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産業政策の新方針で加速する「脱新自由主義」。国が公表する「生成AI時代」の人材・スキルの考え方とは?専任CIOは企業生産性の有意な関係が薄いって本当!?ーデータのじかん不定期週報2023/9/05付

不定期更新の「データのじかん週報」。9月最初の週報は、主筆の大川が8月にリサーチした資料のなかから、全ビジネスパーソンに知って欲しいという国の施策や求める人材、超切り込んだ調査の結果発表など3本立てで紹介。大きな転換期を迎えた国の産業政策によって「退場」の可能性が高まる企業や人とは?IT投資と企業の生産性の関連性を調べたら「専任CIO」の意義が揺らいでしまったって本当?各資料の概要とポイントをまとめて紹介します!データのじかん週報では、データのじかんの編集部内で会話されるこばなしを週1度程度、速報的にお届けいたします

         

データのじかん週報では、データのじかんの編集部内で会話されるこばなしを週1度程度、速報的にお届けいたします

こばなし1:日本も本格化!?産業政策の新機軸は「脱新自由主義」

大川:2023年8月4日、経済産業省の第32回構造審議会が行われました。その様子はネットライブで中継もされて資料も公開されています。注目すべきは世界的な潮流を踏まえた産業政策の転換が明示されたことでしょう。大きな方針としては「新自由主義的な施策からの本格的な脱却」ということです。その背景としては、2021、22年頃から欧米を中心に従来の新自由主義な政策から、国が産業に介入(コミット)する方針に大きく舵を切っているのに日本が遅れている現状があります。私個人としてもその傾向はひしひしと感じており、むしろ経済においては中国の方が自由主義っぽいと思うほどです。

野島:市場経済への政府はもちろん、資本主義各国の「ブロック経済化」は最近、よく耳にする機会が増えたと思います。

大川:そうですね。ブロック経済化は完全に介入の結果です。ミッション型、課題解決型の施策が増え、政府も起業家マインドを持ってイノベーションを勃興させていく姿勢となっています。繰り返しになりますが、「政府による個人や企業に対する介入を最低限にすべし」という新自由主義とは真逆の動きになりますね。これらの前情報を仕入れたうえで、産業構造審議会の資料を見れば、日本も欧米の姿勢に追随するのが伺えます。

 

大川:かつては「財務と金融の分離」という観念から、ミクロは民主導で健全な競争を促していたのが「伝統的産業政策」です。新自由主義になるとよりマクロな観点になり、大きな予算(バジェット)を振るう役割を国が担っていたのが新自由主義の時代でした。そういう意味では新自由主義よりもミクロな課題にフォーカスするこれからの産業政策は、1980年までのスタンスに立ち返ったとも考えられますね。この情報を持って、最も重要な一ページを確認してみましょう。

大川:端的にまとめると、図の左上にある課題(地政学的リスクの拡大、「安い国」日本、コロナからの再開、世界的なインフレ、人手不足に対して「国が腹くくってお金と人をかけてやっていきます」という大きな方針転換が示されたわけです。

野島:そう言われると、昨今は国内投資も増えていますし、新卒の給料アップや最低賃金1,000円以上になど日々のニュースでも目にする機会が多い気がします。新しい産業政策の方針の影響は目に見え始めているのかもしれませんね。

大川:スタートアップも現に増えているのも、ビジネスパーソンは見逃せない傾向ですよ。新自由主義体制だと政府が直接介入できないので大企業の存在が非常に重要でしたが、これからは人や会社を国や行政が支援できるので、企業の規模よりも「新しいコトをやるんだ」という人や企業が重要視されやすくなると考えられます。このような「社会基盤の組み換え」は大きなチャンスが生まれる一方、これまでやってきた補助金などの政策は大きく転換せざるを得ません。少し厳しい言い方をすると「補助金ビジネス」など、長く続いた制度を活用していた大企業を含む会社は「退場していただく」というメッセージとも読み取れます。すぐに方針転換して各制度が変わるかは不明ですが、どの産業であっても新しい産業政策の方針は知っておくべきだと思いますよ。

こばなし2:国が公表する「生成AI時代」の人材・スキルの考え方とは?

大川:同じく経済産業省が「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方」を取りまとめて発表しています。

野島:大川さんは過去の週報で生成AIについては「スキル」というよりも、向き合い方を重視していましたよね。生成AIに対する自発的な学習・活用の有無や程度でオペレーションの人か否かを大別できると。

大川:そうですね。生成AIに限らずですがスキルマップを満点にするのではなく、いわゆるマインドやスタンスが重要ということです。会社や上司から首根っこを掴んで「勉強しろ!」といわれる人は「学べない人」というのは、同資料に赤字で書かれている箇所を読み解くと、国も同じ考えなのではないかと思いますよ。

野島:おっしゃることは間違いないと思いますが、ちょっと抽象的で図りづらいですよね。周囲はどう評価すればいいんでしょうか。それとも評価は必要ないのでしょうか?

大川:評価は間違いなく必要ですよ。試行錯誤やピボットの回数、PBLの学習時間といった指標は設定されるでしょう。それにマインドを持って「やっている人」と「いない人」では、アウトプットで大きな差が出るのでスキルテストよりも評価しやすかったりするんですよね。

野島:そうなんですか。ちょっと意外ですね。

大川:「評価=マークシート」のようなイメージだと難しそうな印象を抱きがちだと思います。ただ、評価する側としてはアウトプットの方がテスト結果よりも広く、深く判断できるので有難いと思いますよ。国が掲げるDX人材の考え方にマインド・スタンスに基づいた能力や力が明記されたのは好ましいと感じました。制度の改変では留まらず、ゼロベースの刷新が行われると思いますよ。一方、上記のペライチの内容は、先ほどの産業構造審議会で述べた「これまでの制度」で生きてきた人たちと同じ「体系化されたスキルトレーニング」をひたすら行ってきた人たちにとっては理解が難しく、これから淘汰される可能性が高い人材とも言えるのではないでしょうか。

こばなし3:専任CIOは企業生産性の有意な関係が薄いって本当!?

大川:経済産業研究所に「DXが生産性と企業内の資源再配分に与える影響」が公表されました。かなり切り込んだ内容もあるので、まずは各ポイントを確認してみましょう。

 

(1)ITへの積極的な投資は企業生産性の向上と正の相関を持ち、それは主にソフトウェアの貢献によるものである

(2)最高情報責任者(Chief Information Officer、以下 CIO)の設置は企業の生産性と正の相関を持つ。ただし、企業生産性と統計的に有意な関係が確認されるのは兼任のCIOのみで、専任のCIOとは有意な関係が確認できない。また、CIOとIT投資との補完的な関係は確認されない。

(3)業務におけるスマートフォンやタブレット端末の導入は企業生産性と有意な関係が確認されない。

(4)社内でのビックデータの活用が生産性向上につながることは確認されない。

(5)製造業企業でサプライヤー企業とデータを共有することは、企業の生産性と正の関係が確認されるが、カスタマーとのデータの共有は生産性に負の相関を持つ可能性がある。

(6)日本企業の日本本社でのIT投資は、海外現地法人の利益率と正の相関を持つが、有意性は弱い。

※出典:独立行政法人経済産業研究所「デジタルトランスフォーメーションが生産性と企業内の資源再配分に与える影響

野島:数字的な裏付けがあるということですよね。専任CIOなどについては、なかなかバッサリ言っているなぁと(笑)。確かにCIOやCDOが乱立している会社は上手くいっていない印象が強いですけども。

大川:スマートフォン・タブレットの導入について、企業生産性と関係が確認されないというのもなかなか面白い結果ですよね(笑)。ただ、これについては必要に迫られて導入したのであればきっと生産性は向上すると私は考えています。まず機器を揃えて上手くいかないのは「ハードウェア投資」ありきの現場や人なのではないでしょうか。

野島:検証したということは、あらかじめ各項目の仮説があったということですよね。なんて細かすぎる粒度なんでしょう。

大川:同感です!大変説得力があり、これぞ良い税金の使い方ですよ。もっと多くの人が知るべき調査結果だと思いますよ。


 

データのじかん編集長 野島 光太郎(のじま・こうたろう)  
広告代理店にて高級宝飾ブランド/腕時計メーカー/カルチャー雑誌などのデザイン・アートディレクション・マーケティングを担当。その後、一部上場企業/外資系IT企業での事業開発を経て現職。2023年4月より上智大学プロフェッショナル・スタディーズ講師。MarkeZine Day、マーケティング・テクノロジーフェアなどにて講演。
近著に「今さら聞けない DX用語まるわかり辞典デラックス」(左右社)。静岡県浜松市生まれ、名古屋大学経済学部卒業。


データのじかん主筆 大川 真史(おおかわ・まさし)  
IT企業を経て三菱総合研究所に約12年在籍し2018年から現職。専門はデジタル化による産業・企業構造転換、製造業のデジタルサービス事業、中小企業のデジタル化。(一社)エッジプラットフォームコンソーシアム理事、東京商工会議所学識委員兼専門家WG座長、内閣府SIP My-IoT PF、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会 中堅中小AG、明治大学サービス創新研究所客員研究員、イノベーション・ラボラトリ(i.lab)、リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMAを兼務。官公庁・自治体・経済団体等での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。直近の出版物は「アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド」(大川真史編、技術評論社)


データのじかん編集 藤冨 啓之(ふじとみ・ひろゆき)  
経済週刊誌の編集記者として活動後、Webコンテンツのディレクターに転身。2020年に独立してWEBコンテンツ制作会社、もっとグッドを設立。ライター集団「ライティングパートナーズ」の主宰も務める。BtoB分野を中心にオウンドメディアのSEO、取材、ブランディングまであらゆるコンテンツ制作を行うほか、ビジネス・社会分野のライターとしても活動中。データのじかんでは編集・ライターとして企画立案から取材まで担う。1990年生まれ、広島県出身。

 

(TEXT・編集:藤冨啓之)

 

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