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【書評】記者以外にも!『記者のためのオープンデータハンドブック』でオープンデータの使い方を知ろう

         

誰でもアクセスできるオープンデータは、実はビジネスや報道において大きな効果を発揮します。行政もその価値に着目しており、国・自治体・社団法人などでデータのオープン化が進められているのをご存じの方もいらっしゃるでしょう。

しかし、オープンデータをどこから取得すればいいのか、どのように見ればいいのかを理解できている方はまだ多くないのが現状ではないでしょうか。そこでご紹介したいのが、2022年12月に刊行された『記者のためのオープンデータ活用ハンドブック』です。

「記者のため」と題されてはいますが、ベテラン報道記者のテクニックは何かを調べる人、誰しもに役立つはず。早速、どんな本なのか、そのポイントを見ていきましょう。

元NHK記者による、信頼性の高い「OSINT」テクニックが知れる本

『記者のためのオープンデータ活用ハンドブック』の著者は、NHKの報道記者として1990年~2021年7月まで勤めた経歴を持ち、Webメディア『SlowNews』コンテンツプロデューサー、報道実務家フォーラム理事、一般社団法人デジタル・ジャーナリスト育成機構(D-JEDI)などを勤める(書籍刊行時)熊田安伸氏です。

税金や政治資金をめぐる「公金」問題東日本大震災の復興予算19兆円の行方などを追求してきた報道記者の顔と、NHKのWebマガジン「NHK政治マガジン」やNHKの公式note「NHK取材ノート」、AIアナウンサー「ヨミ子」など報道とデジタルを繋ぎ、ニュースをより広く届ける手段を開発・運営するプロデューサーとしての顔の両面を持つ熊田氏。

2021年8月からNHKの枠を越えた調査報道の道を広げるために参画したWebメディア「SlowNews (スローニュース)」連載記事に加筆・修正を加えたのが『記者のためのオープンデータ活用ハンドブック』です。

同連載はInternet Media Awards 2022アクション・フォー・トラスト部門を受賞しており、社会的責任の伴う記者がオープンデータを活用する「OSINT (Open Source Intelligence:オープンソースインテリジェンス)」的な手法でいかに情報を取得するかを、報道記者の枠外の人物にもわかりやすく伝えることが標榜されているといえるでしょう。

OSINTとは、オープンソース= 一般に公開された情報の収集・分析を通して事実を判断する手法で、元々は国家の安全保証にまつわる諜報活動で用いられていた用語です。

オープンデータの活用法に関する情報のなかでも、ベテラン記者の経験に裏打ちされた「信頼性」の高さが特筆したいメリットです。

どんなオープンデータを知れる? 単なるデータカタログとの違いは?

ここからはより内容に踏み込んで『記者のためのオープンデータ活用ハンドブック』を知っていきましょう。

同書は全10章で構成されており、以下のようなオープンデータの取得・活用方法がまとめられています。

・国の事業や予算
・地方自治体の事業や予算
・入札
・社団法人・財団法人・NPO法人など公益的な法人の事業
・民間企業の事業や役員交代、財務
・不動産の登記情報や価格
・個人の破産情報や公務員の経歴
・乗り物の事故情報や位置情報
・消されたサイトの情報
・政治家の制作や政治資金

どれもなんとなく調べる手段があることは知りつつも、スタンダードなソースについて押さえられていなかったり、いまいち使い方がわからなかったりする方も多かったのではないでしょうか。

筆者もその一人でしたが、いずれの問題にも『記者のためのオープンデータ活用ハンドブック』は応えてくれます。

たとえば各都道府県・市町村の財政状況を把握するために総務省サイトにまとめられている『地方財政状況調査関係資料』に関しては、数あるデータの中でも特に注目の資料がピックアップされているため、まずはそこから使い方を学びはじめられます。

そんなピックアップ資料のひとつ、「地方公共団体の主要財政指標一覧」が以下です。


全市町村の主要財政指標(令和3年度)のスクリーンショット

※右表は、フィルター機能を使用するため、筆者により改変・追加されたもの

書籍内でも触れられていますが、愛知県飛鳥村の財政力指数の圧倒的な高さだけでも記事や自治体運営のアイディアの種となるでしょう。

ほかにも官報の使い方、不動産登記簿の見方など、熊田氏の視点で解説がなされるため、データカタログだけでなく、それを‟使う側の視点”が得られるのがほかにないポイントです。

章末にはさまれるコラムには本編以上に記者的視点からのテクニックがつづられており、第3章末の「情報源のつくり方」などは事件を追い、人脈を得て「証言」を獲得する記者の目線を追体験しているような臨場感がありました。

データをただの数値と捉えると無味乾燥で退屈ですが、そこに意味を与えることで有用性や面白みはぐっと高まります。そのための足がかりとしても、単なるリストではなく文章化された書籍という形でオープンデータを知る意味はあるのではないでしょうか。

なお、実はこの本はまだ、完結したわけではありません。

一般社団法人デジタル・ジャーナリスト育成機構(D-JEDI)の公式noteにて、熊田氏は書籍で書ききれなかった内容の追加や日々変わるインターネットの特性に対応するため、同書の「完全版」を連載しています。すべてを読むには有料の「D-JEDIコミュニティ」に参加する必要がありますが、まずは無料公開分だけでも読んでみることをおすすめします

「オープンデータガイド」や「オープンデータ利活用ビジネス事例集」も使ってみては?

オープンデータの活用にあたって、より詳細な利用ルールや作成方法、民間のビジネスでオープンデータを用いた先行事例などを知りたい方は多いでしょう。

そこで役立つ可能性があるのが、一般社団法人オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構(現一般社団法人 デジタル地方創生推進機構)のサイトから取得できる「オープンデータガイド」「オープンデータ利活用ビジネス事例集」です。

団体の改称によりやや検索で見つけづらくなってしまっている同資料ですが、たとえば「オープンデータガイド」に記載されたCC BY 、CC 0などライセンスの種別や11 種類のデータ活用シナリオは今でも有用でしょう。

また、一般社団法人 デジタル地方創生推進機構としては、データのオープン化に限らず、DXに関するシンポジウムの開催など情報提供の取り組みが行われています。

ちなみに、『記者のためのオープンデータハンドブック』で紹介されている法人データ提供サイト「gBizINFO」で検索したところ、同団体では2015年5月20日に総務省より『平成27年度オープンデータ・ビッグデータの利活用推進に向けた調査研究に係る請負』事業にあたって1億778万4,000円を調達していることがわかりました。

終わりに

『記者のためのオープンデータ活用ハンドブック』の版元である公益財団法人新聞通信調査会について、「公益法人information」(もちろん書籍内で紹介されています)で調べてみると、「2022 年度 事業計画書」にきっちりと本書を指すであろう「調査報道、データ取材ハンドブック刊行」が新規事業として記載されていました。

こうして目についた情報を調べるだけでも、情報収集能力が高まった実感がありますし、何より情報と情報がつながるのは面白いものです。

みなさんも同書を手に取り、オープンデータ活用の世界へ飛び込んでみてはいかがでしょうか。

【参考資料】
・熊田安伸 (著)『記者のためのオープンデータ活用ハンドブック 単行本(ソフトカバー)』公益財団法人 新聞通信調査会、2022
・交易財団法人 新聞通信調査会 HPスローニュース【公式】調査報道やノンフィクションを支援します┃note
・Internet Media Awards 2022┃JIMA
・オープンデータ利活用 ビジネス事例集┃一般社団法人 オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構
・D-JEDI理事 熊田安伸『オープンデータ活用術・完全版【第1章】①国の事業や支出先を調べる』┃一般社団法人デジタル・ジャーナリスト育成機構(D-JEDI) note
・熊田 安伸『入社3ヵ月で書いた辞表を撤回した私が、今度こそ「NHK」に辞表を出したわけ』┃現代ビジネスオンライン

宮田文机

 

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