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【書評】『リデザイン・ワーク 新しい働き方』“解凍”済みの世界で仕事・組織を「再設計」するには?

         

令和3年版情報通信白書』(総務省)によると、2020年の民間企業における在宅勤務・リモートワークの導入率は、「3/2-3/8」→「5/28-6/9」の約3カ月で、17.6%→56.4%に跳ね上がりました。しかし、その割合は安定して維持されつづけてはおらず、2022年7月には、16.2%と2020年5月以降最低のテレワーク実施率を記録したという調査結果も、日本生産本部により公表されています。

テレワークに限らず、 コロナ禍により変化した私たちの働き方はどうなるのか?──今後の制度設計やキャリアの築き方に悩む方は少なくないのではないでしょうか。

本記事では、ベストセラーシリーズ『LIFE SHIFT』などでも知られる経営学者のリンダ・グラットン氏が刊行した話題の書籍『リデザイン・ワーク 新しい働き方』(以下、『リデザイン・ワーク』)を書評し、アフターコロナの働き方についてデータとともに考えます!

『リデザイン・ワーク』は“「解凍」済みの世界で仕事・組織を再設計するための本”

リデザインワークの「はじめに」はやはり、「新型コロナウイルス」の世界的流行により”働き方に大きな変化が生じた“ことから話題をスタートさせます。

ここでグラットン氏が引用するのが、心理学者クルト・レヴィンにより構築された「凍結・解凍」という考え方。文化、組織構造、業務を進めるスタイルなどが「凍結」状態にあった我々の組織は、グローバル化や人口構成の変化を受けてじわじわと解凍されつつありましたが、なんといってもコロナ禍はその「解凍」に大きな影響力を発揮しました。

強制的な解凍により、今組織や仕事はぬかるみのような状態にあります。ここからまた固定された元の働き方に戻るのか、周囲の状況に流されるのか、あるいはぬかるみへと足を踏み出し、これまでよりも早く前に進む方法を見出すのか。

その方向性を見出すための思考法と事例について「理解→構想→モデル構築・検証→行動と創造」という4つのプロセスで紹介するのが「リデザイン・ワーク」という書籍です。

本書を血肉とするためには、まず“今はぬかるみの中にいる”という自覚をもつことが求められるでしょう。冒頭で触れた通り、コロナ禍のピークが落ち着きを見せればテレワークの実施率は下がりました。なかには、“再びコロナ禍以前の働き方に戻そう”という企業も多く含まれるかもしれません。

しかし、世の中はすでに一度「解凍」を経験済みであり、再びオフィスに集まることが可能になったとしても、それは仕事・組織の「リデザイン(再設計)」の結果であり、「元に戻る」のとは、根本的に異なります。

その点を踏まえて、『リデザイン・ワーク』の本文を読み進めていきましょう!

「テレワーク」だと創造性が失われる? 「強い/弱い紐帯」でわかるその答え

『リデザイン・ワーク』を読み進めるにあたって「“解凍”が起こったことへの理解」とともに重要なのが、「施策を一概に『良い/悪い』でジャッジしない姿勢」です。

たとえば、テレワークの是非について我々が考える際、よく問題となるのが「メンバー同士の密なやり取りや雑談が失われる」という懸念でしょう。イーロン・マスク氏が経営するテスラ社、Twitter社では在宅勤務が廃止され、Googleでもオフィス勤務が再開された……。やはり顔を合わせなければ創造性が発揮されないのでは?

こうした懸念に応えるべく、『リデザイン・ワーク』同書2章『理解する』で紹介されているのが、人間同士のネットワークを「強い紐帯」「弱い紐帯」に分ける考え方とそれを用いた実験です。強い紐帯は“互いに信頼関係を持つ密な互恵関係”であり、多くの人はそれほど多く持っていません。一方、弱い紐帯はプライベートには踏み込まない程度の関係性であり、同僚、プライベートの知り合い、SNSのフォロワーなど、強い紐帯よりも数多く存在します。

さて、みなさんは仕事で新しいアイディアを得たいと思った際、「強い紐帯」「弱い紐帯」、どちらのネットワークの人にコンタクトを取りますか? また、自分が転職先を見つけたいと思ったときはどうでしょうか?

『リデザイン・ワーク』では、強い紐帯は暗黙知を引き出すことには強みを発揮する反面、新しいアイディアを生み出すことにはつながりにくいと説明されています。強い紐帯では、もともとお互いのことをよく知っているため、思いつきもしないような考え方や知識と出会える可能性が高くないからです。

また、スタンフォード大学の社会学者マーク・グラノヴェター氏の研究では、「人が新しい職を探すとき、親しい人たちが転職先を紹介してくれるケースはほとんどない(※)」ということが明らかになっています。それよりも多いのは、「友人の友人」が紹介してくれるケース。

すなわち、創造性や新たな可能性のきっかけとなりやすいのは「弱い紐帯」であり、オフィスへの出社は「弱い紐帯」を生み出すきっかけとなるからこそ意味を持つと考えられます。

オフィスの「喫煙所トーク」や「給湯室トーク」が創造性を生んでいたとすれば、それは普段つながりのない人との偶然の出会いがあったからであり、もし親しい仲間との「強い紐帯」をさらに強めあうような環境しかなければ、たとえ対面でも創造性にはつながりにくいでしょう。

逆に言えば、「弱い紐帯」をリモートワークで増やすような施策が打てれば出社と同等の効果が得られるかもしれません。たとえば、普段かかわりのない社員同士がリモートで交流するための時間を毎朝5分設けてみるのはいかがでしょうか。

大事なのは「出社する/リモートワークする」の二者択一ではなく、「在宅」「オフィス」の両方の武器を目の前に並べて、どちらをどのような割合でどう活用することで、自社に必要な機能が満たされるのかを「再設計」することなのです。

※……引用元:『リンダ・グラットン (著), 池村 千秋 (翻訳)『リデザイン・ワーク 新しい働き方 Kindle版』東洋経済新報社、2022、p56-57

経営層と従業員ではリモートワークに関する回答に大きな違いが! “公平で正義にかなう”働き方のデザインはできている?

「施策を一概に『良い/悪い』でジャッジしない姿勢」が大事な理由は、もうひとつあります。

それは、「働く人々それぞれの立場や環境によって見方はさまざまだから」

『リデザイン・ワーク』本文でも触れられている通り、たとえば在宅勤務は、地方に住んでいる人や通勤時間が長くかかる人にとって好ましい選択肢である一方、子どもや高齢の家族と暮らしている人や自宅の環境が整っていない人、通勤時間が「仕事モード」への切り替えになっていた人にとっては問題があります。

ビジネスチャットツール「Slack」で知られる米スラックテクノロジーズが2021年10月に発表した調査結果では、週に3~5日オフィスで働くことを経営層の75%が希望する一方、従業員で同様に回答したのはわずか34%だったことが明らかにされています。

また、コロナ後のリモートワーク方針について「透明度が非常に高い」と回答した経営者は66%だった一方、それに同意する従業員は42%と半数にも満たなかったとか。

※……引用元:経営層と従業員の間でオフィス回帰について大きなズレがあることが判明┃slack
『リデザイン・ワーク』第4章『モデルをつくり検証する』の最終パートでは、新しい働き方のデザインが従業員にとって“公平で正義にかなうもの”であることの重要性と、その可否を測るためのチェックポイント、現場の知見などが紹介されています。

公平性や透明性を十分に満たせているかどうかを、情報を開示する主体(経営陣など)が自らジャッジするのは容易ではありません。実際、先の調査のように両者の意識には乖離が生まれています。そこで、自身を見つめなおすためのガイドブックとしても『リデザイン・ワーク』は機能するはずです。

終わりに

本記事ではコロナ禍やその結果増加したテレワークなど直近の変化に特にフォーカスして『リデザイン・ワーク』の内容やその役立つポイントについて解説してまいりました。
しかし、なんといってもその著者は「100年時代の人生戦略」を説く『LIFE SHIFT』を著したリンダ・グラットン氏。当然、「平均年齢53歳・2050年の日本」などより未来を見据えた“働き方の再設計”についても詳しく触れられています。

いま「ぬかるみ」を試行錯誤して歩むなかで、100年後も通用するしなやかな働き方・組織を作り上げていきましょう!

【参考資料】
・リンダ・グラットン (著), 池村 千秋 (翻訳)『リデザイン・ワーク 新しい働き方 Kindle版』東洋経済新報社、2022
・テレワーク実施率は16.2%と過去最低を更新、20代・30代の実施率が大幅減 新型コロナが働く人の意識に及ぼす影響を継続調査~第10回「働く人の意識調査」┃PR Wire
・情報通信白書 令和3年版┃総務省
・経営層と従業員の間でオフィス回帰について大きなズレがあることが判明┃slack

宮田文机

 
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