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データのじかん週報では、データのじかんの編集部内で会話されるこばなしを週1度程度、速報的にお届けいたします。
大川:7月25日に行われた内閣府経済社会総合研究所ESRI政策フォーラム「新しいGDP基準:2025SNAに向けて」では、非常に興味深い資料の数々が並んでいます。これはデータ活用者にとって必見レベルですよ! ただ、SNAというものをどれだけの人が知っているのかは分からないですね。
野島:私も大川さんに情報をいただくまで「SNA」という存在自体、知りませんでしたよ!
大川:なるほどですね。SNAはさまざまな統計データの「基礎」になりうる、極めて重要な指標となります。ざっくり表現すると「日本の経済活動の全てを一つにまとめる」ことを目的としています。
■SNA(System of National Accounts)とは ※出典:内閣府「SNAの見方」 |
大川:多くの人が気付いていないのですが、国際的な経済状況や成長率の指標としてよく用いられる「GDP(国内総生産)」は、SNAの一部の「内数」に過ぎません。具体的には、GDPはSNAのように産業別の付加や価値、もっと言うと社会資本を含むストック面の金額を表していないんですよ。これ、実は恐ろしいことなんですよ。
野島:なぜでしょうか?
大川:ご存じの通り、経済活動のほとんどは「ストック」で行われています。つまり、マクロな経済状況を正しく理解するうえでは表面的な実数であるGDPだけだと不十分なデータといえるわけです。今回の会議は2025年のSNAのルールづくりが目的です。
野島:2008年から2015年にアップデートされているようですね。不定期に更新されているのでしょうか?
大川:私が知る限り、1993年から更新されていますね。SNAのルールは5年置きに更新される「産業連関表」に基づいているので、それに併せて改訂されていると個人的には考えています。
■産業連関表 |
大川:SNAにしても、産業連関表にしても非常に細かなデータを追いかけて作成しなければなりません。当然、ルールが変わると数字も変わるので5年に1回程度しかつくれないんですよ。しかもルールが改定された時には、すでに次の訂正版の作成に取り掛かっています。
野島:ほぼずっとデータを収集して作り続けている感じなんですね。
大川:さらにSNAは作成してから公開までに約2年かかります。そのため、フローの観測には不向きで実務ではなかなか使えないデータですね。SNAはもっぱら「ストック面」、つまり国ごとの社会資本の形成の比較や産業政策、税徴収の指標に用いられることが多いです。
野島:いただいた資料によると、ブランドや知財、ウェルビーイングもSNAの対象となる社会的資本の一つになっていますね。
大川:そうですね。ウェルビーイングまで社会的資本として考えるべきでしょうが、個人的には多分、今回は間に合わないかなと思います。今までの感じだと、現実的には、自然資本会計や環境会計などから推計するのだと思います。ただ、論点としてこのようなデータがあるのは非常に重要なんですよ。国のストックというのは、みんながぼんやりと考えている事項ですが、偉い人たちが真面目に考えて発表している資料はそう多くありません。だからこそ、私も追いかけ続けているテーマです。
野島:過去のSNAと比べると、追加されたストック面はあるんでしょうか?
大川:サービスが典型的な例です。あとは野菜農家が野菜を「自家消費」した項目まで対象になったのもSNAの「えげつない情報粒度」の一つですね(笑)。
野島:ウェルビーイングという大きな枠から自家消費といった細かすぎるデータまで、本当に収集する情報が多すぎますね。
大川:基本的にビッグテーマを一つの取引レベルまで落とし込むんですよ。これがSNAの面白さです。
野島:これは確かに参考になるデータですね。日本の頭脳と言われる方たちがミクロレベルまで産業の取引を分解してくれるわけですから。
大川:そうなんです! 産業を187分類に区分し、外部の公的資金も加えたマトリクスにまとめてさらにGDPの速報値とも調整して算出するわけですから、この「論点」だけでも大変貴重な資料といえるでしょう。都道府県レベルでも作成していますが。細かすぎて187分類まで詳細に作成するケースは少ないですね。ただ、その分、地場の強い産業などのデータは集まるので、産業の会社レベルまでの状況がいわゆる「セミマクロ」のような観点で、「具体」と「抽象」を行き来しながら、地域経済を分析できるのが貴重なんです。私も計量経済学に基づいてゴリゴリに地域を分析する「地域経済学」が専門分野なので、非常に馴染みがあるんですよ。
野島:このように徹底的に細かくデータを分析をしている大川さんが、早期に原型を作ってしまう「プロタイピング」の取り組みに深く関わっているのが面白いですよね(笑)。
大川:あくまでデータという無形資産をフロー側ではなくて、社会資本というストック側にもっていくのが肝なんですよ。よくあるデータを使ったビジネスではフロー側になってしまいすよね。「社会資本としてデータを固定資産として、どのように価値を置くか」という観点で数値化するのが非常に意義があり面白いポイントです。
大川:研究開発戦略センター(CRDS)が毎年発表している「研究開発の俯瞰報告書」も、私が毎年追いかけているおすすめの資料ですよ! 特に面白い切り口は「俯瞰の前提」。そのなかでも「科学と社会」というパラグラフは一読の価値アリですよ。
野島:科学を俯瞰するための前提の考え方ですね。なんとも助走距離が長いというか(笑)。ただ、だからこそ深くて面白そうだと感じます。
大川:注目すべきは「科学と社会」の科学自身の変遷というパラグラフです。内容としては、科学に対する社会の受け止め方は間違いなく時代によって変化しているという「前提」を提示しています。その観点がなければ、科学を俯瞰的に観測するのは不可能と述べているわけです。まるで物語における魔法の考え方みたいで面白いですよね。
野島:なるほど、それでコペルニクスの話から入っているわけですね(笑)。
大川:その通りです。錬金術師が錬金術師でありえたのは「その時代だったからこそ」という意味ですね。SF思考というか、小説を書いているようですが大真面目に年間を通して考えているわけです。だからこそ、この国の研究や研究者は面白いんですよ。
野島:このテーマでたった30Pでまとめているのも驚異です。あと、この考えを踏まえて大川さんのプロトタイピングの取り組みを振り返ると面白いですよね。
大川:そうなんです!この取り組みだけで終始してしまうと、山中の仙人のように「浮世離れ」してしまうと思います。大切なのは「山から降りた後に何をするか」ですね。そのカタチの一つが、プロトタイピングや自立して行動する個人なのかもしれません。
野島:「科学と社会」の冒頭を読んで思い出したのは、「チ。―地球の運動について―」という漫画です。詳しくはネタバレになるので話しませんが、ぜひ大川さんと読者の方々にも「俯瞰の前提」を読んだあとに一読していただきたいです。少し残虐な表現もありますが、子どもさんにもおすすめですよ。
■トピックス:大学・高等専門学校の機能強化! 大きな影響の神山まるごと高専の記事を近日公開! 「令和4年度 文部科学白書」が公表され今年は「大学・高等専門学校の機能強化」が特集されました。他の教育に比べて存在感が薄さが否めなかった高専にスポットライトがあたっています。明示されていませんがその大きな影響を与えたと考えられる神山まるごと高専にデータのじかんは取材済み! 近々、インタビュー記事を公開します。 |
データのじかん編集長 野島 光太郎(のじま・こうたろう)
広告代理店にて高級宝飾ブランド/腕時計メーカー/カルチャー雑誌などのデザイン・アートディレクション・マーケティングを担当。その後、一部上場企業/外資系IT企業での事業開発を経て現職。2023年4月より上智大学プロフェッショナル・スタディーズ講師。MarkeZine Day、マーケティング・テクノロジーフェアなどにて講演。
近著に「今さら聞けない DX用語まるわかり辞典デラックス」(左右社)。静岡県浜松市生まれ、名古屋大学経済学部卒業。
データのじかん主筆 大川 真史(おおかわ・まさし)
IT企業を経て三菱総合研究所に約12年在籍し2018年から現職。専門はデジタル化による産業・企業構造転換、製造業のデジタルサービス事業、中小企業のデジタル化。(一社)エッジプラットフォームコンソーシアム理事、東京商工会議所学識委員兼専門家WG座長、内閣府SIP My-IoT PF、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会 中堅中小AG、明治大学サービス創新研究所客員研究員、イノベーション・ラボラトリ(i.lab)、リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMAを兼務。官公庁・自治体・経済団体等での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。直近の出版物は「アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド」(大川真史編、技術評論社)
データのじかん編集 藤冨 啓之(ふじとみ・ひろゆき)
経済週刊誌の編集記者として活動後、Webコンテンツのディレクターに転身。2020年に独立してWEBコンテンツ制作会社、もっとグッドを設立。ライター集団「ライティングパートナーズ」の主宰も務める。BtoB分野を中心にオウンドメディアのSEO、取材、ブランディングまであらゆるコンテンツ制作を行うほか、ビジネス・社会分野のライターとしても活動中。データのじかんでは編集・ライターとして企画立案から取材まで担う。1990年生まれ、広島県出身。
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