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人口増は「政治のおかげ」だけじゃない! 兵庫県明石市は超交通至便な中核市だ!

         

兵庫県明石市は独自の福祉政策により、人口増で話題になっている。一方、明石市は交通至便な地方自治体でもあり、恵まれた「地理的要因」も人口増加の重要な要素であるはずだ。しかし、メディアではその点はあまり言及されていない印象が強い。そこでこの記事では、交通の面から見た明石市の魅力をデータをもとに読み取ってみよう。

交通至便な中核市、明石市

まずは明石市の概要について確認したい。明石市は神戸市の西隣にあたり、2022年10月1日現在の人口は304,564人である。各自治体が人口減にあえぐなか、明石市は2012年から10年連続で人口増を達成して2018年には中核市になった。

人口増で特筆すべき点は0歳~4歳、25歳~39歳の子育て世代の転入超過が多くなっていることだ。また2020年の国勢調査(速報値)と2015年の国勢調査を比較すると、中核市の中で明石市が人口増加率トップになった。人口増の要因として挙げられているのが、市独自の子ども政策である。

さて、先述したとおり、明石市は「交通至便」な自治体である。特に鉄道に恵まれている。明石市には東西の幹線である山陽新幹線、JR神戸線(山陽本線)、山陽電気鉄道本線(以下、山陽)が存在する。

出典:明石市ホームページ「明石市域全体図」

山陽新幹線には西明石駅があり、JR神戸線に接続する。明石市にあるJR神戸線の駅は計5駅だ。このうち特急もしくは新快速が停車する駅は明石駅、西明石駅、大久保駅だ。山陽はJRよりも駅数が多く、計12駅も存在する。このうち直通特急が停車する駅は明石駅と東二見駅だ。

3線とも神戸、大阪といった大都市を通り、明石市のみならず兵庫県の交通網には欠かせない存在だ。

ところで市外で働く明石市民はどの程度なのだろうか。2015年のデータによると、明石市に住む15歳以上の就業者は約13万人である。このうち明石市外で働く就業者は約68,000人だ。

明石市外のうち最も就業者の多い自治体は神戸市の約37,000人だ。大阪府の就業者は約7,500人で、兵庫県外の就業者の約85%を占める。

15歳以上の就業者のうち約4人に1人はJR神戸線、山陽・阪神が通る兵庫県神戸市(北区・西区を除く)、芦屋市、西宮市、尼崎市、大阪府のいずれかで働く。このデーターを見る限り、明石市は神戸市や大阪府のベッドタウンとして機能し、通勤の足としてJR神戸線・山陽への需要が高いことが推察できる。

JR、山陽電気鉄道本線でうまく役割分担

もう少しJR神戸線、山陽、山陽新幹線について見ていこう。JR神戸線は明石と神戸・大阪を結ぶ最重要路線といえる。明石市民の足として欠かせない列車が新快速である。

新快速は明石〜三ノ宮間を約15分、明石〜大阪間を約40分で結ぶ。明石から大阪までの営業キロ約50キロを考慮すると、新快速の速達性は「驚異的」だ。運転間隔は15分間隔で、運賃は940円だ。

基本的に新快速は姫路駅発着のため、明石駅から座れる保証はない。通勤時間が30分を超えると「座りたい」と思うサラリーマンも多いのではないだろうか。 

JR西日本は着席ニーズに応えるために、2019年3月ダイヤ改正にて特急型車両を用いた通勤特急「らくラクはりま」の運行を開始した。現在は姫路〜新大阪間で運行し、平日朝ラッシュ時新大阪行きが1本、平日夕ラッシュ時姫路行きが1本設定されている。

「らくラクはりま」で特筆すべき点は新快速通過駅の大久保駅に停車することだ。新大阪行きは同駅で大阪方面行き普通列車に接続する。つまり特急・新快速通過駅からも利用しやすい環境を整えているのだ。

平日夕ラッシュ時は「らくラクはりま」の他に特急「はまかぜ」「スーパーはくと」も明石駅・西明石駅に止まり、1時間間隔で特急列車に乗車できる。

さらに2019年3月ダイヤ改正から一部新快速に有料座席サービス「Aシート」を連結している。「Aシート」にはリクライニングシートが並び、乗車には乗車券の他に座席指定券が必要だ。2023年3月ダイヤ改正から「Aシート」連結車両が増え、1日上下各6本となる。

しかもJR西日本は「J-WESTチケットレス」サービスを通じて指定券を割安に販売している。期間限定で「新快速[A シート]チケットレス指定席券」を使うと「Aシート」の指定席券は390円となる。 

このようにJR西日本はスピードだけでなく、サービス面でも明石市を厚遇していると言えよう。

山陽も明石と三宮・大阪を結ぶが速達性ではかなわない。山陽は阪神と相互直通運転を実施しているが、山陽明石〜阪神大阪梅田間は約60分を要する。運賃は920円である。

それでは明石市民にとって山陽は無用かと言われるとそうではない。先述したとおり、山陽は駅数が多く、特に山陽明石駅から西側はJR神戸線がカバーできない地域を走る。そのため山陽明石駅では山陽〜JR間の乗り換え客を多く見かける。

明石市内にある駅の2016年度~2019年度の乗車人員を見ると、朝霧駅を除くJR神戸線の各駅はあまり変わらない。一方、山陽は特急通過駅においても3年間で10%~20%の乗車人員増が確認できる。子育て世代が比較的家賃が安い山陽の特急通過駅を選んでいると予想する。

山陽は直通特急・普通ともに15分間隔での運行を基本としている。特急通過駅でも特段の不便はないといえる。

明石市→東京は「のぞみ」1本で3時間を切る

ここまで読んだ読者の中には「交通の便がいい中核市は他にあるだろう」と思うかもしれない。しかし、大都市から1時間圏内でかつ新幹線の駅がある中核市は稀有な存在だ。

山陽新幹線西明石駅は新幹線駅の中ではマイナーな存在といえる。日中時間帯は京都駅まで各駅に止まる「ひかり」が1時間間隔で止まる。日中時間帯に西明石駅から東京駅へは途中駅で「のぞみ」に乗り換えるのが一般的だ。

ところが、早朝6時台1本のみ西明石駅始発の「のぞみ80号」東京行きが存在するのだ。「のぞみ80号」東京行きは西明石駅を6:01分に出発し、東京駅着は8時51分だ。

一方、下りも23時台に西明石駅に停車する「のぞみ113号」が設定され、東京駅発は20時33分、西明石駅着は23時23分である。ともに西明石~東京間の所要時間は3時間を切り、東京日帰り出張には十分な列車だ。

さらに2023年3月ダイヤ改正では西明石駅に鹿児島中央行きの「さくら547号」が停車する予定だ。西明石駅発は9時14分、博多駅着は11時26分、鹿児島中央駅着は12時53分だ。少しずつではあるが、山陽新幹線西明石駅は利用しやすくなっている。

このように明石市は中核市の中でも、交通の便に大変優れた自治体なのだ。明石市が運営する市のPRサイトでも交通の便の良さを強調している。

また近年は若年者の間で運転免許保有者数の減少が話題となっている。また沖縄県では若年層の車離れが沖縄県への再訪意欲の低下を招いていることがわかる。 

このように考えると、福祉政策だけでなく、車離れの若年層にも受け入れられる交通網も人口増への重要なファクターになるのではないだろうか。


書き手:新田浩之氏
2016年より個人事業主としてライター活動に従事。主に関西の鉄道、中東欧・ロシアについて執筆活動を行う。著書に『関西の私鉄格差』(河出書房新社)がある。

【参考資料】

明石市ホームページ JR西日本ホームページ

(TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)

 
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