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世界経済に関わるニュースなどでよく話題に上る「ADP雇用統計」。言葉として聞く機会は多いですが実際どのような指標でどうしてこんなに注目されるのでしょうか?
そこで今回は意外と知らないADP雇用統計について、と題し、その指標の意味から内容、雇用統計から派生した意外な都市伝説までじっくり掘り下げていきます。
ADP雇用統計とは、2006年から行われている比較的新しい指標で、アメリカの大手給与計算アウトソーシング会社であるADP(Automatic Data Processing社)が約50万社の顧客を対象に毎月雇用者数の動向を調査したものです。
ADP雇用統計は、アメリカの労働省が雇用統計を発表する2営業日前の毎月第1水曜日、日本時間の午後9時15分(夏時間では午後10時15分)に発表され、非農業部門雇用者数や失業率の先行指標として注目されています。
アメリカ雇用統計は、アメリカの労働省(U.S. Department of Labor Bureau of Labor Statistics)が毎月第1金曜日、日本時間の午後9時半(夏時間では午後10時半)に発表する経済指標のことです。
アメリカ国内の雇用情勢を企業や政府機関などに対しサンプル調査を行い、十数項目の統計データを発表しています。例えば、以下のような項目があります。
その中でも特に、「非農業部門雇用者数(Nonfarm Payroll:NFP)」は、世界中の経済指標の中でも最も注目度の高い指標だと言われています。この指標は農業分野以外の産業で働く労働者の数を、非農業部門に属する事業所の給与支払い帳簿を基に集計したもの。
「失業率」も経済指標として頻繁に活用されています。対象となるのは、軍隊従事者、刑務所の服役者などを除いた16歳以上の就業者です。なお、労働の意思のない人は、労働力人口から外されるため、失業率には反映されないということです。
非農業部門雇用者数や失業率はアメリカの中央銀行にあたる連邦準備理事会(FRB)や連邦公開市場委員会(FOMC)の金融政策にも反映されると言われており、外国為替取引(FX)にも大きな影響を与えているため投資家や金融業界では必見の指標となっています。
ADP雇用統計とアメリカ雇用統計は、そもそも調査対象や集計方法に違いがあります。
そもそも、ADP雇用統計はADP社が自社の顧客データをもとにして独自に調査を行っているのに対し、アメリカ雇用統計は政府が調査を行っています。そのため、ADP雇用統計では雇用者数が前月より増えていたとしても、アメリカ雇用統計では前月より雇用者数が減っていることも少なくないです。
ADP雇用統計の方が2日早い発表ですが、ADP雇用統計だけでなく、アメリカ雇用統計も一緒に確認することが大切です。一般的には、このADP雇用統計と労働省が発表する雇用統計が一致する場合には、金融市場の変動は小さく、二つが大きく乖離している場合には変動が大きくなる傾向にあります。
では、なぜADP雇用統計やアメリカ雇用統計がこんなにも世界的な金融市場に大きな影響を与えているのでしょうか?
第一にアメリカの経済規模が世界で一位であることが挙げられます。アメリカのGDPは世界の累計GDPの実に20%程度を占めています。次にアメリカの経済では個人消費の規模が大きく、GDP全体の7割を占めています。なお、日本において個人消費GDPに占める割合は2023年時点で約55%程度でした。
したがって、アメリカで個人消費が減ることは世界経済に大きな悪影響をもたらすことにつながります。そして、その個人消費を大きく左右するのが雇用の状況です。
そして、その変動を受けアメリカ中央銀行の金融政策が決まります。一般的には、景気が良いと政策金利を引上げ、景気が悪いと政策金利を引下げるといわれており、引上げが行われた場合は市場金利が上がり、投資家たちが「ドル買い」を起こし、逆に引き下げの場合は市場金利が下がるため投資家たちによる「ドル売り」が発生すると考えられています。そしてこうした投資家たちの動向が為替市場に大きな変動をもたらすのです。
アメリカの雇用数が増えると、景気が良くなっていると判断されるため、どれだけ雇用数が変化したのかが注目されます。
そのため、ADP雇用統計を見る際は、前月からの雇用者数の増減や各業種の雇用分布などを確認します。ただし、ADP雇用統計はアメリカ雇用統計とは、異なる手法で調査されたデータのため、ADP雇用統計のみを参考にすることは望ましくないでしょう。
2023年11月のADP雇用統計は、米国の民間企業の雇用者数が前月比で10万3000人増加したという結果でした。
これは、市場予想の13万人増を下回る数字で、2023年9月以来の低い伸びとなりました。製造業や建設業などの雇用が減少したことが、全体の伸びを抑えた要因として考えられています。
金融業界や投資家などの間で囁かれていた都市伝説の一つに「ジブリの呪い」というものがあります。
これは金曜ロードショーでジブリ作品が放映された直後に円高や株価の下落が頻繁に発生することから生まれた言葉です。実際、2010年1月から2013年7月の期間では、ジブリ作品が放映された24回のうち、およそ2/3の放映日で最初の取引日に東京市場の為替相場で円高が起こり、約半数の場合で株価が下落しているということがありました。こうした事実を受け、一時は世界的に広く読まれている経済新聞のウォール・ストリート・ジャーナルは金曜ロードショーを放映している日テレや制作会社のジブリに「ジブリの呪い」についての取材を申し込むほどだったそうです。
この噂の背景には、金曜ロードショーのタイミングとアメリカ雇用統計のタイミングがかぶっている、ということがあります。ただし、2010年から2013年の3年間で言えば、アメリカ雇用統計の発表と金曜ロードショーでのジブリ作品の放映日が重なった日のうち、90%で金融市場の悪化が見られたにもかかわらず、アメリカ雇用統計の発表日だけで見ると全体の59%の日でしか市況の悪化は見られなかったことから、この噂はより強固なものとして受け止められていました。
しかし、近年では、ジブリ作品の放映と金融市場の変動があまり相関しないようになり次第に噂は下火になっていきました。
ADP雇用統計についてまとめると以下のようになります。
世界経済への大きな影響力を持つアメリカの雇用統計。そして、アメリカ雇用統計の先行指標として注目されているADP雇用統計。アメリカ雇用統計やADP雇用統計と私たちの日常にも大きな影響力を与えうる指標だからこそ、FXをやってみたいと考えている人や金融関係の仕事をしている人のみならず、知っておくべきなのかもしれません。
ぜひ、これを機会にアメリカ雇用統計に注目してみてくださいね。
(大藤ヨシヲ)
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