V-RESASのデータをもとに、「地方創生とデータ活用」について討論するイベントシリーズが3回にわたって行われる。2021年2月4日に開かれた初回のオンラインイベント「コロナ禍における地方創生とデータ活用~V-RESASで見るデータとケーススタディ~」では、台湾のデジタル大臣を務めるオードリー・タン氏をゲストに招き、事例の紹介やパネルディスカッションが行われた。その中で、タン氏から、台湾のコロナ対策について、当初の課題と具体的な対応策が語られた。
プログラムのイントロダクションとして、モデレーターも務めるTakram デザインエンジニア 田川欣哉氏が、V-RESASの紹介を行った。
V-RESASは、内閣府地方創生推進室と内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局が提供する、地方創生のさまざまな取り組みをデータで支援するサイトだ。特に、地方公共団体や金融機関、商工団体などが、新型コロナウイルス感染症が地域経済に与える影響を適時適切に把握することで、観光関連施設や生活基盤などの地域資源を維持し、収束後に地域経済を再活性化させる際の施策立案、遂行および改善のために活用できる。
田川氏は「これまで国などが公表する統計データは、最短でも月次ペースだったが、V-RESASは原則1週間程度の頻度で掲載データの更新を行っている。刻々と変化するコロナの感染状況に対して、素早い対策が打てるようになる」と説明した。
機能の拡充も継続的に行っており、各グラフを画像やCSVファイルでダウンロードできるため、利用者が表計算ソフトで分析することも可能だという。また、関心のあるグラフをブックマークし、そのグラフの推移に目を光らせることができるツールも実装していると紹介した。
田川氏のイントロダクションに続き、同様にV-RESASのプロジェクトに参加している統計家の西内啓氏がV-RESASの活用方法を実際のトピックをもとに説明した。
例えば、政府の観光需要喚起策「Go To トラベル」事業について、「地方にも恩恵がある施策を実施した際に、それがどれぐらいのインパクトになったのかを即座に把握することができるのはV-RESASの大きな意義」と語った。
V-RESASは「人流」「消費」「飲食」「宿泊」「イベント」「興味・関心」「雇用」「企業財務」などのテーマごと、さらに地域ごとにデータの変化を前年(コロナ以前の2019年)同週比で表すことができる。
「最初の緊急事態宣言直後の2020年5月にはジンやウオッカなどのアルコール濃度の高いお酒が突出して売れた。これはいわゆる宅飲みの巣ごもり需要ではなく、品薄となった消毒液の代わりに購入されていると推測できる」と語った。
また、人流データに関しては、域内の移動や都道府県をまたいだ移動について、V-RESASで確認できるとし、「企業にとっては、ビジネス再開や新規事業への進出の判断を行う際に、V-RESASのデータやグラフは大いに参考になるのではないか」と、経済を回し地方経済の活性化にも貢献するV-RESASへの期待は大きいと話した。
「地方創生とデータ活用」について討論をするイベントシリーズの第1回ゲストは、台湾 デジタル大臣 オードリー・タン氏だ。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴うマスク不足は日本でも大きな問題となった。しかし台湾では、政府がマスクを買い上げ、台湾の国民皆保険制度である全民健康保険のカードを使った実名販売を行った結果、マスクを偏りなく行き渡らせることができた。さらに、このマスク供給システムは、わずか3日間で開発し、実施されたという。
タン氏は、「台湾全土の薬局などの販売店の在庫をスマートフォンのアプリで確認できる『マスクマップ』を開発したが、開発に当たってはシビックハッカー(市民エンジニア)の協力を得て行った」と紹介した。
マスクマップが誕生するきっかけとなったのは、一人の市民が近隣の店舗のマスク在庫状況を調べて地図アプリで公開したことだという。それを知ったタン氏は、数百人のシビックハッカーの協力を得て、マスクマップを政府がつくることを提案し、実現したのだ。トップダウンではなくボトムアップで開発を進めることで大幅なコスト削減と開発期間の短縮が可能になった。
行政機関、販売店などの流通、さらには決済会社など多くの関係者をつなぎ、画期的なシステムを実現したタン氏の手腕が大きく注目されたが、「課題がなかったわけではない」と加える。
例えば、薬局など販売店での混乱だ。マスクは健康保険カードを使った実名販売を行っていたが、薬局などの店頭では対応が煩雑になるため、いったん整理券と引き換えに健康保険証を預かり、番号を入力した後にマスクと一緒に保険証を返却していた。しかしこの方法だと、在庫がなくてもマスクマップ上にはいつまでも在庫があるように表示されてしまう。このため、薬局の中には「アプリは信頼できない」というはり紙を店頭に掲げるところも出てきた。
「その後薬局では、マスクの在庫の入力箇所にマイナスの数字を入れることでこの問題を解決できることを発見した。まさにハックである。私たちはその後、『在庫なし』というボタンを付け、薬局でボタンを押せるようにした。『マスクマップ』のアイデアはこのようなオープンイノベーションから生まれ実装された。それが重要である」とタン氏は強調した。
タン氏の講演の後、田川氏、西内氏、さらにロフトワーク代表 / FabCafe CEOの諏訪光洋氏によるパネルディスカッションが行われた。
西内氏は、タン氏がシビックハッカーの協力を得て「マスクマップ」の開発を行ったことに対して、「V-RESASも、『市民データサイエンス』に便利に使ってもらえるツールを目指している」と話した。諏訪氏も「台湾でのハッカーのコミュニティがどのように形成され、モチベーションが維持されているのか関心がある」と質問した。
それに対してタン氏は「エモーション(感動・感激)が大切だ。台湾ではハッカソンの大会を政府が支援しており、優秀者には蔡英文総統から直接トロフィーが手渡される。また、優秀作品の中で採用された案に関しては、政府がポリシーにきちんと組み入れると約束している。お金ではないそのような栄誉もエモーションにつながるのではないか」と話した。
田川氏は、タン氏が著書の中で、ハッカソンに参加する際には、3つの異なるタイプの人材でチームを組むべきと著していることに触れ、「テクノロジーの人だけではなく、違う目線を持った人たちに協力をしてもらいながらアイデアを考えて、それを実装しようとしているなど、人を組み合わせることに丁寧に取り組んでいるのではないか」と尋ねた。
「マスクマップ」における薬局の店主のように、異なる立場の人々が互いに自分の立場を守ろうとしてそこに緊張が生まれることは珍しいことではない。タン氏は「そこで、異なる立場の中で共通する利害は何なのかを常に問いかけていくことが大切。共通の価値を実現するためにどのようなテクノロジーやイノベーションが必要かを問いかけることにしている」と答えた。
タン氏はV-RESASの先代のRESASについても以前から知っており関心を持っていたという。そして「日本と台湾はSDGsや地方創生に関して共通のゴール・価値観があると感じている。今後も一緒に仕事をさせていただきたい。台湾ではワクチンの接種が始まっている。それが終わったら皆さんに直接お会いできると思う。その日を楽しみにしている」と結んだ。
(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣/下原 PHOTO:Inoue Syuhei 編集:野島光太郎)
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