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天国のような環境で暮らすネズミたちはやがて絶滅する!?『Universe25』の実験と日本の人口集中問題

         

「楽園は永遠に続かず、繁栄も束の間、ついに滅びのときが訪れた。」

これは、神話やエンタメコンテンツの話ではありません。1960年代から70年代にかけて、アメリカの動物行動学者ジョン.B.カルフーン博士(1917-1995)によって行われたネズミの楽園を使った実験についての話です。

その実験──『Universe25』──は人類の行く末を暗示しているのではないかとかつて以上に今、注目を集めています。いったい『Universe25』はどんな実験なのか? そして、日本の人口集中問題とどう重なるのか? 早速、その内容を見ていきましょう。

「Universe25」は“5つの死”を排したネズミの楽園を観察する実験

1973年、“Journal of the Royal Society of Medicine Vol. 66(王立医学協会ジャーナル)”に掲載された論文『Death Squared:The Explosive Growth and Demise of a Mouse Population(二乗された死:ネズミ人口の爆発的成長と終焉)』でカルフーン博士はネズミの楽園を使った実験について詳細に解説しています。

カルフーン博士は聖書を引用し、死の要因を「移住(Emigration)」「資源不足(Resource shortage)」「厳しい気候(Inclement weather)」「病気(Disease)」「捕食(Predation)」の5つに分類します。そして、高い壁によって移住はできず、水と食料・十分なスペースが各々に与えられ、20℃前後の穏やかな気候かつ、病気が予防されており、捕食者のいないネズミの楽園、「Universe25」を創設しました。

「Universe25」の人口はどのように推移したのか?

──下図の通り、爆発的増加を経た後、人口減少(の先の滅亡)へと向かっていったのです。

Universe25におけるネズミ人口の推移

出典:Death Squared:The Explosive Growth and Demise of a Mouse Population┃National Library of medicine

「Universe25」はどのようにして滅亡へ向かったのか? 「美しい者たち」とは?

Universe25の変化を、カルフーン博士は以下の4フェーズに分けて解説しています。

フェーズA:初期状態
フェーズB:急速な人口増加
フェーズC:人口成長の抑制、停滞
フェーズD:人口減少と楽園の絶滅

1968年7月9日、Universe25に持ち込まれた4組のマウスには、環境に慣れるための104日(フェーズA)を経て最初の子どもが誕生。約55日ごとに人口が倍加する人口ボーナス期(フェーズB)を迎えることになります。ここで注目したいのが14のグループに分けられたUniverse内の出生数の偏りです。最も出生数の多いセグメントと少ないセグメントでは8倍以上の差がついており、出生数の差はオスの活発さを示す「社会的速度(social velocity)」と重なっていたのです。

実験開始から350日目にネズミの増加は約145日で倍化するペースへと鈍化します(フェーズC)。移住ができない環境でネズミ同士は争い、敗北したオスは身体的にも心理的にも非活動的になり、しばしば互いに傷つけあうようになります。勝利したオスはほかのネズミに縄張りを任せることを好まないため、産卵中のメスが危険にさらされやすくなり、かつ領域防衛の役割を担うようになり、受胎の減少、胎児死亡率の増加、離乳前死亡率の増加といった現象が起こるようになりました。

実験開始から560日目、とうとうUniverse25の人口増加はストップしました(フェーズD)。Cフェーズの終わりごろにはメスは早期に子どもを放逐するようになり、メスの妊娠率は大幅に低下、オスはメスにアプローチせず、戦いもしない 「beautiful ones(美しい者たち)」ばかりになっていきました。最後にメスの受胎が観察されたのは920日目で、最後に生き残ったオスは1780日に死亡することが予測されました。

日本の人口減少、都市への一極集中は人類滅亡へ至る道か?

さて、ここで日本の人口推移をグラフで見てみましょう。

日本の人口推移


出典:「国土の長期展望」中間とりまとめ 本文≪図表≫(PDF形式:8.3MB) ┃国土交通省

ネズミ人口の推移を表す凸型の放物線と奇妙に重なり合うように感じられないでしょうか?

『Universe25』に今注目が集まっているのは、日本を含む先進国の人口動態の行く末を暗示しているようだと大勢の人が感じているからなのです。それは、全体的な人口の推移にとどまりません。

人口が地方から集まり、都市圏へ一極集中する流れも減少と同様に続いており、今後も予想されるのはご存じのとおりです。

三大都市圏および東京圏の人口が総人口に占める割合


出典:都市部への人口集中、大都市等の増加について┃総務省

都市部へ人が集まれば競争は激化します。2005年~2015年で埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、東京圏全体のすべてで地域所得ジニ係数で測られる格差は広がっており、都心の方が郊外より格差を容認する意識が高い傾向にあるとのこと(東京圏における地域格差――産業・職業・意識┃独立行政法人労働政策研究・研修機構)。

さらに「草食化」「寝そべり族」「Doomer」など、各国で見られるどちらかといえば「社会的速度」の小さな若者像は、どこか「beautiful ones」とも重ならないでしょうか?

我々一人一人が格差是正や地方創生に取り組むことは、人類滅亡へのひそかな抵抗運動となるのかもしれません。

Universe25についてもっと詳しく知りたい方は下記の動画も合わせて再生してみてください。

終わりに

カルフーン博士は、身体的な死が死亡した(=死の二乗)が生じた一方、社会のなかで自己を確立することが難しくなった結果、多くのネズミが精神的に死亡したような状態になり、種の滅亡につながったのではないかと論文の結論部分において考察しています。身体的、のみならず精神的に生き生きと生きる人を増やすにはどうすればいいのか? これは、21世紀の人類が生き残るための課題としてますます重要度を高めていくでしょう。

 

参照元

・Death Squared:The Explosive Growth and Demise of a Mouse Population┃National Library of medicine ・CARA GIAIMO『The Doomed Mouse Utopia That Inspired the ‘Rats of NIMH’』┃Atlas Obsucura
・JOHN B CALHOUN ・Fredrick Kunkle『The researcher who loved rats and fueled our doomsday fears』┃The Washington Post ・「国土の長期展望」中間とりまとめ 本文≪図表≫(PDF形式:8.3MB) ┃国土交通省 ・都市部への人口集中、大都市等の増加について┃総務省 ・安井 大輔『東京圏における地域格差――産業・職業・意識』┃独立行政法人労働政策研究・研修機構

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