DXやIT経営が必要という認識はここ数年で地域、企業規模を問わず広まりました。しかし、「どのように実行すればいいかわからない」という悩みもまた広く共有されるようになったのではないでしょうか。
実際、株式会社リコーとリコージャパン株式会社が2023年2~3月にかけて行った調査では、中堅中小企業のDX課題2位に「現場の意識・理解が足りない」(33.1%)、3位に「何から手をつければいいかわからない」(29.8%)があげられています。また、DXに関する相談相手が必要だと感じると全体の61.7%が回答したとのこと。
そこでDXへの理解を深め実践できるようになるための手段、あるいはベストな相談相手を見つけるための入口としてご紹介したいのが「ITコーディネータ」です。ITコーディネータはどんな役割・資格なのか、またどうすれば資格取得や支援を受けることが可能になるのか。
公式情報をもとに、詳しく解説いたします。
ITコーディネータ(ITC)とは、IT経営とDXを実現するために、体制・DX計画から実践、評価・改善のフェーズまでサポートする役割です。
特定非営利活動法人ITコーディネータ協会が認定する資格でもあり、スキル標準ユーザー協会が定めるITSSキャリアフレームワークでは、【職種】コンサルタント、【専門分野】インダストリ・ビジネスファンクションに分類され、7段階のレベル4(プロフェッショナルとして業務課題の解決をリードできるレベル)に当たります。
その資格取得者の人数は2001年の資格創設からの累積で1万人を突破しており、2023年3月末時点で約7,000名の有資格者が現役で活躍しているとのこと。『2023年度実務活動アンケート 集計データ』(ITコーディネータ協会)によると、その内訳は以下の通りです。
・企業内ITC(副業なし):68.3%
・企業内ITC(副業でITC活動有):6.0%
・独立系ITC:25.7%
※引用元:2023年度実務活動アンケート 集計データ┃ITコーディネータ協会、1枚目のスライド
取得者が所属する企業・組織・団体の属性としては「ITベンダー系」(51.6%)が最も多く、それに「総研・コンサル系」(16.8%)、「ユーザー系」(7.9%)がつづきます。
※引用元:2023年度実務活動アンケート 集計データ┃ITコーディネータ協会、2枚目のスライド
ITC取得のメリットとしては、以下のようなものがあげられます。
・DXやIT経営の知識をケース研修や試験を通して体系的に学べる
・DXやIT経営の知識の証明になる
・資格認定には有効期限があるため学びのモチベーション維持につながる
・ITC届出組織や勉強会などのコミュニティに参加できる
・中小企業やその支援機関(商工団体・公的機関・金融機関など)を並走して支援する機会につながる
取得者の職種・立場では「SE(システムエンジニア)」(21%)、「営業・販売・マーケティング部門」(18%)、「経営者・役員」(20%)、「コンサルタント」(17%)が多く、ほかにも「情報システム部門」(7%)「総務・人事・経理財務等管理部門」(2%)など、多様な部門で取得されているようです。
※引用元:2023年度実務活動アンケート 集計データ┃ITコーディネータ協会、3枚目のスライド
システム構築やコンサルティングといった本業のスキルを高めたい、自社のIT経営に生かすとともにDXスキルの客観的な証明につなげたい、ITCコミュニティに所属し新たなチャネルを獲得することで副業につなげたいなど、さまざまな目標を持つ方にITCの門戸は開かれています。
ITコーディネータの資格を取得するには、以下の3つの条件をクリアする必要があります。
①ITコーディネータ試験に合格する
②ケース研修を受講し、修了する
③ITコーディネータ協会に登録認定の申請を行う
2023年12月末現在の、上記の内容について詳しく見ていきましょう。
①ITコーディネータ試験の受験機会は年2回(各50日程度)。コンピューターを利用するCBT方式の試験を試験会場を予約の上、受験します。受験料や試験時間、試験の内容については以下の表をご覧ください。
受験料 |
1万9,800円(税込) |
試験時間 |
120分 |
受験方式 |
必須問題60問・選択問題40問の合計100問を多岐選択方式で回答する 選択問題は経営系(経営戦略・業務改革・IT戦略)or情報系(IT戦略・IT利活用)より選択 |
出題範囲 |
ITC協会発行の『IT経営推進プロセスガイドライン』に準拠した 基本問題とそこから発展した応用問題が出題される。 ※サンプル問題は以下リンク |
合格率 |
70%~50%台を推移(第44回試験(令和3年01/20~02/22)の合格率は応募者数に対して64.7%) |
また、公認会計士、情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)、ITパスポート(750点以上の合格)など専門スキル特別制度対象資格を取得済みの方は、一部の試験が免除され、基本と応用の60問を80分の試験時間、9,900円(税込)の受験料でクリアすればよいとされています。
「②ケース研修を受講し、修了する」では、eラーニング動画の視聴や座学やグループ講義を組み合わせた6日間のカリキュラムを5日以上出席してこなすこと、レポート課題やアンケートに対応することなどが求められます。その実地形態には土日コース・平日コースの2つがあり、新型コロナウィルス感染拡大防止の観点などからオンラインでの受講オプションも用意されています。また、要望に応じて会社単位での開催も受け付けているとのこと。受講費用は22万円(税込)です。
①②のいずれもクリアしたらいよいよ「③ITコーディネータ協会に登録認定の申請を行う」フェーズです。 ITC+メンバーページから認定登録を行いましょう。ここでは、2万2,000円(税込)の認定料が必要になります。
なお、条件①と②の順番はどちらが先でもよく、先にクリアした日から起算して4年度間以内に③まで進まなければ、認定資格を失うことになります。また、資格を維持するためには毎年4月~5月に更新手続きを行い、3年度内に一度フォローアップ研修(有料)を受講する必要があります。
DXの推進に当たってITコーディネータの支援を受けたいという経営者やDX推進担当者の方も数多く存在するでしょう。
その場合は、ITC協会か地域のITC団体に連絡を取るのが基本的な手段となります。
ITC公式サイトには「経営とIT化相談窓口」が用意されており、Webフォームやメール、電話から連絡することでITコーディネータの紹介が受けられます。
■経営とIT化相談窓口:https://www.itc.or.jp/management/diagnosis/
また、2023年12月現在はテーマ限定型訪問支援サービスも提供されており、下記5テーマにて2回までの無料相談が受け付けられています。
1.働き方改革の実現(テレワーク)
2.キャッシュレスの実現・購買データ分析
3.Web活用による売上UP
4.紙&FAXによる受発注業務からの脱却(EDI)
5.2023年税制改正への対応(インボイス)
※参考:テーマ限定型支援活動┃ITコーディネータ協会
さらに、各地域のITC団体にてコミュニティ事業や勉強会、DXの伴走支援などが開催されているため、まずはどんな入り口からでもコンタクトをとってみることをおすすめします。
事業を安定して回しながらDXに取り組み、新たなビジネスモデルや競争力を獲得するというのは容易なことではありません。日進月歩のIT領域ではWeb3.0、生成AIなどトレンドの移り変わりも激しく、「どこから手をつければよいかわからない」と感じてしまうのも当然でしょう。そんななかで、知識の更新が制度に組み込まれているITコーディネータの存在は企業にとって強い味方となるはずです。自社のITケイパビリティを高めるためにも、DXを推進するためにもITCを活用していきましょう。
(宮田文机)
・DXに取り組んでいる中小・中堅企業は19.1%業務デジタル化の“カギ”は人材・知識不足をサポートする「アナログな相談相手」~全国約2700人のお客様にリコージャパン独自の調査を実施~┃リコーグループ企業・IRサイト
・ITC資格取得サイト
・IT経営推進プロセスガイドライン Ver.3.1 (新PGL)ダイジェスト版(日本語) (2018/5/9発行)┃ITコーディネータ協会
・2.ITスキル標準とは -ものさしとしてのスキル標準┃情報処理推進機構
・2023年度実務活動アンケート 集計データ┃ITコーディネータ協会
・テーマ限定型支援活動┃ITコーディネータ協会
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