3つ目のポイントであるネットワーク効果について説明しましょう。
これは「ネットワーク外部性」とも言います。電話やFAXなどつながるタイプのサービスや商品がこれに該当します。これらの商品は普及すればするほど、1個あたりの価値が上がるという現象が起こります。これは伝統的なミクロ経済学の基本的な概念を覆す、非常に重要なポイントです。
例えば、電話が世界に1台だけだったら、何の役にも立ちません。しかし、2台あれば2人で話ができるようになり、電話の所有者が3人に増えるとまた価値が上がります。つまり、多くの人が使えば使うほど、価値が上がります。これは過去には例のない現象だと経済学者たちは指摘しています。
なぜネットワーク外部性と言うかというと、商品自体は変わっていないからです。サービスも変わっていません。使う人だけが変わります。外部要因が増えることによって、商品自体はなにも変わっていないのに価値が上がっていきます。
ネットワーク外部性は、いろんな外部性の考え方のなかでほぼ唯一、商品価値を勝手に上げていく現象だと言われています。W.ブライアン・アーサー(W. Brian Author)というアメリカの学者が、このネットワーク外部性について1994年に論文を出していて、「経路依存性」ということが述べられています。
例えば、A地点からB地点に向かうときに、どの道を辿っても必ずB地点にたどり着くとします。これは経済学の基本で、いわゆる均衡理論と言われています。「どんな道を辿っても、必ず目的地がBであるならば、途中の道はどうでもいい」というのが、古典物理学から始まる経済学の基本原理だったわけです。ところが、経路依存性がある場合、特定の道、例えば右側の道を通った人だけが勝つ、ということが起こり始めます。
最初からそれがわかっていれば、当然みんなは右側に行くわけですが、初期段階ではどっちが勝つかわかりません。人間から見ると、右側が勝つ、というのも偶然の産物のように見えます。これが経路依存性と言われるものです。
この何が問題かというと、「良いものは必ず売れる」ということが成り立たなくなることです。日本人は、ものづくりの精神から、良いものは時間が経てば必ず勝つと思っている部分があります。いままでは、それが正しかったわけです。ところが、経路依存性が働くと最初に出たものが勝つため、そうではなくなります。そのあとに良いものを作っても、逆転できないということです。
先ほどの話に戻ると、いま世界を席巻しているGAFAといった会社は、実は全部「経路依存性が伴うネットワーク効果を最大限に活用している会社」だということがわかります。
例えば、Facebookで考えてみましょう。Facebookのプラットフォームやアーキテクチャは、最善のものとは言えません。いま、ゼロから作れば、もっと良いものをいくらでも作れます。実際にそうして新しいSNSを作っている会社もありますが、なかなか逆転できないのが現状です。
なぜかというと、ネットワーク効果が効いているからです。ザッカーバーグさんが学生の時に仕組みを思いつき、手近な技術で作ったものですが、そういうものが世界を席巻してしまうということです。
Googleもある意味でそうです。もちろん技術力は高いですが、ラリー・ペイジさんが学生だったときに、手近な技術で作ったものです。それが世界のメディア産業を揺るがすほどの大きさになってしまって、いまではほぼ逆転不能という状況ができてしまった。
Amazonもそうです。もともとは、インターネットの本屋さんです。ほとんど売れない本を大量に集めて、時々やってくるお客さんに本を売る、というビジネスモデルでした。ところが、それをどんどん拡張していき、ソリューションサービスも始めたことで、気づけばもう逆転できない大きさに成長したわけです。
これらは全部、ネットワーク効果が効いているからだということがわかります。
講演者プロフィール
一橋大学大学院経営管理研究科教授
1991年に一橋大学商学部経営学科を卒業。(株)博報堂に入社し、マーケティングプラナーになる。その後、同社生活研究所、研究開発局、イノベーション・ラボで消費者研究、技術普及研究に従事。また2003年~2004年にマサチューセッツ工科大学メディア比較学科に研究留学。2008年に東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻博士後期課程を修了し、博士(学術)となる。ハイテク分野において、いわゆる「イノベーションの死の谷」現象がなぜ発生するか、克服には何が必要か、という視点から、ミクロ視点での普及学を研究。その延長としてユーザーイノベーション論、シナリオ構築による未来洞察手法、デザインとイノベーションの関係なども研究している。
講演者プロフィール
一橋大学大学院経営管理研究科教授
1991年に一橋大学商学部経営学科を卒業。(株)博報堂に入社し、マーケティングプラナーになる。その後、同社生活研究所、研究開発局、イノベーション・ラボで消費者研究、技術普及研究に従事。また2003年~2004年にマサチューセッツ工科大学メディア比較学科に研究留学。2008年に東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻博士後期課程を修了し、博士(学術)となる。ハイテク分野において、いわゆる「イノベーションの死の谷」現象がなぜ発生するか、克服には何が必要か、という視点から、ミクロ視点での普及学を研究。その延長としてユーザーイノベーション論、シナリオ構築による未来洞察手法、デザインとイノベーションの関係なども研究している。
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