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ブラックジャックはデータ活用で勝てるのか!? 統計の罠はギャンブラーズファラシーだけではない。

         

みなさんは日々の出来事を「確率的」に考えることがありますか?

今回の記事では日々の出来事を確率的に考える重要性について書いていきたいと思います。

さて、みなさんも聞いたことがあるかもしれませんが有名な言葉で、ギャンブラーズ・ファラシー(Gambler’s Fallacy)という言葉があります。これはギャンブラーが陥りがちな確率と統計に関する誤りのことです。「ギャンブラーの誤謬」と訳されることもある行動経済学の言葉です。

例えば、ルーレットで5回連続赤に玉が落ちる確率は、0などの特殊な状況を除くと、おおよそ(0.5)の5乗=0.03125であり、約3%の確率で起こる事象であることがわかります。今、5回連続で赤に玉が落ちた時、「さすがに次は黒に玉が落ちる確率の方が高いはずだ。なぜなら6回連続で赤に玉が落ちる確率は、3%の約半分、つまり1.5%しかないのだから。」というように考えることを、ギャンブラーズ・ファラシーと言います。

お金をかけていない状況で客観的に見れば、これは全くの誤りであり(ルーレットの 1 回の試行は、それぞれ独立であるから、前回の試行の結果が次の結果に影響しない。)、6回目に黒に玉が落ちる確率も等しく50%であることは自明です。しかし、ギャンブルには 1回の試行が独立でないがゆえに、確率を計算しながら行うゲームも存在します。
※ただし、現在では以下に説明する「ブラックシャック」も、1回のゲームごとにトランプをもとに戻すそうなので、独立試行になってしまいます。(カジノによってルールが異なる場合もあります。)

ギャンブラーズファラシーとは、「本来独立である試行を、非独立に考える」と いう意味で用いられてきました。しかし、本記事ではさらに踏み込んで、「アイディアの実現可能性」ということも含めて、このギャンブラーズファラシーについて考えていきたいと思います。

映画「ラスベガスをぶっつぶせ」で使われていた計算方法

先日、「ラスベガスをぶっつぶせ(原題:21)」という2008年に公開された映画を見ました。MITの学生と教授が、ブラックジャックというカードゲームを統計的、確率的に分析し、ラスベガスで荒稼ぎをするというストーリーです。

ブラックジャックの詳しい説明は省略しますが、ブラックジャックは自分のカードの合計値を21に近づけるゲームです。10、J、Q、Kは全て10としてカウントされ、Aは11もしくは1、その他のカードは数字がそのままカウントされます。ディーラーよりも21に近いかどうかで勝敗が決まります。ただし、21を超えてしまった場合は、バースト(burst)と呼ばれ、自動的に負けとなります。21を超えるまでは好きなだけカードを引くことができ、ディーラーは合計値が17を超えるまではカードを引き続けなくてはいけないルールとなっています。

映画では2から6のローカードを+1、7から9のミドルカードを0、10からA までのハイカードを-1として、これまでに明らかになった(すでにディールされた)カードの偏りを計算していました。

例えば、ローカードが20枚、ミドルカードが8枚、ハイカードが4枚すでにディールされている時、カードの合計は20×1+8×0+4×(-1)=+16となります。偵察役の人物が、プレイヤーにこの「偏り」を暗号で伝えることで、そのテーブルが「チャンステーブル」であることを伝えます。なぜなら、ローカードが出尽くし、ブラックジャックの起こりやすいハイカードばかりが山に残っているからです。

しかし、ここである疑問が生じます。それは、偵察役は+の偏りがいくつになったらプレイヤーにチャンステーブルであることを知らせるか、ということです。

映画では、この辺りは説明されていませんでしたが、例えば+20になるのをずっと待っていても、そんな状況はまず起こりえないでしょうし、逆に+1では少々偏りとしては心もとない気がします。そこで、統計的な手法を用いて分析してみたいと思います。

今回の計算で使う計算モデル

今回は、「多変量超幾何分布」という考え方で簡単に分析してみます。

多変量超幾何分布とは、「属性が 1 ≤ i ≤ c である要素を Ki 個含む N = K1 + … + Kc 個の要素よりなる母集団から n 個の要素を非復元抽出したとき、属性がiである要素を ki 個含んでいる確率を与える分布」のことで、これだけ見ると意味がわからないかもしれませんが、実はセンター試験レベルの問題です。下記の例を考えてみるとわかりやすいかと思います。

(例)壺の中に黒い玉が5個、白い玉が10個、赤い玉が 15個あるとする。その中から6個の玉を取り出すとき、各色2個ずつ取り出す確率は?

(解)5C2×10C2×15C2÷30C6=0.0796 つまり、確率は7.96%です。

さて、今回は1セット(ジョーカーを除く52枚)のカードでブラックジャックを行うことを考えましょう。

今回は手計算で求めるので、なるべくモデルを簡単にして考えてみます。まず、ミドルカードは何枚引かれようが、偏りの数値に影響を与えないため、これを除外した 40枚で考えることにします。

さらに、様子を見すぎてカードが再セットされてもしょうがないので、ハイカード、ローカードが合計20枚ディールされた時にチャンスかどうかを判断することにしましょう。そうすると、多変量ではなく、2変量で考えることができます(超幾何分布)。

例えば、偏りが+20 になる確率はどれくらいかというと、40枚からローカード 20枚、ハイカード0枚取り出す時に限られるので、20C20×20C0÷40C20=137,846,528,820 分の 1 となり、こんなことはまず起こりません。では、+18、+16・・・(合計枚数が 20枚でミドルカードを考えないので、偶数の偏りしかできない)になる確率はそれぞれどうなるかというと、

+18:0.00000029%
+16:0.000026%
+14:0.00094%
+12:0.017%
+10:0.17%
+8:1.1%
+6:4.3%
+4:12%

+4〜+8あたりで、ようやく現実的な数値が出てきました。

私が偵察役なら、+6か+8でプレイヤーに伝えるかもしれません。しかし、これらの偏りはあくまでも「ブラックジャックがとりやすい」、「親がバーストしやすい(親は17以上になるまではステイできず、カードを引かなければならない。)」という状況が生まれやすい一つの指標にすぎません。今回は手計算かつ、ページの都合上詳細な分析はしませんでしたが、例えば同じ+6(ローカード 14枚、ハイカード8枚)という偏りでも、カードの明らかになった順番によってはこの手法が使えない場合もあります。例えば、確率は低いものの、ローカード14枚が先に明らかになった場合(すでに+14)、その後ハイカードが 8 枚出るまで待つなどという愚行は誰も犯さないと思います。

大切なのは機会の確率を考えること

今回の分析で私が伝えたいことは、「機会の確率を考えること」です。これは「実現可能性」とも言えるかもしれません。実社会においては、いかに優れたアイディアであろうと、実現可能性が低いものは机上の空論になってしまいます。

優れた新商品を開発しても、ターゲット層が全体の 0.0001%であれば、採算が合わないかもしれません。また、優れた技術を開発しても、その技術を扱える人材が少なすぎれば意味がありませんし、もっと一般化、マニュアル化して、多くの人がその技術を使えるようにする必要があります。

例えば、ガラケーと呼ばれる日本の携帯電話は2000年代前半まではスペック的に世界最先端だったにも関わらず、世界市場では見向きもされませんでした。一方で、iPhoneは発売と同時に瞬く間に世界に広まりました。これは、iPhoneというデバイスが直感的に操作でき、優れた商品だった、またiPodなどの他のアップル製品が築き上げたブランド力による信頼が大きかった、というのももちろんありますが、世界の市場のニーズとタイミングに合致したという要素もかなり大きく、機会の確率、または実現の可能性を考慮に入れたものだった、と言えるでしょう。

アイディアを提案する時は、結果だけではなく、実現可能性を定量的に評価することも重要なのです。

著者:岸田 英(キシダ ヒデ)

【経歴】
2011 年 東京大学工学部卒 
2011 年 インフラ企業に就職 
2015 年 同社退社 
2015 年 エスカルチャー株式会社設立 代表取締役兼学習塾 ESCA 塾長

 
 

【概要】
東京大学卒業後、サラリーマン経験を経て、2015 年にエスカルチャー株式会社を設立。「受験勉強では終わらない、社会で生きる力を養う」という理念で、学習塾の運営と、海外インターン/海外留学コンサルティング事業、就活支援事業を展開している。 学習塾の運営においては、自らも教壇に立ち、サラリーマン時代の経験を活かして、「学問の体系化」「理論と現実」「回答の見せ方」「問題文を読む意味」「学習における知識と思考のマネジメント」など、勉強が社会にどのようにつながっているのかを教えている。

【ウェブサイト】
http://www.esculture.com/
https://www.eduforglobal.com/


 

(著者:岸田 英)

 
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