わずか2年で業務時間5,760時間削減/利益率27%増 「ゼロ」からDXを実現した京都老舗企業のDXの「本質」 | データで越境者に寄り添うメディア データのじかん
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わずか2年で業務時間5,760時間削減/利益率27%増 「ゼロ」からDXを実現した京都老舗企業のDXの「本質」

データのじかんでは、全国47都道府県の各地域のDXやテクノロジー活用のロールモデルや越境者を取材し発信している。「Local DX Lab」は地域に根ざし、その土地ならではのあり方を探るシリーズだ。第13弾は京都府。京都市右京区を拠点に手芸材料の卸問屋と、自社のDX成功をもとに立ち上げたDXコンサルティング事業などを展開する株式会社ハマヤ代表取締役CEOの有川 祐己氏と代表取締役COOの町田 大樹氏にお話を伺った。

         

写真左:株式会社ハマヤ 代表取締役CEO 有川 祐己 氏
写真右:株式会社ハマヤ 代表取締役COO兼CHRO 町田 大樹 氏

DXの取り組みによって、わずか2年の間に年間延べ5,760時間削減、利益率9%から30%まで改善した株式会社ハマヤ。最近は中小企業のDXの成功事例として、メディアに取り上げられることも増えている。成果はもちろんだが、この取り組みのキモは非エンジニア、非IT人材だった有川氏と町田氏を中心に、現場のIT活用のノウハウがほぼゼロの状態からスピード感のあるDXを実現し、大きな結果を残したことだろう。

「誰もリアルタイムで経営状態を把握しておらず、このまま進めば会社の存続は危うかったと思います」と有川氏が話すように、ハマヤは厳しい状態にあった。そこから今に至るまでどのようにして回復したのか。中小企業が今すぐできるDXとは?そして、DXによって得られる成果とは?

大手商社から門外漢の家業の手芸卸へ。だからこそ見えたこと

有川氏と町田氏は前職の大手商社で出会った。有川氏は大学で工学を学んだのち、新卒で大学やメーカーなどに研究開発機器を納める専門商社に勤務した。より大きなチャレンジを求め、20代後半で大手商社に転職した。2011年には中国に赴任し、グローバル標準を肌で感じることができたという。

一方、町田氏は、大学在学中に友人とインポートブランド中学の友人と共同創業。アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、中国など各国を渡り歩く日々を過ごしていた。しかし、自身の実力不足を感じ退職。経験を積むため、大手商社に就職した。

町田氏(以下敬称略)「当時、会社員におもしろい人なんていないと思っていました。学生起業あがりで、社会を少し舐めていたんだと思います(笑)。その当時の先輩が有川だったのですが、熱く夢を語ってくれて。こんな人が社会にもいるんだと希望をもてました。」

有川氏と町田氏はともに、社内の組織改革や組織活性化の活動に携わった。しかし大きな組織を変革することは想像以上に難しかったという。この頃から「理想の組織とは何か」という問いを常に考えていたそうだ。

両氏は起業を検討していたこともあり、2016年に会社を退職した。しばらくして家業のハマヤで事業承継の話が持ち上がった。

有川「手芸の経験や知見などもなく、会社を継ぐことも考えていませんでした。母はその当時60歳で、教育業界にいた人間で経営には詳しくありませんでした。僕も会社の状況や自分に何ができるかなどは全くわかりませんでしたが、町田くんに相談し、ハマヤの承継する意志を固めました。町田くんと2人でハマヤに入社しました」

「手書き伝票/電話/電卓/パソコンなし」からのDXは始まった

2016年といえば、まだ世間にDXという言葉が浸透していない頃だ。さらに、手芸用品の卸売業界は、一般と比較してもデジタル化が遅れていたという。ハマヤも例に漏れず、電話、電卓、複写式の手書き伝票という、いわば昔ながらの「三種の神器」を使っていたそうだ。

有川「従業員18人に対してパソコンが2台だけだったり、受発注はすべて電話対応だったり、電卓やそろばんで計算していたり、約20万点に及ぶ在庫の保管ルールがなかったりと、衝撃を受けましたね。何よりの問題が、誰もリアルタイムで経営状態を把握する必要性を感じていない状況でした」

業務に支障は出ていなかったものの、従業員が朝7時から夜21時まで働かないと業務が回らない、いわゆるオーバーフローの状態になっていたという。

この状況を改善すべく、有川氏と町田氏はすべての業務に関わって、家族よりも長い時間を共に過ごしながら課題や問題点を洗い出していった。とはいえ、有川氏と町田氏は2人とも商社出身で手芸の知識があるわけではなかった。加えてITの専門知識が豊富というわけでもなく、両名曰く「表計算ソフトなどを少し触れる程度」だったという。当初の環境で業務改善を提案しても受け入れられるとは考え難い。どのようにして信頼関係を構築していったのだろうか。

有川「『今の方法は非効率だから、新しいツールを導入しましょう』だと動かなかったですね。そもそも弊社は、昔ながらの会社でノウハウや業務の見える化どころかミーティングをする習慣すらなく、『背中で学ぶ』部分が強かったです。一緒に汗をかく、急ぎ足で上司のもとに向かうなど、わかりやすい行動で1つずつ信頼を積み重ねていきました。あとは、とにかく従業員と共に仕事をしながら現場の課題を聞きまくっていましたね。」

小さな成功体験Quick-Win(クイック・ウィン)の積み重ねとデジタルへの意識浸透

まず、最初に着手したのが在庫商品の整理だ。誰でもひと目にわかるよう、五十音順に並べ替えた。次に、パソコンが2台のみだったため、最低限業務に必要なパソコンやスマートフォンといったデバイス、ネットワーク環境を整備。その後、既存の業務オペレーションを維持しながら、紙で管理していた伝票や在庫表を1つずつエクセルに移行していった。ようやくDXに必要な土台を整え、少しずつITツールの導入へ乗り出す。

有川「ECモールで注文を受けた商品は大きな流れで言うと、ピッキング⇒パッキング⇒発送となります。まずはピッキングの準備をするのですが、この業務を5人がかりでおこない、午前中の業務時間を消費していたんですね。」

町田「すでに一度にできるメール送信機能、ピッキングリストを一括で印刷できる機能なども備わっていたのですが、それすらもわかっていない状況なのが大問題でしたね。そこで業務の流れを組み直し、ECモールに備わっている標準機能をしっかりと理解し、使いこなすだけで1人の人が30分でおこなえるようになりました。」

これだけを聞くと、ささいな業務改善かもしれない。しかし、こういった小さな成功体験を積み重ねることで、「デジタルは効率化できる」意識を浸透させることができる。

とはいえ、当時ハマヤの従業員の平均年齢は60代後半。やはり、DX化の取り組みに反対の声が挙がり、会社を去った従業員もいたという。有川氏が「会社が存続しなければ雇用は守れない。従業員の意向と、雇用を守ることを天秤にかけた苦渋の選択でした」と語るように、DXの推進において従業員との対立は避けて通れない。

その後、人材を拡充させていくために採用活動を実施。どのような基準で採用を行っていたのだろうか。

有川「僕も町田もエクセルを操作できる程度で、当初はVLOOKUP関数もできなかったです。なので、ITの理解を深めたい気持ちや前向きに変化を恐れない姿勢を重視して人材を採用していました。」

リソースに限りのある中小企業では、能力の高い人材の獲得競争に負けてしまう。だからこそ、“一緒に働きたくなるような”本気で叶えたいと思うビジョンや夢の共有が大切だ。ハマヤでは、年1回の全社集会や朝礼で、今後のビジョンや目標、会社を良くしたい気持ちや情熱などを経営メンバーの口から語るようにしているそうだ。

そのビジョンに強く共感して入社したのが若井氏だ。若井氏は、デジタルマーケティングのベンチャー企業でエンジニアとしてのキャリアを積み、2018年にハマヤにジョイン。その後、代表取締役CTOに就任している。

写真中左:永井 将大 氏 写真中右:若井 翼氏

若井氏が入社してから、ハマヤのDXプロジェクトは飛躍的に進んだ。エクセルはスプレッドシートに置き換わり、クラウドによる情報共有ができるようになった。今では、受発注管理、会計管理、顧客管理など、あらゆる業務にスプレッドシートが導入されている。

年間延べ5,760時間の業務時間の削減、利益率は9%から30%に

在庫整理から始まり、アナログ業務のデジタルツールへの移行を実施したハマヤ。DXノ取り組みによって、なんと年間延べ5,760時間の業務時間の削減、利益率は業界水準よりも低い9%だった状態から30%まで改善したという。さらに驚きなのが、スプレッドシートで実施され、ツールの導入コストがほとんどかかっていないことだ。

そして、この取り組みで労働時間が大幅に減少したことにより、手芸ブランド「amioto(アミオト)」や、DX支援事業「やさしいITコンサルティング」の立ち上げも実現できた。

DXの改革により、次なる一歩を踏み出しているハマヤ。DX改革の実践者として、そしてコンサルティングを行う有川氏にDX成功の要諦を伺ってみた。

有川「コンサルティングをするときには、まず『なぜDXをするのか』と聞きます。しかし、その理由を言語化できている会社さんは少ないと感じています。ITツールの導入だけが先行し、現場と向き合えていないのはとても危険です。大切なのはこれやってみたい、こういうところが不便という従業員の声やアイデアを理解し、そのためのベストな解決策を検討・実施することですね。」

さまざまなニュースやメディアでDXの成功事例が華やかに取り上げられることもあり、DXという言葉にはキラキラしたイメージが先行する。しかし、成功の裏には地道で愚直な行動の積み重ねがあることを忘れてはいけない。

「DXが生む効果は業務時間の削減だけではありません。従業員の気持ちに余裕が出て、業務効率も向上しますし、新しいアイデアの着想に使う時間も増えます。さらに有給取得率も上がって、会社全体のカルチャーが変化していきます。」

中小企業においては、実施のコストや人的リソースに限りがある。だからこそ、現場の声を拾い、「小さな成功体験」を積み重ねていくことが成功への近道といえるだろう。

DXは会社だけでなく従業員や社会を良くする。ハマヤの取り組みを全国の中小企業へ届けたい。

全国中小企業クラウド実践大賞では、クラウド実践奨励賞を受賞するなど自社のクラウドサービス利活用を実践し収益力向上・経営効率化した事例を発信、広めていくための活動にも力を入れている。

「AIに人の仕事が奪われる」。そんな言葉を聞くようになって久しい。「デジタルツールが導入されたら、いずれ自分の仕事が奪われるかも」という危機感から、DXに拒絶反応を示す従業員がいてもおかしくないだろう。しかし、「DXによって仕事がなくなるのではなく、置き換わるだけです」と有川氏は語る。

有川「電車の改札も、駅員さんがはさみで切符を切っていたのが自動改札になりました。しかし、駅員さんの仕事は消滅することなく、Suicaの払い戻しや遅延証明書の発行などの業務に置き換わっています。弊社で働くパートさんも、元々ピッキングやパッキング業務を中心に担当していました。しかし、DXによって業務時間が減ったことで、今は売り方や商品選定の仕事にも携わっています。我々もDXを始めたときに、方針が合わず退職した方がいました。すべての方に適した仕事を振れるような体制を構築しておけば、離職者は少なくて済んだかもしれない、と振り返ることもあります」

今後は、現在展開している手芸用品の卸売やITコンサルティング事業、手芸ブランドにとどまらず、さまざまなことに挑戦していきたいと語る。

有川「現在取り組んでいるシステム開発やコンサルティングにとらわれず、広く中小企業の価値を高める活動をしたいと思っています。企業価値を高めるためには、働く従業員がクリエイティブを発揮できる環境の整備が必要不可欠です。DXによって、従業員のパフォーマンスが上がり、それによって会社の業績も上向きになる。さらにその売上を従業員に還元していくことで、結果的に幸せな人であふれて社会そのものが良くなっていくと思うんです。弊社でも実践したDXを通して、こういった世界観を作っていきたいですね」


株式会社ハマヤ 代表取締役CEO 有川 祐己 氏

1979年生まれ、京都府出身。大学工学部へ進学し、研究開発専門商社に入社。より大きなプロジェクト参加を求め業界最大手の商社へ転職。2018年に株式会社ハマヤの経営部門としてジョインした。単年度数千万円の赤字を、組織改革(DX推進)し、3年で黒字化した。

代表取締役COO兼CHRO 町田 大樹 氏

1985年生まれ、大阪府出身。2008年大学在学中にインポートブランド輸入会社を起業。製造業界で産業機器・システム販売をおこなう専門商社に営業として従事。有川氏とともに株式会社ハマヤから経営立て直しの依頼を受け経営参画。同社では社内の組織編成、業務フロー改善、EC事業体制構築、新規事業立ち上げなど幅広い責務を担う。

聞き手:俵谷 龍佑

東京都出身。2021年6月より京都へ移住。大手広告代理店とITベンチャーにて、リスティング広告運用に従事したのち、2015年にライターとして独立。BtoB向け領域(特に採用・地方創生)を中心に、SEO対策、Webメディアの運用・立ち上げ、採用広報ライティング、導入事例など、さまざまなライティング業務に携わる。執筆記事数は1000本以上。

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DXでビジネスをアップデートする国内最大級のカンファレンスイベント

月間60万人以上に読まれるデータ・DXに特化したWEBマガジン「データのじかん」の人気特集「Local DX Lab」。「Local DX Lab」では全国47都道府県の各地域のDXやテクノロジー活用のロールモデルや越境者を取材し、地域に根ざし、その土地ならではのDXの在り方を探っています。本セッションでは地域毎のDXのトップランナー御三方を招き、「DXの多様性と法則性」をテーマにディスカッションして参ります。

イベントページはこちら

(取材・TEXT:俵谷龍佑/藤冨啓之 PHOTO:倉本あかり 企画・編集:野島光太郎)

 

 

特集|「47都道府県47色のDXの在り方」を訪ねる
『Local DX Lab』

「データのじかん」がお届けする特集「Local DX Lab」は全国47都道府県のそれぞれの地域のロールモデルや越境者のお取り組みを取材・発信を行う「47都道府県47色のDXの在り方」を訪ねる継続的なプロジェクトです。

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