一般的な教育メソッドでは、教師と児童、生徒は上下の関係にあり、教師の役割は子どもに情報を与えることであり、子どもは知識を教え込む対象と考えるケースがよく見られます。
ものを考えるには最低限の基礎知識が必要なので、このような教育スタイルには合理的な面もあります。ただ、行きすぎてしまうと、いわゆる「知識詰め込み型」教育の弊害が生まれる可能性があるのです。
20世紀初頭にイタリアで活躍したマリア・モンテッソーリ博士が提唱した教育メソッドである「モンテッソーリ教育」は、このような一般的な教育とは一線を画しています。
モンテッソーリ博士は、ローマ大学を卒業した初めての女性医学博士でした。大学卒業を、彼女は障がい者の治療教育に携わります。治療教育を始めてまもなく、この教育方法は、障がいのある子どもだけに効果的なものではない、と考え始めます。じきに、貧困層向けのアパートに設けられた保育施設の監督・指導をモンテッソーリ博士は任せられることになりました。初めての「子どもの家」はこうして誕生しました。1907年1月のことです。ここで築かれた教育メソッドが「モンテッソーリ教育」の土台となったのです。
基本的な方針は、「子どもには生まれながらにして、自分を成長させる力が備わっている」というものです。その自分を成長させる力を最大化するため、子どもの自由を最大限に保証し、教育する側は子どもの自発的な活動を補助する役割りに徹します。子供は自分自身を成長・発達させる力を持って生まれてきており、大人(先生)は、子供の要求を読み取り、自由を保障し、子供たちの自発的な活動を援助する存在に徹するべきだ、というのが基本的な教育理念となっています。言い換えると、子供はその時、その時に夢中になれることをする、大人はその邪魔をしない、ということです。
感覚経験を重視するため、五感を刺激する方法を用いることに特徴があり、科学的な結果の裏付けもあります。例えば、音楽教育にモンテッソーリ・メソッドを応用すると音楽的な認識力が高まるという統計データが出ています。
モンテッソーリ教育は子供の知的好奇心を最大限に引き出す効果があり、そのような教育を受けた子どもは、社会に出てから自己の才能を最大限に発揮できる人材になる可能性があります。
「自立していて、有能で、責任感、そして他人への思いやりがあり、生涯学び続ける姿勢を持った人間を育てる」というのがモンテッソーリの教育の目的とされています。つまり、学校の中で成功する人材を育てるのではなく、教育を終えたあとの社会生活において有益な人材を育てることを視野に入れた教育方法となっているのです。
モンテッソーリ教育を受けた著名人として、将棋棋士の藤井聡太氏や英国王室のヘンリー王子、ウィリアム王子はよく知られています。古くは「アンネの日記」のアンネ・フランク氏が挙げられます。
その他にもAmazon.com創業者のジェフ・ベゾス氏、Google創業者のサーゲイ・ブリン氏やラリー・ペイジ氏などのIT系実業家、社会学者であり思想家でもあるピーター・ドラッカー氏などがモンテッソーリ・チルドレンです。
モンテッソーリ教育で独創性を育まれた彼らは、現代社会で人々の生活に大きな影響を与えるオピニオンリーダーとなっているのです。
学校という制度は、一斉教育が基本です。
児童や生徒は同じ時間に登校し、教室では同じタイミングで同じ学習内容を受けることが期待されます。人には個性があり、子どもの関心ごとはそれぞれ異なっているはずですが、集団行動の規律を学ぶことも学校での教育の目的のひとつとされています。これに対し、モンテッソーリ教育では一斉教育という方法はとりません。子どもの自発性を重視するため、それぞれの子どもが自由に活動できる環境を確保します。
つまり、自分の興味に従って、みんな別々のことをやっていてもかまわないのです。この方針は、医師であったモンテッソーリ博士が大脳生理学から学んだ、子どもの能力の獲得には最適な時期があるという知見に基づいています。その時期は「敏感期」とよばれ、モンテッソーリ教育を構成する重要な概念のひとつとなっています。このような、きめ細かな教育スタイルを担うスタッフの養成は、一般的な教員養成方法では限界があります。そこで、モンテッソーリ博士は自身の提供する教育に適した教員養成メソッドも同時に考え出しました。
教えられる側も教える側も全体的なシステムとして実践される教育方法がモンテッソーリ教育の特徴なのです。日本では、日本モンテッソーリ教育綜合研究所がその養成活動を担っています。
モンテッソーリ教育では、一般的な教育制度とは異なる、子どもの自発性に着目したメソッドで発育を支援します。
一斉教育という方法ではなく、子どもの興味と個性を自由に伸ばせる環境を確保します。最初にモンテッソーリ教育の現場を体験すると、あまりにも自由に活動する子ども達を見て、驚く人もいるようです。伝統的な教育現場のイメージは、教室の正面に教壇があり、子ども達はきちんと並べられた机に向かって、教壇にいる先生と正対するというものでしょう。モンテッソーリ教育は全く異なるスタイルです。
もちろん、一斉教育にもメリットがあり、逆にモンテッソーリ教育にもデメリットがあります。
子どもの教育を選択できる立場にある親としては、自らの教育方針を明確にしておき、それに合わせた教育メソッドを選択する必要があります。
しかし、世界が多様化していく中、日本の教育システムも多様化を認め、積極的に取り入れるべき時期にきているのかもしれませんね。
(データのじかん編集部)
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