まいどどうも、みなさん、こんにちは。
わたくし世界が誇るハイスペックウサギであり、かのメソポ田宮商事の日本支社長、ウサギ社長であります。「夏の終わりのハーモニー」や「若者のすべて」など時期がわかりやすい名曲らが各地のライブハウス等で大量にカバー演奏される季節が終わり、朝晩はめっきり秋らしくなってまいりました。そろそろオクラも終わりの時期でありますが、まだまだナスは獲れますので、わたくしは大量にナスを食べて毎日を果敢に生きているところであります。そして、秋茄子といえば、なんと言っても「イグ・ノーベル賞」の時期となっております。
秋茄子の時期と言えばイグ・ノーベル賞、あるいはコンビニに登場するおでんコーナー、栗、焼き芋、銀杏並木、冷やし中華終わりましたの貼り紙、のようにイグ・ノーベル賞は古来より秋の季語として知られており、万葉集にも登場するとかしないとか一部では言われておりますが、イグ・ノーベル賞というものは「人々を笑わせ考えさせた研究」に与えられる賞であります。もともとはノーベル賞のパロディーとしてマーク・エイブラハムズ氏が考案し創設したものであり、1991年から内輪ネタ的に始まったものであります。科学的な研究というものは、人類の発展に貢献することを目的としている、というのが一般的な見解ですが、このイグ・ノーベル賞に関しては、「ウケるかウケないか」という一発芸お笑い芸人も顔負けの至ってわかりやすく主観的な指標によって受賞する研究が決定されます。
毎年授賞式がマサチューセッツ工科大学で行われ、受賞者はそれぞれスピーチを行うことになっているのですが、スピーチでは何か面白いことを言わなくてはならないというルールが設けられており、スピーチが60秒を超えると8歳の女の子がステージに登場し、「退屈だからもうやめて」とスピーチを無理やり終わらせる、という慣習となっています。受賞者には10兆ジンバブエドルという大金が贈られるため、受賞の名誉だけでなく自身の研究の資金源としてもイグ・ノーベル賞は各国の研究者から注目を集めています。ちなみに10兆ジンバブエドルは通貨としては1円の価値もないため、ほぼ無価値ではありますが、今ちょっと調べたところ、美品であればメルカリでなんと2,000円前後で取引されているようです。授賞式への参加費が完全に自腹であることを考えると受賞者らもウケ狙いで参加していることはほぼ間違いないと言えるでしょう。
前置きが長くなりましたが、今年注目された受賞研究についてお話していきたいと思います。今年、最もそのバカバカしさが注目されたのは、「低用量のお酒を飲むと、外国語の発音がより“流暢に(聞こえる)”ようになるかもしれない」というもの、でした。この主張のファジーな感じもちょうど良いですね。
この研究は、ドイツ人の被験者五十名を対象に行われました。この五十名の共通点は「最近オランダ語を学び始めた」ということ。研究チームは、被験者をふたつのグループに分け、一方には水などの非アルコール飲料を、もう一方にはごく少量のアルコール(たとえば少量のウォッカとレモンなど)を与えました。
その後、オランダ語で短い会話を彼らにしてもらい、その録音をオランダ語のネイティブ話者に聞いてもらい、発音や流暢さを評価してもらったところ、アルコールを少量摂ったグループの方が、ネイティブ話者が判断して「発音が良い」「流暢に聞こえる」という評価になりました。これは、話している人が「なんか今日はうまく話せてるかも知れない」という自己評価ではなく、他者が評価している、というところがこの研究のキモとなる大事な部分であるわけです。そして、この結果を研究者たちは大真面目に分析し、この効果の理由として「言語学習時の不安(間違いを恐れる心、恥ずかしいと感じる気持ち)が少し減ること」を挙げているわけです。そして、少量のお酒が「自分の話すことに対する過度な警戒」を緩め、口を回りやすくする、という仮説までご丁寧に構築しているのです。言ってしまえば、何の研究もしないでも同じ結果が得られたであろう話をわざわざ制御された環境で再現し、最初からわかっていたであろう結論をかざして研究と銘打ったわけであります。素晴らしいですね。
しかも、今回は被験者の範囲が、「オランダ語を学び始めたばかりのドイツ語話者」と極めて限定的である上に、オランダ語という言語は話者数が約2,360万人と世界的にもかなりマイナーな言語であるため、オランダ語を自主的に学習している人にはなんらかの特殊性がある可能性も否定できないため、他の言語ペアで検証した際に同じ結果が出るかどうかは至って不透明である、というどこを切っても曖昧な、非常に味わい深い受賞研究となっております。また、研究に使われたお酒の量がかなり少量であることから、たくさんお酒を飲めば外国語が上達する、というわけでも全くないところもフレーバーの深みに寄与しているのではないでしょうか。
それではここらで2025年は他にどんな研究が受賞したのか、というのをざっくり紹介しておこうかと思います。
こちらは化学賞を受賞したものですが、テフロン加工で知られるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を粉状にして、食物に混ぜて「かさ増し」することで、満腹感を得ながら実際のカロリー摂取を増やさない、という大胆不敵な発想に基づくもの。マウスなどでの実験が中心なので、安全性や栄養など人体にどのような影響を与えるのかは未知数であり、そもそもそのテフロンを粉にして摂取するというやり方はどうなんだ、とツッコミどころ満載な研究であります。
こちらはイグ・ノーベル賞常連国である我らが日本の研究であり、生物学賞を見事に受賞しました。黒っぽい牛に白い縞を入れることで、ハエの刺し(吸血・刺咬)を減らせるかを調べたものなのですが、嘘か誠か、縞をつけた牛の方が刺される頻度が減った、という結果がもたらされました。従来からシマウマやおにやんまの縞には虫除け効果がある、というのは言われてきましたが、農業における害虫対策などに農薬を使わず模様を利用する、という発想がエコでもあり、ある意味めちゃくちゃイノベーティブでもあります。側から見るとウケ狙いでやってみたらうっかり発見があったようにしか思えないところがお茶目でもあります。
こちらは工学賞を受賞した研究です。臭い靴(スニーカーなど)のバクテリアが発臭する問題に対し、靴箱に UV ライトを入れて臭いの原因となる菌を殺す/抑えるようなデザインを試した研究となっていて、実用性と面白さの両立でもあり、病院の待合室にあるスリッパの抗菌ケースを彷彿とさせる、比較的まともそうな研究となっています。まともなだけあって、笑いの要素も比較的少なめになっていますね。
物理賞。イタリア料理「カチョ・エ・ペペ」のソースが「ダマになる(チーズとペッパーがだまになったりしてソースがなめらかでなくなる)」原因を、チーズのたんぱく質、デンプン、水分、温度などの条件という観点から物理・化学的に分析し、なめらかで理想的なソースを作るための条件を数学的・実験的に明らかにした、という小学生の自由研究にもありそうなテーマではありますが、こういう科学的分析もいつか誰かのおいしいの役に立つのだろうと思わされる、料理好きにはたまらない研究ではあります。イギリスのレシピサイトに掲載されたカチェ・エ・ペペの作り方にイタリアからクレームが入るという一連の事件の渦中にある料理でもあり、話題性という意味でも非常にイグ・ノーベル的な研究であると言えるかと。
ある医師が自分の手足の爪を 35 年間にわたって観察し続け、成長速度を測り続けた、というユニークでもあり、ちょっと不気味でもある研究で、なんと「文学賞」に選ばれています。日々の変化の蓄積を観察することで、時間、環境、身体などの“静かな変化”がどのように起きていくかを記録したわけですが、その粘着性を感じるようなどことなく病的な研究のしつこさと地道な観察と記録、そして継続の力を後世にも伝えてくれる、のではないでしょうか。個人的には狂気しか感じません(笑)。
そんなわけで、今回は2025年のイグ・ノーベル賞を受賞した偉大なる研究の数々をざっくりと紹介してみました。どれもこれも、すぐには役に立たないであろう、どちらかというと科学的な手法に基づく厳選された一発ギャグのようなものばかりが勢揃いしていますが、それこそがイグ・ノーベル賞の醍醐味でもあるわけです。来年度の秋茄子の季節を今から楽しみにしたいと思っております。
そんなわけで、また再来週の水曜日にお会いしましょう。ちょびっとラビットのまとめ読みはこちらからどうぞ!それでは、アデュー、エブリワン!
(ウサギ社長)
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