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日本経済再生のため、私たちは何をすべきか? データから読み解くファクト——updataNOW 20 イベントレポート

         

毎年恒例のウイングアーク1st主催カンファレンス「ウイングアークフォーラム」。2020年は名称を「updataNOW 20」に刷新し、オンラインイベントとして開催しました。今年は10月12日の前夜祭を皮切りに16日までの会期中、65超のセッションでお送りしました。

オープニングとなるDaily Keynoteでは、国際政治学者で、シンクタンクの山猫総合研究所の三浦瑠麗氏をお招きし、不透明感が強い今、どのようにファクトデータを捉え、活用していけば良いのかをお聞きしました。

新型コロナウイルス感染症をどう捉えるべきか

山猫総合研究所では、新型コロナウイルス感染症をきっかけに、人々の生活や経済活動がどのように変わったのかをリサーチしています。三浦氏は、リサーチ結果をまとめた意識データと帝国データバンクが持っている豊富な企業データを利用した共同研究の成果を紹介しながら、「シナリオの重要性」にフォーカスして解説しました。

新型コロナウイルス感染症の想定致死率は、日本感染症学会の暫定的仮定が2%程度であるのに対し、抗体検査・免疫研究が進むこの先において0.2%以下にまで大幅に減少する見込みだといわれています。基本再生産数(1人の感染者が免疫を持たない集団に加わったときに直接感染させる平均人数)も、当初専門家会議が2.5と想定しましたが、3月末のピークに想定を下回り、6月の厚生労働省の通達では「1.7」に見直されました。この「1.7」という数字について、三浦氏は次のように切り出しました。

「1.7は、どのように導き出された数値でしょうか。まず、基本再生産数とは人々が何にも対策しないときの仮定的な数字です。しかし実際は、感染が広がると人々の間に恐怖も広がっていき、各々が外出を避けたり、マスクをしたり、手を洗ったりするようになりますし、そもそも行動範囲が異なります。このような特異性を持つ状況の中、新型コロナウイルス感染症対策のために、政府や自治体は、いったいどのくらいのベッド数があるのか、あるいはどれほどの規模で医療体制を準備すればよいのか、ある程度の現実的な数字をもとに決めていくことが求められました」(三浦氏)

実行再生産数という数字は、社会に対して休業・休校の要請を発する“前の段階”でどのくらいの実行再生産数になるかという数字になっています。それを政府は、『1.7』というわりあい悲観的な数字でとして発表しました。

「『1.4』という数字も検討時にはありましたが、『1.4よりも1.7で仮定したほうが、ベッド数に余裕のある体制を敷くしくことができるだろう』という意図に基づいて導き出された数値になっています。私たちが日頃メディアを見ていると、『こういう厚労省の通達がありました』ということはニュースになっても、『厚労省から地方自治体に向けて、こういうシナリオ基づき、ベッド数の確保の要請がありました』という話は取り上げられません。休業要請の背景にある、シナリオが示されることもほとんどありませんでした。なぜならば、報道のほとんどは、データに基づいてなされていないからです」(三浦氏)

こう現状の問題点を挙げた上で、三浦氏は「データの裏には仮説がある」としながら、次のように続けます。

「いかに感染者数をあぶり出してみたところで、市井に潜む無症状感染者を全て見付け出すことはできません。『今の致死率は2%』あるいは『実行再生生産数は2.5』などと報道しても、それはあくまで仮説に基づく数字に過ぎず、その先で事態が変化していったときには仮説の変更を余儀なくされます。しかし、メディアは後から仮説を変更しません。仮説を変更できないとなると、具体的な症例を取り出して、重症患者の方の体験談や一般論としてのリスクを拡大して報道してします」(三浦氏)

ダイヤモンド・プリンセス号の報道があったとき、私たちは新型コロナウイルス感染症を理解するためのデータ利用が可能だったといいます。特に厚生労働省の管轄になってからは、クルーズ船という、ある意味で実験室的なセッティングの中でウイルスの振る舞いをデータとして知ることができたとのことです。

「しかし『安心である』『安全である』という確証を得るだけの十分なデータ量に達していなかったことから『危ないから家の中にいてください』といったメッセージばかりが先行することになってしまいました。そこで私が提唱したいのは、『感染の広がりについては複数シナリオを立てる必要ある』ということです」(三浦氏)

不確実性を取り払い1つの仮説によるシナリオだけにコミットすると、それが外れたときに対応できなくなってしまいます。そこで、複数の仮説によるシナリオを立てることで、不確実性にある程度対応できるようになるといいます。さらに、次の図を示しながら複数シナリオの必要性について解説しました。

「他国の感染状況を参考にシナリオを立てるとします。死者数は地域差が生じており、アジア全域で死者数が抑えられていることから、アジア諸国の状態しか参考にできないというのが、まず必要な科学的な態度です。さらい、不確実性の概念を持ち込むことが必要です。例えば、アジア地域の特異性(死者数が抑えられているという)が消失するかもしれません。また、ウイルスの変異などにより、第一波と第二波では死至率が異なるかもしれません。すると、さまざまなデータを活用して、複数のシナリオを立てる重要性が見えてくると思います」(三浦氏)

複数シナリオから考察する日本の未来

そこで山猫総合研究所が6月に作成した3つのシナリオを提示しました。さらに、そこに帝国データバンクの各種データ・予測をもとにした中長期的な経済予測が付け加えられました。

楽観シナリオ(第二波・ウイルス変異がともに起きず)

第二波は到来しない。自然免疫や交差免疫を想定すると日本におけるCOVID-19の感受性は低く、経済活動を再開しても高齢者施設や病院で小規模なクラスターが発生するに留まる。2020〜21年の2年間に超過死亡(予測される死亡者数からの増加)は発生せず、インフルエンザの流行年よりも全国の死者数は低下する。

⇒【経済シナリオ】経済を停止することによる犠牲者(自殺者)が圧倒的に大きい。

悲観シナリオ(第二波が到来、ウイルス変異は起きず)

今秋から冬にかけて第二波が到来する。秋から春にかけて2年間流行し、最終的に人口の1割(=約1,200万人)が罹患して集団免疫に到達する。24万人が重症化し、2年間かけて約2万4,000人が死亡する。インフルエンザ流行年の2〜3倍の超過死亡が2年間発生。重症化患者の一定数に後遺症が残る。

⇒【経済シナリオ】2年間は犠牲が拮抗するが、その後も景気回復しなければ経済による死者がCOVID-19による直接の死者を上回る。

最悪シナリオ(第二波が到来、ウイルス変異も起こる)

夏に第二波が到来、アジア地域の特異性は消失し、季節と関係なく、多くの人が罹患し続け、1年半ほどで人口の4割(=約4,800万人)が罹患して集団免疫に到達する。96万人が重症化し、約9万6,000人が死亡する。重症化患者の一定数に後遺症が残る。

⇒【経済シナリオ】COVID-19による死者が大きく上回るが、長期的な経済停滞による負の影響は避けられない。

以上のシナリオについて解説した上で、さらに三浦氏は続けます。

「6月以降、日本における超過死亡がほとんど観察されなかったことから、現時点ではどうも『楽観シナリオ』に近いのでは、ということが見えてきました。しかし安心は禁物です。楽観シナリオの中での不確実性もまだ排除はできず、この先どうなるかはまだ分かりません。いずれにしても私たちは、本当のところ複数シナリオのどれをたどっているのか分からない中、COVID-19での直接的な死以外にも経済的損害を起因とした自殺で尊い命を失いかねない、それを意識しなければいけません」(三浦氏)

すでに現時点においても、リーマンショック期の厳しさを超える経済的損害が生じ、隠れ失業も大量に発生しています。帝国データバンクのデータによると、新型コロナウィルス感染症関連の倒産件数は休廃業は含まず527件(9月15日時点)。現時点では会社運営がされていても、現預金に余裕がなくなれば数カ月後にバタバタと倒産することも予想されます。昨年末42.5だった景気動向指数(景気DI)は3月以降32.5→25.8→25.2と徐々に悪化し、8月に至っても29.7と大きな改善に至っていません。

「当研究所が行った意識調査でも、緊急事態宣言解除後、8割弱の方がCOVID-19によって何かしらの不安を抱えていました。働く方の4分の1にリモートワークが定着し、休業者の約半数が仕事に復帰した一方で、失業者あるいは賃金が支払われていないセグメントの回復はいまだ見られていません。3分の1の世帯収入が減り、半数弱の世帯では今後の収入減も見込まれています。9割弱で外食機会が減ったばかりか、消費マインドも冷え込んだままです」(三浦氏)

感染症対策と経済対策は「命と命のバランス」で

こうした実状を省みた三浦氏は「感染症対策と経済対策の両者を対立させるのではなく、それぞれに評価指標(下記参照)を見定め、両者のバランスを模索すべき」と提言します。

「新型コロナウイルス感染症の第一波への対応で感染者は減少しましたが、他方で大きな経済的落ち込みを招きました。今後は感染症の被害と経済恐慌による国民の生活・財産・命への被害をバランスさせる必要があります。バランスさせるべきは『経済と命』ではなく『命と命』です。経済によって失われる命にも十分配慮していていかなければいけません」(三浦氏)

最後に国際政治学者としての観点から、国際的な視点というのがCOVID-19の議論から一切抜け落ちていることに危惧を抱いていると話しました。

「日本は感染者数が比較的抑えられていることで、他の国とは異なる感染水準の中で国境を開くことになるかもしれません。そうなった場合、政治リスク、経済リスクに加え、急に国境が開かれたことによる健康リスクにも同時にさらされることになります。現状では、こうなって場合に有効な仮説を立てるためのデータが不足しています。感染症が完全に収まるまで日本国内に閉じこもっていようという態度では、今後、しっかりとした分析ができません」(三浦氏)

三浦氏は、「シナリオの重要性」というところにフォーカスして、不透明感が強い今、どのようにファクトデータを捉え、活用していけばよいのか、道筋を示してくれました。感染者数と死者数のデータだけを見れば、日本は比較的被害が少ないように映ります。しかし、私たちは、新型コロナウィルス感染症による直接的な影響だけにとらわれることなく、新型コロナウィルス感染症をトリガーとして一斉に動き出したさまざまな出来事に意識を向ける必要があるのでしょう。データを目にしたときに、多面的な見方をすることの重要さについても示唆する内容となりました。

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ウイングアーク1stが毎年開催している国内最大級のビジネスイベント「ウイングアークフォーラム」。今年は「updataNOW 20」と名前を変え、10/12~10/16にオンラインで開催しました。 登録数15,000名以上、セッションの総視聴数は40,000を迎えました。 データ活用とDXを基軸に、ネクストノーマル時代に向けた洞察から、各業界・業種の先進的な成功事例、そして、ビジネスを加速する最新のサービス紹介まで、65を超えるセッションの大部分をアーカイブ配信として公開いたしました。 見逃した方はもちろん、もう一度視聴したい方も是非ご覧ください。




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