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Miroと聞くと「あぁ、オンラインでホワイトボードのように付箋を貼って議論ができるツールだね」と思い出す方も多いかもしれない。2011年に始まったこのサービスは、現在全世界で6,000万人が使うまでに成長している。しかし、現在はサービスのポジショニングを「イノベーションのためのワークスペース」にシフトしていると安間氏は語る。
「多くの企業で経営者はイノベーションを優先事項に挙げながらも、『イノベーションのパフォーマンスに満足しているか』と問われると10%以下しか満足していません。イノベーション自体が生き残りのための戦略になりつつあるのですが、実際にはそれが出来ていないのです。
理由は、企業におけるイノベーションの研究における第一人者であるクレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』に詳しいですが、組織がサイロ化して分断されていてコラボレーションを阻み、コンテキストが共有されていないから。協力するためにはツールやプロセスを共有することができないとイノベーションは失敗します。そんななかでBCGの調査で『世界で最も革新的な企業トップ10』でイノベーションに明るいとされる10社中の7社がMiroを活用しているのです」
Miroは付箋を貼るオンラインホワイトボードから機能も充実して、プロジェクト管理用の各種テンプレートを提供していたり、ワイヤーフレームの作成ができたり、Microsoft TeamsやSlack、Jiraなどの外部ツールとの連携もできる。昨今では、Microsoft Azure OpenAI Serviceと連携したMiro AIも搭載され、付箋のキーワードから画像生成ができたり、付箋の内容を要約したり、マインドマップを作成したりできるようになっているのだ。
分断された各種ツールをMiroが繋げて、コミュニケーションの壁を取り払い、アイデアを集約する。そして、これまで様々なチームで起こっていた『車輪の再発明』をせずに、実践上で試すことができるツールであるのだ。しかし、安間氏は「どのようにコミュニケーションを取るかが最も重要なポイントになる」と指摘する。
安間氏がそう語る理由には、自身のこれまでの経験が大きいという。
「私自身は新卒で日系の商社に入社して、システムエンジニアとしてキャリアをスタートします。その後、Red Hatという外資のオープンソース・ソリューション企業で15年弱ピープルマネージャーとして、カスタマーサクセスやサポートに従事します。
その時は日本のチームだけでなく、アジア・パシフィック全体を統括する形になりました。メンバーはオーストラリア、シンガポール、中国、韓国、インドと散らばっていましたから、その間は随分と飛行機に乗って各国を訪問して『ちゃんと仕事しているのか?』を確かめに出張していました。自分自身も静岡県に移住したこともあり、2010年代前半にオンラインと対面の『ハイブリッドワーク』を先駆けて行っていたわけです。
ただ、途中で気が付きました。『これ、マイクロマネジメントするのは絶対無理だな』と。言葉の問題もあるのでなおさらです。メンバーを信頼する前提で仕事をしないと自身が破綻します。フィードバックはポジティブな話から入らないと人間関係は作れません。よく『5回ポジティブな話をして1回本質的なことを言いなさい』といった言説もありますが、もっと細かくポジティブなことをフィードバックしないといけないと思いました。
とはいえ、違う国に住んでいるマネージャーが自分の仕事に気にかけてくれるのは嬉しいものですよね。マネージャーだった10年間毎日テキストチャットツールでメンバーに向かって『おはよう!』と声をかけたり、ヤマハの10人会議室用のスピーカーに投資して自分の声のクオリティを上げ、ビデオ会議中の自身のプレゼンスを上げて相手の会議体験の品質を圧倒的に上げたりと、本当に試行錯誤していましたね。コーチングやメンタリングスキルを学んで実践したら非常に効果が出ました。チームの離職率も5年間で1名程度と非常に低い結果になったのです」
その経験は現在Miroでカスタマーサクセスチームを立ち上げるなかでも、役立っているという。
「実は私Red Hatの次に『カスタマーサクセスを極めるならSalesforce』と思ってSalesforceに転職した時期もあります。コロナ禍でしたから、100%リモートの環境でオンボーディングのプログラムも洗練されている。ただ、『なにかがしんどい……』と思っていました。会社の人に一切会わずに物事が進みますから、私自身も組織から『疎外感』を感じていましたし、会わないことでの『コミュニケーションの効率低下』も大きかったのでしょう」
いわばRed HatやSalesforceで安間氏が行っていたのは「がんばるマネジメント」である。マネージャーが意図的にメンバーに気を配り、適切にフィードバックを行い組織をマネジメントする。しかし、コロナ禍で物理的に会えないこともあり、安間氏の徒労感は大きいもの。結果、自身にも負の影響が出てしまったのだ。
「そんな折にMiroを見つけて『足りなかったのはビジュアルで伝えられるコミュニケーションだ!』と思ってMiroに出会い入社したのです。カスタマーサクセスチームの立ち上げをするなかでも、ビジュアルを意識したコミュニケーションを意識しています。
よく『カスタマーサクセスは正解がない』と言われます。ですから、単純に業務を遂行するだけではダメ。私の場合、毎週月曜日はチームメンバーや上長との1on1Dayに置き、金曜日はCSメンバーが集まるCSDayでの定例で、2~4時間かけて今の課題やアクションを考える議論をする時間を設けています。
そして、このCSDayでの組織学習を効果的にも進めるために、CS読書会も別途開いています。一人ひとりに業務として1時間で読んでもらい、それを読書会の場では1人5分間で本の内容についてプレゼンをする。『この本をなぜ選んだのか? 自分自身がこの本をどのように読んで理解したのか?』を話すと、『あ、この人はどんなときにモチベーションが上がるのか。こんなバックグラウンドがあったのか』と理解できる。書籍や感想を媒介として、自己開示を促し、自己効力感を向上させ、心理的安全性を醸成することで、チーム全体の組織学習の土壌を整えています」
自己開示を行う際、何かを媒介として使うことは有益。CS読書会では、読んだ本が“バウンダリーオブジェクト”となり、「境界をつなぐ」役割を果たしている。こういったワークを取り入れてMiroでアクションを行うことで「がんばらないマネジメント」が可能になる。マネージャーが気を配ってフィードバックをせずとも自然とマネジメントが回っていく形になるのだ。
「あと、四半期に一度行うチームのオフサイトでは『人生を振り返る』という自己開示のなかでも重いワークをやっていたりします。学生時代から社会人になって、どう仕事をして、プライベートではどんなイベントがあって過ごしてきたのかを開示する。これもMiroで波長のグラフを描いて開示するとチームへの信頼感が醸成されていきます。
あと、自分自身を株式会社に置き換えて、『株式会社〇〇のミッション・ビジョン・バリューを考える』といったワークをやったりもしました。
私自身はよくOPTモデルで人の価値を知ることをしています。Oはオーガナイゼーションで組織に求められるジョブディスクリプションを書くもの。Pはパッションで、その人が情熱を注げるもの。Tはタレントで、その人の長所。自分自身がどんなパーパスやキャリアを持っているかを付箋で描いて貼っていくことでより個人のパーパスを理解できます」
働き方はリモートワークとオフィスに出社をするハイブリッド形式にしているそう。オンラインMTGツールを提供するZoom社も昨今フルリモートではなく週2回出社を決めたことで話題になったが、オフラインとオンラインでのやり取りに加えてMiroのようなツールを組み合わせて、ここまでチームビルディングを念入りにすること。これによって身体性や同期性を伴わなくても偶然に別の価値を見つける「セレンディピティ」を実現しようとしているのだ。
「組織変革での観点でお客様にどう還元をするのかを議論していくと、形式知を表出化して連結化して、暗黙知を内面化して共同化するという『SECI(セキ)モデル』が出てきました。『何が良いとされるのか?』という良さの探索と、『どう体現されるのか?』という良さの体現の双方について仮説を持って回していく。Miroがそれを支えるツールになっています。
議論をする中では何が『良さの探索』か『良さの体現か』をマッピングしながら、時系列で議論をしていきます。カスタマーサクセスにおいても、使い始めたばかりなので操作法をレクチャーする『オンボーディング期』と、自社での使い方の最適化を考える『アダプション期』、そして、他部署にもより展開していくための『スケール期』に分けて考えています。Miroのようなツールはアーリーアダプターのような人には、『あ、これ使いやすい』とすぐに触ってもらえます。でも、もっと使ってもらえるためにはレイトマジョリティやラガードの層が使いやすいことも重要。ですから、そのための仕組みを作って行くのです。最初は仮説もなにもないですが、一つHowを作ると成果が出やすいですね。
オンボーディング期のお客様においては、使い方のウェブセミナーなどを充実させて、CSのメンバーが直接やり取りをしなくても学んでいけるような仕組みを整えていきました。アダプション期のお客様向けには『プロジェクト管理』『要件定義』『詳細設計』などさまざまなシーンに向けたボードのテンプレートを作って、実際にお客様にレビューをしてもらい使ってもらいながら、常にブラッシュアップをできるような形にしています。営業部隊とも連携して、お客様に応じて作戦ボードを作っていたりしますね」
様々なニーズに合わせてテンプレートを作る動きがあり、それを直接クライアントに当てて確認すれば爆速で仮説と検証を回すことができる。その秘訣はMiroで作業することである。
「やっぱり、Miroボードがあるから、各メンバーの作業場があり、付箋でコメントを残すことができるので非同期的なコミュニケーションもできる。付箋をキレイに書くのは重要ではありません。昨今では『こんなこと思いついた!』というのを録画のTalktrackに残しておく。それをメンバーは倍速で聞けばキャッチアップもすぐにできます。
チームのマネジメントを考えたとき、目標を設定してチームメンバーを鼓舞して頑張って成果を出して……という構図になりがちです。でも、Miroを使って議論をしていくと、頑張らなくても自然と成果が出てくる。この構造が良いと思います。イノベーションを阻害している日本企業の情報のサイロ化もMiroを使うことでなくなっていく。
お客様にヒアリングをしているなかでは『Miroがあるとオンライン上に会議室が一つ増えた感じがする』という声をもらいます。ボードが部屋になっていて、各メンバーがそこで作業をしている、自然と共有ができてアイデアが募られていきます。あと、『Miro触ってて仕事が楽しい』という声もたくさんいただきますね。ビジュアルでのコミュニケーションがあることで、流れを変えていく。色々なツールを画面上で言ったり来たりしながら使っているとコンテクストを変えるスイッチが必要で思考には負担がかかります。Miroの利点はそのコンテクストスイッチが減るので脳への負担が減り、もっと創造的に生産的なことができるのです」
Miroを使うことで自然と業務を頑張る事ができて成果が出ていく。そんなマネジメントが可能になる時代がすぐそこに来ている。そして、Miroが更に進化しそうなのはAIである。
「コンテンツに対して質問をして、要約したり、議事録を作ったりという機能があります。また、スライドやプレゼンテーションの絵を作る機能や、付箋のデータを分析する機能の拡張も予定されています。今後のリリースにご期待ください」
ビジュアルでのコミュニケーションが、今後ビジネスにどんな良い影響を及ぼしていくのか。これからの未来に期待だ。
(取材・TEXT:上野智 PHOTO:渡邉大智 企画・編集:野島光太郎)
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