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ものづくりDXに立ちふさがる壁を先人はどう乗り越えてきたか そしてカーボンニュートラルにDXはどう作用するのか 製造UPDATAものづくりDX最前線レポート

製造業界の最前線でDX実践に取り組む企業を招いて行われた2日間にわたるセミナー。初日の基調講演は、過去にupdataNOW21でも、ものづくりDXの現場からの事例を届けていただいた3社による鼎談となった。 企業により実現すべきゴールに違いはある一方、取り組み方や現れる困難に共通性が見られることも事実。三者三様の生の声を通して、DX の壁を乗り越える方法、そして無視出来ない課題となった「カーボンニュートラル」についてダイジェストでお届けする。

         

左から
株式会社FAプロダクツ/Team Cross FA プロデュース統括 天野 眞也 氏(ファシリテーター)
横河マニュファクチャリング株式会社 生産技術本部 DX推進部 マネージャー 遠藤 真 氏
旭鉄工株式会社 執行役員 サプライチェーンマネジメント部 部長 DX推進室 室長 黒川 龍二 氏
株式会社ソルプラス 本社事業所 事業所長 菅谷 信義 氏

updataNOW21 登壇企業が語る、ものづくりDXの壁と攻略法。そしてカーボンニュートラルを見据えて

初日の基調講演は、ファシリテーターである天野氏から提示された三つのテーマに沿って進んだ。

【テーマ1】「ものづくりDX」プロジェクト その特徴とは?

まず「デジタル化と DX の違いをどう捉えているか」という質問に対し、横河マニュファクチャリング株式会社 遠藤氏は「すぐ分かる自動化(単純なデジタル化)を ICT、いままでのワークフローが変わること=DX」と回答。

各社のDXプロジェクトの特徴

横河電機株式会社のDXプロジェクトの特徴|updataNOW21の登壇スライドより

旭鉄工株式会社 黒川氏もやはり「いままでのワークフローが変わること」を DX だと捉えており、「製造現場が楽になるように導入するが、最初は拒否反応が出る。どうチームをまとめるかが大事だ」と発言した。

各社のDXプロジェクトの特徴

旭鉄工株式会社のDXプロジェクトの特徴|updataNOW21の登壇スライドより

株式会社ソルプラス 菅谷氏は「海外と競争していく中で自動化、無人化が大きな課題となった。不良=0を追求する上でも DXを成功させないと勝ち抜けないのではないか」という見解を披露した。

各社のDXプロジェクトの特徴

株式会社ソルプラスのDXプロジェクトの特徴|updataNOW21の登壇スライドより

「導入時の抵抗をどうやって突破したのか」という問いに対しては黒川氏の回答が印象的だった。

「デジタルアレルギーをつくらないために、一番身近で便利になる事柄から手を付けることが導入のハードルを下げることにつながる。具体的には西尾工場機械製造部の一課一係に i-Reporter を導入し、手書き作業をペーパーレスに置き換えることから手を付けた。電子入力してしまえば自分で計算しなくても済む。結果は MotionBoard で表示出来る。月に18.6時間あったムダな作業が削減された。これがプチ・ブレイクし他部署にも波及していった。まずは小さな成功事例が必要だ」(黒川氏)

【テーマ2】DX の壁と乗り越え方

DX の壁と乗り越え方

遠藤氏が「モデル Y における新技術導入の四つの壁」と題して、横河マニュファクチャリングにおける知見を披露し口火を切った。

各社のDXプロジェクトの特徴

横河マニュファクチャリング株式会社 遠藤氏登壇スライドより

モデル Y における新技術導入の四つの壁

  • ・取り組むべき問題点や改善出来る点を把握し切れていない
  • ・世の中にどのようなソリューションがあるか知らない
  • ・問題点とソリューションの組み合わせを作れず課題解決が生まれない
  • ・新しいことへの取り組みは課題が多く、道半ばで止まりやすい

「DX を導入したら、具体的に何が出来るか分からないので始まらない」「導入して効果が見えてもそこで止まってしまう」など、成功率の低さがプロジェクトを発展させられるかどうかの分水嶺となっている。解決策は「具体化して問いかけていく。キャッチボールしていくことが深掘りになる。その結果、本当に効く施策が見えてくる」と遠藤氏。IoTデータレイクによる客観的な指標を参照し、ボトルネックをつぶしていくことが重要になる。

黒川氏は「弊社は町工場に近い。社長の木村が IoT の推進に熱心だが全てが出来るわけではない。すこしずつ背伸びしてハードルを上げてきた。DX 推進室には7人いるが、各部署から困りごとを吸い上げ、費用対効果とすり合わせながら DX 化を進めてきた。毎週DXの取組み成果をslackをつかって社内に発信することで、430人いる社員のうち188人が 見てくれるようになり徐々に社内を巻き込んでいった。slack のリアルタイム性はもちろん、絵文字による情緒性も有効に働いたと思う」と発言。

田舎の工場なのでガラケーを使っている人がいたが、どうやってタブレット端末を使ってもらうか悩んでいたところ、同僚たちが楽しそうに iPod を使っているのを見て使ってくれるようになった、という生々しいエピソードも披露した。

さらに「IoT の iXacs(製造ライン遠隔モニタリングサービス)の数字を見た社長が、あるライン担当の係長に社長賞を渡したことがプラスに働いた。話を聞きつけた他部署の係長たちも iXacs の導入に動いたからだ。タイ工場の夜勤の稼働率が低かったのだが、稼働率が見える化されただけで、3%数字が上がったという効果も出ている。他責文化から自責文化へと転換出来たと思う」(黒川氏)と語った。

菅谷氏は「DX に精通している人間がいないため北村化学産業さんに協力してもらったが、最初は現場側の感覚と IT ベンダーの常識が異なり戸惑った。出来映えのイメージがうまく共有されず、打ち合わせと現場確認の繰り返しで差違を埋めていった」と苦労の一端を伺わせた。

その甲斐あって「MotionBoardを導入したところ、自分の部署しか見られなかった作業員が全体を俯瞰するようになった。その結果部署の壁を越えた団結が生まれた」と DX の効果を語った。

「一番大事な工場内の物差しは?」という問いに対しては、

遠藤氏:
1)お金に換算出来ることは換算して考える。「稼働率100%。いくら儲かったの? あれ? 全然儲かってないじゃない」では意味がない。
2)工場のデータの網羅性。ファシリティー(施設、設備、備品)から材料の手配まで連携することでコンビネーションが生まれる。

黒川氏:
1)時間あたりの出来高。原価の内、労務費は6割程度。残業、休日出勤があると原価が変わってしまう。生産ファーストだと休日出勤や残業まで気が回らない。見える化で利益率が改善される。
2)チーム作り。slack でのデジタルコミュニケーションに力を入れている。

菅谷氏:生産の安定性。重要な場所にセンサーを入れて予知保全。現在は有人=14時間、無人=10時間の割合で24時間稼働しているが、異常時にアラートを発する dejiren を導入して安定を図っている。無人時間を増やす方向でトランスフォーメーションしている。

各社のDXプロジェクトの特徴

株式会社ソルプラス 菅谷氏登壇スライドより

と各氏が見解を披露した。

【テーマ3】カーボンニュートラル社会に向けた取り組み状況

カーボンニュートラル社会に向けた取り組み状況

地球温暖化への対応が叫ばれるなか、脱炭素への取り組みは避けがたい課題となっている。DX はカーボンニュートラルにどう作用するだろうか?

「CO2の排出モニターで確認しても、外気温が下がれば暖房が必要となり、暖冬となれば反比例する。増産となればやはり排出量は増える。省エネ活動の成果を測るのは難しい。算出や集計にも大きなコストが必要だった。しかし DX 化して MotionBoardで繋いでしまえば、バルブ1つの開け閉めの影響までリアルタイムで確認出来る」と DX と脱炭素の相性の良さを語ったのは遠藤氏。

この発言を受けた黒川氏は「見えない問題は解決出来ない。MotionBoard で叩き台になるデータをつくる。弊社は改善により2015年からの5年間で CO2排出を9%改善した。これは残業、休日出勤、待機電力をつぶした結果だ」と応じた。

各社のDXプロジェクトの特徴

旭鉄工株式会社 黒川氏登壇スライドより

ただし製品の納入先であるトヨタがカーボンプライシング(炭素税、排出量取引制度)により、サプライヤーにも CO2 対応を求め始めた昨今、材料や構成部品の仕入れ先という社外の CO2排出にも配慮せざるを得ない。それが今求められている課題だとした。

菅谷氏は「プラスチック製品を製造している弊社として、まずは不要品を出さない。そして廃プラを減らすこと」とした。その上で無人運転を進めていくことが現状の CO2対策だと回答した。

最後に三氏から、今後 DX に取り組む方々へのコメントが寄せられた。

「まずは IT 化からスタート。現場の課題と新しい技術を繋ぐことを心掛けてください。デジタル化で満足せず、なにを物差しにするか、よく考えて進んで頂けたらと思います」(遠藤氏)

「まずは仲間を作ること。我々のような町工場だと、仲間を作って段々大きくしていかないと、苦労します。あとは製造でどれだけ儲けられるか、楽が出来るか、というコンセプトはぶれてはいけない。それが DX でなかったとしても会社にはプラスになるはずです」(黒川氏)

「達成すべき目標、困難に取り組んでいく上で DX は会社に貢献してくれます。我々の取り組みなども参考にして頂きたい」(菅谷氏)

 
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