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ChatGPTの「ウラガワ」を知る意義と、ある意味、AIの脅威よりもChatGPTとの向き合い方について一石が投じられました。データのじかん週報では、データのじかんの編集部内で会話されるこばなしを週1度程度、速報的にお届けいたします。
大川:昨今、話題に事欠かないといえば「ChatGPT」ですね。エンジニア界隈だけでなく一般のビジネスパーソンから芸能人まで、名前を聞かない日がないと言っても大げさではないです。データのじかんとしてはもちろん、ChatGPTは私個人の新しい調査テーマとしても追いかけています。直近ではChatGPT関連のイベントだけで5本参加しました。
野島:さすがの注目度ですね。今週はデータのじかんでも、IT・AIのプロフェッショナルの方とご一緒してChatGPTとLLMの進化をテーマにした記事を公開したばかりです。
大川:私としてはChatGPTの技術的な話以外でも、実際に使用してみることで気付かされる「視座」が非常にバラエティに富んでいて面白いと感じています。ただ、そのためには生成した文章だけでなくその「ウラガワ」にある「プロンプト」に着目する必要がありますね。
■プロンプト(プロンプトエンジニアリング) |
大川:すごく分かりやすいのが、あるChatGPTイベントで紹介された「対話型RPG」です。このゲームのルールはすごくシンプルで、プレイヤーが「パーティーを探しに酒場に行く」などの行動を入力すると、自動でそれに応じたストーリーが展開されます。それを繰り返し、5ターン(会話5回)以内に魔王を倒せたらゲームクリアです。
野島:もちろん、ウラガワではChatGPTであらかじめ設定されたプロンプトによって、シナリオが生成されているんですよね?
大川:その通りです。ただ、このプロンプトが予想以上に「短くてシンプル」なのが肝です。それも主に表示方法を指示しているだけで、どのようにシナリオの作成方法などについてはほとんど記載されていないんですよ。つまり、ChatGPTはプレイヤーの千差万別の質問をもとに対して、ただ膨大な「RPGあるある」を回答するだけで、違和感のないシナリオを構築しているというわけです。ウラガワを見たときに私は、「ゲームシナリオって『こういうもの』だよね」と気付かされたわけです。プレイヤーはもちろん、出てくるモンスターや主人公の職業、作品のジャンルは違っても、根本の作りはこれまでの情報から構築できるんです。実際にこの世に存在する魔王を倒した人間はいないので、当たり前といえば当たり前かもしれませんが。
大川:ChatGPTがまるで超技術のように語られることもありますよね。ただ、現状はあくまであるものをそれっぽくまとめて回答しているだけです。けれども今回のRPGのように「あるものを改めて打ち返されて気付ける」ことも十分に考えられます。それこそ、現時点のChatGPTの有意義な使い方であり価値なのではないでしょうか。
野島:ChatGPTは技術的には大きな変化はしていないけれど、やはり対話型というUI設計だからこそ「食っている情報が段違い」なのが、なんでもそれっぽく回答できる理由ですよね。それにしても、なんでもそれなりに回答してくれるのであれば、いずれChatGPTに恋してしまう人も現れそうですね。
大川:確かに(笑)。相談相手に恋愛感情を抱いてしまうのは、王道ですからね。実際、ChatGPTは占いとも相性が良く、質問者に対して「それなりに心地よい結果」を提示できるので余裕だと思いますよ。
野島:人の感情をコントロールできるとなると少し怖い感じもしますが、開発者側は意図的に感情に関するデータを食わせる設計をしていると考えられますか? 私もChatGPTについ「ありがとう」と感謝の言葉を打ち込んでしまうこともあるんですが。
大川:私はそんなことはないと思いますよ。あくまで他と同じように「この単語の次はこの単語が来る」というように属性でつないでいるだけではないでしょうか。対話型なので利用者が感情を向けてしまうのは、往々にしてあると考えられますよ。ほら、スマートスピーカーやかなり昔のWindowsに搭載されていた「イルカ」も、冗談か本気か分からない色々な感情を向けられていたじゃないですか(笑)。
■Windowsに搭載されていたイルカ:「カイル君」
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野島:ChatGPTによる各方面のインパクトも懸念されていますが、大川さんはどのように考えていますか? 例えば、IoTセンサーが登場したときのような大きなインパクトは今後、起こると思いますか?
大川:プログラミング言語が自然言語に置き換わったわけですから、それだけ翻訳者が増えるのでSlerにとっては厳しくなるのではないでしょうか。ただ、ノンコーディングの流れはAPIが起点となって以降、すでに大きくなり続けていたので「新しい波」というわけではないと考えています。ただ、既存の潮流がChatGPTによって大きくなったのは事実で「一気に来たね」というのが正直な感想です。
野島:エンジニアからしたら「ただUIが変わっただけ」かもしれませんね。ただ、自然言語になったおかげで一般人でも利用できるようになり、裾野が広がって「食っている情報量」が莫大になり注目しなければならない事象でしょう。UIを変えるだけで、これだけ社会的に浸透することが大きなインパクトといえるかもしれません。
大川:そうですね。自然言語で行える領域が広がって興味を持つ人が増えれば、コーディングしかできない人はもちろん、日々の業務でオペレーティングしかしていない人にとっては「仕事が減る時代」が近づいたのかもしれません。私としては技術的な側面だけではなく、むしろ「ChatGPTとどう向き合うか」でフィルタリングできてしまうのがポイントだと思います。
野島:ChatGPTをどう使うか、ではなく「向き合うか」ですか。
大川:そうです。ChatGPTはあくまで「あるものを打ち返すだけ」のシステムです。しかもその打ち返す内容は、質問する人間の認知力に合わせてくれるんですよね。プロンプトの内容はもちろん、回答の汲み取り、次の質問に反映させて精度を向上させるのも利用者次第。だからChatGPTを「使えない」という人は、自分から「私は認知力が低い人間」もしくはなぜ使えない回答が出てきたのかという「推論」ができないと言っているようなものなんですよ。そしてそのどちらも、ビジネスには欠かせない能力です。
野島:以前から何度か取り上げている「組織の8割はオペレーションの人」がより分かりやすくなる可能性があるということですか。
大川:そうですね。これだけ産業や業種、キャリアの壁を超えて手軽に利用できるChatGPTは「使って当然」です。ただ、何度かChatGPTの使用状況を質問するとやはり2割の人は登録すらしていない。企業がChatGPTをどう生かすかは議論の余地がありますが、少なくとも個人レベルでは、その人がオペレーションの人か否かを分けるフィルターになると思います。
データのじかん編集長 野島 光太郎(のじま・こうたろう)
広告代理店にて高級宝飾ブランド/腕時計メーカー/カルチャー雑誌などのデザイン・アートディレクション・マーケティングを担当。その後、一部上場企業/外資系IT企業での事業開発を経て現職。2023年4月より上智大学プロフェッショナル・スタディーズ講師。MarkeZine Day、マーケティング・テクノロジーフェアなどにて講演。近著に「今さら聞けない DX用語まるわかり辞典デラックス」(左右社)。静岡県浜松市生まれ、名古屋大学経済学部卒業。
データのじかん主筆 大川 真史(おおかわ・まさし)
IT企業を経て三菱総合研究所に約12年在籍し2018年から現職。専門はデジタル化による産業・企業構造転換、製造業のデジタルサービス事業、中小企業のデジタル化。(一社)エッジプラットフォームコンソーシアム理事、東京商工会議所学識委員兼専門家WG座長、内閣府SIP My-IoT PF、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会 中堅中小AG、明治大学サービス創新研究所客員研究員、イノベーション・ラボラトリ(i.lab)、リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMAを兼務。官公庁・自治体・経済団体等での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。直近の出版物は「アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド」(大川真史編、技術評論社)
データのじかん編集 藤冨 啓之(ふじとみ・ひろゆき)
経済週刊誌の編集記者として活動後、Webコンテンツのディレクターに転身。2020年に独立してWEBコンテンツ制作会社、もっとグッドを設立。ライター集団「ライティングパートナーズ」の主宰も務める。BtoB分野を中心にオウンドメディアのSEO、取材、ブランディングまであらゆるコンテンツ制作を行うほか、ビジネス・社会分野のライターとしても活動中。データのじかんでは編集・ライターとして企画立案から取材まで担う。1990年生まれ、広島県出身。
(TEXT・編集:藤冨啓之)
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