米国のビッグ・テック5社をまとめたFAANG(Facebok、Amazon、Apple、Netflix、Google)の一角を占めるNETFLIX社。日本では同社を含まないGAFAの方がおなじみですが、アカデミー賞でディズニーやソニーを抑えて最多ノミネートを果たし、事業開始から約13年で有料会員2億人を抱えるまでに成長したその経営術や戦略は参考にすべきです。
そんなNETFLIXの組織づくりについて取り上げ、2020年末に話題となった書籍が 『NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX』(日本経済新聞出版)。
この記事では、同書の内容・面白さを紹介するとともに、現代の組織論で進化型組織と称される“ティール組織”との関連性についてもご紹介します。
※NETFLIXの成長の歩みについてはコチラの書評記事をご参照ください。
『NO RULES』『自由』という言葉を見て、「ルールや制約の少ない組織作りが行われているんだろうな」と察しがついた方は多いでしょう。
──その予想は、当たっています。
しかし、『NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX』(以下、『NO RULES』)でわかるのは、1997年にアメリカ・カリフォルニア州スコッツバレーでわずか8人が始めたこの企業は我々の“予想を超えて自由を徹底している”ということ。
・休暇規定なし(いつ休みいつ働くかは完全に自由)
・出張旅費・経費の承認プロセスなし
・意思決定において上司の許可を得る必要なし
・社員にヘッドハンターとの面談を奨励する
・損益計算書の読み方を教え、財務情報を社員に共有する
これがNETFLIXの自由のカルチャーです。もしかしたら、あなたは「こんなことをしたら全員が休みすぎ、または逆に人目を気にして休みが取りづらくなるのでは?」「会社の経費を湯水のごとく使う社員が現れるリスクにはどう対処するの?」など疑念を呈し立てたくなったのではないでしょうか?
しかし、NETFLIXにはそのような問題を抑制する仕組みがあります。ここでのネタバレは控えますが、そもそもの前提として「カルチャーに合致する優秀な人材を集める」という条件があります。
とはいえ、最初はDVD郵送サービスを手がける小さな企業に過ぎなかったNETFLIXがそれを実現させ下図に現れている通り、動画配信市場のトップランナーへと変化し、コンテンツの評価・業績ともに向上させてきたのはご存じの通り。また、人材の質によらず真似できる制度・文化も多く存在します。
【動画コンテンツ配信サービス市場におけるグローバル契約数ランキング(2018)】
※引用元:動画配信サービス市場を徹底解説、勝者はアマゾン?NETFLIX?ディズニー?┃ビジネス+IT
ここまでNetflixの組織文化を見てきて、こう感じた方も多いのではないでしょうか?
──典型的な日本の大企業のイメージとまるで逆だ!
そのことは『NO RULES』でも指摘されています。
同書Section4「グローバル企業への道」で掲載されている以下の図をご覧ください。
引用元:・リード・ヘイスティングス (著), エリン・メイヤー (著), 土方奈美 (翻訳) 『NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX』kindle版 日本経済新聞出版、2020、ロケーション5148の4544
これは、ある集団の文化を共通の指標で比較するために用いられるカルチャー・マップというフレームワークで日本とNETFLIXの文化を比較した図です。日本が右ならNETFLIXは左……とまさに両グループの文化がほぼ真逆であるがよくわかりますね。
しかし、決してこの図を用いて日本の文化が批判されているわけではなく、NETFLIXがグローバル展開するにあたってやり方をローカライズするための材料としてカルチャー・マップが用いられているということです。NETFLIXのカルチャーに従って日本の社員に上司への率直なフィードバックを求めたところ、その社員が上司に意見を述べるプレッシャーに耐え切れず泣いてしまったというエピソードも同書にて紹介されています。
日本の組織文化も変わってきてはいるものの、自由で率直な文化をそのまま取り入れればいいというわけではないというのは覚えておきたいところです。ちなみにNETFLIXは、日本のような間接的な表現を好む文化圏では、周到な準備の機会を与え、正式な場を設けることで、率直なフィードバックを可能にしたということです。
NETFLIXのカルチャーを知るにつけ、想起されるのが「ティール組織」です。
アメリカの組織研究者フレデリック・ラルーは組織を段階を経て進化するものとして捉え、現代において萌芽しつつある進化型組織を「ティール(青緑)組織」と名づけました(詳しくはコチラ)。
・セルフマネジメントを重視し、ルールをなるべく設けない
・従来のような権力のピラミッド構造が存在せず、役割は流動的に変化する
・率直な情報共有・フィードバックを重視する
上記のようなポイントにおいてNETFLIXとティール組織は共通しています。まるでNETFLIX創業者のリード・ヘイスティングスがティール組織の概念を知り、自社に導入したかのように(ティール組織の概念を世に広めた書籍『Reinventing Organizations』は2014年に出版されたため十中八九そうではない)。ちなみに、「率直さ」を重視する文化は世界的アニメーションスタジオピクサーとも共通しています。
ティール組織は現代の一歩先の段階にある組織の形であり、該当する組織は非常にまれです。ですが、FAANGの一角であるNETFLIXがここまで当てはまるのであれば、ティール型組織が大きな成果につながる未来型の組織として成り立つという説の信憑性も高まります。また、逆の目線からNETFLIXの組織文化は特殊なものではなく、組織の進化における必然であると考えることもできるでしょう。
だからこそ、自社や日本文化には合わないと無視せず、ローカライズしつつも取り入れていく姿勢が求められます。
世界的IT企業でありコンテンツメーカーであるNETFLIX。その“自由を徹底する”文化について紹介する書籍『NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX』についてご紹介しました。
すぐにNETFLIXのように「ノールール」な企業にしていくことは難しいかもしれません。しかし、企業がティール組織化していく流れは続いていきます。そんな中でNETFLIXの制度やカルチャーは貴重な参考事例となるはず。
『NO RULES』はそのための資料として現在最もおすすめの書籍だといえるでしょう。普通に読み物としても面白いですよ!
【参考資料】 ・リード・ヘイスティングス (著), エリン・メイヤー (著), 土方奈美 (翻訳) 『NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX』kindle版 日本経済新聞出版、2020 ・フレデリック・ラルー (著), 嘉村賢州 (著), 鈴木立哉 (翻訳)『ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現 Kindle版』英治出版、2018 ・ジーナ・キーティング (著), 牧野洋 (翻訳) 『NETFLIX コンテンツ帝国の野望―GAFAを超える最強IT企業― Kindle版』新潮社、2020 ・米アカデミー賞、NETFLIX作品が最多ノミネート┃日本経済新聞 ・NETFLIX、会員2億人突破 10~12月の売上高2割増┃日本経済新聞 ・わずか8人で中年サラリーマンが起業したネットフリックス、成功の秘密┃BOOKウォッチ
(宮田文机)
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