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─グローバルで経営コンサルティング を提供しているA.T. カーニーは、経営全体を再構築していく「Regenerate」(リジェネレート)を提唱していますが、どのような意図があるのでしょうか?(君島氏)
「リジェネレート(またはリジェネレーション)は、組織がマルチステークホルダーに対して価値貢献することの重要性が強調されるトレンドを背景にしたキーワードです。例えば、世界的に進みつつある環境への負荷低減の取り組みだけではなく、環境を再生する、より良い状態になるように貢献するという視点も求められるようになってきています。また、従業員に役割と対価を提供するだけではなく、自分の存在意義や熱意などを知る機会や本質的な価値を創造する機会を提供することも求められます。
お会いする多くの経営者の皆さんが、社会や個人の意識変化も踏まえ、組織のパーパス(目的)やビジョンを見直すと同時に、ビジネスドメイン、ビジネスモデル、オペレーションモデルのレジェネレート(再構築)を検討・加速させる必要があると考えています。」
A.T. カーニーの日本法人の代表取締役を務める関灘 茂氏は、日本企業においても、リジェネレートに向けた動きは顕著になっているとしてさらに続ける。
「これまでは、売上や利益をはじめとした財務的なインパクトを中心とした目に見える成果を生み出すために、コスト構造改革や成長戦略策定・新事業創出といったテーマでの支援が求められてきました。近年では、『社会的価値とは、本質的価値とは』という言葉がより重要視され、新たな価値の定義や創出に向けた支援が求められるようになってきました。」
─財務インパクトに留まらず、企業の存在意義や社会的なインパクトを求めていく上で、企業のリーダーが意識すべきことは何でしょうか?(君島氏)
同氏が強調するのは、人々の意識・態度・行動などを変容させ、個人の人生に寄り添うとともに、組織の理想的な状態を求めていく経営変革の必要性だ。
「経営において、より良い製品やサービスを生み出すことによって価値を届けることはこれからも大切ですが、社会課題に対して従業員1人1人の人生の貴重な時間を使って何ができると本当に価値があるのか、を真摯に考えることがより大切になるのではないでしょうか。自社の製品やサービスが提供できる価値、できない価値に向き合うことも必要となるでしょう。マーケティング部門や営業部門のようにお客様と向き合う部門だけでなく、総務・人事・経理といった部門も含め、どのような価値を提供する組織に生まれ変わるのかを対話・共有する必要もあるでしょう。その結果として、製品やサービスの開発の視点・視座が変わり、新しいアイデアを生み出している企業も存在します。」
議論を社内メンバー間にとどめていては、考え方が固定化されて新しいアイデアが生まれる余地が限られることもある。これに対して同氏は「各領域で「達人」と言われるような社内外の専門家を結集し、経路依存性を脱して多様な創発を促すことも大切です。リジェネレートに真剣に取り組む日本企業の経営者の皆さんは、社内外の「達人」からなるベストチームづくりに尽力されていると感じています。」と述べる。
しかし、外部の人材をチームに組み込み、新しい仕事の仕方や価値創造に繋げる動きが取れずにいる企業も多い。企業には独自の文化や仕事のインフラ、社内常識などが積み重なった上に業務が成り立っている。そのような環境で、外部の人材を組み込んでいくのは難しい場合もある。
─外部人材との価値創出に向けて重要なポイントはありますでしょうか?(君島氏)
「企業ごとの独自の文化があるからこそ、独自の価値提供ができているという見方もでき、独自の文化や仕事の進め方自体を否定するべきではありません。しかし、提供したい価値の変化や拡大、それに合わせた事業領域の産業横断化、技術の栄枯盛衰などに対応した迅速なリジェネレーションには、外部の知見やノウハウが必要となることがあります。例えば、A.T. カーニーは約8割が中途入社の社員であり、それぞれが経験してきた文化や仕事の仕方は異なりますが、グロービス経営大学院で推奨している クリティカル・シンキングの思考法などをベースにした共通言語を持ち、各専門領域を繋ぐ人財がいるため、それぞれの専門性を活かした闊達な議論ができています。共通言語や繋ぐ人財を育むことで、外部人材との創発もより活発にすることが可能です。」
そうした従業員の働き方に関する変化は、確実に日本企業で起きていると関灘氏は指摘する。「従業員の仕事の仕方を大真面目に再考する経営リーダーが増えていると感じます。業務を標準化した上でテクノロジーの力で省人化し、捻出した時間をリスキリングや新しい価値創造に配分できるように大胆に投資する企業が増えてきました。これは特筆すべき変化です。」
人財確保が難しくなってきたことに加え、グローバルな原材料確保や為替変動、サプライチェーン、経済安全保障などの諸課題が重なり、従来の進め方では事業継続が見通しにくくなっている。これまでとは違うアプローチで打開策を見いださなければならない。その理解は確実に進んでいる。
「経営層の皆さんから、『経営の目的から見据え直す必要がある』『グローバルでのM&A・PMIで組織能力を拡張する必要がある』といったお話を頂くことも多くなりました。社会やバリューチェーン全体のリジェネレーションが必要だという意識が高まり、一部では成果も出ています。それを見て『当社も』と考える経営者も増えてきていると感じます。」
─日本企業のリジェネレートをけん引する次世代リーダーに必要な要素とはどのようなものでしょうか? (君島氏)
関灘氏は「既存事業を改善していくことでより良い価値提供に繋がる会社もあれば、既存事業のバリューチェーン全体をリジェネレートしなければならない会社もある。さらに、新規事業を生み出していかなければならない会社もある。それぞれのケースごとに、リーダーに必要とされるマインドセットやスキルセットが違う。」とした上で、新規事業を推進するケースを解説する。
「新しい挑戦には失敗がつきものです。大きな成功に繋げるためには、小さな失敗を繰り返し、振り返り、新しい挑戦に生かすサイクルをつくることが大切です。経営者はその難しさを理解し、学習の質と量をKPIとして必要な社内外のリソースを割りあて後押しすべきです。また、ミドル層は必要な社内外のリソースを過小評価せず、経営者にサポートを求めたり、社内外の「達人」を巻き込んだりすることが必要です。」
さらに新規事業や新製品・新サービス創出に意欲的な経営リーダーの特質として「生活者・顧客に憑依し、新たな価値を見出し、世の中に役立つという熱意があること」を挙げる。一方で、ミドル層のリーダーは、「特定領域のことは長年の経験で分かっているが、分かっていない領域が多いこともある」と指摘する。会社全体を変革するようなプログラムを推進するには、分かっていない領域に詳しい人物がどこにいるのかを知り、信頼関係を築き、欠けているピースをパズルのように埋め、チームとして協働できる能力が求められるという。
─では、そうしたリーダーをどのように育成していけばよいでしょうか? (君島氏)
同氏は「企業それぞれに適した手法がある」としながら、自社の取り組み経験から次のようにアドバイスする。
「個人の発展には、『強い個』『経営を語れる個』『尖った個』の3段階があると考えています。『強い個』は、感動品質のアウトプットを提供し続けられる“ホンモノの基礎能力を備えた個人を指します。アウトプットに至るまでの多様なインプットを取り込める理解力や基礎的知識を持ち、高い生産性で高度な価値を提供できるように支援しています。『経営を語れる個』は、CXOアジェンダを網羅的・俯瞰的に理解・把握し、CEO/CXOと対等に議論し、戦略・戦術を提言できる個人を指します。経営者経験者から意思決定のリアリティを伺う経営を学ぶ会などを設けて、様々な経営アジェンダにおける意思決定やそこに至るプロセスを知り、経営者としての当事者意識や経営哲学を持つことを促しています。『尖った個』とは、特定業界・テーマの「達人」とも言える専門家を指します。当社でも半導体、宇宙・防衛、街づくり、地方創生など各領域にパッションと専門性を持つメンバーがいますが、ワークライフバランスというよりワークライフインテグレーションしているように見えます。自分を知り、生きがいを見出す力を持っているように思います。」
最後に、次世代リーダーになるためにどのようなキャリアが望ましいのかについて、次のように語った。
「組織の中で自分のパッションを語れる場があまりないという方もいらっしゃるかもしれません。しかし、経営者だけでなく、ミドル・若手の従業員も含め一人一人が、自身のパッションを語れる場を持てるように行動できると素敵であると思います。オープンに人と話せる場があると、自分の意識も変わり、行動も変わる。良き仲間を得て、共有時間を増やすと、自分を知り、本当に成し遂げたいことに気づくこともあります。自分がいる場所や接する人を変えること。新しい気づきを得て、自分を成長させ、貢献領域や方法を広げるきっかけになると思います。その方法論の1つとして、グロービス経営大学院が有効になるという方も多いのではないでしょうか。」
グロービス経営大学院は、2025年度より従来のMBAプログラムを「TMBA」と「EMBA」の2つのプログラムに分けて開講。2024年度は、両プログラムから計7科目を新設、2科目を刷新して提供する。
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