2019年11月22日、プリンス パークタワー東京にてウイングアーク1st主催のカンファレンスWAF 2019|WingArc Forum 2019(以下、「WAF 2019」)が開催されました。今回のテーマは「UPDATA!」。データで組織やヒトをアップデートする示唆に富んだセッションや展示が行われました。
シェアリングサービスの領域は、拡大の一途をたどっています。これらのサービスはテクノロジーやデータによって運用されていますが、底辺にあるのは「信頼」です。シェアリングエコノミーが普及・浸透する現代、そしてこの先を視野に入れるとき、この「信頼」についての考察は欠かせません。デザインセッションでは、一般社団法人シェアリングエコノミー協会などで活動する石山アンジュ氏が登壇、シェアリングの観点から見た「『信頼』のデザイン」について語りました。
シェアリングエコノミー協会事務局長、ミレニアル世代の社会変革共同体であるPublic Meets Innovation代表理事など、いくつもの顔を持つ石山アンジュ氏。
2018年の春からは内閣官房シェアリングエコノミー伝道師としても活動する傍ら、2019年には著書『シェアライフ——新しい社会の新しい生き方』(クロスメディア・パブリッシング)を発表するなど、シェアリングエコノミー時代を先導しています。石山氏は冒頭、「多くのシェアリングエコノミーにおいてキーワードとなるのが『信頼』である」と断言しました。
「今日、この会場に来るまで、皆さんはいくつのものを信頼してきたでしょうか? 乗車した電車の発着時間、たくさんの広告の内容など、振り返ってみると非常に多くのものを信頼してきたと思います。私たちの生活は、信頼(Trust)の連続です。フリマやマッチングのアプリで赤の他人とやりとりし、配車アプリで全く知らない人の車に乗ります。
私たちが子どもの頃は、『知らない人の車に乗っては駄目』としつけられていました。その観念を180度引っ繰り返すようなイノベーションが、社会に受け入れられようとしています。衣食住にまつわるあらゆるものに『信頼の飛躍』が生じ、新しい信頼の概念で個人と個人が、取引・売買・貸借をしています」
信頼の飛躍によって成立するシェアリングエコノミー——。さらにこの先、AI、IoT、自動運転、ロボットなどのテクノロジーやデータ活用によるビジネスが盛んになり、人類がこれまでに経験したことがないようなサービスの社会実装が進んでいくことでしょう。そんな中で、私たちはそのサービスの設計に、何を求めるのでしょうか。石山氏は、その解として「信頼のデザインによって、人は安心を得る」と話します。
「企業の不祥事などが相次ぎ、当たり前のように信頼していたものが信頼できなくなっています。ならば、私たちは一個人として何を信頼し、何をもって信頼すればよいのか。そんな目利きの力が試されているように思います。人は『いまいち信頼できないものに囲まれる状態よりも、多くの信頼できるものに囲まれていた状態の方が幸せである』なんて調査結果もあります。信頼は、私たちの幸福度を左右するキーワードでもあるかもしれません」
石山氏が日頃取り組んでいる活動の1つが、新しい家族のかたちである「拡張家族」です。石山氏を含めた「血縁関係の無いクリエーター」約70名が「家族」として暮らす活動で「コミュニティの中では、誰かの赤ちゃんを預かることもあります。そこに信頼の飛躍がなければ、預けることも預かることもできません」と説明します。石山氏はこの他、Public Meets Innovation という、官民を超えて集まったミレニアル世代の社会変革共同体も運営しており、日々「信頼のデザイン」に関する研究活動を進めています。
石山氏は現実社会における「豊かさのパラダイムシフト」について説明した上で、「信頼の概念の変化」について言及しました。
「この100年で、信頼の概念にもパラダイムシフトが起きています。『TRUST 世界最先端の企業はいかに〈信頼〉を攻略したか』の著者であるレイチェル・ボッツマン氏は、それを第一、第二、第三の信頼として表現しました」
石山氏いわく、第一の信頼(ローカルな信頼)は、個人間の取引の時代。昭和時代からイメージされるような「ご近所とのお醤油の貸し借り」がこれに該当します。ここでは地縁があることや顔見知りであることが「信頼」として作用し、「この醤油には毒が入っていない」と判断して、取引が行われていました。
しかし「第一の信頼」はコミュニティ・人間関係の規模が大きくなるにつれ、限界が生じていきます。そこで人類は、組織・国(行政機関)・企業などを介し、信頼を担保するようになりました。現在、日本を含める多くの国では、この「第二の信頼」(制度に預けた信頼)が、最も社会に浸透していると考えられます。
「中国・北京ではシェアリングエコノミーが広がっていて、例えば、家庭料理をつくりたい人と食べたい人をマッチングするサービスが流行しています。日本人の感覚では想像しにくいかもしれませんが、ユーザーは『レストランで使われる食材は信頼できない。家庭でつくられる食事の方が安心』と考えているのです」
では、第三の信頼とはどんな状態なのでしょうか。それは「分散化された信頼、すなわちテクノロジーがもたらす信頼の概念の変化」だと石山氏は分析します。
「このお醤油に毒が入っていないかどうか。第三の信頼でのそれは、地縁ではなく、ましてやメーカーや国の基準でもなく『醤油を味見した100人の集合知を信頼するかどうか』になります。皆さんが普段使っているグルメレビューサイトはこれに近いかもしれません。プラットフォームビジネスにおけるシェアリングエコノミーでは、こうした信用スコアリングが、より大きなポイントになっていくことでしょう。赤の他人の車へ乗るかどうか、その意思決定において、信用スコアが私たちの判断軸になっています」
しかし、「第三の信頼」が主流になっていくには、いくつもの課題があると石山氏は指摘します。
「中国では国策のレベルで信用のスコアリングが進み、監視社会化や格差・差別の助長につながるとして問題視されています。これに対抗するようにプラットフォームコーポラティズムという概念も生まれています。特に欧米では『データは誰のものか』『誰が使うのか』について真剣に議論され、よりフェアなシェアリングエコノミーの在り方を求める動きがあり、それに付随するサービスも生まれています。日本ででもシェアリングエコノミーが広まりつつある中、私たちもデータビジネスの担い手として、こうした議論が求められているのではないでしょうか」
続いて石山氏は、次の時代の「第四の信頼」についてセッション参加者とともに考えるため、簡単なワークショップを行いました。
「今日皆さんに問いたいのは『第四の信頼』についてです。分散化された信頼(第三の信頼)は、この先どんどんインフラ化されていくでしょう。しかしそこに、あるいはその先に、完璧なモデルがあるわけではありません。だからこそ私たちはテクノロジーを活用しつつ、新たな信頼をデザインし、本質的な豊かさのある社会をつくっていかなければなりません。さらにテクノロジーに頼る部分があってしかるべきですが、思考停止にならないために、テクノロジーに頼らず、本質的な良心の下で信頼を築くことが大きな鍵となるでしょう。昔あったお醤油の貸し借りのように、自分の目利きで判断する力が試されるようになります。そこで、自身の信頼を再定義するために、次のことを試してみましょう」
「全く気にならない方もいるでしょう。『やばい!』『どうしよう!』『なんでこんなことを……』と焦った方もいるでしょう。さまざまな気持ちが交錯したと思いますが、その気持ちに気付くことが大事です。信頼の軸は、人によって異なります。交換した相手や周りの人の様子を見て、皆さんの中にある信頼の軸や幅が、人によって異なっていることを実感できたのではないでしょうか。だからこそ、自分が何をもって信頼できるのか、何だったら人に預けてもOKなのか——その判断軸が見えてきます。そして、信頼の軸や幅が人により異なることを知ることによって、次のアクションが生まれます。
信頼の基盤は常に変化します。これからプラットフォームビジネスがどんどん拡大する中でも、第三の信頼が不完全であるからこそ、信頼を再定義しなければなりません。今日がそのことに気付くきっかけになれば、嬉しく思います」
私たちは、本格化するシェアリングエコノミー時代を前に、信頼をどのように再定義していくのか。今、それが試されているのです。
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