データのじかん週報では、データのじかんの編集部内で会話されるこばなしを週1度程度、速報的にお届けいたします。
大川:先週、三菱総合研究所が主催する「MRI DEMO DAY」に参加しました。テーマは「社会課題解決のためのスタートアップ連携・共創」。実は、同じようなイベントに出席した際に私は「何のためにやっているのか?」と感じることが多く、私はあまり良い印象を持っていないテーマでした。しかし、結果は参加して大正解!特にパネルディスカッションは、登壇者が所謂ビジネスタレントではなく、インキュベーションの裏方として実務をしっかりとしている方々ばかりだったこともあり、非常に内容が濃かったですね。
野島:印象に残っている発言などはありますか?
大川:経済産業省の新規事業創造推進室長の石井氏が「社会課題を解像度を上げて具体的なモノに再定義して、解決したい企業との擦り合わせが出来る役割が最も重要。国としてもこの役割を支援したい」と述べていたのが印象深かったですね。既に国はスタートアップに対して一兆円規模の支援を打ち出していますから。それを踏まえて、ファンドなどのオルタナティブ投資にありがちな「お金を出す人」の社会的課題に対する解像度の低さを、他の参加者を踏まえたエスタブリッシュメントな方々がしっかりと課題として捉えてると感じました。数年前にはなかったことですよ。
野島:社会的課題解決をテーマにしたイベントが「ふんわり」しがちなのも、解像度が共有できていないからかもしれませんね。それが変わったからこそ、大川さんが感じた雰囲気が従来と違ったのかも。
大川:そうですね。実際、解像度についてはファンドだけでなく事業者の「現場感」のなさが問題になることもありますから。お互いが「お金を出す」、「事業を担う」といった役割に終始しがちなのが課題だと思います。その結果、当事者間の言葉が合わない、通じないといった齟齬が発生してしまいます。だからこそ、両者の間に立つ「翻訳者」が欠かせないというわけです。今回のイベントを見る限り、三菱総合研究所をはじめとした中間を担うシンクタンクなどはその感覚を掴みつつあると思いますよ。
野島:組織単位ではなく、個々の人材としても翻訳者の需要は高いでしょうね。
大川:かなり高いと思いますよ。これまでさまざまなインキュベーション施設などを調べてきましたが、ただ「箱」を用意しているだけの施設は運営が頓挫しがちです。一方、前回の週報で取り上げた「塩尻激アツ問題!」 のような施設には、翻訳者となる人材が一、二名いるケースが多いですから。
野島:そんな人たちにスポットライトを当てて、動きやすく環境を整えるのが重要になりますよね。ただ、この「翻訳者」の立場をこれまでの活動の文脈からジョブとして定義し、そして肩書き・役職を明示化することはなかなかハードルが(高い)。その面でも適材を見つけるのは難しそうです。
大川:翻訳者は既存の職位や組織内の役割(ロール)で一括りにできるわけではありませんからね。東京のインキュベーション施設であれば、コミュニティマネージャーが設けられることが多いほか、中小企業診断士などの有資格者もいるでしょうが、当然、全員が目利きできるわけではありません。ユーザーセントリック、アジャイル、スクラムのコツ、UX、ジャーニーなどの理解に加え、数字も見られるという認証があれば良いかもしれません。翻訳者個人に投資先と投資金額を決める権限を与える環境が、「みんなが歩みよって理解しようしているが限界がある」という現状を打破できるのかもしれません。
大川:先週参加したイベントでは、スポーツ庁が開催した「Innovation League」も面白く、可能性を感じる内容でしたね。「スポーツビジネスの拡張」と「新スポーツの創造」をテーマに新技術や事業アイデアを作り出し、スポーツの社会的価値を創造して自走を目指すというスポーツ庁の狙いと目的にはとても興味が湧きましたよ。
野島:スポーツや教育、文化とビジネスの掛け合わせ、こちらもややもすると「ふわっと」しそうなテーマですよね。
大川:私も同意見です(笑)。ただ、今回のイノベーション大賞を受賞したスポーツと福祉、農業を掛け合わせた「湘南ベルマーレ + ittokai『ベルファーム』」など、まだまだ磨きようはありますが、非常に面白い取り組みが多かったです。一点、気になったのは解決策としてはデジタルありきではなく、有効活用しているケースが少なかったことですかね。この原因は恐らく、運営側にソフトウェアの人たちが入っていないからかもしれません。
野島:スポーツチームが事業を拡張、新規創出するメリットはなんでしょうか?
大川:圧倒的なロイヤリティでしょう。特に湘南ベルマーレのように地域に根ざしたチームであれば、すでに熱心なファンを抱えていますから、関連事業、別事業を展開しても一般企業と比べると非常に受け入れて貰えやすいと思います。
野島:企業がスポーツを事業にする「逆」のパターンでは、考えられないくらいハードルが低そうですね。
大川:既存の企業が「本業」として参入するのはハードルが高すぎますね。KGI、KPIが全く異なります。特にトラディショナルな企業にとっては、ゼロからビジネスモデルを一個つくらなければならないうえ、ステークホルダーも新たに連れてこなければなりません。さらにコミュニティもつくらなければならないという、スイッチングコストが大きすぎるのが壁でしょう。
野島:WBCなど「個」であれば、スポーツに熱を抱く人が多いですが、こと企業においては消化不良になることは多い。一方、欧米ではスポーツを有望産業と捉え、スポーツビジネスが巨大な産業となっていますよね。NFLやプレミアリーグ、マンUしかり、放送、グッズ、モバイルコンテンツなど多領域に事業を展開しているチームは世界にいくつもありますから、その先駆けとなる取り組みは応援したいですね。
大川:そうですね。スポーツチームの事業展開や企業のスポーツ分野での活動は、いずれもメディアにとって「片手間感」が出てしまいがちですから。データのじかんではしっかりと入り込んで取材を続けていきたいですね。
「データのじかん」を運営するウイングアーク1stはBMXの「中村輪夢選手」とスポンサー契約を結び、データをスポーツに活かせる環境への取り組みと支援の実践や北九州市をホームタウンとする日本プロサッカーチーム(Jリーグ)ギラヴァンツ北九州と北九州市とはスポーツテックにより選手のパフォーマンス向上を図る連携協定を締結しています。また、日本障害者スキー連盟のスノーボードスポンサーとして、障害者の社会参画の促進および活力ある共生社会の創造を目的に支援しています。 |
広告代理店にて高級宝飾ブランド/腕時計メーカー/カルチャー雑誌などのデザイン・アートディレクション・マーケティングを担当。その後、一部上場企業/外資系IT企業での事業開発を経て現職。静岡県浜松市生まれ、名古屋大学経済学部卒業。
IT企業を経て三菱総合研究所に約12年在籍し2018年から現職。専門はデジタル化による産業・企業構造転換、製造業のデジタルサービス事業、中小企業のデジタル化。(一社)エッジプラットフォームコンソーシアム理事、東京商工会議所学識委員兼専門家WG座長、内閣府SIP My-IoT PF、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会 中堅中小AG、明治大学サービス創新研究所客員研究員、イノベーション・ラボラトリ(i.lab)、リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMAを兼務。官公庁・自治体・経済団体等での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。直近の出版物は「アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド」(大川真史編、技術評論社)
経済週刊誌の編集記者として活動後、Webコンテンツのディレクターに転身。2020年に独立してWEBコンテンツ制作会社、もっとグッドを設立。ライター集団「ライティングパートナーズ」の主宰も務める。BtoB分野を中心にオウンドメディアのSEO、取材、ブランディングまであらゆるコンテンツ制作を行うほか、ビジネス・社会分野のライターとしても活動中。データのじかんでは編集・ライターとして企画立案から取材まで担う。1990年生まれ、広島県出身。
(TEXT・編集:藤冨啓之)
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