXお助け隊/神戸市中小企業DXきっかけづくりお助け隊 隊長 堀内暁彦氏(写真中)
神戸市経済観光局
工業課 担当係長 熊木俊寛氏(写真中右)
工業課 加藤周作氏(写真右)
聞き手:角本栞
大学卒業後、マーケティング・広報専門メディアに入社。広告企画営業、編集者やライター育成の講座、イベント運営などを経験。その後都内PR会社で人材・働き方を軸にしたPRコンサルティングを担当。イラストを勉強中で、透明水彩バーを開催するなど。実家は兵庫県西宮市。
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