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ホフステードの6次元モデルは、人々の価値観が国民文化によってどのように異なるかを6つの次元(ものさし)でスコア化したものです。グローバルなスケールでデータを扱う際、特に人々の意識や動向に関わるものの場合は必須のデータベースといえます。
さらに異文化間のコミュニケーションや組織マネジメントといった観点からも大きな示唆を与えてくれます。(第2回)
前回はホフステードの6次元モデルの概要を紹介しました。今回から、個々の次元(ものさし)についてみていきましょう。
① 権力格差(小さい/大きい) ② 集団主義/個人主義 ③ 女性性/男性性 ④ 不確実性の回避(低い/高い) ⑤ 短期志向/長期志向 ⑥ 人生の楽しみ方(抑制的/充足的) | Power Distance(Low/High) Collectivism/Individualism Femininity/Masculinity Uncertainty Avoidance(Low/High) Short term/Long term Indulgence(Restraint/Indulgence) |
まずは、第1の次元「権力格差(Power Distance)」です。モデルを開発したホフステード博士はそれを次のように定義しています。「権力格差とは、それぞれの国の制度や組織において、権力の弱い成員が、権力が不平等に分布している状態を予期し、受け入れている程度である」。
言い換えれば「人間の間に不平等が存在するのはおかしいから、最小限にすべきである」と考えるのか、それとも「人々の間に不平等があることは当然だし、望まれてもいる」と考えるのかの違いですね。
家庭における親と子ども、学校における教師と生徒、組織における上司と部下など、そこには常に権力の非対称性(かたより)が存在します。そうしたときに、権力の弱い側がその権力の不平等性をどこまで受け入れているか、というのが権力格差のものさしです。「この世のパワーの分布は不平等である」という事実の受け止め方といってよいでしょう。
権力格差は、権力の弱い側が、権力の不平等性をどこまで受け入れているかというものさし |
この世のパワーの分布は不平等である、という事実の受け止め方 |
それでは、さっそくスコアを見てみましょう。日本のスコアは54で、世界のなかで中間に位置しています。アングロサクソン諸国・北欧諸国などの国々よりは権力格差は大きいですが、アジア地域では日本は最も権力格差の小さい国なのです。
このようなスコアはどのように算出されているのでしょうか。ベースになっているのが、1967年からIBM社員を対象に実施された意識調査です。
72か国、116,000人を対象に質問票を用いた調査を行い、得られた回答に対して多変量解析したうえでその結果をスコア化しました。これは世界で初めて国別の文化の違いを可視化したものでした。
その後も追調査や他の価値観調査との統合が行われ、2014年にはミンコフによる世界価値観調査の研究と合わせて現在の「6次元モデル」がつくり上げられたのです。
それでは、権力格差の小さい国と大きい国の特徴をみていきましょう。
権力格差の小さい国には、英国・米国・ニュージーランド・カナダなどのアングロサクソン諸国、北欧諸国、ドイツ、イスラエルなどがあげられます。
これらの国々では、基本的に「権力の不平等はできるかぎり小さいほうがよい」と考えます。上下の関係は存在しますが、それは目的を果たすために必要な便宜的なものです。組織は階層の少ないシンプルなものを志向します。社会的ランクが上だからといって、人的に優れていなければならないとは考えません。
権力格差の小さい国では、権力の不平等はできるかぎり小さいほうがよいと考える |
社会的ランクが上だからといって、人的に優れていなければならないとは考えない |
権力格差の大きい国には、中国、インド、ロシア、東南アジア諸国、中南米諸国、中東諸国、アフリカ諸国、フランス、ポルトガルなどがあります。
権力格差の大きい国では、権力の不平等は当然のものとして受け入れられています。上下関係があるのは当たり前なのです。政治家、経営者といった社会的ランクの高い人は、人格・能力ともに優れた人物であるべきと考えられています。
権力格差の大きい国では、組織の機能を細かく分ける傾向にあります。それぞれの部門が与えられた職務を全うすることが優先され、組織は階層が多く複雑になります。
権力格差の大きい国では、権力の不平等は当然のものとして受け入れられている |
社会的ランクの高い人は、人格・能力ともに優れた人物であるべきと考えられている |
権力格差の小さい国と大きい国では、求められるリーダーシップのスタイルが異なることは容易に想像されるでしょう。
権力格差の小さい国では、部下の自主性を尊重しつつ、共感によって組織を引っ張っていくリーダーシップが求められます。キーワードとしては、「コーチング」「分権」「エンパワーメント」などが挙げられます。
良いアイデアは組織のどの階層からも生まれると考えるので、上司と部下で互いに相談したいと考え、また相談を求められることを歓迎します。目的と方向性が明示されていることが多いので、階層や職能を超えたコラボレーションも比較的スムーズです。
権力格差の違いによって、求められるリーダーシップのスタイルが異なる |
権力格差の小さい国では、部下の自主性を尊重しつつ、共感によって組織を引っ張っていくリーダーシップが求められる |
一方、権力格差の大きい国は、リーダーはある程度権威主義的に振る舞うことが期待されます。キーワードとしては「家父長」「畏怖」「ヒエラルキー」「指示命令」などが挙げられます。意思決定はトップダウンで、上司には的確な方向性の決定と指示が求められています。部下からの相談や質問に対しても、常に最良な回答や判断をすると期待されています。
権力格差の大きい国は、リーダーは権威主義的に振る舞うことが期待される |
意思決定はトップダウンで、上司には的確な方向性の決定と指示が求められる |
日本は、先にみたように権力格差は世界の平均レベルで、特にアジア地域では最も権力格差の小さい国です。これは異文化間でビジネスをする場合、かなり有利なポジションといえるのではないでしょうか。つまり、より権力格差の小さい国にも大きな国にも、マネジメントスタイルを意識的に調整することで対応することができます。
弱点があるとしたら、むしろアジア諸国などの権力格差の大きな国ではないかと筆者は考えます。こうした国に赴任をして「ローカルなメンバーは自分で考えない」「指示待ちが多い」などと不満をもらす日本人のマネジャーは実は多いですが、ローカルなメンバーからすればそれは上司の権威を尊重する態度の裏返しであったりします。
逆に、安易に米国流に部下にエンパワー(権限移譲)をすると、責任を取ろうとしない、優柔不断な上司と思われかねません。的確な方向性の決定と指示を心がけ、ときには威厳ある振る舞いを選ぶことがポイントだと思います。
日本の権力格差は世界の平均レベルで、特にアジア地域では最も権力格差の小さい国 |
異文化間でビジネスをする場合、日本はかなり有利なポジションにある |
弱点があるとしたら、アジア諸国などの権力格差の大きな国におけるマネジメント |
ホフステード博士、およびホフステード・インサイツ・グループについて オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士(1928 – 2020)は、1960年代の後半から「国民文化」という曖昧な対象をモデル化する研究に着手しました。その成果は半世紀以上にわたって引き継がれ、現在ではホフステード・インサイツ・グループが100か国以上の国と地域の文化スコアを開発し、それを活用して企業などの組織のグローバル対応支援を行っています。 |
書き手:下平博文
事業会社において企業理念(Corporate Philosophy)を活用した組織開発、インターナルコミュニケーション等に携わる。2018年よりフリーランスのライターとして活動。
【参考引用サイト】
・『多文化世界』G.ホフステード・G. J. ホフステード・M. ミンコフ(有斐閣)
・『経営戦略としての異文化適応力』宮森千嘉子・宮林隆吉(日本能率協会マネジメントセンター)
・『国民文化と組織文化:Hofstede は何を測定したのか?』佐藤悠一(赤門マネジメント・レビュー 7巻11号(2008年11月) )
・「ホフステード・インサイツ・ジャパン」
本テキストではテクニカルターム等の表記をホフステード・インサイツ・ジャパンのものに準拠しています。
(著者:下平博文 編集:藤冨啓之)
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