時代とともに、生活様式や仕事は変化していきます。実際、この20年でも人々の働き方は大きく変化してきました。インターネットが広く普及し、働き方改革も行われました。また、女性の社会での活躍が広がり、共働き世帯が増加。直近では、コロナ化に伴うリモートワークの広がりなど、新たなフェーズに入ったと言えるでしょう。
インターネットにより情報が広がりやすく、変化のスピードも目まぐるしい昨今、VUCAという言葉が広がりを見せています。VUCAは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語で、社会やビジネスにおいて、未来予測が困難になることを意味します。
そんな不安定で不確実なVUCA時代をサバイブするべく、企業や組織開発の現場で注目を集めるようになったキーワードの一つが「アンラーニング」です。
アンラーニングとは、その名の通り、学習した知識を捨てることを指します。闇雲に学んだことを棄却するのではなく、新しい時代を乗り越えるために古くなってしまった知識、戦略を捨てていく必要があるのです。
アンラーニングは、そのまま訳すと、「学習棄却」となります。一方、哲学者の鶴見俊輔により「学びほぐし」とも訳されています。
「学びほぐし」は、既存の学習を解きほぐし、新しい知識、戦略を柔軟に受け止める、という意図で訳されており、アンラーニングを直訳するというよりはその言葉の実態に即した訳語といえます。実際アンラーニングでは単に学習した内容を単純に棄却するのではなく、必要となったら古いと言われていた知識をもう一度とり出して使えるようにすることも含意しています。
アンラーニングとは、古くなった知識やスキルを捨て、新たなものを取り入れることです。昨今のビジネスシーンは急速に変化しており、従来の信念やルーティーンに固執していると対応が難しくなります。
逆に、常に危機意識を持ち、アンラーニングを心掛けている企業は時代の流れに乗ることができます。例えば、コロナ禍で新たな事業に取り組む企業やビジネスモデルを転換する企業は、アンラーニングが効果的に機能していると言えます。
アンラーニングは、経験学習モデルと密接に関連しています。経験学習モデルは、デービッド・コルブによって提唱された学習サイクルであり、具体的経験、内省的反省、概念化・抽象化、能動的実験の4つのステップを繰り返すことで学習が行われるとされています。国内では、松尾睦教授の『「経験学習」入門』が有名です。
この学習サイクルの中で、概念化・抽象化の過程では、過去の教訓に固執していると新たな教訓が得られなくなります。そのため、アンラーニングは成長に欠かせないプロセスと言えます。
アンラーニングという概念に関連してよく使われる言葉に、「リスキリング」というものがあります。リスキリングは、スキルを再学習することを指す言葉です。アンラーニングは、過去に獲得した知識や価値観を振り返り、必要なものと不必要なものを見極めることに重点を置いていますが、リスキリングは新たなスキルの獲得に焦点を当てています。
アンラーニングとリスキリングは互いに矛盾するものではなく、むしろアンラーニングを通じて過去の学びや成功体験を整理することで、新しいスキルの習得を促進する土台となると考えられます。アンラーニングとリスキリングを組み合わせることで、より効果的に学びを進めることができるでしょう。
それでは、「アンラーニング」を導入する具体的なメリットを紹介します。
順に紹介します。
昔はトップセールスだったけれど、今は鳴かず飛ばず、なセールスマンを『仕事のアンラーニング -働き方を学びほぐす- (松尾 睦 著)』では「昔のヒーロー」と呼んでいます。専門的な知識やスキル、戦術は非常に重要で役に立つものですが、どんなに優秀な人材でも、知識が固着し、陳腐化してしまうと、時代の変化に対応できなくなってしまうのです。
そこで、アンラーニングにより、既存の知識や戦略を手放し、情勢にあった新たな知識や手法をインプットすることで、従業員の成長を促します。
組織や企業を支えるさまざまなツールやインフラ。これらも時代とともにアップデートしていきます。便利な技術が生まれる中、十数年前のツールや基盤を使い続ける場合、新たなツールを使う企業と比較して、競争力が低くなってしまいます。
しかし、アンラーニングが定着することで、既存のシステムの課題を見直し、今必要となるものを考えることが自然に行われるようになります。その結果、仕組みがアップデートされ業務効率の向上につながると考えられます。
従業員が個々にアンラーニングに取り組むことで、対話し、互いに刺激を与え合うようになります。それにより、組織構造についても、本当にこれでいいのか?という問いが生まれます。その結果、時代や変化に合わせて柔軟に組み替えられていくようになり、変化に強い組織になることが期待できます。
これまでの知識を捨て去るのは新しい知識を得ること以上に難しいものです。そこで、アンラーニングを実践する上での注意点を紹介します。
それぞれ紹介しますので、参考にしてください。
アンラーニングを取り入れることは、過去を捨てることを含み、内省を促す中で失敗にもフォーカスし、改善していくことになります。多くの人にとって、長年定着し、慣れ親しんだやり方を変えるのは抵抗感があるもの。また、今までを捨て去った場合、自分に何が残るのかわからない状態は不安なものです。
さらに、大々的に手法を変えるときには、現場の混乱はつきもの。一時的にパフォーマンスが落ちることも考えられます。
このようにアンラーニングはモチベーション低下を引き起こすさまざまなリスクがあります。これらを回避するために、アンラーニングは過去の否定ではなく、成長のための振り返り、改善・検証であることを繰り返し語る必要があります。
新しい方法を試すのは、不安で、困難で、抵抗感があるものです。そこで、個人ではなくチームで行うことで、個々人のスキルや知識だけでなく、環境や人間関係、社会情勢など俯瞰して過去の失敗や自分の弱みを見つめられ、心理的負担が低下します。
また、現場に必要な変化の優先度を付けやすくなります。さらに、新しい試みを個人の責任ではなくチームの責任として行うことで思い切った判断にも挑戦できるようになります。
アンラーニングを組織や企業で取り入れる上で、3つのステップがあります。
順に紹介します。
アンラーニングの基礎となるのは、これまでを振り返り、「このままで良いのか?」と問いをたて、内省することです。このように日々内省し、新たな問いをたて、実践する人を組織研究者のドナルド・ショーンは「内省的実践者」と呼びます。
そこで、従業員自身が自発的にそれを行う仕組みが重要になります。日々、成功したこと、失敗したことを記録し、振り返ることで、こうすればよかったのではないか、ということに従業員自身が気づくことができます。
また、内省する上で、ただ悪いところを直すのではなく、良いところ、強みを伸ばしていく、という意識も非常に大切です。こうすることで、心の障壁がなくなり、日々内省がしやすくなると考えられます。
内省することで明らかになった、成功と失敗から、続けた方が良いこと、とやめた方が良いこと、を予測できます。そこで、チームメンバーや上長と対話することで何をやり、何を止めるのかをチームで選択していくことが有効です。
1人の判断では決めきれないことがほとんどですし、何より、もし改善の方向が間違っていた場合、個人の失敗、となってしまいます。チームで判断し、選択することで、もし失敗した場合も、そのリスクをチームで分け合えるため、思い切った選択をすることもできます。
内省だけでは、今あるものの中での知見にとどまってしまいます。
そこで、新たな学びの場を設けることで、外側からやってくる新たな知見をもとに、より革新的な変化を生むことができる可能性があります。また、新しい学びや普段関わらない人との意見交換は従業員にとって大きなモチベーションになります。また、いつも通りのメンバーでも1on1などより深く話せる場を設けることで、同じ事象を見る力が深まります。
アンラーニングの推進は、時代の流れに合わせた重要な取り組みと言えます。アンラーニングを行うためには、経験者自身が考えを整理し、反省する必要があります。上司や先輩は、部下や後輩が良い気づきを得るためにサポートすることが求められます。
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仕事のアンラーニング -働き方を学びほぐす- | 松尾 睦
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